結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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実はエイプリルフール用に短編を書いていたのですが間に合わなかったのでボツりました。機会があれば書き直した物を投稿します。

それはそうとケムリクサ、面白かったですね。

※タイトルつけ忘れてました...やらかしたぁ。


第28話 それは最後の願いと想い

「樹!無事!?」

 

「合流完了っと」

 

 

 樹海。スマホを手に取って半日も立っていない風、樹、夏凜。そして東郷は苦もなく合流した。

 一時的に風と離れ離れになっていた樹であったが安堵したように一息ついた。

 

 

「あとは友奈だけね...。東郷、ちなみに聞いとくけど勇祐は?」

 

「......来ていない、ですね。良かったと言えば...いいのでしょうか......」

 

「いいのよ。ぶっ倒れた奴が来てもしょうがないわ。それにアイツはバーテックスみたいなもんよ。来ない方がいいに決まってるわ」

 

「夏凜も心配してるのねぇ」

 

「......そりゃ、ね。......来ない方が、良いもの」

 

 

 刀を握りしめる夏凜。表情には出ていないがやはり敵として勇祐を斬る事に戸惑いがあるのだろう。

 

 

「ところで友奈は......!?」

 

 

 友奈の現在地を探す為にスマホを取り出した夏凜が愕然とする。高速移動するバーテックスを追いかけるように友奈の反応が動いているのだ。

 それに気付いた東郷が血相を変えながらその場から飛び出した。

 

 

「友奈ちゃん!」

 

「ちょっと東郷!?くそッ!風、樹!追いかけないと!」

 

「え、えぇ...。そこまで焦ってるのかしら、友奈も夏凜も、東郷も......」

 

 

 楽観。そう言えればどれほど良かったことか。風は知らない。咲き誇った花はいずれどうなるのかを。それは自身には特に散華によるダメージが表立って見られないからだ。

 彼女が散華により失った箇所は『子宮』。そして風は子宮を無くした、とは医者から説明されてすらいないのだ。そもそも「無くなりました」など言ってしまえば大赦が秘匿したがっている散華の存在が露呈してしまう。

 女性が女性たる象徴とも言える場所だが、身体の中に位置するモノを医療知識もなければ、医者からも「生理不順が暫く続く」としか言われていないただの中学生が疑え、というのも酷な話なのだ。

 

 だから風は『満開には恐らく後遺症がある』という認識ではいるものの、自分のようにやはり力を使いすぎただけで身体が異常に疲労しているという考えなだけなのだ。

 こうなったのも、『話す気まずさ』を真っ先に考え、誰も言葉にしなかった勇者部全体の落ち度と言えるが、被害者たる彼女達が悪いとは言えないだろう。黙っている大赦が元凶なのだ。

 

 なお、東郷が知ったのは春信経由である。先代の勇者として戦い、自身も散華を行なっている彼女になら、という判断の下だった。それが良いのか悪いのかは別として。

 

 

 

「行くわよ樹。兎に角、友奈達を追いかけなきゃ」

 

 

 風の言葉に、樹も頷く。樹も風と同じような認識だ。ただ、樹は自分の声が治らないとしても自分を表現する方法を知っている。だから満開が危険な行為だとしても、それは勇者として神樹から力を与えられた以上しょうがない事だと思っていた。それ以上のモノを樹は貰ったと感じているからだ。

 

 

「友奈!待ちなさい!」

「友奈ちゃん!」

 

 

 一方、真っ先に動き出した東郷と夏凜は、友奈に追い付きかけていた。

 だが友奈は2人の呼び掛けに気付いていながらもバーテックスに向かう足を止めない。

 今の友奈の思考は単純だ。早く終わらせて早く勇祐を探しに行きたい。この一言に尽きる。

 そしてその過程において、満開ゲージを貯めるという行為を自分が担う。皆に負担を掛けさせない為にだ。

 

 

「見つけた......けど、早い...!」

 

 

 友奈の眼前に、地面を高速で移動する人型のバーテックスが見える。その速度は尋常ではなく、勇者システムを起動している彼女達よりは遅いが追いつくには時間が掛かる。

 

 

「クソ、このままじゃ埒が明かないどころか、神樹にまで到達しちゃうじゃない!」

 

「なら、私が足止めをするわ......!」

 

 

 東郷が友奈を射線から外す為に高く飛び上がりながら、呼び出したライフルを構える。上空からの不安定な狙撃。スコープ越しでも豆粒程しか見えない動標が相手。条件は最悪に近いが、彼女は先代勇者『鷲尾須美』の時代から今まで鍛え続けて来た勇者だ。この程度は造作も無い。狙い澄ました2連射はバーテックスの細い両足を正確に撃ち抜き、吹き飛ばした。

 

 

「東郷さん!」

 

「友奈ちゃん!1人で行かないで!協力しないと倒せないわ!」

 

「でも...!」

 

「でもじゃないって、の!」

 

 

 東郷に撃ち抜かれた足を即座に回復したバーテックスを夏凜が手元の刀を投げ付け、手足を地面に縫い付ける。

 

 

「ほんと、勇祐と友奈は双子っていうのがよく分かるわ。話を聞かないったらありゃしない。1人で突っ込んで勝てるんなら、とっくの昔に私がバーテックスを全部倒してるってのよ」

 

「夏凜ちゃん...」

 

「私は完成型勇者よ?私が無理って言うんだから素直に聞けばいいのよ」

 

 

 ほれ、さっさとやるわよ、と夏凜は友奈の肩を小突く。夏凜の顔に戸惑いの色はなかった。

 

 

「夏凜ちゃん、優しいんだね」

 

「当たり前の事を当たり前にするだけよ。もうすぐ風逹も来るから、気を引き締めて掛かるわよ」

 

 

 夏凜が両手に刀を呼び出して構える。

 そこにちょうどやってきた風と樹が加わり、今までのバーテックスとの戦いが拍子抜けのように一瞬で終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「あれ......ここは?」

 

 

 友奈が樹海から戻ると、そこは見たこともない場所。いつもの学校の屋上にある社の前ではなかった。

 周りには誰も居ない。風も樹も、夏凜も東郷も。彼女が待ち望む勇祐の姿も。

 

 

「あれは......大橋?」

 

 

 その場所から見える、大きな何かの建造物の残骸。

 友奈はその残骸に見覚えがあった。

 鮮烈に覚えている。ここは、友奈の両親が亡くなった場所だ。

 

 

「どう...して......」

 

 

 なぜここにやってきたのか、友奈にはさっぱりその理由が分からない。

 分からないだけに、余計に恐怖を感じる。

 いつの日か、勇祐と共にこの場所に訪れるつもりであった。それこそ、気持ちの整理をしっかりしてからの予定だったのだ。

 

 途端に、友奈は嘔吐感を感じてしまう。視界がグラグラと歪む。足が震える。強烈なストレスが友奈に襲い掛かっていた。

 

 

「......待ってたよ.........?」

 

「え......?」

 

 

 その友奈に、背後から声をかける存在が居た。友奈が口を押さえながら振り返ると、全身に包帯を巻き、長い着物を引き摺る、松葉杖で歩きながら近づいてくる少女が居た。

 

 

「貴女は......誰?」

 

「乃木、園子。貴女を、ここに呼んだのが私。なんでか、分かる?」

 

 

 ふるふる、と友奈は首を横に振る。

 園子は包帯で半分隠れた顔で、口元だけ少し笑いながら話を続ける。

 

 

「結城勇祐はここに居るよ」

 

「えっ......?」

 

「その前に話しておくことがあるの。結城勇祐という存在について」

 

 

 友奈の困惑を余所に、園子は口を開き、淡々と言葉を続けていく。

 

 

「彼は、本当に貴女の弟なの?」

 

「なに、を......?」

 

「白面という得体の知れない力を手にして、自らをバーテックスと呼ぶ存在が本当に、正真正銘の自分の弟だ、ってどうやって証明出来るの?」

 

「ゆ、ゆうくんは私の弟だよ!だって、一緒に、同じ日に生まれたんだから!」

 

「同じ母親から生まれてきた証明こそ一体どこの誰がしてくれるのかな?よしんば同じ母体から生まれたと仮定してもアイツは人間じゃない。天の神から祝福(呪詛)された存在だよ。天使、とでも言えばいいかな?」

 

 

 その中身は天使なんてもんじゃないけどね、と園子は笑う。

 

 

「天の神...?天使......?」

 

「あぁそっか。天の神も知らないんだね。まぁ、私も勇者やってた時は知らなかったから当然かな。大赦からも知らされてなかったんだね、可哀想に。わっしーも居たのに、結局教えてもらえなかったんだ?」

 

「ちょっとまって!何がなんだか......勇者だったの?それに、わっしーって......」

 

 

 混乱する友奈。そんな友奈を見て園子の笑みはさらに増していく。

 

 

「わっしー......今は名前を変えて東郷須美だったかな?貴女の隣の家に住む、あの車椅子の女の子。私と同じ、2年前に勇者として白面と戦ったんだよ?」

 

「そん...な......。じゃあ東郷さんは、ゆうくんを知ってたの......?」

 

「大正解だよ〜。わっしーは私が結城勇祐を監視する為に送り込んだの。いわゆるスパイってやつかな?あわよくば危険因子の結城勇祐を殺すように、ってね。わっしーは、そういう下心があって貴女達に近づいたんだよ?」

 

「嘘...だ。だって東郷さんは......」

 

 

 友奈の家の隣に住む東郷家の夫婦が大赦の職員である事は友奈自身良く知っており、亡き両親とも仲が良かった。だから両親が亡くなった後に自分達を援助してくれているのだと、そう聞いて信じきっていたのだ。

 もっとも、東郷夫妻も東郷自身が園子からそういった密命を受けているなど知るはずもない。本当に結城夫妻と仲が良く、大橋の惨事で結城夫妻が亡くなった事で結城姉弟の身元を引受けたのは真っ当な善意である。大赦の指示もあったが、その指示でさえ犠牲者遺族に対する善意であったのだ。

 

 園子と東郷にとって、そんな状況がとてつもなく都合が良かっただけに過ぎない。鷲尾家との養子縁組を解除して東郷性に戻り、隣家に引っ越すだけでいいのだ。これ以上破格な状況がある訳もない。

 

 

「その様子だと勇者については一切聞いてなかったようだね。てっきり、散華の話とかも話してると思ったけどね。分かるかな、咲き誇った花が最後にどうなるのか。正解はね、散るんだよ。散った花は一生戻らない。機能しなくなった体の一部と同じく、ね」

 

 

 私も11回も満開してこの有様だよ。お陰で子供も出来やしないんだ。と園子が自傷気味に言う。

 友奈も当然覚えがある。自身の味覚がこの1ヶ月治っておらず、他に満開した夏凜以外のほぼ全員の体に不調が現れている。不審に思わなかった、など口が裂けても言えない。

 

 

「でも風先輩は殆どなにも......」

 

「彼女は子宮だよ。私と同じ箇所だね。生理不順とか、言ってなかった?」

 

「それは......」

 

「......話が逸れたね。私達は白面と戦った。人類の敵とね。その結果、人類は大きなモノを失った。さぁそれはなんだと思う?」

 

「ッ!?嘘、嘘だよ!そんなこと!」

 

「それこそ幻想だよ。貴女の後ろ。一体誰のせいであんな姿になったでしょうか?」

 

 

 今の友奈の後ろには、大破した大橋がある。友奈は決して大橋に振り返らなかったが、既に分かってしまっていた。

 

 

「あそこで私の親友。彼女も勇者だったんだけどね、殺されたんだよ。お前の弟に」

 

「...やめて......」

 

「お前の弟にせいで私達も少なからずダメージを受けた。そして人類も、貴女の両親も......」

 

「やめてぇ!それ以上言わないで!!」

 

「貴女の先輩の両親も、お前の弟が起こした大橋の惨事で死んだ!これが真実で現実だよ!お前の弟は殺人者、いや...悪魔かな?人じゃないもんねぇ」

 

 

 衝撃の真実の連続。見たくなかった現実の押し付け、精神攻撃。不安、焦燥、驚愕、苦しみ、悲しみ、そして恐怖。

 様々な感情が友奈の胸中を渦巻き、そして口から零れ落ちた。

 

 

「う、うぷ...おええええ!」

 

 

 ビシャビシャと友奈の口から吐瀉物が吐き出される。園子は優越感に浸るような顔で、最後の言葉を友奈に告げる。

 

 

「貴女に罪はないよね。けど許す訳にはいかないんだ。結城勇祐は人類の敵。バーテックスや天の神と同じく人類に仇なす存在。だから生かしておく訳にはいかない。......結城勇祐はここに居る。さぁ、吐いてる暇なんてあるのかな?」

 

 

 その言葉に、友奈は目を見開き、焦りながら立ち上がって走り去っていく。その後ろ姿を、園子は空虚な目で冷ややかに見送った。

 とっくに正気を失った園子の目は先程から一切変わっていなかった。友奈はそれにすら気付けていなかったのだ。

 

 

「言ったでしょ?『許す訳にはいかない』って。だから、貴女共々に......。これが、ミノさんに会える最後のチャンスなんだから......」

 

 

 園子はふらふらと、また松葉杖をついて歩きながら友奈の後を追った。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「ゆうくん...ゆうくん!どこにいるの!?」

 

 

 大赦施設の中を友奈は駆ける。西暦の時代、大橋の記念館として機能したその場所は今では展示物も一切がなくなり、がらんとしている。展示通路だった場所を駆け抜けて、友奈は地下への入り口を見つけた。暗い階段の先には、鉄製の扉。その奥からは陰湿で言葉にし難い嫌な雰囲気を醸し出していた。

 

 ------恐らく、ここだ。

 

 友奈の直感がそう告げる。彼女の直感はいつだって勇祐を見つけた。2年前、あの大橋の近くで泣いていた勇祐を見つけた時も直感に従って見つけたのだ。

 ならば、と友奈は地下へと降りていく。

 その先の扉は、友奈を待っていたかのように扉は鍵が掛かっておらず、友奈の手で開いた。

 

 

「ゆうくん!」

 

 

 叫びにも近い声を出しながら扉に先へと友奈は進んだ。

 

 進んでしまった。

 

 

「ゆう......くん?」

 

 

 半乾きの血溜まりの中、半身が砂になり、今も砂山が崩れるようにゆっくりと砂になっていく途中の勇祐が、両手を壁から伸びる鎖に繋がれて放置されていた。

 

 

「ゆうくん!!」

 

 

 勇者システムを起動して勇祐を助けようとした友奈だったが、その手を止められる。振り返れば、大赦の仮面を被った神官が居た。

 

 

「離して!離してよ!ゆうくんが!」

 

「そのまま抑えててね。そうすれば何もできないから」

 

 

 園子の声だ。その声に従って神官は友奈の両手を抑える。そして友奈の目の前に日本刀を携えた園子がやってきた。

 

 

「こいつしぶとくてね。殺しても殺しても死んでくれないんだ。心臓もないのにね。だから、首を刎ねようと思って。貴女の、目の前でね」

 

「やめて...お願い!やめてよ!殺すなら私にしてよ!なんで、なんでゆうくんが!」

 

「人類にとって毒でしかないからだよ。こんなタタリを撒き散らす存在は居てはいけない」

 

「わかんないよ!天の神だとか天使だとかタタリだとか!そんなのわかんないよ!私の、たった1人の家族なんだよ!」

 

「私もこいつに親友を殺されたんだ!私の目の前で!だから、貴女の目の前で殺してやるんだ!こいつが死ねば、ミノさんは生き返るんだ!」

 

 

 錯乱したかのような声色で園子が叫ぶ。そして日本刀を引き抜き、勇祐の首に向かって振りかぶった。

 

 

「そこまでよそのっち!勇祐君は殺させない!」

 

「東郷、さん?」

 

「......なに、わっしー。今更何の用?」

 

 

 扉を蹴り破り、勇者システムを起動してライフルを構えた東郷が乗り込んできた。その顔は怒りと悲しみに包まれている。

 

 

「2度は言わないわ。友奈ちゃんを離して下がりなさい」

 

 

 東郷が神官を睨み付ける。その声には殺意が籠っている。一瞬狼狽えた神官は友奈から手を離して逃げるようにその場から去っていった。

 

 

「友奈ちゃんごめんなさい。たぶん、全部そのっちから聞かされたと思う。言い訳はしないわ。勇祐君を殺す為に、私は友奈ちゃん達に接触したの」

 

「ほらね、わっしーもこう...」

 

「でも!私は勇祐君を殺したくなんてなかった!普段は優しかった勇祐君がそんな事をするなんて信じたくなかったから!そのっち、私は言ったわ。何らかの『やるしかない』理由を作られて、白面なんてやってるんじゃないか、って。私達はその答えにたどり着いた筈じゃない!」

 

 

 園子の声を遮るように東郷が叫ぶ。その行為に、園子は不快さを隠さない。

 

 

「なのに、今年の春から人が変わったように...一体何があったのよそのっち!」

 

「言ったよねわっしー。こいつはタタリを振り撒く存在だ、って。だから殺さなきゃいけないんだ。こいつを放置しておけば人類は鼠算式に絶滅するんだよ」

 

「2年間一緒に過ごしてきて、私も友奈ちゃんもなんともないわ。これが安全の証明よ!」

 

「でもいつ爆発するか分からない爆弾を手元に置いておくつもりなの?こいつは本気を出せば勇者なんて軽く殺せるんだ。そんなのが天の神に操られるのを想像したことがあるの?実際、こいつは操られていた筈だよ、わっしー達と戦った時に」

 

「そう、だけれど!それでも!」

 

「はぁ、駄目だね。どう言おうが結論は変わらないよ。時期にこいつは死ぬ。なら、私が殺してしまえば復讐も出来るし、それにミノさんも蘇るんだよ?」

 

「銀、が...どういうことよそのっち!」

 

「天からね、声が降りてきたんだ。結城勇祐を殺せば三ノ輪銀は蘇るって、だからこうして強硬手段に出た。わっしーが、頼りないから」

 

 

 園子が笑う。その顔を見て、東郷は背中に冷たい雫が落ちる感覚を味わった。

 

 

(なに......なんなのこの違和感は......!?)

 

 

 園子の声色は絶交を言い渡されたあの時よりも優しいものだ。それが東郷には心底恐怖を感じてしまった。

 東郷は知らない。勇祐しか見抜けなかった真実に。園子の言葉の裏には本音が眠っている事も。

 

 想いは、ここに至ってもすれ違ったままだ。

 

 

「もういいよ、殺すね」

 

「待ちなさいそのっち!」

 

「そこにいるお姉さんと一緒に黙ってみておけばいいのに......」

 

 

 嫌な顔を隠さない園子に東郷はライフルを構える。

 

 

「本気で、撃つわよ......勇祐君を殺したら、そのっちはもう後戻り出来なくなる!」

 

「私はそれを望んでるんだよ。どうせミノさんも居ない、私も...死なない。一生供物として生きていくぐらいなら復讐の1つぐらいやらなきゃ...」

 

 

 園子が日本刀を勇祐に向けて構える。

 東郷も、顔を歪ませ、震える手で引き金に手を掛ける。

 

 

「駄目よ......そのっ......」

 

 

 

「ゆうく...おねがい......おき............てよぉ......」

 

 

 

 

 

 うる、さいな......ようやく、死ぬって...時に。

 

 

 なんだって言うんだ......。さっさと死なせてくれよ......。

 

 

 

「ゆ......く......!」

 

 

 

 姉、さん...の、声......。あぁ、まだ耳が生きてたとは驚きだ。全身の感覚がないからてっきり......幻聴だと、思ってた。

 

 でも、なんで焦ってるんだ......。『僕』は、そんな声聞きたくないのに......。

 

 目を開ける。

 無くしたはずの左目が、何故か復活していた。

 そういえば右目も園子に抉られたっけ。

 目の前に、園子が見える。

 その奥にライフルを構える須美と口を押さえながら泣いている姉さん。

 

 一体、何がどうなっているんだよ。

 なんで姉さんは、そんな顔して...。

 あぁ、僕か。弱ったな。こんな姿見られたくなかったんだけど......。

 

 でも、なんで須美はライフルを園子に向けてるんだ。

 

 

「勇祐君を殺すなら!本気で撃つわよ!」

 

「ふふ、やってみればいいんじゃないかな。私はそれでも止まらないよ」

 

 

 声が、鮮明に聞こえた。

 

 不味い。

 

 不味い不味い不味い不味い。

 

 東郷は知らないんだ、園子にはもう勇者システムを使えないって事を。それはつまり精霊バリアすら張れなくなっているという事で、園子は今、普通に死ねる体な訳だ。

 

 つまり、このまま行けば東郷は園子を殺してしまう......!

 

 ヤバい、ヤバい!

 おい起きろ俺!こんなところでくたばってる暇はねぇ!東郷が園子を殺しなんてしたら!こいつらは一生仲直り出来るどころの話じゃなくなる!

 

 俺が死ねば銀はなんとかこっちに帰ってこれる!でも東郷が園子を殺したら、春信さんが銀の器を用意しても無意味だ!全員が幸せじゃなきゃ、駄目だ!

 

 分かってた事じゃねぇか!俺が、銀に俺の『御霊』を埋め込んだのだって、銀を生かして、また3人で笑って欲しかったからだ!

 もう天の神なんか構ってられるか!天の神が銀の生存に気付くのが怖くて、考えないようにしてたのが仇になり過ぎた!!

 

 俺は、みんなに幸せになって欲しかったんだろうが!!動け...!俺!

 

 

「ゆう、くん......?」

 

「じゃあね、ゆっきー」

 

 

 今動かないで、どこで動くってんだよ!!

 

 

「そのっちいいいい!」

 

「東郷さん駄目ええええ!」

 

「えッ!?」

 

 

 姉さんが俺の様子に気付いて制止を東郷に掛けたが、それより一瞬先に引き金が引かれた。クソ、俺はいつだって一歩遅いんだ。園子の顔が笑顔になっている。やっぱりこいつ、この一撃を待っていたんだ。あの時から変わらない、園子は死にたかったんだ......!

 

 ごめんな姉さん。こればっかりは俺の我儘だ。もう1度家に帰る約束果たせそうになさそうだけど、どうか許してくれ。

 

 

 最後の流星だ。全感覚を集中しろ。

 たった一瞬だけでいい。

 俺のこの体が園子に届きさえすればいい!やってやる!

 

 両手の鎖を引きちぎれず、俺の両腕が捥げる。構うもんか。

 僅かに残っていた両太ももの出力を上げる。血を吹き出して崩れる。構うもんか。

 ほんの少し先までライフルから放たれた光の弾丸が園子に迫っていた。構うもんか。

 園子に体当たりしてその場から押しのける。強化した感覚が俺の腹部を光の弾丸が焼いていくのゆっくりと伝えていく。構うもんか!

 

 

 流星の効果が切れる。

 宙に浮いた達磨状態の俺は、重力と慣性に従って、その場に落ちた。

 

 

「い、い...いやあああああああああ!?」

 

 

 姉さんの叫び声が、俺の鼓膜を刺激して、それを合図に、俺の...

 

 意識、

 

 

 が......。

 

 

 

 

 ......くそ。

 

 

 






【計画、完了】



【征け、そして滅ぼせ】


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