結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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GW中に投稿したかったんですが1万文字ぐらい書き直してこんなにずれ込みました。是非もないネ。

評価、お気に入り、感想。いつもありがとうございます。
本編の話数で言えば、原作で「結城友奈の章」にあたる部分はあと少しで終わります。投稿が終わり次第、「鷲尾須美の章」へと移っていく予定です。その後は未定ですが、暫く続いていきますので、どうかこれからもよろしくお願いいたします。


第32話 それは帰ってきた勇祐の話

 

 

「よぉ園子。なんて酷い顔してんだよ」

 

 

 俺が目を覚ますと、知らない天井だった。懐かしい銀の声と、園子の泣き声が聞こえてきた。

 体を起こしたら、無くした筈の両腕と両足が復活してて、抉られた腹の傷も飛び出ていた腸も綺麗さっぱり無くなっていた。

 なんでだ?という疑問もすぐに無くなった。胸の奥から湧き上がる力。感じなくなっていた痛覚の復活。俺の中に、御霊が蘇った証拠だ。

 

 

「なん、で......?」

 

「なんで俺が生きてるかって顔だな。俺も詳しくは分かんねぇ。けど、銀がなんかしたんだろ?」

 

 

 俺も割と拍子抜けしてるんだよな。てっきりこのまま死ぬと思ってた。まさか生き返るなんて想定外だ。

 銀は生き返って、器を入れ替えたらどうにかなると思ってたし、園子も銀さえ戻ってくればある程度はタタリを跳ね除けられると信じてた。だから俺はあんなに強硬的に命を削ってたんだから。

 

 

「もちろん!......と言いたいところだけど、私も渡されただけだし良く分からないんだよなぁ」

 

「渡された......?誰に?」

 

「自分の使い古しだって、白仮面被った変な奴に勾玉っぽいのを渡されたんだよ。そいつは砂になったけどな。で、さっきお前の上に置いといたんだ。デカイし邪魔だったからな。てっきり何か儀式でも必要だと思ってたんだけど、置いとくだけで復活するもんなんだな」

 

「勾玉...そうか、御霊の代わり......。だからか、力が湧いてくるのは......」

 

 

 大体分かった。その白仮面被ったやつは誰か知らないけど、天の神の影響外の存在の筈だ。そうでなかったら今俺の身体がタタリに侵されていない訳がないからな。

 正体は気になるけど...今は置いておこう。砂になったみたいだしな。

 

 

「さて、園子?」

 

「ひっ...」

 

 

 さっきから俺を見て小刻みに震えていた園子に顔を寄せる。俺が呼びかけてやると小さな悲鳴を出して後ずさった。あんまり虐める趣味はないから、軽くにしておいてやるか。

 

 

「痛かったぞ、本当に。内臓まで引きづり出しやがって。で?満足出来たかよ」

 

「あ、あ......」

 

「滅茶苦茶、痛かった」

 

「ご、ごめ......ごめんなさい...ごめんなさい......私......」

 

 

 泣いちゃった。

 あいてっ!?なんで脇腹殴るんだよ銀!?

 確かに痛みは個人的にはあんまり無かったから、誇張してる部分はあるけど精神的にはクソしんどかったんだぞ?これぐらいの茶目っ気ぐらい許してくれよ。

 ったく、しょうがねぇな。

 

 

「ていっ」

 

 

 園子の頭を軽くチョップして、ガシガシと頭を撫でる。ケアもしてないのか、髪の毛はゴワゴワだ。あとちょっと臭う。俺をズタボロにしてから風呂に入ってないんだろうな。そこまで精神状態がおかしかったわけか。

 

 

「許す。というか、俺がそもそも悪いんだからお前が謝る必要はねぇよ。謝るなら東郷と姉貴にしてくれ......。あと、お前のタタリ、貰っていくぞ?」

 

「えっ......?むぐっ!?」

 

「うわっ、ちょ!?勇祐!!?」

 

 

 うるさいな。これしかないんだよ。タタリを相手の身体から吸い出すには、『唇をくっ付けて吸い出す』のが1番てっとり早いんだ。

 

 

「うわ、うわぁ......すご、すっごいこれ......私の時もあんな事されてたのか......吸ってる...吸ってるよアレ......」

 

 

 恥ずかしいのか顔を両手で隠す銀。

 銀の時は初めてだったしもっと貪るような感じだった、と訂正したかったけど口が塞がってるから無理だな。というか訂正しなくていい。言わぬが何とやらだ。

 

 というか離れようとするな園子。中途半端が1番駄目なんだぞ。

 

 

「むぅ〜!むぅぅ〜!!」

 

「うっわぁ〜。完全に抱き締めて頭押さえつけてらぁ......」

 

 

 胸をドンドンと叩かれるけど、もうちょい我慢してくれ園子。

 

 ......よし、終わり!

 

 

「ぷぁっ......何するのさ馬鹿ァァ!!」

 

「ぶっ!?おい!顔面殴ることはねぇだろ!」

 

 

 顔面を殴られた。なんでだ。

 

 

「うるさい!乙女の唇勝手に奪っておいて何さ!私!初めて!だったんだよ!ファーストキスをこんな、こんな......!」

 

「知るか!そもそもさっきまでのお前にやる前に言ったら絶対拒否するだろうが!唐突にやるしかねぇんだよ!」

 

「それは...そうだけど......そうだけどさ!あるんだよ!?色々と女の子には!!」

 

「あーだこうだ言ってる暇もなかっただろ!?」

 

「あの...三ノ輪様、乃木様と勇祐君はあのように仲がよろしかったのですか......?」

 

「あそこまで口喧嘩してたのは2回目ぐらいかなぁ。1回目は、なんだったか。ほんとにしょうもないことで言い合ってたと思う」

 

 

 わーわーぎゃーぎゃー。

 俺らが言い合ってる間に困惑気味の仮面被った春信さんと、染み染みと語る銀の声が聞こえてくる。

 アレはしょうもなくも...駄目だ。言ったら墓穴掘るな。とにかく、今は急がなきゃいけない理由があるんだ。

 

 

「分かった!分かったから、後でいくらでも俺を攻めてくれていい。今は急がなきゃならない。銀が起きた時点...いや、俺が死んだ時点だな。そこで既に天の神が強硬策に出ててもおかしくないんだ」

 

「どういうことだ勇祐くん!?」

 

「俺は人間のようなバーテックスもどきになった時に、俺の魂の代わりに天の神に御霊を与えられた。そして俺の魂は人質として、今も生きている。もう1人の結城勇祐としてな」

 

「どういう、こと?」

 

「その魂の目的はただ1つ。『姉と一緒に生きたい』だ。例え世界を滅ぼしてでも、だな」

 

「今の勇祐も......ってことか?」

 

「......今は違う。姉貴と同じように大切な存在が山程出来たしな。それに俺にとって、姉貴の意思が絶対だ。これは今も昔も変わらない。そして姉貴は......絶対に、自分だけが生きる選択肢を選ばない」

 

 

 断言する。

 春信さんも若干引いてるけどその反応は想像通り。俺の意思決定が姉頼りな事がおかしいということぐらい自覚してる。

 大切な存在...それは勇者部であり、防人であり、銀と、そして園子だ。彼女達が居なければ俺は恐らく、姉だけの世界を求めていただろう。だからこそ、俺は自分の最終的な意思決定を他人の意思に任せている。

 姉は絶対に世界を滅ぼしたいと言わない。

 誰かを殺したいとも言わない。

 あの自己犠牲の塊が、言う筈がない。

 自分よりも誰かの幸せを願い、出来れば皆と一緒に笑って過ごしたいと願う俺の双子で自慢の姉が、そんな願いを言うなんてありえない。

 

 だからこそ俺は安心して決定権を姉に渡す事が出来る。姉が姉である限り、俺は人間で居られる。姉の意思を無視した時点で、俺はバーテックスになり、そこが俺の最終ラインだ。どちらにもなれる危うさがあるからこそ、その引き金には絶対的な安全装置が欲しかった訳だ。

 

 だがあの魂に、安全装置なんて存在しない。俺がこういう風に変質した時には既に俺の体には魂がなかったんだからな。

 

 

「俺の魂は天の神に歪められてる。その歪んだ俺の魂は、恐らく...とっくに結界内に入ってきてる。俺の姿をして、もう1人の結城勇祐として」

 

「つまり、今悪者の勇祐が来てるって事か?」

 

「そーいうことだ銀。とびっきりに悪い俺が来てんだ」

 

 

 成る程なぁ、と頷く銀に対し、春信さんの「なんでそういう大事な事黙ってたんだ」っていう雰囲気だ。黙ってなきゃタタリで春信さん死んでたけどな?

 園子に至ってはなんとも言えない顔をしている。俺を殺そうとすれば、殺してもらえると思ってたみたいだし、複雑な気分なんだろう。

 

 

「......あのね、ゆっきー...」

 

「なんだ園......うおっ!?」

 

 

 園子の話を遮るように、地面が大きく揺れる。悪い予感が、どうやら的中したようだ。

 

 

「春信さん!」

 

「樹海化が始まるようだ...一体何が!」

 

 

 春信さんがスマホを取り出して何やら確認している。樹海化、つまりはそういうことだ。

 

 

「魂の方の俺が遂にやらかしたって事だ!銀!」

 

「おう!行くぜ!......って言いたいけど、私って今スマホ持ってないんだよな」

 

 

 銀の服装はボロボロであるものの勇者の装束だ。だが肝心のスマホがなく、自慢の一対の斧という武器がない。

 

 

「ミノさん、これを使って!」

 

「園子、これって......」

 

「私のスマホだよ。私は使えないけど、ミノさんなら......」

 

 

 画面の端がひび割れたスマホを、園子が銀に手渡した。取り上げられてなかったのか?

 

 

「勇者システムが存在するなら、コピーぐらい簡単なんだよ」

 

「コピーしたけど使えなかったって訳か。お前ほんと恐ろしいな」

 

 

 あの日本刀どころか、勇者システムも実は用意してたのか...。使えてたら本当に死んでたなこれ。ヤバかった......。

 

「サンキュー園子!これで私も戦えるってもんだ!」

 

「ごめんね、私、戦えなくて......」

 

「だいじょーぶだいじょーぶ。園子は休んでないとな。帰ってきたら須美と一緒に、またイネスに行こうぜ」

 

「うん...うん!待ってる、待ってるから!」

 

 

 泣きそうな園子の頭をぽんぽんと撫でる銀を横目に見ながら、俺は春信さんに近寄って耳打ちする。

 

 

「春信さん、例の件...頼んだ。戦いが終われば有無を言わさずに始めて欲しい」

 

「......分かった。君は、本当に......それでいいんだな?」

 

「勿論。......今まで、お世話になりました」

 

「こちらこそ。では、頼んだよ勇祐くん」

 

 

 そして樹海化警報が銀のスマホから鳴り響き、世界が止まる。

 止まった世界の中で、春信さんの顔は仮面越しで分からなかったが、園子は笑顔のままだった。久し振りに見る園子の笑顔だ。

 

 

「さて...銀、言うの遅くなったけど、ありがとうな」

 

「許す。ま、お互い様ってやつだ。私も勇祐に助けられたんだしな」

 

「......んじゃ、やるかぁ!」

 

 

 今度は夢を介してではなく、銀と同じく花吹雪に飲まれながら樹海の中へと誘われていく。

 準備はそこそこ。状況は最悪を免れたけど、もう1人の俺は恐らく姉に接触して行動を起こした。

 ここが正念場。そして、俺の最期の戦いになる筈だ。天の神がどう動くかは分からないから、それだけが不安要素。後はもうやるしかない。

 

 ......やるしかない?いいや、違う。

 

 

 やってやるんだ。

 

 

 今までのように、やるしかないんじゃない。

 俺は俺だからこそ、魂如きに姉を持っていかれる訳にはいかないんだ。

 

 

 

 

「随分と樹海も様変わりしたもんだな」

 

「そりゃ、大橋と違ってこっちは四国全域っぽいからな」

 

 

 樹海へと誘われた後、雑談はそれなりに、俺はさっきからずっと気になっている事を銀に聞いてみた。

 

 

「銀、身体の状態はどうだ?身体の半分が焼け爛れてた筈だけど...」

 

「正直辛い。見てくれはいつの間にか良くなってたけど、体力の消耗が激しいな。さっきは園子の前だったし、痩せ我慢してた」

 

 

 壁の外で銀を見つけた時、銀の半身は焼け爛れていた。今は焼け爛れた箇所は殆どマシになってはいるが、やはり体力は辛いようだ。直接的な戦闘は避けた方がいいかもしれない。

 まぁ銀の性格上、止まる訳がないんだが。

 

 

「なら俺が...」

 

「止めとけ。勇祐だって、園子のタタリを吸ってしんどい筈だろ?私の時だって中々ヤバかっただろうに」

 

 

 今の銀には、俺の御霊が胸に埋め込まれている。それを元に、俺が流星を使えば銀の身体を治す事は出来る。既に実証済みだから確実に出来るが他人の身体という事もあって疲労感は激しい。今の俺の状態だと身体の維持が出来るかが不安だ。

 

 

「......分かった。けど、無茶すんなよ?」

 

「無茶して勝てるんなら幾らでもやるさ。けど、それだけで勝てる程甘い相手でもないってのは身に染みてるからな......。あと、それはお前もだぞ?」

 

「......分かってるよ。一応、な......」

 

「なんだよそれ...ま、いいや。急ぐぞ勇祐」

 

 

 俺の言わんとしてる事が分かっているのか、一瞬だけ険しい顔をした銀は、俺を置いてさっさと勇者システムを起動した。一瞬の変身シークエンスの後には、紫色の装束を着た銀が槍を持って立っていた。

 

 

「園子の武器と服だな。まぁ使えない事は無いけどさ...」

 

「ないよりかマシだろ。さて...」

 

 

 白仮面を呼び出して、顔に被る。力が漲るように感じるのは、魂が近くにあるからだろう。御霊と魂、実質2つだからな。天の神からの力の受け渡しがなくても、魂の方から漏れ出てる力と銀の体から御霊を通して神樹の力も少しばかり流れ込んできてる形だ。

 本来の力とは程遠いけど、なんとかなりそうだな。

 

 俺たちは顔を見合わせて1度だけ頷いてその場から飛び立った。

 まず目指すのは先程の揺れの震源である壁だ。恐らくそこに、姉と...魂の俺がいるであろうから......。

 

 

 

 

 

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