結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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息抜きに書いたら凄いことにになったやつ


第3話 それは彼のちょっとした話

 結城勇祐は不良である。

 いや、そうであった、が正しい。

 少なくとも彼は結城友奈という姉によって矯正され、家出や深夜徘徊は極力辞めているし、姉に向かって暴言を吐くこともやめている。性格も優しくなり、今では笑顔もみせることも多くなった。

 

 だからといって元々不良のラベルが貼られていた存在を容易く受け入れるような優しい世界などに彼が住んでいるわけもなく、未だにクラスメイトからは恐れられている。それどころか他の不良グループには怨まれてすらいるのだ。だから彼は姉に飛び火させない為に学校ではあまり関わらないように気を配っている。

 自分のした事なのだから、自分でケツぐらい拭かなければならないと彼は信じていた。

 

 そして不良世界から即足抜け出来る...訳もなく。

 彼にも舎弟とか、子分とか、そういう連中が何人も居た。

 勇祐に憧れてグループに入った者も居た。

 彼は薄情者ではない。なので面倒を見なければいけない。

 他の友好的なグループに移籍させたり、足抜けさせたり。それでも、彼に付き添う奴はいるのだ。熱狂的な信者、というかファンになるだろうか。

 これには勇祐も困った。が、引退する理由を素直に全て話すとみんな泣きながら理解してそれぞれの道を歩み始めた。

 

 彼としては自分のグループを作る趣味もどこかのグループに属する気も無かったし、面倒を見る気もなかった。喧嘩して、相手を殴って、蹴って。そうしてストレスを発散出来れば良かったのだ。彼自身、カリスマとかリーダーシップがある訳でもないのを自覚していたので余計にだ。

 それでも人は強さに惹かれてやってくる。1人、また1人と勇祐の強さに惹かれた者達が集まった。

 最終的に、「多人数だと余所のグループに喧嘩売りやすくなるかいいんじゃね?」という短絡的な思考になり勇祐は付いて来る者達を認めてしまったのだ。

 

 閑話休題。

 

 勇祐には一つの懸念事項があった。

 そう、「友奈が勇者として戦う事」だ。

 本来であれば認める気もなかった。それどころか大赦に殴り込みも考えていた。

 だがそれをしなかったのは一重に勇者という希少性からだ。

 勇者は「清らかな乙女」で、尚且つ勇者として相応しい存在でなければならないのだ。その点、友奈はそれを満たしている。適正値で言えば、四国トップな程に。そして勇者は神樹によって選ばれる。選ばれた者だけが勇者となり戦えるのだ。それが勇者部だけなのだ。

 対して勇祐はどれも当てはまってはいない。男であるし、勇者には相応しくない行動しかしていなかったからだ。

 彼をよく知る友奈は「そんなことないよ」とは言う。それが彼女の本音である事も彼は十分承知していた。

 

 だが、勇者にはなれない。

 姉が危険な目に合っているのに。

 自分は何もできない。

 

 ------もし、お利口さんに日々を過ごしていたのならば。

 

 ------もし、自分が女だったのであれば......

 

 尽きぬ「たられば」は、真綿で彼の首を締めるかのように巻き付いてくる。

 以前であれば、こんな思考はしなかっただろう。

 

「はぁーやだやだ。考えたって無駄だもんなぁ」

 

 勇祐は思考を止めるように頭を振る。

 考えたって無駄な事は分かっている。

 既に勇者に友奈が選ばれた以上、勇祐には何もできやしない。後はモヤモヤとした気持ちを抱えて、帰ってくる友奈を迎える事しか出来ないのだ。

 

「いやー、それにしても良かった。アイツら分かってくれなかったら家まで押しかけて来そうだったしなぁ」

 

 夜の22時。勇祐は最後の仲間が他のグループに歓迎された事を見送ってから自宅への道を歩いていた。

 ようやく肩の荷が降りた、と勇祐は疲れたように呟く。これで暫くは深夜徘徊しないで済む。友人として、彼らと付き合う事は今後もあるが、それはそれ。

 

「さて、早く帰って寝て......ん?」

 

 住宅街から少し離れた、小さな工場が立ち並ぶ区域。廃工場などもちらほらあり、夜は基本的にどの工場も稼業していないため、街灯の灯りしかない。

 その区域の一角で閑静な区域に似合わない騒ぎ声がしていた。

 

「まーたどっかのグループが喧嘩してんのか?」

 

 以前、大規模な騒動があり、普段稼業している工場にまで被害が及んだことがあった。その為、付近の不良グループはここでの喧嘩を禁止する暗黙の了解があったのだが......。

 それも勇祐が足を遠のかせてから効力が薄れたのか...。この騒ぎと匂いは、まさしく喧嘩のそれだった。

 

「チッ......お灸じゃあ済まなさそうだなぁ」

 

 勇祐は騒ぎの方向へ走り出す。手に怪我防止用のグローブを嵌めて曲がり角を曲がり、問題の場所に突っ走る。

 少なくとも多人数。10名以下だろう人数が争っているような騒ぎ。それも中学生や高校生の声ではない。間違いなく大人の声だ。

 こうなれば話は別だ。ヤクザという職業とも言えない無職の存在が消えて久しいが、それでも厄介な大人は山程いるのだ。

 そういった連中と子供の不良グループでは絶対に歯が立たない。連中がどんな武器を持っているかも不明だからだ。

 そんな連中を知り合いのグループが相手取って居たら?と考えると嫌な想像しか湧いてこない。

 焦りながら騒ぎの元の廃工場へ向かう勇祐。

 どうか何事もないように、と願いながら敷地内に入ると、たった1人を除いて男が複数人倒れていた。

 着いた頃に間に合わないのは予想にはあった。

 

 だが流石に、1人の少女が木刀を持って大立ち回りしているのは予想外どころか想像すらしていなかった。

 

「ふん...喧嘩売るなら相手見なさいよね」

 

 木刀を持った少女が足元で突っ伏す男に蹴りを入れる。「うぐぅ...」と痛みで唸っているので生きてはいるのだろう。

 

「んで、そこのアンタはコイツらの仲間?そうならそうで叩きのめすけど?」

「流石にコイツらとは知り合いじゃねーかな。......大人の癖に情けねぇ、木刀持ってるとはいえ女に負けてやんの」

「んじゃあアンタはなんなのよ?」

 

 油断のない、鋭い目つきで睨まれる勇祐。暗がりであまり顔は見えないが身長からして彼と同い年だろう。

 

「通り掛かりの不良少年。この辺りのグループが喧嘩してんじゃないかって駆け付けたらこの有様ってワケ」

「ふーん、そう」

「大人相手によくやるぜ...うわっコイツナイフ持ってんじゃん。通報しよ通報」

「ちょ、あんた勝手な事を...!」

「勝手もなにもあるかよ。素直に逃げりゃあいいのにどーせ態々突っ掛かったんだろ?まだ物足りないって顔してるぜ?これ以上はやめとけよ。後で痛い目見るぜ?」

 

 真面目なトーンで促しながら懐からスマホを取り出す勇祐だが、その首元に木刀を突きつけられた。

 

(早いな。この一瞬で詰め寄りやがった)

 

 少女とは10m程離れていたはずだが今は木刀が届く位置。大人達をボコボコに出来るレベルなのだからある程度は考えていたが想像以上だ。不覚にも勇祐は胸の奥に闘志が燃えるのを感じてしまう。

 

「どうせ放置する予定だったんだろ?それはこの辺で活動してる俺らには迷惑なんだよ。事情説明しねぇと警察にドヤされちまうわ。それに、後で報復受けるのも面倒だろ?」

「それ以上に面倒な事があるのよ」

「家に知られると不味い系か?そりゃあご愁傷様。知ったこっちゃないねそんなもん。手出した自分を恨みな」

「そう............。だったら...ッ!?」

 

 少女が動く前に勇佑は木刀を弾き飛ばし、少女の首根っこを掴むと大外刈りの要領で少女をその場に引き倒した。もちろん受身のこと等考えさせない、無茶な引き倒し方だ。少女もこれぐらいの事は慣れているのか頭を打ち付ける事だけは避けていたようだ。

 

「ぐっ...」

「調子に乗んな。いくら強くても不意をついて押し倒されたら女子のチカラじゃあどうにも出来ねぇよ。こちとら格上相手とは散々殴り合って来たんでな」

 

 少女の両手を膝で押さえ込むように馬乗りになった勇祐はそのままスマホを取り出してとある番号に電話を掛ける。なんとか逃れようと少女は暴れるが勇祐からは逃れられずジタバタと暴れるだけだ。電話が繋がった勇祐により遂には左手で口まで塞がれてしまう。

 なお、電話先は勇祐があまりにも面倒ごとを起こすので半ば勇祐専門になっている警官だ。

「110番するより俺に掛ける方が早いから俺に電話しろ」と電話番号を渡されていたのだ。

 

「あー、もしもしおっさん?今仕事中?なら話が早いわ。ちょっとおっさん共が女の子虐めててさぁ。は?嘘じゃねーよ。んで、女の子逃しておっさん共ボコってやったんだわ」

「んーー!んんーーー!」

「あ?外野がうるさい?廃工場だから隙間風の音じゃね?そういう事だから宜しく。工場区域に居るしさ。んじゃ」

 

 電話を切り、スマホを仕舞ってから口を押さえたままの少女を見る。

 反省している様子が全くない。本人は十分な自信があったのだろうが、下手をすれば『女の尊厳』を奪われる事態に陥っていたかもしれないのだ。

 先ほどまでわからなかったがこうも近くまで寄れば彼女の整った美少女とも言える顔つきを見る事が出来た。

 

(こりゃあ、やられるだろ。もしかして自分の容姿が分かってないのかコイツ)

 

 呆れて溜息を吐きそうになるが抑えてちょっと悪役になるか、と勇祐は心の中でほくそ笑む

 真っ赤な顔で怒りを表している少女の耳元に口を近づけ、悪魔のように囁いた。

 

「んで、男に馬乗りにされて、こーいうことされないってさっきのおっさん共では考えられなかったのか?」

 

(うっわ、引くわ。自分でもなんでこんなセリフ浮かんで来るんだよ...ドン引きだよ俺。恥ずかしさで死にそうだけど......あともうひと押しってとこかな)

 

 余っていた右手で少女の服を捲り上げ、露わになった腹を右手で摩る。勇祐自身、友奈と東郷以外の女性には慣れていないのでとても恥ずかしい気分だ。だが少女に怖さを教え込む為に真っ赤になりそうな顔を抑えて行為を続ける。

 

「なぁ、ポリ公が来るまで時間はたっぷりあるんだぜ?お前を気絶させてどっかに連れ込む事も出来る。後は何されるか分かるよな?」

 

 撫でる度に少女の身体がビクリと震え、そして身体全体がビクビクと小さく震え出す。どうやらやっと事の重大さに気付いたらしい。

 

「さっきの電話がポリ公じゃなくて俺の仲間だったらどうする?今から朝...いやぁ昼までか?そこまで色んな奴に滅茶苦茶にされるってワケさ......」

 

 ビクリ!と少女は恐怖で体を震えさせた。脅かすのもこの辺でいいだろう。

 

 というよりも、勇祐はさっさと終わらせたいと考えていた。恥ずかしい事この上ない。彼は『そういう行為』があるという知識はあるが、えっちな本ですらまともに見れないような純情少年なのだ。今ですら恥ずかしさで倒れそうなのだ。友奈に知られれば泣かれるどころではないと思う。

 

「ま、こういう輩も居るから気をつけろってこ......」

 

 パッと両手を離して立ち上がろうとした勇祐だが、少女が泣いていることに気付いた。

 

「うっ...ぐすっ......アンタ、許さないっ......!!」

「やっべっ、やり過ぎた。ごめんほんとごめん!怖いんだぞって事を分からせたくてだな......」

「うるさい!ふざけんなこのセクハラ野郎!」

 

 すぐに少女の上から退いた勇祐だが、怒った少女は勇祐の腹を蹴り飛ばした。

 

「ぐっ...ごめんって!俺だってアレやるの恥ずかしかったんだぞ!?」

「知るかクソボケ!乙女の身体を弄びやがって!死ね!死ね!」

「わー!落ち着け!落ち着けって!」

 

 拾い上げた木刀で勇祐を殺す勢いで振り回す少女。顔は真っ赤だ。勇祐の言うことなど耳に入ってすらいない。

 

「殺してやるッ!」

「やめ、やめろって!ほんとごめんって!」

 

 勇祐も勇祐で殺されたくないので少女の木刀を全て避ける。この速さは受け止めたら恐らく骨が折れるレベルだ。

 

 そうこうしている内にパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。連絡して数分で駆け付けるとはおっさんことあの巡査長も中々仕事が早い。

 

「待て!タンマ!警察が来た!」

「うるさい知るか!お前はここで殺す!」

「ええいもう!」

 

 勇祐の言葉を全く聞き入れない少女に業を煮やし、勇祐は上段から振るわれた木刀を両手で掴み取った。勢いを殺せず、掌を打ち付けた痛みが勇祐を襲うが白刃取りなど、刃が太い木刀...それも勢いよく振るわれるものを初心者が受け止める事も出来なかった為、仕方がないのだ。

 

「警察からは逃げなきゃ面倒なんだろ!後でいくらでも謝るからここは逃げるぞ!」

「逃げるってどこへ!?」

「この辺の人間じゃねーのかよ!あーもう!ほら着いてこい!」

 

 少女の手を引っ張り、勇介は廃工場から走り出した。警察が来ている大通りを避け、裏道や工場が隣接する敷地の間などを通って兎に角その場から離れた。

 

 

 

 

 一先ず警察を巻いてひと段落。

 勇介たちは工場区域を抜け、住宅街までやって来ていた。

 

「ここまで来れば安心だろ」

「呆れた。あんな道まで知ってるだなんて、アンタ相当悪いことやってんのね」

「暴力以外はやんねーけどな。それよか落ち着いたか?」

「落ち着く訳ないでしょ!ここが住宅街じゃなきゃアンタの頭カチ割ってるわよ!ヘンタイ男!」

「おっと薮蛇。どーせお高い家の出なんだろ?お前の木刀捌き見て、道場とかでしっかり教えてもらったのが分かるぜ。それで面倒起こしたくなかったんだろ?」

「.........そうよ!なにか悪い?」

 

 言葉の間に少し違和感を感じた勇祐だが、取り敢えず置いておいて話を続ける。

 

「悪いだろ。なんでそんな奴が悪党とはいえ一般人ボコってんだよアホか?」

「んなっ......!?」

「んー、自分の武芸が強いのか丁度試したかった......。いや違うな。これは多少思ってた程度か?なら......そうだな、イラついてたところに絡まれたからボコったってとこか?で、後になって自分のやらかした事のデカさに気付いた。だから警察に連絡しようとした俺を気絶させようとしたって感じか?」

 

 勇祐に推理されたツインテール少女は「なんでそんなことまで...!?」と目を白黒させている。「そういう顔に出やすい性格してるから分かりやすいんだぞ」とは言わない方が面白いので勇祐は黙っていた。

 

「まぁ、その...アレはやり過ぎた。ビビらせてすまなかった」

「び、ビビってなんかないし!あれは...」

「そういうの今はいいから。強がりはやめとけって...」

「強がってなんか...あれ......足が......」

 

 少女の足は、何時の間にか生まれたての子鹿のように震えていた。あーあー言わんこっちゃない、と勇祐は倒れそうになる少女を抱き抱える。

 

「アンタ、ちょ...」

「はいはい、ごめんなさいごめんなさい。どうせ緊張の糸が切れたんだろ?しゃーねぇから家まで送って行くわ」

 

 よっこいせ、と勇祐は足が震える少女を背負った。少女の服装はジャージ上下なので生肌に触ることもない。背中に当たる柔らかい膨らみは気にしない方向でいくことにした。恥ずかしいが、これも代償だろう。

 

「ちょっと!降ろしなさいよ!歩けるわよ!」

「だから強がんなって。家何処よ。連れてくぜ」

「おーろーせー!」

「おい、もう深夜だぞ。騒いでたら迷惑だろ」

「......ごめん」

「そういうとこは素直なのな。ほら、家どっちだよ」

「......あっち」

 

 急にしおらしくなった少女の体温を感じながら勇祐は静かな夜の住宅街を少女の道案内の元、彼女の家まで背負っていったのだった............。

 

 余談だが、当然の如く友奈には「夜遅くまで彷徨きすぎ!」と説教を食らったし、家の前で出待ちしていたおっさん巡査長に逃げた理由話せと拳骨も食らった勇祐であった。

 

「......そういえばあの木刀女の名前聞いてなかったなぁ。家のマンションにも表札無かったし............まぁいっか。どうせ二度と会わんだろうし」

 

 なお、その予想は後日、裏切られる事となった。

 

 




不良少年勇祐
不良なので夜の23時でも余裕で出歩く。騒ぎを聞いたら混ぜてもらいに行く。でもちょっと遅かったし恥ずかしい思いをした。そういえば木刀女の名前聞いてなかった。たぶんもう会う事無いだろうし大丈夫でしょ

木刀女
一体何好何凜なんだ...。色々とイライラする事があったので大人複数人をボコった。速攻で倒さなかったらバチィ!やられて危なかったらしい。唐突に現れた少年にあたふたした。そういえば名前聞くの忘れてたなぁ、と考えている。

ぷんぷんお姉ちゃん
弟から人助けをしていた、と聞いたのでなら仕方がないねとすぐに態度を改めた。ゆうくんが私に嘘なんて吐かないもん。弟への信頼はとても重い。

おっさん巡査長
勇祐担当とも言える警官。呼ばれて言ったら本人が居なかったのでカンカン。倒れていた男達の懐を漁ればナイフどころかスタンガンだの警棒だのが出て来て冷や汗モノだったらしい。
今後名前が付くかは未定。
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