結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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極度のゴア表現があります。注意してください。
それはそうと前回投稿日が結城姉弟の誕生日でしたね...取り敢えずひと段落するまで誕生日回はやらないつもりだったんですが惜しい事をした気分です。




第27話 それは会話が足りずに進む話

 俺の目が醒めると、そこは牢屋の中だった。久方振りに感じる痛みは身体全体を走り抜け、起き上がろうとした俺をその場に崩れ落ちさせた。

 

 痛い。

 

 久方振りに感じる痛み、身体の怠さ。

 以前風邪を引いた時のようだ。そのせいで身体を動かす事が出来なくなってる。

 手足は恐らく鎖で繋がれている。俺が脱走しないようにだろう。そんな事をしなくとも俺は既に動けるような体力を残していなかった。

 

 苦しい。

 

 これはきっと罰なのだろう。

 この世界に対して、姉に為に反逆して、罪を償わずに逃げ続けた結果の報いなのだろう。

 

 どうして。

 

 俺が、悪いのだろうか。

 生まれてきた時から神に呪われている俺と同じような運命を、たった1人の姉が背負わない為に戦って来ただけのに、『なぜ』。

 

 なぜ、父さんと母さんはあの場に居たんだ。

 なぜ、風先輩と樹の両親が巻き込まれたんだ。

 なぜ、銀を1度でも殺さなきゃいけなかったんだ。

 なぜ、園子までもが、天の神のタタリに冒されているんだ。

 ぐるぐるぐるぐると、「なぜ」が反復する。理由も分からずただ戦っていただけなのに、悪い方向へとばかり転がっていく。

 

 そうして考えている内に俺はまた気絶した。

 身体を延命させようと無意識に流星が『必要最低限の出力で命を延命させる』ように働いて、今まで感じなかったタタリによる身体の痛みをまともに感じるようになったからだ。起きていられるのもたった数分。その数分もまともに動ける訳ではない。地に倒れ伏して、なぜと問い続け、気絶するだけの時間。

 意味もないその時間がただただ、俺にとっての罰なのだと、この時はそう思っていた。

 だが、俺の罰はまだ始まってすらいなかったのだ。

 

 

「ゆっきー......あーそーびーまーしょー?」

 

 

 薄れゆく意識の中で、狂気に満ちた園子の声が聞こえてきた。

 あぁ、そうか。これが罰なのか。

 なら甘んじて受け入れよう。俺の命がまだ使えるのなら、もう...それでいい。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「あの馬鹿、私達に一言も言わずに苦しんでたって訳ね。ねぇ友奈。勇祐って何か持病があったの?」

 

 

 勇者部一行は、勇祐が体調を崩し病院に緊急搬送されたと大赦から『虚偽の報告』を受けていた。

 その後、勇祐の容態を気にした一行はお見舞いに搬送されたという病院にやって来たが、治療中の為に面会謝絶と告げられたのだった。

 

 

「ううん、風邪だって滅多にひかなくて健康そのものだったんだよ。それにあの最後の戦いの後に入院した時の診断は外傷以外何もないって......」

 

「家族である友奈ですら面会出来ないなんて...おかしいわよね。勇祐が大赦に敵と見られてた件もあるし、ちょっと兄貴に連絡取ってみる」

 

「何か......嫌な予感がするわ」

 

「どうしたの、東郷さん?」

 

「友奈ちゃん...もしかしたら......ううん、きっと勇祐くんは......」

 

 

 東郷は現在、園子に絶交を言い渡されている。それは勇祐が春信に保護された直後の話だ。明らかにおかしい様子である園子に直談判をしに行ったら、遂に園子が親友である東郷に槍の矛先を向けてしまったのだ。

 それからというもの、東郷は園子に一切会えないどころか連絡の取れない日々を送っていた。そこに、勇祐が緊急搬送されるという『強引に拉致した』と言わんばかりの事件が起きたのだ。

 銀の仇であり、園子が狂った原因でもあり、その園子が今1番執着している存在が連れ去られた。その過程に園子が絡んでいてもなんらおかしくはなく、今の園子なら絶対にやる。東郷はその確信を持って勇祐は誘拐されたと断言できるのだ。

 

 だがバーテックスは、彼女達を待ってくれはしなかった。

 

 

「みんな......少し、いい?」

 

 

 別室に呼ばれていた風が、神妙な面持ちで彼女たちが待っていた控え室にやってきた。その手には重そうなアルミニウム製だろうトランクケースを持っている。

 

 

「風先輩...それって......」

 

「ごめん、みんな。また、お役目が戻ってきたわ」

 

 

 トランクケースを開けば、中には4人分のスマートフォンが入っていた。1つ足りないのは既に東郷が持っている分だろう。お役目、スマホ...と言えばもう分かりきった話だ。勇者部に緊張が走る。

 

 

『もうバーテックスは全部倒した筈じゃ!?』

 

「あと1体残っていた、らしいわ。そいつを倒せば今度こそ終わりだって......」

 

「そんな......今は、それどころじゃないのに......」

 

 

 友奈が狼狽える。無理もない。彼女は勇祐の異常を既に悟っていて、尚且つ『この病院に勇祐は居ない』事に薄々勘付いている。

 友奈は、東郷のスマホが勇祐のスマホの位置情報を追える事を知っている。

 その東郷が、勇祐が一時的に春信の元に避難していた時から様子がおかしくなった。元気がなくなっていたいたのだ。

 それに気付いていた友奈は、なんとなく...勇祐が何か途轍もない事に巻き込まれているのだと気付けたのだ。

 

 

「でも...やるしかないのなら......」

 

「友奈、ちゃん............」

 

 

 友奈はこの運命からは逃れられないと知っていた。勇者システム入りのスマホを取らなくても結局は樹海に導かれるのだと。

 自分は勇者だ。身体に不調があろうと、戦わなければならない。その不調が、勇者システムを介して発生するのであれば尚更だ。

 友奈以外も薄々勘付いているが、口に出さないだけだ。恐らく、満開という機能が体の不調を招いているのだ、と。

 

 

「やるよ、私。だって、私は勇者だから」

 

 

 決して選択肢がないからとは言わない。

 

 

「パパッと終わらせて、ゆうくんに会いに行くんだ!ね、風先輩。これっきりなんでしょ?」

 

「えぇ......そう、そうよね。ウジウジしてたってしょうがないわ!さっさと終わらせてうどん食べに行きましょう!」

 

 

 まるで自分に言い聞かせるように。

 

 

「しょうがないわね。ま、今度こそ完成型勇者の実力を見せてやるんだから」

 

『私も、微力ながら頑張ります!』

 

 

 周りに同調させるように。

 

 

「じゃあ、今度こそお役目なんて終わらせるわよ!」

 

(私は......悪い子、だな......)

 

 

 表面上は笑いながらも、友奈は痛む胸を服の上から少しだけ押さえつける。

 

 風はホッとしたようにトランクケースのスマホを取る。他の彼女達もそれに倣うようにスマホを手に取った。

 ただ1人......『東郷須美』だけは、その輪から少し外れて画面に写る『結城勇祐』と名前の振られた位置情報を見て、スマホを握り締めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 私、東郷須美は大きな罪を背負っている。

 1つは、私が先代の勇者であったということ。

 私がもっとバーテックスに対する対抗手段を話していれば、皆が傷つく事はなくもっと円滑にお役目を進められていたかもしれない。

 もう1つは、散華の事。

 咲き誇った花はいずれ枯れる。その身の何処かを対価にして。

 話せば、良かった。話していたならこんな事態にはならなかった。

 風先輩は子宮を供物として取られ、2度と子供が産めない身体になる筈なんてなかった。

 樹ちゃんは喉を供物にされ、2度と大好きな歌を歌えなくなるようなこともなかった。

 友奈ちゃんは味覚を供物にされて私が作る、大好きなぼた餅の味が分からなくなる事もなかった。

 

 なかった、筈だった。なのに私は皆から嫌われるのを、迫害されるのを恐れて話さなかったから、こんな事になってしまった。

 取り返しのつかない事をしてしまった。

 

 最後の1つは、そのっちを怒らせてしまった事。

 

 

『わっしーは何も知らないから、そういうことが言えるんだ!』

 

 

 あの絶交を言い渡されてしまった日のそのっちの声が頭を反復する。

 そのっちも、辛い筈なのに...私が頼りないから......謝らなきゃって思っているのに、電話にも出てくれない。会いに行っても追い返される。

 私は、本当にひとりぼっちになってしまった。

 

 

「何も、知らない...から」

 

 

 せめて、私が何を知らなければいけないのか確かめなければいけない。

 

 

「私が知らない事、それは...たぶん......」

 

 

 壁の外......だと思う。

 あの青空の向こう、壁の向こう側に、何かが待っている。それを確かめなくてはいけない。

 たぶんきっと、知らなきゃよかったと思ってしまうような事なんだろうけど、知らなくちゃいけない筈。だから、

 

 

「樹海警報......!」

 

 

 渡されてから1日と経たず、酷く耳にこびり付いた聞き慣れた音声がスマホから流れ始める。

 

 

「やはり、待ってはくれないのね......」

 

 

 そう呟き、スマホを握りしめた東郷は、迫り来る花びらの壁をじぃっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「んー。面白くないなぁ......」

 

 

 暗い地下牢の中。腹部に走った僅かな痛みで俺は目を覚ました。

 

 

「......気付いたかな?水ぶっかける手間が省けて良かったよ〜。今の状況分かるかな?それとも、タタリが全身に回って、もう喋れないのかな?」

 

 

 答えられない。

 声を出そうとしても、倦怠感が勇祐の邪魔をする。

 

 

「そうだと思ったから、無理矢理治してあげるね?」

 

 

 俯いていた頭を、髪の毛を引っ張って無理矢理に上げ、勇祐の生気のない目と園子の暗く淀んだ目が至近距離で合った。

 一体何をするのか、そうぼんやりとした頭で考えていた勇祐の腹にずぶり、と冷たい鋭利なモノが突き刺さる感触が真っ先に伝わり、そして。

 

 

「あ、がッ......!」

 

「やっと声が出たねぇ。でも、腹を割いて腸を引き摺りだしたのにそれだけの反応だとつまらないよ〜。もっと私を楽しませて?その為にゆっきーをここに連れてきたんだから、さッ!」

 

 

 ずるっずるっと、まるでうどんを啜る時のように、勇祐の腹から腸が引っ張られて溢れ出していく。

 

 

「あはは、どうかな?どうかなゆっきー?」

 

 

 だが、叫び声をあげるような痛みはない。痛覚などとっくに麻痺している。更に言えば内臓どころか身体機能もその機能を殆ど無くしている。言わば今の勇祐は死体同然。例えるなら、大気圏に落ちてくる流れ星がその身を摩擦熱で溶かし尽くす直前であろう。

 勇祐も腹から引き摺り出される腸や内臓を見てようやく自分がほぼ死んでいると気付けていた。

 

 

「そ...の.....こ......」

 

「......なに、かな?命乞い?それとも遺言かなぁ?なに?ねぇ...」

 

 

 だから、死ぬ前に一言だけ。

 ただの自己満足。ただの我儘。

 そうだとしても、これだけは言いたかった。最後に命を使い尽くしてここで死んだとしても、『今まで生きたいと願った理由』が終わるとしても。

 

 

「ごめ...んな......」

 

「今更、何を!」

 

 

 ただ、謝りたいだけではないのだ。

 

 

「俺が...痛がれなくて......。お前の鬱憤、晴らしてやれなくて......さ.........ごめん、な」

 

 

 もっと前に、本当は言うべきだった筈の言葉だ。

 どうしようも出来なかった。結局、東郷と園子を仲直りさせる事は出来なかったどころか、犬吠埼姉妹に謝れていない。友奈に話すら出来ていない。何も出来ていないのだ。

 だから今ここで、『やるしかなかった』。

 

 こうなるのなら園子に召喚されたあの日に素直に殺されておけば良かったのだ。

 だが過去に戻ることなど出来やしない。

 だから勇祐は、命の使い道を決めた。防人達の時のように。苦しむのが自分で、園子が救えるのなら、と。

 

 しかしそれも既に遅く。

 ここで勇祐が痛みに悶え、泣き叫び、許しを乞いながら死んで行くことは出来なくなっていた。

 最早動く箇所は心臓ぐらいだ。もう口も動かない。先程の言葉で、舌は役目を終えたと言わんばかりに砂となった。

 

 

「どう、して...どうして!ここまでされてるんだよ!?暴力を振るって、腹を掻っ捌いて!腸まで引き摺り出して!なのに、私の心配?冗談じゃない!私がお前に心配される事なんて1つもありはしないんだ!お前が、お前が!全部壊した癖に!今更......今更ァァァァ!!!」

 

 

 何度も、何度も突き刺す。倒れ臥す勇祐に馬乗りになり、勇祐の腹を割いた『古ぼけた日本刀』で、何度も。何度も。

『三ノ輪銀を殺された恨み』を込めて、なのか。

 それとも、『私を救ってはくれずに蹴り落とした恨み』なのか。

 それらを含んだ上で天の神に操られ、止める事の出来ない殺戮衝動に任せるしか出来ないのか。

 

 

「なんで、どうして!どうして!」

 

 

 問い掛けに勇祐は反応しない。涙や鼻水でぐしゃぐしゃになった園子の眼には一抹の正気が滲んでいた。

 だがもう、この2人の関係は最早何があろうと修復出来ない場所まで来ていた。こんな結果になったのもきっと...言葉が足りなかっただけなのだろう。

 

 それだけで済ませられる事ではもう......なくなっている。

 

 

「......バーテックス、来るんだね。じゃあ...『とっておき』を用意しておかなきゃ......。ゆっきーを殺して......ふふ、そうすれば、こんなくそったれな世界なんて......滅べば、ね。そうでしょ......?こうすれば、死んだミノさんとまた会えるんだよね......?」

 

 

 ------天の神。

 

 そう呟いた園子の声は、誰にも届かず。未だ小さく息をしている体の半分以上が砂と化した勇祐にも最後まで届きはしなかった。

 

 

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