結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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今日はもう一本行きます。


第4話 それは2度目の戦いの話

 

 昨日は散々な目にあった。

 木刀暴力女を助けたと思ったら姉に叱られ、おっさんからは拳骨。俺はただ人助けしただけなのになんたる仕打ち。姉の方は分かってくれたがおっさんの方は仕事が仕事なのでそうはいかなかった。どうやら木刀暴力女を襲った輩共はナイフの他にスタンガンなども持っていたようだ。本当にあの女危なかったな。そこまでするって完全にアイツを攫おうとしてたよなこれ。

 流石にどういうことなのかまでは聞けなかった。俺が襲われてた子を逃したって言っちゃったからしょうがないけど。

 

 そんなこんなでボコったのは俺ということになっているので事情聴取。その頃には深夜1時である。一応中学生の身だし学校もあるのでその時間には解放された。おっさんとの付き合いも長いので俺の事をある程度信じてくれたのだろう。なら拳骨も止めて欲しかった。

 

 そんな訳で俺は非常に眠かった。

 なので授業中に寝ていたら昨日の昼に見た夢と同じような夢を見た。

 

 少し違うのは、勇者部が派手な衣装を着て、武器を持って、変な怪物3匹と戦っていた事だ。

 

「ほー、昨日の話聞いてこんな夢見てんだなぁ」

 

 この夢は夢と分かるのでそんな感想が口から出る。自分の服装も昨日の夢と変わらない。なので姉達を助けに行って戦う事も恐らく出来るのだが、夢らしく体の動きは鈍い。

 あれだ、夢の中ではなぜか走っても水の中のように遅いやつ。今の俺はそんな状態だ。これは助けに行くの無理だよなぁ。

 

「どーすっかなぁ」

 

 ぽりぽりと頭を掻いて戦況を見守る。どうやら勇者部が攻めあぐねているように見える。

 遠くからの狙撃の援護があるようだが、その狙撃を上手く生かせていない。

 矢を吐く怪物に、サソリっぽい怪物。後もう1匹...は姉貴が今倒した。

 

 やっと攻勢に回った勇者部。的確な狙撃がサソリっぽい怪物の尻尾を撃ち抜き、サソリっぽいのが四面体の...なんだあれ?変なのを吐き出したと思ったら姉貴達が倒した。

 

 最初は劣勢気味だったのにすげーなーとぼんやり思っていたら身体が動き出した。うわっ、気持ち悪っ!と思ったのは最初だけ。思考はどんどん鈍くなって身体の行動と同調し始める。

『まるで現実のように』思考と同調した身体になった頃には、『サジタリウス』を倒した姉貴達の側にまで来ていた。

 

 

 ♦︎

 

 

「あれって......」

「人...だよ、ね?」

 

 真っ先に気付いた犬吠埼姉妹が俺に気付く。うん、お前らも目的だけど違う。後の楽しみ。今はお初に御目に掛かりますってな。

 

 高所から飛び降りた俺は迷い無く、一人の勇者に近づく。犬吠埼姉妹じゃないならこの場にいるのはあとは姉貴だけだ。

 

 なんか奇妙な感じだ。何だろうなこれ。いつも姉貴に感じている感情ではない気がする。気のせいか?いや、あー。『まぁいい』。

 

 困惑する姉貴に近付いて行くと左方からの攻撃を感じ取った。左肩の盾を展開して感じ取った攻撃である東郷美森の狙撃を受け止める。

 金属が硬質な物質を勢いよく弾く甲高い音が辺り一面に広がり、一先ず盾を展開しながら姉貴の側から離れた。たぶん、俺が離れなかったら姉貴にバリアが付いている事を良い事に滅茶苦茶に撃たれていただろう。

 

「ちょっと東郷!?急に何してんのよ!」

「風先輩!そこの...白仮面は敵です!」

「早合点し過ぎよ!もし敵じゃなかったら...」

「いえ、明らかに殺意が見えました。友奈ちゃんを殺そうとしていました。だから撃ったんです」

 

 近くまで来た東郷美森が俺に対して二丁拳銃を構える。殺意なんてないのに酷い事を言う。俺はただ姉貴と、いや、待て。俺は......。

 

「えっと、貴方は、誰?」

 

 姉貴にそう問われる。

 困惑した表情からして、俺が『俺だと分かっていない』ようだ。

 不安、疑問、驚愕、焦り。

 姉貴の目は様々な感情に揺れ動いているのが分かる。

 そうか、白面を被っているから気付かないのか。そうか、そうか。

 

 なら、好都合だ。

 

 

 遠慮なく、殺せる。

 

 

 

 その感情を理解したと同時に、ブツリと視界がブラックアウトした。

 

 

 ♦︎

 

「最悪だ」

 

 目が覚める。同時に胸の奥底に残り続ける汚泥のような黒い感情を自覚して、気分が萎える。いくら夢だったとしても最悪だ。ただでさえ最近体が重いのにやってられない。『姉を殺したい』だ?ふざけんな。そんなもんやりてぇ訳ねぇだろ。

 

「最悪だ」

 

 殺したい、だけなら良かったが付随して来た感情がまた気持ち悪い。悪趣味過ぎる。

 俺にとって姉、結城友奈とは世界一の『大切』だ。

 それを汚すことは絶対にありえない。ありえないからこそ、俺自身に嫌悪感が湧いて来る。

 吐きそうになる口を押さえながらノロノロと立ち上がった俺は授業中だった教室を出て屋上へと向かう。姉に対してどんな顔をすればいいのか。いや、ただの夢だから気にしなくていいか。いいよな。うん。

 

 屋上の扉を開けると勇者部全員が揃っていた。良かった。ただそう思う。

 

「姉貴、怪我とかは?」

「うぅん!平気!大丈夫!」

「その声と顔は本当に大丈夫なやつか。良かった」

「友奈ちゃんは悪い奴から護ったから当然よ」

「そうか、ありがとうな東郷」

「うわっ勇祐ってお礼言えたんだ...」

「調子乗ってっと頭に万力しますよパイセン」

 

 勇者部と話していると気持ちが和らいでくる。お役目後で疲れてるだろうに。これは甘いモノでも用意すべきか......。

 

 てか東郷。お前のその悪い奴って俺だったりしねぇよな?いや、俺のは夢だから違うか。聞く勇気は、何故か出ないけど。

 

「んじゃ、お役目も終わったし各自解散!」

 

 パイセンの一言で俺たちは解散した。モヤっとした部分はあるけど、姉が無事で勇者部も無事ならそれでいいか。あの気持ちは、考えないようにしよう。たぶんそのうち忘れるだろ。多分、きっと。

 

 そういえばこの学校の階段には基本的に車椅子用の昇降機が付いているのだが、この屋上に上がる階段には唯一それがない。

 本来屋上は立ち入り禁止なので登る事は基本的にないからだ。

 ちなみに俺は鍵を職員室から借用(盗んだ)しているので遠慮なく使っている。

 じゃあ、東郷をどうやって階下に下ろすのかといえば......。

 

「は?姉貴が東郷背負えばいいだろ?俺が車椅子持つしさ」

「私は日替わりがいいの!」

「という事なんだよね、ゆうくん」

「意味が分からん。どういうこった」

 

 つまりは屋上に登り降りするとき、俺か姉のどちらかに背負って降りて欲しいというのだ。

 ん?なんで?俺そこまで東郷と親しかったっけ?あれ?俺結構邪険に扱ってなかった?

 

「いや駄目だろ。パイセンとかはどうなんだよ」

「先輩権限で命ずる。東郷を背負いなさい勇祐」

「パイセンてめぇ、面倒だからって押し付けたな?」

「やっぱり怖い...」

「えぇい、そこの犬吠埼妹も怖がるな。なんで俺は勇者部に振り回されてんだ」

「別に日替わりでもよくない?東郷さんが恥ずかしくないなら大丈夫だよゆうくん!」

「俺が駄目なの!」

「駄目、なの?」

 

 東郷が不安そうに聞いてくる。

 今までそういう素振り見せなかった癖になんだこいつ。夢に中のお前とは大違いだよ!俺的にはあれぐらいの方が良かった!パイセンもニヤニヤしながら見てくるし姉に至っては俺が背負う事前提で「早く行こ?」という顔をしている。

 

 いや駄目だろ。背負うとなると、その、東郷の胸が、だなぁ!当たるだろどう考えても!あのでっかいのが!俺に!

 健全な男子なら全員恥ずかしがるだろ。俺は特にだぞ。耐性ないからな。えっちな本もまともに見れんのだからな。いや待て背負わんかったらいいのでは?よくない.............いや、いい!そうしよう。

 

「東郷」

「なにかしら勇祐くん」

「後でぼた餅な。それと首に手回せ」

「えっと、こうでいいかしら」

 

 東郷の側面に近寄って左手を俺の首に回させる。

 

「ちょい揺れるからな」

「えっもしかしてこの体勢って...きゃあ!」

「ヒュー!勇祐やるぅ!」

「はわわ...」

「いいなぁ東郷さん!ゆうくん後で私も!」

「うるせぇやらんわ!」

 

 後ろで背負いたくないなら、前に持てばいい。

 そういう思考で俺は東郷の背中と膝に手を回してその場から一気に持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこの形だ。どんなもんだ、こうすれば恥ずかしい事に変わりはないが背中に柔らかいのが当たらずに済む。ふははは完璧だ。

 

「よっ、と。姉貴、車椅子展開して」

「はーい。うわっすごい。東郷さんの顔真っ赤!」

「恥ずかしいなら言わなきゃいいのに」

「だって、まさかこんな事になるなんて...破廉恥だわ.......」

「自分から頼んどいてこの言い分は酷いな」

「これ、ドレスとか着てたら様になってたと思う...」

「あっ樹が東郷にトドメ刺したわ!」

 

 階下に降りて東郷を車椅子に乗せる。

 真っ赤な顔の東郷は顔を両手で隠しながらぷるぷると震えている。なんでお前頼んだんだよ。俺も恥ずかしかったんだぞ。

 

 

 ♦︎

 

 

 放課後。家の裏庭でジャージ姿になった俺と姉貴は互いに拳を構えて対峙していた。

 これは必要なことだ。

 

「行くぜ姉貴。恨むなよ」

「いいよゆうくん。気にせず来て!」

 

 あの夢のあと、姉に対する態度に妙にシコりが残っていた。それを知ってか知らずか。姉は久しぶりに俺と立ち合いしてくれと頼んで来た。

 俺も断る必要もないので二つ返事で了承。こうして姉と拳を交えるに至ったのだ。

 

 まず手始めに姉の顔に向けて右腕を突き出す。姉もそれを軽くいなし、カウンターを打ち込んでくるが顔を避ける事で回避。

 これで一手。互いに笑い合って距離を取る。小6まではこうやって親の監督下で拳を打ち合ってたっけな。最近は事情があってやっていなかったが、姉が勇者になったというなら話は別だ。俺も軽く齧った程度の格闘技の覚えと喧嘩殺法しか得ていないが、無駄ということもあるまい。

 

「はああああ!」

 

 声を張り上げて姉貴が迫ってくる。容赦なく急所を狙う拳を最小限の動きで躱していく。

 時々こちらから手を出す事も忘れない。姉の動きは単調だが鋭い。試合であれば十分強いともいえる。だが試合に限った事なのだ。

 なのでわざとボディを守るようにして顔の防御を疎かにしてみる。するとあら不思議。顔に姉の拳が狙いすましたかのように飛んでくる。なので、あとは簡単。

 

「わひゃあ!?」

「そいっ...とぉ!」

 

 その拳を腕ごと左手で掴み、引き寄せる。同時に半身を滑らせるように横に向ければ勢いよく放たれた拳と引き寄せられた勢いで姉が前につんのめるように体勢を崩した。その勢いのまま姉の胸元を掴んで反転するように引き倒す。もちろん姉を怪我させないように左手は引いておく。

 これで一本。な、簡単だろ?

 

「んぐぐ...まさかこうなるなんて」

「残念だったな姉貴。俺の勝ちだ」

「もいっかい!もういっかい!」

「しゃーねぇな。いいぜ姉貴」

 

 これは試合ではないが練習であり鍛錬だ。殺しあう必要はどこにも無い。

 でもあの時の感情はまだ俺の心の中に燻り続けていた。

 

『この------!』

『よくも、よくも---を!』

 

 懐かしい、何処かで聞いた俺を責める声が微かに聞こえた気がした。

 

 

 ♦︎

 

 

「私よ。元気にしてた?」

 

「そう、良かった。あの子は...そう、よね」

 

「うん、流石ね。よく分かったわね。ようやく見つけたわ。最初に出て来なかったから少し焦ったけれど今日、出て来た」

 

「でも、まだ駄目。............。その気持ちは分かるわ。私も同じ気持ち。でも、まだしっかりと調べなきゃいけない」

 

「あの案、使わせてもらうわ。うん。これで確信が持てるから。えぇ、じゃあまた今度」

 

「......。信じたくない。認めたくない。この2年間が無駄であってほしい............。駄目かしら......」

 

「銀......」

 




勇祐さん
夢?現実?どちらであっても欲しくない。殺したいという感情に吐き気。でも姉と勇者部を見たら和んだ。たぶん顔は緩んでる。東郷のお姫様抱っこは凄く恥ずかしい。囃し立てたパイセンは後で叩いておいた。姉貴との立ち会いは全勝。ふはは、姉に劣る弟などいないのだ!変な記憶を思い出した。少なくとも気分の良いものではない

友奈さん
今回はやってやったぜ!という顔で戻ってきた。バーテックスなんかには負けない。ぅゎぉとぅとっょぃ。次は勝つ!また明日ね!バイタリティは弟以上。

東郷さん
友奈ちゃんはしっかり守った。番犬美森。勇祐くんも友奈ちゃん並みに好きなのでおんぶして欲しかったけど蓋を開ければお姫様抱っこ。すっごい恥ずかしい。顔は真っ赤。でもとても嬉しかったらしい。

風さん
姉弟愛にほんわか。東郷さんと勇祐くんの一幕を囃し立ててた。後でふざけた報いは受けたらしい。

樹ちゃん
勇祐がやっぱり怖い。けど案外怖くないかも?不器用なだけ?うーんよくわかんないや!だから次は話しかけて、まず呼び名を変えてもらおうと思った。

最後の謎の話し声さん
大体わかってると思うんですけど、その想像通りだと思う。話し相手も、たぶん、そういうこと。
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