さて実を言うとあらすじをちょっと変えたりしてます。まぁあんまり意味は変わらなかったりするんですが、こちらの方がわかりやすいかな、と思いまして。
ところで......すっっっごい今更なんですけどアンチ・ヘイトタグ要りますかねこれ......。(主に園子を見ながら)
私は、何時の間にか家のベッドで寝ていた。
気付いたら目が覚めていて、ぼーっとする頭でただ天井を見ていた。
いつから寝ていたのか、いつ起きたのかも分からない。
回転がいやに遅い頭で何があったか思い出そうとして、唐突に頭が割れるように痛くなった。
「っ......!!」
頭を抑えても痛みは止まらない。でも、思い出さなきゃ。この痛みは、身に覚えがある、から。前にも、これより酷い痛みと戦ったんだから、大丈夫。また、思い出せる。
「ぐううぅぅ...ああああぁぁ!」
痛みでベッドの上をのたうち回るけど、必死に頭痛に耐える。耐える。耐える。
何分...何十分?もしかしたら数時間、かもしれない。時間感覚なんて分からなくなるぐらいの痛みを抑えながらなんとか記憶を掘り起こそうとした。
そして......思い出した。
『その前に話しておくことがあるの。結城勇祐という存在について』
『白面という得体の知れない力を手にして、自らをバーテックスと呼ぶ存在が本当に、正真正銘の自分の弟だ、ってどうやって証明出来るの?』
『あぁそっか。天の神も知らないんだね。まぁ、私も勇者やってた時は知らなかったから当然かな。大赦から知らされてなかったんだね。わっしーも居たのに、結局教えてもらえなかったんだ?』
言葉が反復する。間欠泉のように記憶が溢れかえってくる。
あの時の感情が掘り起こされて心を引き裂いていく。
それ以上は嫌だ!聞きたくない、聞きたくない。聞きたくない!
『あそこで私の親友。彼女も勇者だったんだけどね、殺されたんだよ。お前の弟に』
『彼は、本当に貴女の弟なの?』
「オエエェェェ!うぷっ...おえぇぇぇ.......!」
思わずトイレに駆け込んだ私は、溢れ出た記憶と感情ごと、胃液しかない胃の中身を全部吐き出してしまった。
戦いが終わってから、今までの全てを思い出した。きっと私が......ゆうくんの事を何も分かっていなかったからこうなったんだ。
もっと話していれば良かったんだ。
けど、もうそれも遅い。だってゆうくんは...もう、死んじゃったんだ。
「ゆう、くん......」
私は1人になった。
今度こそ、1人だ。
2年前のあの大橋の惨事の時ですら孤独を味わったのに、これ以上の孤独を私は味合わなければいけないの?
これから、一生?
風先輩や樹ちゃん。夏凜ちゃん......それに、東郷さんも居るけれど、ゆうくんが居ない世界なんて、耐えられる筈がないんだ。
だって、今まで戦ってきた理由は『ゆうくんと一緒に生きたい』からなのに。
やっと手に入れた平穏が、こんな結果だなんて.......
「そんなの......あんまりだよ.......」
ボロボロと零れ落ちる涙と共に、膝から崩れ落ちた。なんて情けなくて、なんて惨めなんだろう。
這い出るように、トイレから出る。後始末をする余裕なんて今の私には無かった。ボロボロと零れ落ちる涙と止まらない吃逆を抱えたまま、自分の部屋に戻ろうとしたら.......
なぜか、『開けてもいない』のにゆうくんの部屋のドアが半開きになっていた。
それだけなのに、それがやけに怖くて、恐ろしくて、私は怖いもの見たさでゆうくんの部屋の中に入ってしまった。
この時点で、私は間違えてしまった。
「やぁ、『姉さん』。ただいま」
そこに居たのは、紛れもなく、私の知るゆうくんだった。
「ゆうくん...どうして!?だって、ゆうくんはあの時に...!?」
「やだなぁ姉さん。『僕』は『バーテックス』だよ?御霊がある限り何度でも蘇るんだ。あの包帯の子も言ってたでしょ、心臓がないって」
「でも、それじゃあ何であの時は死んでたの......?」
「簡単な話さ。大赦を騙す為だよ。だって僕はバーテックス、人類の敵だよ?アレだけ人類の味方になろうと頑張ってたのに殺されそうになったからね。だから僕が生きてるって今バレちゃったら不味いんだ」
てへ、と小学生時代のゆうくんと同じ笑顔で目の前のゆうくんが笑う。久し振りに見る、両目のあるゆうくんはなんだか別人のようだ。
中学生になってから一切見せてくれなかったゆうくんの笑顔......。何か、変だな。ずっと見てなかったから違和感を感じてるのかな?
「でね、姉さん。僕は、死にたくないんだ」
そして...ようやく、私が見たかったゆうくんの本当の笑顔から、放たれた言葉はまるで......ゆうくんでないような、悪意に満ちた言葉だった。
「だから......この世界をさ、滅ぼそうよ」
「...へっ......?」
身体が、震えた。
「姉さんも僕が殺された時にそう思った筈だよ。『こんな世界なんていらない』って」
「そ、そんなこと......」
否定......出来なかった。
心の何処かで一瞬でも、そう考えてしまったかもしれないと考えてしまった私に否定なんて出来るわけがなかった。
一瞬怯えた私の心の隙間に入ってくるように、ゆうくんが私を抱き締めながら優しくも恐ろしい...ような、聞いたこともない声色で私に囁いてきた。
「姉さんだって知った筈だ。東郷は先代勇者で僕達を監視する為に隣の家に帰ってきた。いつだって俺達を殺すタイミングを疑ってたのさ。樹海でも俺を真っ先に殺そうとしてきたのは東郷の筈だよ?それに風先輩も、夏凜も......アイツらは大赦と繋がってる。僕をどうにかしようと、アイツらだけで話し合ってた筈だよ。アイツらは、敵だ。敵なんだよ姉さん」
「そんなことないよ!皆だって分かってくれて......」
「分かってくれてたら俺は死ななかった。僕はもう、二度と死にたくないんだよ姉さん。僕は姉さんと一緒に生きたいんだ。だから、邪魔をする神樹と、この世界を壊して...姉さんと生きたいんだ」
「でも......」
違う...。ゆうくんはこんな事......!
「大丈夫。僕に任せて......」
あれ......身体に......力、が......。
「姉さんなら、僕の言う事聞いてくれるもんね?さぁ...姉さん......」
違う......こんな事、ゆうくんは言わない......のに。駄目だ...思考......が.......。
【------】
.............でも、ゆうくんはこの世界ではもう生きていけないんだ。
そう、そうだよ。私は何より、ゆうくんと過ごす日常が欲しかったんだよ。それ以外は、【なにも要らない】。
「俺も姉さんと過ごせない日常なんていらない。どうせ全部駄目になるなら」
「【うん、壊しちゃおう】」
【それが、私とゆうくんの願いなのだから】
♦︎
「この分からず屋!神樹様を壊したって、なにも変わらない!終わらないのよ!」
夏凜が複数本の刀を投げ飛ばし、風が大剣で弾き返す。
彼女達は風のマンションで掴み合いになった後、窓から飛び出した風を追い掛けるように夏凜も飛び出していた。
「それでも!【報いは受けさせてやる】!散華の事を黙って、勇祐を殺した大赦なんて信じられるか!」
「えぇ、そうよ!私だって実の兄ですらもう信じられないわよ!」
「だったら!」
風の大振りの大剣が夏凜に襲い掛かるが、夏凜は刀の峰で軌道を逸らし、空いた風の脇腹に蹴りを叩き込んだ。
致命傷足り得ない夏凜の攻撃は風の精霊バリアを発動させずに脇腹にめり込んだ。
その反動で、風は吹き飛んでいくがなんとか地面に着地して夏凜を両の目で睨んだ。
「いい?風、私はそれでも......勇祐が守ろうと、味方になろうとした勇者部を潰させるような真似は許さない。でも極論、世界なんてどうでもいいのよ。けど......」
両の手に刀を呼び出した夏凜がその右手の刀の切っ先を風にゆっくりと向ける。
「私は勇者なの。仲間が誤った道に進もうとしてるなら止めるのも義務。風が今、心の中でどう思ってるかなんて分からない。だから、私は声を大にして言ってやるんだから。アンタのやろうとしてる事は間違ってる、ってね!」
「だとしても......!」
「えぇ、平行線よね。分かってるわよそんなの」
夏凜はわざと風を煽っていた。風の今の行動はただの癇癪で、イライラしている感情をスッキリさせてやれば多少はマシになると踏んでいるのだ。
大赦にケジメを付けさせるのはその後でいい。失ったモノは戻ってはこないのだろうが、時は元に戻せない。だからといって一時の感情で世界を滅ぼす結果になろう等、夏凜にとって許せるわけがなかった。
だが風を落ち着かせるのは自分では無理だとも夏凜は気付いていた。
(さて、樹がどうにか気付いてくれるといいんだけど......)
風が1番怒っているのは樹の声が治らず、夢を諦めなければいけないような状況に追い込まれている事だ。こればかりは大赦がどうケジメを付けようが償えることではない。樹本人がどういう意思を示すか。それによって対応が変わってくる事だ。
唯一の懸念事項と言えば、樹も風に同調して大赦と神樹を滅ぼす事だが、夏凜はあまり心配していなかった。樹なら止めてくれると信じているからこそだった。
「ここからは私と風の意地のぶつかり合いって事。さぁ来なさいよ、風先輩?完成型勇者であるこの三好夏凜が一手教示してあげるわ!」
「舐めた真似を......押し通ってやる......!」
風が地を抉る程に力を込めて夏凜に向かって突撃する。その勢いのままに大剣を横薙ぎで振るうが、夏凜には当たらない。
我武者羅に大剣を振るう風を、夏凜は最小限の動作でするり、するりと避けていく。
もし今暴走しているのが友奈と東郷であれば、夏凜は押し切られていたかもしれない。友奈はフィジカルに天才的な才能があり、武術も勇祐の影響で習い始めていた。瞬発的な動作であれば夏凜を上回るだろう。東郷の場合は長年蓄えてきた知識と経験。更にアウトレンジからの射撃でそもそも夏凜を寄せ付けない。
だが風は勇者システムを除けばただの中学生。特別、何かしらの訓練をしているわけでもない。対バーテックスであれば彼女は無類の強さを誇るが、対人であれば訓練を積んだ夏凜のような存在には容赦なくあしらわれる程度の実力しか持っていないのだ。
「こんのォ!」
「武器の相性もあるけど、力があるだけの素人相手ならこんなものよねぇ」
「く......っ!」
「まぁまぁ、そう慌てない慌てない、っと!」
雑に煽る呟きを放ちながら夏凜は刀の峰を容赦なく風の横っ面に叩き込む。精霊バリアが発動してバリアに物が干渉する時に発する眩い光放つ。それを利用して夏凜は風から距離を取った。
風と夏凜が戦い始めてから凡そ10分以上は経過している。ジリジリと大赦方面へと場所が移動している事もあり、夏凜は少しだけ焦り始めていた。
戦闘能力で言えば夏凜の方が圧倒的に格上だが、フィジカル面で言えば風に軍配が上がる。今に風を取り抑えようにも、勇者システムの加護を受けた風を抑えることは難しい。致命的なダメージが入らないということは、つまり気絶させにくいという事だ。
(あんまりダメージ入れようにも、それは気分悪いし...あぁもう。さっさと諦めればいいのに意固地になってるわね。私も風も......あぁ!カルシウムとカフェインが足りない!イライラする!風に攻撃したくて堪らないってどういう事よ!)
舌打ちをしながら夏凜は、突っ込んできた風の攻撃を刀でいなしてなんとか時間を稼いでいく。
「どけぇ!」
息を切らしながらも攻撃の手を緩めない風に内心、少しだけ関心しながらも攻撃を防ぐ事は止めない。
風の目を見れば分かる事だが怒りで完全に我を忘れている。収集がつかずどうするかと悩み始めた頃だった。風と夏凜の行動が、急に糸に絡められるように出来なくなったのだ。
「これ、は...!?」
「ふぅ、やっと来てくれたわね」
2人の近くで、誰かが空から降りて着地する音が聞こえてくる。
それは夏凜が待ち望んだ風の妹、犬吠埼樹本人だった......。
♦︎
少し時間を巻き戻る。数十分前、声が出せない代わりに勇祐とどうやってバンドをやっていこうかと考えながら帰宅した樹は、自分の家に入って愕然としていた。
家具はしっちゃかめっちゃか。窓ガラスは割れ、壁はボコボコ、床もフローリングがめくれたり割れたりの大惨事。部屋という体を成していなかったのだ。
極め付けはご近所さんが通報したのか警察に事情まで聴取される始末。話を聞きたいのは樹の方だった。
(どうしてこんなことになってるの!?)
樹は急いで風にチャットを飛ばすが何も帰ってこない。勇者部のグループに『私の家がめちゃくちゃに壊れてたんですが誰か理由を知りませんか?』と投げても誰も返事を返してくれない。
(なんでーー!?)
半泣きで目をぐるぐるさせながら関係のありそうな場所全てに連絡するが全て不通。
更に不幸な事に、勇祐は死に、風は暴れているという滅茶苦茶な状況だからこそ誰も返信出来る存在がいないのだ。もっとも、樹にとってまだ知らない方が幸せなのかもしれないが...。今の樹にとってはそれが1番の不幸なのだ。
(今日のタロット占いではこんな事なかったのに〜!)
可愛らしくひんひんと泣く樹だったが、樹を助けてくれる存在、もとい助けられる存在は今この場に居ない。
さて、どうしようか。今日の寝床、ご飯、家の修理代。お姉ちゃんはどこに行ったのか。そもそもの原因は何なのか。そういえば私の私物はどうなったのか......エトセトラ。ぐるぐると色んな考えが飛び出て来た樹は頭を抱えていると、唐突に思い出したのだ。自分たちの生活費が大赦から出ている事に。
大橋の惨事で両親を亡くしてから、姉を通して大赦から被害者家族への救済として支援を受けている事を樹は思い出した。
そしてどう考えても超常な力で滅茶苦茶にされた部屋だ。こういう場合に聞くのであれば大赦に聞くべきだ、と樹はピカーンと思いつき思わず手を叩いた。
我ながら良い手だ、と思ったのも束の間。次に出て来たのは連絡手段の皆無という点。樹は大赦への連絡先を知らないのだ。
勿論、調べれば出て来るのだろうが、喋れない時点で電話は使えない。メールでのやり取りとなると恐らく時間がかかる。ならばもう、自分の足で大赦に赴くしかないのだが、それもそれで時間が掛かる。
そこで樹は考えた。
【なら勇者になっちゃえばいいんじゃないか】、と。
そこからの樹の行動は早かった。
家の人だかりからするりと抜け、誰にも見えないところで勇者システムを起動する樹。
(なんだか悪い事してるみたい......)
悪い事と言えば樹の脳内に真っ先に思い浮かぶのは勇祐だ。悪い先輩で、樹が勇祐に慣れてからというもの、何かと法律には引っかからない程度の悪い事を教えてもらったりもしていた。
そんな勇祐が未だに敵だとは信じられない樹は、早く勇祐が治るように、と願っていた。
樹は誰にも見つからないように飛び上がり、大赦へと向かう。
そしてその道中において風と夏凜の戦闘を目撃するのだが、樹はそこに至るまでの情報がなかったので、ここで斜め上の発想に至ってしまったのだ。
(お姉ちゃんと夏凜さんが喧嘩してる!と、ととと止めなきゃ!)
樹には2人がただ喧嘩しているように見えたらしく、あわあわと焦りながら止めようと考えるが方法が分からない。
(それにしても、なんで喧嘩を.....?お姉ちゃんの顔凄い怖いし......あ、もしかして......!?)
樹の脳内にはボロボロにされた我が家が浮かんでいた。既に勇者システムを起動して喧嘩している2人が居る時点で犯人はこの2人だ、と樹は確信してしまったのだ。真相からすると間違ってはいない。
なので樹は怒った。家を滅茶苦茶にしても飽き足らず、夏凜と喧嘩に明け暮れている姉に怒ったのだ。
「これ...は!?」
「ふぅ、やっと来てくれたわね」
そして先程の場面へと戻る。
「樹!離して!私にはやる事が......!」
『家、めちゃくちゃ』
「......えっ?」
『お姉ちゃんでしょ?家をあんなにぼっこぼこのめっためたにしたの』
「そうだけど、今はそれどころじゃ......」
『それどころ!?今日のお布団もないんだよ!1人で滅茶苦茶にしておいてそれどころじゃないでしょ!?』
樹は今までにない程の怒り顔でフリップに怒りを書き連ねていく。そして全く反省の色を見せない風を見て更に字に怒りを込めながらヒートアップしていった。
「えーっと、樹?止めてくれたのは嬉しいんだけど、こうじゃなかったというか......」
『こうじゃなかった!?どうだったら私の家と部屋は壊れなかったんですか!?』
「今回は仕方ないと言うか...行き違いと言うか......ま、まぁやってる事は悪いけど風はあんまり悪くないから...ね?」
夏凜は樹が異常にキレている事をひしひしと感じていた。しかも今、風と夏凜は樹の糸によって四肢を絡め取られ、身動きが出来なくなっている。つまり殺生権を樹に握られている状態である。それにしたっておかしいのだ。何故『人を殺しそう』な程に憎しみを込めた顔になっているのか。
よく見てみれば、風も同じ顔をしている事に夏凜は気付いた。正に今も、樹に向かって殺してやると叫んでいる。
いくら怒りで我を失っていても、血の繋がった大の仲良しである家族同士が喧嘩をして殺し合うまで発展するだろうか。
(なんかムカつくわね...【殺してやりたい】ぐ、ら......あっ............)
そして、気付いた。気付けてしまった。
勇祐と1番関わった日数が少なく、表面上は警戒を一切緩めなかった三好夏凜だからこそ気付けた。
そして何よりも、完成型勇者として大赦に教育されてきた夏凜は、先代勇者の3人からの情報もあり『思考誘導に対する防衛術』を多少なりとも学んでいた。
それらの理由が重なり、夏凜は勇祐と同じ天の神からの思考誘導を看破出来たのだ。
(なにこれ!?自分の言葉じゃないのに頭に湧いて出て来る......!)
本人に気付かせないように自然と沸き起こってくる言葉と感情。感情はなんとか制御出来る。だが頭に沸き起こってくる言葉は考えないようにしても無駄であり、次から次へと負の言葉が出て来るので始末におけない。
「あぁもう!面倒臭い!イライラする!何よこの感情は!あんた達もいい加減に目を覚ましなさいよ!家族を殺したいなんて正気!?」
「は?夏凜、そんなことある訳、が......あれ......?」
「風!これは何かしらの攻撃よ!私があんた達を殺したいなんて有り得ないし、あんた達がそんな憎しみを込めた顔で罵り合うなんてもっとおかしいのよ!今までの感情を思い出しなさいよ!!」
そこまで言われて、風と樹はようやく自分達がおかしい事に気付いた。
自分たちの今まで放ってしまった言葉に戸惑いを隠せない樹に夏凜は取り敢えず糸を解くように指示を出した。風と夏凜は漸く糸から解放されたのだった。
「糸が肌に食い込んで痛かったのよねぇ。まぁいいわ。2人ともカルシウムが足りないのよカルシウムが。サプリ飲んで煮干し食べなさい」
「わ、わた、私...怒りのあまり.......樹に、ひどいこと......」
なんとか2人を宥めようとする夏凜だが、情緒不安定な2人はなんてことをしてしまったんだ、と顔面蒼白になって震えていた。
「あーもう、素直に謝ればいいじゃない」
「で、でも...」
「でもも何もないでしょ。あんた達は姉妹で家族でしょ?たった1回の喧嘩で口が滑って殺すだの言っただけじゃない。そんなに不安がるような事じゃないでしょ...ね、樹?」
樹の方も、おそらく声に出していないだけだが同じ事を考えていたのだろう。顔をただ横にふるふると振るだけだった。
「あー、もう。辛気臭いわね!」
今にも泣きそうな2人を、夏凜は胸に抱きしめた。突然の事で驚く2人。
「2人が許せないなら、私が許すわよ......。大丈夫。2人は何も悪くない。風が暴れたのも、樹が怒ったのも、なにも悪くないもの」
2人の頭を撫でながら、夏凜は優しく囁く。
「2人がこんな事になっちゃった原因は他にあるもの。だからもうそんな顔しないで笑いなさいな」
「夏凜...私......」
「今は黙って私に抱かれてなさい」
ぶっきらぼうに答える夏凜がとても優しく感じた風は、緩んだ涙腺から涙を流した。
そして風に釣られて樹も、涙を流し始めた。
「泣きたいなら泣きなさい。その方がスッキリするでしょうしね」
夏凜の言葉に甘えるように風は声を出して泣き始める。その泣き声は今までの苦しみを代弁しているような気がした。まるで樹と、もう居ない勇祐の分まで泣いているかのようだ。
(辛い、わよね。姉妹であんな事言い合うなんて。だからまぁ、今だけは甘えさせてあげようかな)
夏凜は黄昏時の空を見上げる。空には既に星が輝き始め、まるで世界が平和であるかのような幻想を形作っていた。
もうすぐ夜になる。まだまだやらなければいけない事は山程あるが、今はこの2人を慰めよう、と思ったその時。
唐突に世界が揺れ、3人のスマホから樹海化警報の、あの耳に残る音声がまるで3人に休息を与えないかのように鳴り響いたのだった......。