結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

37 / 48
次回の第36話までを『勇祐の章』とし、それ以降を『白面の章』として投稿致します。よろしくお願いいたします。

なお、幕間として日常風景を投稿するかもしれませんが、その際は時系列が近い方の章にまとめさせていただきます。





第35話 それは力を振り絞り勝ち取る勝利の話

「やっぱ駄目か。使えないなほんと」

 

 

 白面は離れた場所でまともに攻撃出来ていない友奈を見て舌打ちした。白面の言いなりになって動いていた友奈だが、心の隙間に無理矢理入り込んで従わせていたようなものであり、白面としても壁を破壊させれば御の字と思っていた程に友奈へ施した隷属のタタリとも言えるモノは脆かったのだ。

 そこに勇祐本人が来てしまえば脆く崩れさるだけである。

 

 だからこそ白面は面白くなかった。

 自分が本当の結城勇祐になれた筈だった。友奈を自分が思い描く、自分にとって都合の良い結城友奈に出来る筈だった。しかし邪魔をされてしまった。

 消し去りたい。もう1人の自分を。あいつは僕の汚点だ。そう思い強く憎む程に白面は結城勇祐に対する殺意を黒く黒く煮詰めていた。

 

 

「余所見してる暇があるのか!」

 

「あるから...してんだよ」

 

 

 片手間に風をあしらいながら、白面は切り札を今切るかを悩んでいた。さっさと決着をつけなければ、自分に天罰が下る。それだけは嫌だった。死んでもいいが、あの天罰だけは受けたくなかった。白面にとって天の神が下す天罰とは死ぬ事よりも恐ろしい恐怖だった。

 勇祐は既に乗り越えたものであるが白面は未だ乗り越えられていないのだ。それは白面の精神が幼く、『誰かの為に立つ』ことを経験していないからだった。

 

 

(なんで、なんでなんだ。本物の勇祐であるのは僕なのに!アイツの方が偽物だ!あんなに粗暴で姉さんの幸せも考えていないアイツが偽物なんだ。姉さんは、友奈は僕のものだ!)

 

 

 白仮面の奥で、白面は怒り狂っていた。あれだけ利用して、悪態をついているが、当人にとっては物事が上手く進んでいないのだから当然面白くもなんともない。ただ身勝手に自分の都合通りに行かない事に憤怒していた。

 自分を見てくれない友奈。そして姉を独り占めするもう1人の自分。煮え滾るような怒りと憎しみは更に白面を狂わせていく。それはまるで、犬吠埼姉妹や園子が患った『タタリ』のようであった。

 

 

 そうしているうちに、どす黒い感情の奔流は、ほんの一欠片だけ残っていた『生きたい』という理性までもを飲み込んだ。

 

 

「待って樹!偽物勇祐の様子がおかしいわ!」

 

 

 急に立ち止まった白面に異常を感じた風は攻撃の手を止めた。風に従い、樹も警戒を緩めずに白面の動向を見極めようとする。

 

 白面の体がうねり始めたのも、2人が警戒を強めた時だった。

 それはまるで、ホラー映画で人間が怪物に成り果てる時のように、メキメキと人間が鳴らす筈がないような不気味な音と共に肉体が歪に膨れ上がっていく。

 その姿に怯えて、樹は風に縋り付く。先程までの死の恐怖とは違う、純粋な恐怖からだった。

 

 

「まさか、バーテックスに変身してるの!?」

 

「GUAAAAA!!」

 

 

 咆哮。獣のような叫び声。完全に人間性を捨て去り、本能の塊となった白面はその姿をどんどん膨らませていく。それを止める術を2人は持ち合わせておらず、ただただ、その場で変形していく白面を見守るしかなかった。

 

 

「偽者...偽者ト言ッタカ!コノ僕ヲ!!」

 

「えっちょっと何...?もしかして勘違い系か何かかしら......?」

 

 

 思わず風も困惑する。彼女は目の前の白面が勇祐の偽物だという思い込みに近い知識しか持ち合わせていないのだ。風は自分が何か気に障るような事を言ったのか、と頬をヒクつかせながら苦虫を口に中で潰したような顔をする。

 言葉を伝える手段のない樹は『どうするの!?』という表情で風に訴えかけているが、風もそれどころではなかった。自分と樹だけでは、勝てないと悟ったのだ。それこそ、満開を使わねば勝機が見えない程に。

 

 

「反則、でしょうが......!」

 

 

 大きくなっていく白面は、10mを優に超えるバーテックスになっていた。歪ながらも、以前勇者部と相対した、あの巨大な御霊を吐き出したバーテックスに似ていた。

 それが2体目。さらに知性もある。今まで戦ったどのバーテックスよりも重圧感を醸し出し、勝利の2文字を考えさせない程だった。そう羅列するだけで風は冷や汗が背中に流れる感覚を覚えた。

 風の懸念は樹そのものだ。自分はまだしも、樹をこれ以上満開させたくない。だからこそ躊躇した。恐らく、自分がやろうと言えば樹もまた同じように満開すると風は確信を持っていたからだ。

 

 樹は何も迷ってはいなかった。

 

 

「......樹?」

 

 

 風の袖が樹によって引かれた。見れば、コクコクと頷く樹の顔は決意に染まっていた。『心配しないで』と言っているようだった。『私もお姉ちゃんの隣に立つよ』と言っているようだった。

 彼女は散華の代償を鑑みずに、姉である風と共に戦う覚悟を決めていた。

 その覚悟の元は、姉である風の為であるのと、自分を助けてくれた勇祐の為である。

 またみんなで幸せになれるように......。その願いは樹の意思を極度に強くしていた。

 

 

「...分かったわ。じゃあ、一緒に行くわよ!」

 

 

 そんな樹にちょっとだけ溜息を吐きながらも、風は笑って承諾した。

 大切な友達を守る為に。大切な部員を守る為に。

 

 

「『満開!』」

 

 

 2つの花が、咲き誇った。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「風先輩と樹ちゃんが...ゆうくん!」

 

「おう、行くか!」

 

 

 

 白面が巨大なバーテックスとなる姿を見つめていた友奈と勇祐は、風と樹が満開したのを見てお互いに決意を新たにしていた。

 スッと、友奈は勇祐から離れる。その目には光が灯り、顔色も良くなっている。いつもの友奈に戻っていた。

 

 

「ゆうくん...ほんとは待ってて欲しいんだけど、行く、よ!」

 

 

 言外に『自分がした事は自分でケジメを必ずつける』と言っているのだろう。責任感の強い友奈らしい言葉だ。けれど共に行くと言った手前、勇祐を振り切るつもりもないようだ。

 勇祐は太刀を引き抜き、頷いて答える。白面は勇祐自身でもある。友奈の問題だけではなく、勇祐自身の問題でもあるからだ。

 

 

「来ルカ!偽物メ!!」

 

 

 白面のバーテックスは力を溜め始め、その頭上に巨大な火の玉を作り出す。

 

 

「マズい!勇祐!友奈!逃げなさい!」

 

 

 白面の攻撃に気付いた風は危険を知らせる為に叫びながら樹と共に白面を攻撃する。だが満開をしても白面にダメージを負わせる事は叶わない。

 

 

「なんて硬さよコイツ...!」

 

「無駄ダ!死ネ勇祐!友奈ト共ニナアアアア!!」

 

「ッ!させないッ!!ゆうくん!!」

 

「やるぞ姉貴!」

 

 

 火の玉が発射されると同時に、目線すら合わせず友奈と勇祐は隣同士に並び立ち拳を強く握る。阿吽の呼吸を魅せる2人は息を大きく吸い込み、そして向かってくる火の玉を文字通り殴った。

 

 

(......今の俺じゃあ足りないか!?)

 

 

 激しい熱量と押し戻されそうになる力の前に勇祐は自身の力の無さを悟った。パイルバンカーさえあれば、1発で火の玉を消滅させることも出来ただろうが、今の彼は持ち合わせていなかった。

 

 

「大丈夫だよ!」

 

 

 駄目か、と思った勇祐だったが並び立つ姉の言葉にハッとする。その横顔は何も諦めていなかった。

 

 そうだ。あの結城友奈がこれしきのことで諦める訳がない。今の友奈は、無敵だ。

 

 

「満開!!」

 

 

 勇ましく、頼り甲斐のある、勇祐の姉たる友奈の力強い声が響く。

 その声と同時に火の玉が破裂する。凄まじい程の熱気が勇祐に襲いかかったが、目を閉じる事なく、友奈の勇姿を見つめていた。

 

 

「貴方は、結城勇祐であって、ゆうくんじゃない!ゆうくんなら、こんなことはしないから!だから、私は貴方を倒す!倒して、世界を...皆を守る!」

 

 

 満開した友奈はその背に2本の巨大な腕を携えながら、過去を振り払うかのように、白面を否定するように、声高らかに宣言する。

 

 

「フザケルナアアアアア!フザケルナフザケルナフザケルナ!!!」

 

 

 友奈の言葉に激怒した白面が、その巨体から悲鳴に近い叫び声を上げる。強く響くその声は、タウラスバーテックスの怪音波に似ているが、その怪音波ほど煩くない。

 

 

「...お前は俺だ。歪に歪みきって、道を踏み外したのに気付かない、哀れな結城勇祐本人だよ。お前にもう少し、勇気と根性があれば違ったんだろうな」

 

 

 友奈に続くように、勇祐は一歩前に出て白面に声を掛けた。

 

 

「オオオオオオオオオオッッッ!!」

 

「......もう言葉も解さないか。悲しいよな。お前は、本来俺が至る筈だった『もしも』の俺なんだろうな」

 

 

 もし全ての記憶を思い出したあの戦いでバーテックスに変化した時に理性が無かったなら。もし園子に会うのがもう少し早くて、園子の異常に気付かなかった自分が怒り狂う事があったなら。

 その結果が目の前に居る白面だ。世界に絶望して、皆を信じる事が出来ずに全てを捨てた結城勇祐こそが、このバーテックスに成り果てた存在だった。

 一歩間違えれば、勇祐もこうなっていたのだ。

 

 だから、勇祐は太刀を構える。この太刀は勇祐の腹を切り裂くどころか、300年前、幾度となくバーテックスを屠って来た霊刀とも妖刀とも言えるほどに神聖な力を持ったものである。勇祐パイルバンカーと同じく対神特効兵器と言え、白面にも当然のように通用する。

 

 

 ——————だから。せめてもの慈悲で安らかになれるように、もう1人の自分を殺す。例えそれが自殺となんら変わりない行為であったとしても。

 

 

「姉貴、パイセン、樹!こいつをとっととぶっ飛ばして帰って、うどん食いに行こうぜ!」

 

 

 結城勇祐の、最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「あー、くそ!こんなバーテックス聞いてないぞ!?」

 

「片目も見えなくて耳も聞こえない中で戦えないのは辛いわね!紫の!なんとか抑えられないの!?」

 

「色で呼ぶな!私の声が聞こえないからって言いたい放題言いやがって!聞こえるようになったらシバき回してやるからなぁ!」

 

「何言ってんのか聞こえないっての!くそッ!封印しようにもこれじゃあ封印が維持出来ない!」

 

 

 勇祐達から離れた場所においても、戦闘が発生していた。遠くで唐突に発生した歪なバーテックス...2人は知らない事だが白面が変異したソレに合流させないように必死に戦っているが、攻め手に欠けていた。

 

 それもそのはず。

 レオバーテックスと呼ばれるこの個体は、大赦によって最強格のバーテックスとして認識されている程だ。

 他人の勇者システムで尚且つコピー品の為に出力が悪く、2年ぶりの運動で体力が切れかかっている銀と、既に半身が散華し疲労も限界に近い息切れ状態の夏凜、という満身創痍の2人では分が悪かった。

 それでもなんとか戦況が拮抗しているのは2人の経験値と戦闘センスが成せる技だろう。

 

 だがその状態も永遠に続ける事は出来ない。そもそも封印に割く余力が2人には残されていないのだ。とてもではないが勝てる見込みはこのままではかなり薄かった。

 

 

「負ける気がしないのに勝てる気もしないってのは不思議な気分だな!」

 

 

 疲労に顔を歪ませながらも銀は不敵に笑ってみせた。声が聞こえていない夏凜であったが、その姿が頼もしく思えたのだった。

 

 

「紫の!満開は使える!?」

 

 

 再度の「紫の」呼ばわりにムッとした顔をする銀。確かに銀が今着ている勇者装束は園子のもので紫色を気色としている。夏凜は耳が聞こえないし銀の事を知らないのだからそう呼ばれても仕方ないのだが。何故かイラッとしてしまうのだ。

 

 ただ満開に関しては勇祐からの知識はあれど、この勇者システムには搭載されている様子がなかった。それを伝えようにも言葉が聞こえないので、銀は黙って首を振る。園子が意図的に満開機能を省いたのか、それともコピー品である為に省いたのかどうかは与り知らぬところである。

 

 夏凜は舌打ちしながら打開の一手を考える。

 夏凜1人だけ満開しても、恐らくレオバーテックスには届かない。継続戦闘は出来ないと今までの戦闘で判明しているが故に強気に出たら負ける可能性の方が高いのだ。

 

 どうすれば勝てるのか。あの見たこともない、推定勇者の「紫の」は強い。まるで今までにバーテックスとの戦闘経験があるかのようにだ。

 野良から突然生えてきた訳でもないだろう。

 そうであったとしても『勇者システム』の数には限りがあるからだ。

 そして大赦から派遣された勇者は『先代勇者が遺した勇者システム』を扱う夏凜だけ。

 

 

 そこでふと思い至る。

 先代勇者は白面によって殺害された。

 だがその白面らしき存在は蘇るか何かして、バーテックスとして存在している。

 なら先代勇者がなんらかの理由で蘇ってもおかしくはないのでは?と。

 普段なら『何を妄言を吐いているのか』と一蹴するところであるが、今は縋れるものがあれば藁でも縋りたい状況なのだ。

 

 

「紫の!御託はいいから、スマホを交換して!」

 

「なんでだよ!それはお前のだろう!?」

 

「手で押しのけようとするな!いいから使いな...さい!」

 

 

 銀のスマホを無理矢理奪い取り、代わりに自分のスマホを握らせた夏凜は、強制的に勇者システムを起動させた。

 

 

「ちょ、お前ーッ!?」

 

 

 勇者に変身する光に巻き込まれる銀であったが、その光がなくなると以前の銀の武器である大斧と、新品同然になった赤色の勇者装束を着込んでいた。

 

 

「やっぱり予想通り...まさか英霊になられた先代勇者様が蘇りになられるとは............」

 

 

 今までの態度を棚に上げて手の平を返すように一変させた夏凜は急に丁寧に銀に接し始める。夏凜にとって、銀達先代勇者は英雄に近い存在なのだ。敬わない訳はない。

 

 もっとも、彼女は知らなかったが故に園子の心をへし折っているのだが、今は無粋な話題であろう。

 

 

「急に丁寧語になんなよ!気持ち悪いなぁ!」

 

「貴方のような勇者が居れば百人力です。さぁ、あのバーテックスを倒しましょう!」

 

 

 キリッとした表情で、銀が使っていたスマホで勇者システムの起動を終え、服装も武器も本来の夏凜のままであった夏凜が言う。

 お前今までの高圧的な態度とか態度とか態度とか、あれは一体なんだったんだとガーッと問い質したくなる程に清々しいまでの切り替えの早さである。思わず文句を言いそうになった銀だが、今までの不調が消し飛ぶように快調になったお陰でその気分さえも霧散した。

 

 

「......ハハッ!これなら行けるな!」

 

 

 神樹によるドーピングとも言える恩恵が銀の体の隅々にまで渡っていた。銀が最後に勇者システムを起動してから約2年間、大赦が白面に対抗する為にアップデートを続けてきた結果だった。新たに神樹と力のパスが接続された銀は一時的に負担を神樹に肩代わりされているだけではあるのだが今は銀にとって渡りに船であった。

 

 

「三ノ輪銀様の一世一代の大舞台だ!悪役はとっとと舞台から降りてもらうぜ!」

 

「その場所からとっとと消えて貰うわよ!」

 

 

 

 

「「満開!!!」」

 

 

 

 

 赤の装束を身に纏った新旧の勇者が地を蹴り、その身に咲く花を満開させる。

 そしてレオバーテックスの肉体を次々に削ぎ落としていく。

 銀の背中には2本の巨大な腕に、同じく巨大な大斧と、大盾であった。

 

 

「うおおおおりゃああああ!!」

 

「てやああああああ!」

 

 

 2人はまるで赤い閃光にように踊り、戦っていく。時に交差しながら、時に1つの閃光になりながら、2人はレオバーテックスに攻撃を続ける。

 遂にはレオバーテックスも耐えかねたのか、自ら距離を取ると、その身体を火の球体へと変貌させていく。

 

 

「ッ!?不味い!」

 

 

 ふと威圧感を背後から感じた夏凜が背後を見れば背景で同じく火の球体が出現していた。白面の姿が見えないところを見れば、あの火の球体に白面が変貌したのだろう。

 もしや白面の変貌に合わせてこちらも火の球体になったのだろうか。そこまで考えて夏凜は刀を真正面に構えて火の球体に正対した。

 

 

「まぁ待てって。この舞台の主役はこの三ノ輪銀だぜ!」

 

 

 銀は夏凜の肩に手を置いて向日葵のようにニカッと笑ってみせる。

 

 

「それに援護もあるみたいだしな...。ちょっと離れててくれ!」

 

 

 耳の聞こえない夏凜の背中を押した銀は、背中の巨腕が持つ大盾と大斧を合体させた。機械的な金属音と、金属同士が火花を散らし合体していき完成したモノは、あまりにも無骨で巨大な斧であった。

 

 

「行っくぜぇ!合わせろおおおおおおおお!!!」

 

 

 巨大な斧を巨腕で横薙ぎに力一杯に振るった銀。半分程削り取られた火の球体は、中に存在した御霊を露出させた。

 

 

「須美ィィィィィィ!!!今だああああああ!!!!」

 

 

 銀が声をあらん限りに叫び、体を捻って射線ギリギリまでなんとか身体を曲げる。その一瞬の後、銀の鼻先を一筋の光線が過ぎ去り御霊を撃ち抜いた。

 これは正に、両者同士の信用がなければ出来ない神業と言える攻撃であった。

 御霊を撃ち抜かれたレオバーテックスは、砂と化していく。その光景を見ながら夏凜は唖然として射撃をしてきた方向を片目しかない視界で見る。ぼんやり、ポツンと。ほんの小さな影が今立ち上がっていた。見間違えようもない。アレは『東郷須美』の姿だ。

 

 そう、銀は遠く離れた場所に置いてきた東郷の目が覚めていて、こちらを援護しようとしているのが見えていたのだ。だから銀や夏凜では届かせようとすれば火に焼かれてしまう場所を、東郷に撃たせようとしていたのだ。

 ここ一連の連携には一切の連絡もなければジェスチャーもない。

 銀は「たぶん須美なら撃ってくれる」と確信していたし、東郷も「銀なら私の存在に気付いていて、上手く扱ってくれる」と確信していたのだ。

 

 まるで勇祐と友奈のような阿吽の呼吸であるが、これは今までの訓練の成果と両者の性格を良く知り、強く深く信頼しているから出来た芸当である。

 

 

「さて、急ぐぞ!向こうもちょいとヤバそうだ!」

 

「えぇ、銀。後でゆっくり話しましょう」

 

「ねぇ東郷。私今、耳が聞こえないから仲間外れ感が凄いんだけど、あんた今大丈夫なの?大丈夫なら頷いてちょうだい」

 

 

 さっと合流を済ませた夏凜と銀と東郷。夏凜は東郷と銀の仲の良さに『声聞こえないけど東郷も先代勇者だったって言うし感動的なシーンなんだろう』と思いながらも、気になっていたことを聞いてみた。

 東郷は笑いながら「大丈夫よ夏凜ちゃん。迷惑を掛けてごめんなさい」と謝りつつ頷いた。その姿に、夏凜は満足げに頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 

 戦況は勇者たちに有利に進んでいた。

 何故だ、と白面は自問する。

 ここまでは順調だった。友奈の洗脳が解ける事も、勇祐が立ち上がる事も白仮面を脱ぐ事も想定済みだった。

 だが...なぜ自分は負けているのか。

 左右から襲い掛かるワイヤーと大剣。

 真正面から殴りかかってくる2つの拳。

 たったそれだけ。なのに、この有り様だ。

 

 

 

【強制介入】

 

 

 

 

 ————声が聞こえた。

 

 

 無情にもタイムオーバーを告げる声だ。

 やめろ、やめてくれ。やめてください。もう痛いのは嫌だ。苦しいのも辛いのも嫌だ。お願いしますお願いします。天罰だけはもうやめて下さい。

 ちゃんとします。

 世界だって壊します。

 だから、お願いします。天罰だけはやめて下さい。

 

 まるで体罰に恐怖する子供のように、白面は怯える声で訴える。だが神様というものはそれで許す程そんな生易しいものなんかじゃない。

 

 神様はいつだって、人間の都合など考えないのだ。

 

 

 雷が落ちた。

 

 雷が落ちた。

 

 雷が、白面に落ち続ける。

 

 

 

 

「があああああああ!!?!?」

 

「ゆうくん!!!」

 

 

 その雷は魂を通して、勇祐自身にも伝わっていた。

 勇祐の体に、電流が走り続ける。久しく忘れた天罰による激痛が身体中を襲い掛かる。

 

 

「勇祐!!」

 

「馬鹿!近づくな!」

 

 

 風と樹が駆け寄るが、勇祐は声で制した。

 その2人の前に天罰の余波が寸でのところで通過した。

 その余波ですら風と樹の膝を付かせるほどの激痛を与えた。

 

 

「ガッ......!?な、によこの痛み......!?」

 

 

 触れてすらいない余波を一瞬だけ浴びただけでこの痛み。これだけでショック死しかねない。それを勇祐は今まで耐え続けてきた。そして今も。風は血の気が引いた。まだ勇祐は隠れて傷ついていたんだと知ってしまったからだ。

 

 

 容赦なく降り注ぐ天罰の雷は白面にも浴びせられていた。

 強烈な痛み。

 人間が一生に味わう痛みと苦痛を何度も何度も何度も、食い続けている。

 白面は天の神に服従を誓った結城勇祐であり、この天罰が嫌で従っていた。この天罰は人を変える。良くも悪くもだ。これに耐え切れる人間など存在しない。仮に耐えられたとして、この状態が1週間も続けば、簡単に狂ってしまう。

 

 結城勇祐の魂は、膝をついた。

 だが結城勇祐の身体は、膝をついても諦めなかった。それが結城勇祐の魂である白面と、結城勇祐の身体であり御霊である勇祐の違いだ。

 

 心の折れた状態の白面は簡単に意識を手放した。

 この痛みが続くぐらいなら、大切な姉、結城友奈ですらどうでも良かったのだ。

 

 

 天罰が止み、白面がその姿を現わす。不完全だった巨体がそれぞれに特徴がハッキリとする、いくつかのバーテックスと融合したかのような姿へと変貌した。

 

 

「風先輩!樹ちゃん!ゆうくん!大丈夫!?」

 

「げほっ、ごふっ...大丈夫だ!それよりもアイツを止めろ!」

 

「ゆうくん......!?」

 

「アイツは、直接神樹を攻撃するつもりだ!神樹が死ねばこの世界も終わっちまう!」

 

 

 その言葉と同時に、白面だったバーテックスは唐突にその身を火の球体へと変貌させていく。そして、射出されるかのようの飛び出した。

 

 

「くそッ!姉貴行ってくれ!アイツを、止めてくれ!!!」

 

「......ッ!分かったよ、行ってくるね!!」

 

「すぐに...追いつく、から......!」

 

 

 火の球体となったバーテックスを追いかけるように友奈が飛んで行く。

 そのままバーテックスの正面に来た友奈は背中の両腕で止めにかかる。

 

 

「止まれえええええええ!」

 

 

 気合いと根性でなんとか押しとどめようとする友奈だが、速度が少し遅くなった程度で依然として神樹との距離が縮まるばかりだ。

 

 

「お待たせ友奈!」

 

「風先輩!樹ちゃん!」

 

 

 友奈の左右に、風と樹がやってきて同じように止めに掛かるが、まだ力が足りない。バーテックスを止めるにはまだ、足りない。

 

 

 そこに、赤い勇者の2人が加わった。

 

 

「いっくぜええええええ!」

 

「はああああああ!」

 

「夏凜!それに...誰!?」

 

「細かい事は気にすんな!今はこれを止める方が先だ!」

 

 

 風が突然現れた赤い少女である銀に驚く。夏凜も聴こえて居ないながらも、「こうなるのは当然よね」と呆れた顔であった。

 

 

「みんな......!」

 

「友奈ちゃん!」

 

「東郷さん!?」

 

 

 最後の1人。東郷が乗ってきた船から飛び出して友奈の隣に並び立つ。

 

 

「ごめんなさい友奈ちゃん。こんな言葉だけじゃ足りないけれど、どうかこの戦いが終わったら謝らせて欲しいの」

 

「私もごめんなさい...。東郷さんに酷い事しちゃった......」

 

「えぇ...だから早く終わらせて、勇祐くんと一緒に話しましょう?」

 

「うん!」

 

「よし!守り切るわよ全員、行くわよ!」

 

 

 友奈の笑顔を皮切りに、勇者部全員の表情が良くなる。誰も負けるなんて一片も思っていない。

 ただ、勝つ。勝って、家に帰ってごめんなさいをする。

 

 —————その為に。

 

 

「勇者部ぅぅぅ!」

 

『「「「「ファイトオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」」」」』

 

「あれっ!?そういう流れなのか!?えぇっと、勇者はぁぁ!根性ォォォォォォウウ!!」

 

 

 勇者部の掛け声と、乗り切れずにイマイチ締まらなかった銀の声と共に勇者達の背後に大きな花が火の球体を包み込むように出現し、球体が止まった。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「動け...ッ!俺は、動けるだろう!」

 

 

 風と樹達が離れた後、勇祐は砂となって崩れ落ちた右足を庇いながらなんとか立ち上がろうとしていた。

 とっくの昔に限界は超えている。

 友奈と殴り合っていた時点が限界だったのだ。それからはなぜ戦えているかも分からなかった程だ。

 

 

「おい、神樹!俺に力を貸せよ!姉貴達が危ないんだ!」

 

 

 縋れるなら、もうなんでもいい。神様なんて頼るものかと思っていた勇祐であったが、ここで、生まれて初めての神頼みをした。

 

 

「俺はもう、誰かが犠牲になるなんて嫌なんだ!誰にも戦って欲しくない!皆が、幸せに暮らせる世界が来るなら、何百年だって戦ってもいい!」

 

 

 叫ぶ。声のあらん限り、自らの寿命を削る程に。そして勇祐は胸に手を突き刺して、自身の血に塗れた勾玉...勇祐の御霊を取り出した。

 

 

「俺の御霊だ!もう空っぽのこいつでもお前の力になるはずだ!こいつをくれてやる!10秒でいい!だから、だから!!」

 

 

 9割賭けであった。

 これでダメなら、勇祐は次こそ砂の山となるだけだった。

 何処かから呆れたような声が聞こえた気がしたが、勇祐は叫び続けた!

 

 

「俺に、力を貸してくれええええええええ!!!」

 

 

 勇祐にとっては賭けであっても、神樹にとっては『元よりそのつもり』であったように勇祐に向かって光の根が集まっていく。

 これなら、出来る。勇祐にはそんな確信があった。

 

 

『行って来い、馬鹿者』

 

「オオオオオオオオオオッッッ!!」

 

 

 呆れきりながらも優しく背中を押してくれるような声と共に、勇祐は飛び出す。

 ボロボロだった赤と黒色の装束が、剥がれ落ちるように、生まれ変わるように変わっていく。赤色が薄い桜色に。黒色が真白色に。

 

 

「俺はァァァァ!讃州中学2年ッ!勇者部仮部員、結城勇祐ッッッ!!!」

 

「ゆうくん!行こう!!」

 

 

 勇祐の気配を感じ取った友奈が助走をつける為に少し後方に下がり、火の球体を思いきり殴りつける。

 

 

「俺は、勇者に...なってやる!!」

 

 

 勇祐の右手に握られていた太刀が、真っ白に染められたパイルバンカーに変形する。

 勇祐はパイルバンカーを大きく構えて息を吸い込む。

 

 

「「勇者ァァァアアア!」」

 

「友奈ちゃん!」

 

「やっちゃえ友奈!」

 

「やりなさい友奈、勇祐!」

 

「いけぇぇ!勇祐!ぶっ飛ばせええええ!」

 

 

 勇者達の応援の中、友奈と勇祐の攻撃が、同時に球体に突き刺さる。

 

 

「パアアアアアンチ!!」

「バンカアアアアア!!」

 

 

 友奈と勇祐はその身を焦がしながら球体の中を突き進んでいく。

 

 

「見えた!」

 

 

 2人の眼前に、角錐型の御霊が見えた。

 友奈は満開が解除されるどころか、勇者システムまで強制終了するほどのダメージを受けながらも前に進み続ける。

 勇祐はパイルバンカーの先から砂となって崩れていく。

 

 

 —————それでも、2人は止まらない。

 

 

「「届けええええええ!!」」

 

 

 2人の指先が御霊に触れた瞬間、眩く目を開けていられないほどの閃光が2人を包んだ。

 その閃光は爆発となり、勇者全員を吹き飛ばす程の威力があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......ここ、は?」

 

 

 東郷が目を覚ます。

 周りにはどうやら勇者達全員が円形に寝かされていたようで、まだ誰も目を覚ましていなかったが、東郷の声に反応するように1人、1人と目を覚まし始める。

 

 

「終わった、のね...?」

 

 

 風がボヤくように呟く。

 

 

『私も勇者部ファイト!って言いたかった...』

 

 

 樹がスマホのメモ帳に言葉を書いて皆に見せた。どうも緊張感のない文面だ。

 

 

「あー、もう眠い。寝るわ」

 

 

 唯一声の聞こえていない夏凜は手をヒラヒラと振って疲れをアピールする。

 

 

「私もつっかれたぁぁ......帰ったら醤油豆アイス食べにいくぅ......」

 

 

 心底疲れた声で銀が呟く。流石に今、「お前は誰だ」と聞ける元気のある者は居なかった。

 

 

「ねぇ、友奈ちゃん...友奈ちゃん?」

 

 

 東郷が隣で寝ていた友奈に声を掛ける。

 だが友奈は声に反応せず寝たままだった。

 東郷の背筋に悪い予感と共に冷たい汗が垂れた。

 

 

「ねぇ、友奈ちゃん、起きて...?友奈ちゃん!」

 

 

 東郷の声が虚しく響く。だが友奈は目を覚まさず、樹海が解除される瞬間がやってきていた。

 

 

「そういえば勇祐は!?」

 

「勇祐が居ないの!!?」

 

 

 銀が勇祐が居ないことに気付き、その声で風が気付いた。

 

 そして友奈は目を覚まさず、勇祐はどこかに消えたまま、勇者達は花吹雪に包まれていった......。

 

 




・白面
結城勇祐の魂を元にしたバーテックス。天の神の天罰に屈して天の神側についた。最後には天罰に負け、天の神に自らの全てを奉った。

・勇祐
結城勇祐の身体に御霊を封入したバーテックスのような人間とも言えないどちら付かずな存在。
勇者になってやる。多分なれたと思う。
勇者バンカーはずっとやりたかった。

・友奈
白面が結局何なのか分からなかったけど敵だと認識して殴った。
眼を覚まさないまま次の話へ。



次回、勇祐の章エピローグ。

と思いきや筆が乗って七夕の短編を書いてしまったので次回は七夕の話になります...ごめんなさい......。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。