以降も是非、お付き合い下さい。
よろしくお願いいたします。
「...そんでまぁ、殺されたと思われてた私は実は勇祐に助けられて、壁の外でよく分からん結晶の中で眠ってたわけさ。本当は2、3日で眼を覚ます予定が、2年も掛かっちまった」
そのお陰で逆に身体中がボロボロ。それどころか人間じゃなくなったしなぁ。と銀はぶっきらぼうに言って上半身をベッドに放り投げた。
つい先程、銀は大赦の手によって人口精霊を改造した『現し身』と呼ばれる器に魂を入れ替えたばかりであった。
今の彼女は人形、とでも言うべき存在である。姿形こそ三ノ輪銀そのものであるが、彼女はこれから、肉体に成長は一切しなくなった。本人は別段、その部分は覚悟していたようで悲しんではいなかった。
「私は戦いの後、勇祐君を監視する為に苗字を変え、名前で反応を見る為に『須美』のまま東郷家に戻りました。監視していた2年の間、勇祐君はただの不良で、ただの監視対象のままでした」
ですが戦いがまた始まり、2度目の戦いで私達は出会ってしまいました...。と東郷は暗い顔で俯く。彼女が座る椅子の隣には彼女の物である松葉杖が鎮座していた。
彼女もまた、精密検査の結果、半分人ではなくなっていたようだが、寿命が多少伸びて筋肉の質が常人の2、3倍になっただけだという。原因は勇祐の治療の影響だった。
なっただけ、とは簡単に言うが実際はとんでもない事だ。しかし勇者という力を手に入れた彼女なのだ。「そんな程度でよかった」とすぐに受け入れた。
「まぁある程度話は聞いちゃいたけど、東郷達の行動にも筋が通ってるわね。そりゃあ、勇祐を危険視して、最悪は排除も視野に入れるのも当然よねぇ。色々と黙ってた部分も、今だからこそ心情は別として、理解は出来るし」
それはそれとして話を通さなかった大赦はムカつく、と腕を組みながら風は唸る。
確かに東郷は、手段や言動が常軌を逸する所もあったかもしれない——実際には逸していたが——が、それこそタタリの思考誘導があったかもしれない状況だったのだ。そうであったか否かが最早明確に分からない以上、東郷を責めるのはお門違いというものだ。ただし大赦は別。
「そうよね、やっぱ問題は大赦ね。信用を失った後のことは考えてたのかしら?」
そうか、私達から信用を失うことすら想定外か。控えめに言って阿呆の所業ね、と補聴器、眼帯、ギプスと全身包帯塗れの夏凜が納得するように相槌を打った。
因みに全てを聞いた夏凜は実の兄である春信を『それはそれ、これはこれ』として溜まった鬱憤を吐き出す目的8割でぶん殴っていた。
『まだ声は出しにくいので、あとでノートに纏めた話でも大丈夫ですか?』
ごめんなさい、と消え入るようなか細い声で苦笑いしながら、樹がフリップを掲げる。
この場にいる勇者部のメンバーの中で東郷を真っ先に許したのは樹だった。「結局声も戻って来てるから、怒る必要はどこにもない」と樹は言った。そもそも東郷も散華で足の機能を失っており、説明責任があったのは大赦の方だ。
「まぁ今は全員揃ってないから深く話そうにも出来ないし、1番詳しそうな園子って子もまだ面会出来ない状況らしいし......」
あの戦いから1週間。友奈を除く勇者部の全員は、散華で失った体の部位と機能を徐々にではあるが、取り戻しつつあった。
大赦が言うには、神樹の計らいで...という話ではあるが、それがどこまで本当なのかはさっぱり分からない。
そもそも、彼女達は一部の職員を除いて大赦を一切信用も信頼もしていなかった。大赦が言った事など、端から信じてなどいない。
しかし現状として、散華した体が元に戻りつつあるのは喜ばしい事であった。
だがそれは———友奈の意識が戻っていれば、の話であるのだ。
友奈は依然として、まるで抜け殻になって魂が入っていないかのような状態になっていた。呼び掛けてもなにも反応がなく、ただ生きているだけ...という状況であった。
さて...もう1人、勇者部にとって大切な存在が居る。そう、結城友奈の双子の弟、結城勇祐だ。勇祐はあの戦い以降、姿を消した状態であった。
死んだのか、消えたのか。それとも隠れているのか、存在しているが見えないだけなのか。それを確認する手立てを大赦はおろか、勇者部達も持ち合わせていなかった。
「勇祐は1度、確かに死んでるんだ。それがあの戦いの前にHP1で復活しただけの状態だっただけで、今は燃え尽きて死んでてもおかしくないんだよなぁ。ま、アイツならそのうち帰ってくるさ」とは、勇祐視点で2年過ごした銀の言葉である。
友奈以上に勇祐が隠していた裏事情に詳しい銀がこう言って特に心配する素振りすら見せないのだ。
なら...と、勇者部の面々も、その言葉に重ね同意していた。「勇祐だし、そのうち戻ってくる」、と。
つまり良い意味で、誰も勇祐の心配をしていなかったのだ。
「とりあえず、今日のところは解散ね。三ノ輪さんも手術が終わったばかりだし」
「さん付けやめてくれないかなぁ...むず痒いんだけど」
「様付けしなくなっただけ有難いと思ってください。本来なら、もっと敬うべきなんですから」
妙に堅苦しい夏凜であるがその姿は実に真面目だ。普段、勇祐とトムとジェリーしている夏凜とは正反対。勇者部の面々にとって、これ程気持ち悪いものはなかった。
「サブイボ立つわ...」
「なんですって?」
「ほれ見ろ、風さんもそう言ってんだしさ...それに須美に対する態度は変わってないのに、なんで私だけそんなに畏まってるんだよ」
「東郷は東郷ですもの。もう友達だし、敬うのはおかしいと思うのです。三ノ輪さんは私が勇者になった理由でもある訳ですから、敬うのは当然でしょう?」
「その発言に私は喜べばいいのか、悲しめばいいのか......」
銀が扱っていた勇者システムは、銀の失踪後に回収されたモノであった。夏凜はその勇者システムを扱う勇者として厳しい選抜試験を経て勇者になったのだ。更に銀の最後に、勇者としての矜持を見出していたのだから余計である。
わちゃわちゃといつも通りの雰囲気になった勇者部であったが、銀の診察の時間が近づいた事もあり、銀の病室から退散したのだった。
♦︎
銀の病室から出て来た夏凜は1人、病院の自販機コーナーでエナドリを飲んでいた。
とある理由で1人になる為に、全員で一緒に帰るのを避けたかったのだ。
勇祐は一体どこへ行ったのか。
なぜ神樹は散華した箇所を返したのか。
まだまだ謎は多く、そして解明は出来ていない。考えることは多い。
春信曰く、勇祐が居なくなり、タタリも減少傾向にあるが未だ予断は許さない状況らしい。園子が面会謝絶しているのもその影響からだった。今の園子は言わばタタリという病の保菌者だ。迂闊に外に出ようものなら園子を媒介に何が起きるか分かったものではない。
だが彼女はそんなことで悩んで、今頭を抱えているわけでは無かった。
『そう言う訳なんよ〜』
「何が『そういう訳なんよ〜』なんですか...ほんとにもう......」
そう...面会謝絶、外出厳禁と言われても誰かと話す事が禁止な訳ではなかった。
夏凜が持つスマホの先。スマホカメラを通した先には包帯グルグル巻きで微笑む園子の姿があった。つまり、園子は『スマホで話せばいいじゃん』を本気でやってしまったのだ。
そのお相手がなぜ銀ではなく夏凜かと言えば、春信が連絡先を知る唯一の勇者であったから、という簡単な理由であった。夏凜からすればたまったものではなかったのだが。
(どうして私が先代様のお相手をしなきゃいけないのよ......!恨むわよ兄貴......!)
『ごめんね〜。貴方にも色々謝りたくて......』
画面先の園子の顔が曇る。恐らく、あの時チラリと出会った瞬間の話をしているのだろう。溜息を吐きそうになった口を押さえながら言葉を紡ぎ出した。
「......謝りたいのはこちらの方です。あの時、園子様の身に異常があると察しながらあのような言葉を向けてしまいました。申し訳ございませんでした」
『うん、許すよ......って言わないと、貴方も落ち着かないでしょ?』
随分と人の心を読んでくるな、と夏凜は思った。なんとか顔に出さずには済んだが、直感的に、この人は頭の回転が早いと悟った。ならば思考を巡らせて言葉を考えるのは無駄だろうと結論付ける。
「では私も、園子様を許します。元よりあの馬鹿...いえ、勇祐が如何なる事情があれど話さなかったのが悪いのですから」
『私は許されないよ。私さえ居なければ、ここまで話が拗れる事もなかったからね』
「......。詳しい事情は、他の勇者達が居る場でお聞きします。その際に全てを話されてください」
『うん、そのつもりだよ。ごめんね、手間かけさせちゃって』
「いえ、手間などと思ってもおりません......。失礼、誰か来たようです。後でお話しする時間について連絡を差し上げますので...では」
『うん、お願いします。ばいばい』
通話を切り、エナドリを一気飲みしてゴミ箱に投げ入れた夏凜は、足早に自販機コーナーから立ち去ろうとした。誰かに出会うのも面倒だったからだ。しかし廊下の先から、病院という場所に配慮した声量の声がいくつも聞こえてくる。どうやら団体様のようであった。
「メブも元気になって良かったよー。目を覚まさないかと思ったもんね...あれ?」
「そうですわね。特に後遺症もなかったようで...あら、ごめんなさい。皆さん、廊下を開けてくださいませ。患者様が通られますわ」
自販機コーナーから廊下に出た夏凜は、ばったりと団体様の少女達に出会ってしまった。数で言えば30人前後。友人か誰かのお見舞いだろうか、と思っていれば、先頭には見覚えのあるパッツン髪の少女が居た。
「あ、貴方って確か......」
「みっみみみみ三好夏凜様ぁぁ!?ど、どどどうしてこんなところにいらっしゃるのですか!?」
加賀城雀が焦りながら弥勒夕海子の後ろに隠れる。顔だけチラリと出してる様はなんとも情け無い。
彼女達『31』人は防人として戦う、あの勇祐がキチガイ染みた訓練で鍛え上げて来た少女達であった。
彼女達に驚愕の声が走る。鬼で無表情で防人の中で1番の強さを誇る頼れる隊長こと、あの楠芽吹が敗北した相手であり、勇者として活躍している...と聞かされている三好夏凜とばったり出会ったからだ。
「あー、やっぱり。屋上から勇祐と友奈と一緒に落ちた子じゃない。どう?アレから勇気持てるようになった?」
「それは...えっと......そ、それよりも!なんでそんなボロボロのお姿なんですか!??」
雀が指差す夏凜は眼帯に補聴器、更に包帯に松葉杖と明らかに普通ではない状態に見えるのだ。無双と名高い勇者がこんな姿であれば、どのような戦いをしていたのか、防人の少女達はその激しさを悟った。
「色々あってね。貴方達も誰かのお見舞いに?」
「え、えっと...」
「そうですわ。私達の親友のお見舞いに。......申し遅れました。私は弥勒夕海子と申します。三好様の噂は兼ね兼ね......。随分と激しい戦いをなさったのだとお察し致します」
口籠る雀の代わりに、夕海子が答える。
「私を...いや、勇者を知ってるの?」
夏凜の片目が鋭くなる。
どこの誰かは知らないが、勇者という存在は大赦ですら極秘扱い。夏凜達のクラスメイトも、神樹様から御役目を受けた...としか知らされていないのだ。それすら口外禁止である。
そんな極秘情報を知っているのは、明らかに普通じゃない立場にいる人間でしかない。少なくともこの31人は、勇者という存在と三好夏凜という人物を知っているのだから、夏凜が警戒するのも当然であった。
「まぁそう警戒なさらないでください。楠芽吹、という方をご存知ですわね?」
「楠.....?知ってるもなにも......」
夏凜の顔が一気に困惑した顔へと変わる。楠芽吹は夏凜にとって勇者の座を争った1人だ。いずれ勇者のお役目が終われば会いに行こうと思っていた人物の名がここで出てきた事は流石に想定外であった。
そして、夕海子の口から次に紡がれた言葉もまた、夏凜にとって予想外で...同時に目的の1つが果たされる言葉だった。
「彼女は今、この病院に入院しています。命に別状はありませんが......1度、お会いになられてみては?」
夕海子の笑顔はまるで、唐突に現れた天使のようであった。
♦︎
「......ここ、ね」
夏凜は夕海子に言われた通りに、『楠芽吹』という表札のある個室の病室の前まで来ていた。いざ会うとなれば勇気が要るものであるが、ここで躊躇しても話にならない。だから夏凜は迷わず戸を叩いた。
『......はい、どうぞ』
若干困惑した声が室内から聞こえて来た。誰が来たのか、検討がついていないのだろう。入っていいと言われたのだから、遠慮なく夏凜は戸を開けた。
「......三好、さん?」
「久しぶりね楠。元気、では無さそうね」
「それは...三好さんもでしょう?そんな大怪我をして......」
「動かないだけよ、痛くはないわ。色々あって、ね......座って話しても、いい?」
どうぞ、という声で壁に立て掛けてあったパイプ椅子を芽吹が横たわるベッドの横に片腕と片足で器用に展開した夏凜はこれまた遠慮なくズカッと座った。
「どうして私がここに居ると?」
「楠のご友人に会ってね、教えてもらったのよ......。その様子だと、勇者以外の御役目に就いているようね?」
「えぇ...防人、言わば大赦の雑用係として主に壁の外の調査をしているわ」
そこからは、2人の現状確認の話だった。
防人の任務、勇者としての戦いについて、1週間前に何があり、自分はどうしてここで寝ているのか、包帯グルグル巻きで右半身が動かないのか......そして、
「白面......?もしかしてその赤と白の戦闘装束来た奴って、結城勇祐とか言ってなかった?」
「赤と白...?いえ、私が知る白面は赤と黒の装束だったけれど......でも確かに、結城勇祐と名乗ったわ。......そういえば、彼は三好さん達と一緒に居たのだったわね」
話題は次第に白面の話になり、当然のように勇祐の話になった。
「勇祐さんは、元気なの?」
「......まぁ、色々あってね。私も会ってないのよ。死んだ訳じゃないとは思うけど......」
苦く、笑う。
その顔には色々な感情がごった煮されたように苦い、と芽吹は思った。
本当に...簡単には言えないような、色々があったのだ。
「......そう、ですか...彼には色々と言いたい事が山程...えぇ、それはもう大量にあるので。恨み辛みに怒り呆れ......それに...色々。色々、あるので」
「そっちも随分と濃い接触をしてきたみたいね」
2人して優しく笑いあった。
この場では語りつくせない程、出会って数ヶ月であるのに勇祐との思い出は非常に多かったのだ。
「濁ってた精神も叩き治されるほどにね。もう1度、彼に会ったら次こそは...と思ったんだけれど、そうもいかなさそうね」
「次こそ?なにやろうとしてたのよ」
「後悔しないように、好きですって伝えようと思って。ほら...私も彼も、いつ死ぬか分かったものじゃないじゃない?だから次に会えたら告白しちゃおうと......」
「ん、んんん?ちょっとまって。待ちなさい。告白?誰が??」
「私が」
「誰を?」
「勇祐さんを」
「告白?」
「告白する」
数秒、ピタリと夏凜の動きが止まる。まるで夏凜だけ時間が止まったようだ。
次の瞬間、夏凜の驚愕の声が病院中に響き渡った。
堅物、無口でクール。更に復讐鬼のように夏凜をライバル視していたあの楠芽吹が、何がどうあってこうなったのか夏凜にはさっっっぱり分からないほどに乙女チックな発言を、いつもの無表情な顔でしたのだ。それはもう驚くのもしょうがないだろう。
「嘘、でしょ?」
「嘘じゃないわよ。三好さんに嘘つく必要なんかないでしょう?」
「いや、うーん...確かに?いやいや、なんであんな馬鹿の事を好きになるのよ!?」
「顔とか性格とか...ほら、彼って割と周りを見てるし、自分を犠牲にしてでも助けようとするでしょう?そういうところに惹かれちゃって......」
思わず顔を赤らめる楠の顔を見て、夏凜は対照的に、この世の終わりかのような顔をしていた。
「そ、そんな顔しなくても......」
「いや、断言するわ。男の趣味悪いわよあんた......」
「そう...かしら。良い人だと思うけれど......もしかして...」
「言っとくけど、私は勇祐のことは友人として好きであって、LoveじゃなくてLikeだから」
芽吹が言い終わる前に、ジト目で夏凜が被せるように否定する。そういう言い方をするから勘違いされるのだが、身に覚えのないとばっちりで、酷い目に会うのは帰ってきてからの勇祐である。南無。
「そう...」
ほんとに?という顔をする芽吹だが、夏凜の表情は変わらない。
「......気になってたんだけど、その窓側に飾られてる歪な花はなに?造花?」
夏凜が指差す方、窓際にぽつんと置かれた小さな花瓶に活けられている、あの1枚ずつ花弁が違う一輪の花があった。
急な話の変え方だなぁ、と思いながらも芽吹は律儀に答えた。
「壁の外で見つけたんだけど、大赦ですら特定不明だった花よ。ただ一つだけ分かったことは、恐らく勇祐さんと同じ性質を持つという事だけ」
「勇祐と同じ性質?どういうことよ」
「さぁ......?調査に加わってた巫女の子がそう言ってただけだから......。詳しい事は、なにも...。あとは、これね」
芽吹は胸元からネックレスになった、チェーンで繋げられている小瓶を取り出した。その中には1枚の焦げ付いた桜の花弁が入っている。
「私を助けてくれた花びらなの。これには神聖な力が宿っていて、私の命を繋いでくれたらしいわ。白い仮面を被った女の子が助けてくれた...とは聞いたのだけれど、私は気絶してて覚えてないのよ」
「......で?その白い仮面を付けた子が白馬が似合う騎士様に見える、勇祐だって言うの?」
ジト目で睨む夏凜。まさか、と芽吹は言葉を続ける。彼に白馬は似合わないし、どう考えて騎士なんて正確じゃないと前置きをした。
「それに、勇祐さんは男でしょう?」
「白い仮面付けて壁の外に居る時点でほぼほぼアイツじゃない」
「私が見たわけじゃないからなんとも言えないのだけれど、似てたけど勇祐さんじゃない......そんな人だったらしいわ」
つまり、事情を聞くなら防人達に...という話だった。それを理解した夏凜は、脳内の『面倒臭いけど後で話しに行くリスト』に加え入れた。
「これ、貴女に渡すわ」
「ん?なんでよ?」
「たぶん貴女達勇者が持っていた方が良いと思うの。これと言った根拠はないのだけれど...」
そう言いながら芽吹は首にかけてあった小瓶をネックレスのチェーンごと夏凜に渡した。
「いいの?お守りみたいなもんなんでしょ?」
「いいんです。大赦ですら役立てられなかったモノだから、三好さん達が持っているのが1番だと思う」
「......ほんと、変わったわね、楠」
誰かさんのお陰でね、と芽吹はにこやかな笑顔で笑ったのだった。
♦︎
『...皆さんには、私...乃木園子と三ノ輪銀、東郷須美の3人の、2年前に起こった全ての話を、結城勇祐が残した日記を元に話していこうと思います』
「皆、ずっと知りたかっただろうから...。きっと、友奈ちゃんも......」
数日後、勇者部は友奈の病室にやってきていた。理由は1つ。勇祐がなぜ、あんなことになっているか...と言う話だ。
テレビには、スマホを通じたビデオ会話アプリで現在隔離されている園子と繋がっていた。
友奈はまだ意識を取り戻しておらず、火のない瞳で、虚空を見つめたまま。あまりの痛々しさに目を背けそうになった東郷は、勇祐の部屋から拝借してきた1冊のノートを取り出した。
これは勇祐が現状確認の為に思い出した事を書いていたノートだ。そこには勇祐目線で書かれた、2年前の全てが記されていた。
「私達が出会ったのは...春先。樹海となった瀬戸大橋でした」
そこから、園子の口から全てを紡がれていった。
これから始まるのは、本当の「最初の1ページ目」の話だ。
「これは誰もが天の神の犠牲者であり、誰もが加害者であった話」
———白面がなぜ、現れたのか。
———なぜ結城勇祐が白面になったのか。
———なぜ結城勇祐は記憶を失ったのか。
「全てが始まった話」
この物語に題名を付けるなら......
———『白面の章』
勇祐の章のあとがきについては、また後日に投稿致します。