第2章、白面の章のスタートになります。
勇祐がなぜ、勇者部の敵になり白面を手に取ったのか、という回答編っぽい何かです。
お気に入り、しおり、感想、評価。皆さん大変ありがとうございます。
これからも投稿は続けていきますのでどうかよろしくお願いいたします。
第1話 白仮面
僕の名前は、結城勇祐。年齢は11歳。遅生まれの僕はこの春から双子の姉と共に小学6年生になった。
姉さんは僕の自慢の姉だ。顔つきはちょっと違うけれど、姉さんよりちょっと色の濃いこの赤髪は密かに僕のお気に入りだ。
姉さんに譲って貰った桜柄の手鏡で、姉さんと同じくらいまで伸ばそうと頑張っている後ろ髪を確認していると、勢い良く僕の部屋の扉が開け放たれた。
「準備できた?今日もいい天気だよゆうくん!」
「だね、姉さん。おはよう」
ポニーテールを揺らしながら入って来たのは向日葵のように笑う双子の姉である、『結城友奈』。僕の大好きな姉さんだ。今まで一緒に過ごして来たし、たぶんこれからもずっと一緒なんだろうなと思うと思わず顔が綻んだ。
「朝ご飯出来たって!行こ!」
「うん、行こっか」
この頃はそう思っていた。姉さんがいて、父さんと母さんがいて。みんなで笑って幸せな日々を過ごして行くんだと。本気で思っていたんだ。
これは僕、結城勇祐が白仮面を手に取る話であり、世界の敵となる話であり、僕が永遠に悔やみ続ける1年にも満たない時間の話であり、そして誰もが被害者であった『誰も悪くない話』だ。
♦︎
僕は生まれる前の記憶というものがある。お腹の中に居る時に親に話しかけられたりだとか、音が聞こえて来たとか、そういう記憶を持って産まれて来る人はたまにいるらしい。自分もそのうちの1人だったようだ。
けど、僕の場合はさらに特殊で、僕の記憶の始まりは僕と姉さんをお腹に宿したお母さんは病弱で、僕達を死産させてしまうかもしれない、という声からだ。
その後僕は、姉さんとなる命と、お母さんを助けるため自ら命を絶った筈…だった。僕は姉さんに吸収されるような形で死んだ筈だったんだ。
けど、僕は何故か無事に産まれて今に至っている。
死んでから生まれて物心つくまでの記憶がないから、たぶん勘違いかも…?まぁこんな記憶がある方がおかしいんだし……。
お母さん達は、「神樹様がくださった奇跡だ」って言っていた。時折、僕に呼びかけて来る声が本当に神樹様のモノであれば僕は手放しで喜んだんだろうけど……。
【友奈を殺せ】
こんな声が神樹様の訳があるか。事あるごとに僕の体を操って、姉さんを殺そうとするこの声が、お母さん達が毎日神棚に向かって拝んでいる神樹様の筈がない!
でもその声に【なぜか】逆らう事が出来ない。何度も何度も、何度も。嫌なのに、姉さんを殺そうとした。
結局は何かの力が働くように毎回失敗する。その度に良かったと安堵して、心が凄く痛む。それが辛くて悲しいのに、姉さんはその度に僕の心配をした。
怪我をしかけているのは姉さんの方なのに、姉さんは僕の心配しかしない。
父さんも母さんも、僕の心配をしてくれる。
【悪いのは、僕の方なのに】。
「ゆうくん、大丈夫?」
意識が姉さんの声に引き摺られて戻る。暗かった目の前が一気に視界が明るくなった。春先の桜の香りが通学路から漂って、鼻孔を擽って僕の気分を朗らかに、優しく紐解いてくれる。そうして冷静になった頭で状況を確認してみる。
そうか、今の僕は姉さんと一緒で学校からの帰り道の途中だ……。
「あ、うん…大丈夫だよ、姉さん」
「お姉ちゃん、でもいいんだよ?」
ぷくーっと片方のほっぺたを膨らませる姉さん。可愛らしい仕草だけど、その期待に応えられそうにはない。
実を言うと、この春から『脱お姉ちゃん宣言』を掲げた僕は手始めにお姉ちゃんの事を姉さん、と呼ぶようにしたのだ。呼び方を変えるだけで随分と大人びた気もする。僕的には満足なんだけど、姉さんからすればそうでもないみたいだ。
「嫌だよ…もう決めた事だし」
「がーーん!そんなぁ……」
姉さん、という呼び方は可愛くないから嫌らしい。僕としてはそう呼ぶのも恥ずかしいから、あんまりお姉ちゃん呼びをしたくない……というのが実にところ6割ぐらいの理由だったりする。やっぱり、見栄は張りたいから誰にも言ってはいないけれど。
大好きな姉さんの為に。僕は、頑張らなきゃいけないんだ。この呪いに似た言葉に負けない為に……。
そしてその日の夜。夢の中。
僕は、
単純な話だった。僕は何処ぞの誰とも知らぬ神様に【選ばれた】と伝えられた。
まず、おかしいと思った。優しい口調だけど、あの姉さんを殺そうとする声に酷く似ていたからだ。
だから、真っ先に「嫌だ」と言ってやった。
それから神様は話を続けたが、どうやら僕が拒むことは出来る……らしい。だけどそれは他に居る代用品とやらを選び直すだけ、らしい。らしいだらけだ。だってこの神様の言う事はあんまり信じられないんだからこうもなるよね。
手を取れば、僕は家族を守るだけの力を得られる。世界を守る英雄になれる。僕の頑張り次第で謎のウィルスで滅んだ壁の外をなんとかできるかもしれない。
1番目は兎も角。他の利点はどうでも良かった。英雄願望なんてない。物語のヒーローに憧れる事があっても、僕はそこまで力もないし資格もないし、壁の外の話なんて話が大き過ぎてとてもではないけど考えられない。
決め手は、次の話だった。僕が選ばなければ僕が与り知らぬところで僕や家族や友達が死ぬのだそうだ。そんな理不尽から皆を守りたいなら力を受け取れと神様が言った。
【受け取らなきゃいけない気がした】。だって、皆が死んでしまうのを見てるだけなのは嫌だったから。
結論として…僕は、力を受け取って契約を果たした。
力の代わりに受けた代償は幾つか。
1つ、僕の御役目は誰にも知られてはいけない。
1つ、3匹の神に仇なす悪魔を殺さない限り僕の役目は終わらない。
1つ、神様は僕が契約を履行しなければ罰を与える。
そうして僕は、【代行者】という御役目を与えられた。1枚の、真っ新な仮面と共に。
そして、身体から何かが抜き取られた感覚が僕に襲いかかり、夢が終わった。
この一連の夢が、夢でないと知ったのはその日の朝の話だった。
「……なに、これ」
ベッドから起き上がって、カーテンの隙間から差し込む朝日に照らされる白い仮面を見つめて手に取る。羽根のように軽い仮面は、表面に一切の装飾も空気穴の1つも空いていない。
裏を見ると夜の闇のように真っ暗な色。あんまり被りたくなるようなデザインではないかな…。
「えっと、夢では、なかったんだよ…ね?」
しょうがなくが半分、興味が半分で取り敢えず被ってみる。すると視界は一切変わらないどころか視力が倍ぐらい良くなってる気がする。凄い。そんな言葉では表せないけど…凄い。どれぐらい凄いかって言うと、今僕の部屋の前に姉さんが僕を起こそうと今か今かと待っているのが透視出来るかのように分か……あっ。
【知られるな】
そんな声がふと聞こえてきた気がした。
……やっばい!この仮面も見つかっちゃいけないんだ!待って姉さん!今隠すからもうちょっとだけ入ってこないで!
「ゆうくーん!朝だよー!あれ?」
「お、おはよう……」
いつも通りに勢いよく僕の部屋の扉が開け放たれると、僕の異変に気付いた姉さんが首を傾げた。
「ゆ、ゆうくんが起きてる!凄い!凄いよゆうくん!今まで私が起こさなきゃ起きなかったゆうくんが遂に!こ、これが姉離れって奴かな!?」
「……朝から、テンション高いね」
「当たり前だよ!ゆうくんが起きてたんだもん!おかーさーん!ゆうくん起きてたー!」
ドタバタと元来た廊下を走って1階のリビングへ駆けていく姉さんを見ながら、苦い顔を隠せない僕は、なんとか布団の中に隠す事が間に合った白い仮面を取り出した。
やっぱり無くなってはいなかった。タチの悪い夢ならどれ程良かっただろう。
兎に角、今はバレずに済んで良かったと、そう思う事にしよう。
「母さんも父さんも、姉さんも。誰も巻き込めないからね……」
だから今は、朝ごはんを食べて学校に行くべきだ。
♦︎
「おはよう、母さん」
リビングに降りると、ちょうど母さんが僕の朝食も配膳してくれたところだった。
「…おはよう、勇祐。今日は…友奈に起こされずに起きられたのね?」
母さんは静かな人だ。友達が言うには大和撫子らしいけど、僕にはよく分からない。
黒髪で、さらりとした長い前髪が特徴的な人だ。
ちなみに父さんは赤髪で、姉さんの性格は父さん似で僕は母さん似だ。
「うん。『脱お姉ちゃん宣言』したからね」
「今からでも撤回していいんだよ!?」
「男に二言はないんだよ、姉さん」
ケチー!と言う姉さんを無視して、食卓に着く。朝食はトースト、目玉焼き、ウィンナーとベーコンだ。そこに僕にはコーヒー。姉さんは牛乳が追加される。僕らのいつもの朝ごはんがこのメニューだ。
「お母さん!私もコーヒー飲みたい!」
僕が熱々のコーヒーを飲んでると、自分の牛乳と僕のコーヒーに視点を行ったり来たりさせてムムム、と唸った後牛乳を一気飲みした姉さんはマグカップを掲げた。
「……いいけれど、飲めるの…?」
「だってゆうくんみたいに、私もお姉ちゃんになりたいんだもん!」
また始まった、と溜息をつく母さんをもろともせず、姉さんは飲みたいとせがみ始めた。そういうところだよ、とは口が裂けても言えない。
「心配しなくても、僕の姉さんは姉さんだよ」
「違うんだよ!お姉ちゃんになりたいの!」
何がどう違うのか。僕より感覚派の姉の言葉にはさっぱりだった。僕の姉さんは、姉さんだけなんだけど、姉さんにしたら何か違うらしい。
「…まぁ、そこまで言うなら……」
母さんも諦めたように、コーヒーポットから姉さん専用の桜柄のマグカップにコーヒーを注ぎ始めた。
マグカップに注がれるコーヒーを上機嫌で眺める姉さんを見ながら、また駄目なんだろうなぁ、と思いながらコーヒーを一口飲む。
レギュラーコーヒーの粉をただ沸かしただけのコーヒーだけど、僕は母さんが淹れてくれるコーヒーが好きだった。
「…お砂糖は、いいの?」
「いいの!ブラァァックでっ!」
『ブラック』の部分を本人なりに渋く言ったような声で言う姉さんに、母さんはついに諦めたように溜息と共に姉さんの前に置いた。
そのまま、いつでも入れられるように砂糖と牛乳が机の端っこにスッと置かれた。母さんの気苦労が窺い知れたよ…。
「頂きます!」
ふぅーふぅーと口で冷ましてから、一口コーヒーを口に含んだ姉さん。まぁ、この後に起こるのは分かりきってるんだけれどね……。
「…………」
案の定。死んだ魚のような目になり、端に置かれた砂糖と牛乳をドバッと入れた。
言わんこっちゃない。
……そもそも口に残ったコーヒー、飲めるの?
「んー、んー!」
「なに?口移し?……冗談じゃないよ。ちゃんと飲んでよ」
「んんんー!」
「薄情者?……知らないよ、飲むって言ったの姉さんじゃん。吐き出したくないなら飲みなよ、それだけだよ?」
母さんも流石に「口移しはやめなさい……」って顔してるじゃん。僕も流石にどうかと思うんだけど……あっ、飲んだ。
「に″か″い″!」
「言わんこっちゃない……」
うえぇ〜と心底苦そうに顔を顰める姉さん。
これが、僕の守る日常になるんだなぁとぼんやり考えながら僕はトーストにマーガリンを塗って一口食べた。
♦︎
遂にこの時がやってきた、と言われた。この時ってなんだ?と思っていると急に世界が止まった。遠くから、鈴の音が遠くの方で聞こえてきたけど、その音すら無視して世界が暗転する。
暗転が終わり、目が覚めた先は虹色の根に覆われた異世界のような大橋の上だった。
「なんだ……ここ……?」
橋の両側は真っ暗。ずっと先に続いている橋の向こう側は暗くてよく見えないけど、背後には壁がある。
壁……?なんで、ここに僕は居るんだ?もしかしてこの向こう側から敵が?
あ、声が聞こえてきた。味方を派遣するから一緒に戦え…だ、そうだけど。
「こいつが…?」
味方?確かに変なでっかい存在は居るけどさ……。
「……どっちかっていうと敵っぽいデザインだよね?なんか禍々しいし……?」
気のせい……?そっか、【ならそういうもんなんだね】。
取り敢えず白い仮面を被ったらいいのかな?
「うわっ!?」
変身した!?すげぇ!変身ヒーローみたいだ!赤を基調として基本的に白色の配色で、装飾っぽい部分は黒色の衣装に何時の間にか着替えてる。顔が真っ白な仮面に覆われてる事を除けば凄いカッコいいな!のっぺらぼうな事だけ除けば!
あと、明らかにSAN値削ってきそうな風格のデカブツも無かったらもっとヒーローっぽいと思う。神様の美的センスを疑うね。
まぁそれでも男の子なら、流石にこういう事に興奮しない筈がないと思うんだ。
だって僕は、今から世界を守る為に戦うんだ!
「んじゃあ、やってみるか…!」
力の使い方は何となくわかる。どうやら神様が補助してくれるようだ。そうじゃなかったら流石に素人のままじゃ戦えないしなぁ。
いくら父さんと一緒に、格闘技を習う為に月に道場に通っていても僕は素人の域を出ない。強くなる為にやっているわけではないんだから。
身体を慣らすように跳躍を繰り返しながら大橋の先へと進む。段々と視界が開けるように明るくなってきたし、地面を這う虹色の木の根も太くなってきたように思えた。あのデカブツも僕に追従するようについて来ている。犬みたいでなんだか可愛げがある気がする。姿形は酷いけど。
なにか納得出来ないんだよなあ。こう、騙されてる気がしなくもないんだけど……。
うぅーん。【気のせい】かなぁ。
「……あれは?」
そうして前に進んで行くうちに、人影が前方に見えた。その数は3。神様曰く、アレが敵だそうだけど……。
「人型、なのか……」
戦い難い。真っ先に出た感想がソレだった。とりあえず視認できる距離で止まって、様子を確認する。人型ではあるものの、まるで影のように揺らめいていた。どうやら【人ではないみたい】だけど……。
大きな斧のような武器を持った赤い影。
長い槍を持った紫色の影。
弓を持った水色の影。
お化けか何かかな?何か喋ってるように聞こえるけど、逆再生したかのようで、何を言っているか分からない。
—————兎に角、あれは敵だ。敵だから、倒さないといけない。
「行くぞッ……!」
デカブツを橋の向こう側まで連れて行けば勝利。だけどあの影が邪魔だから排除しなきゃいけない。デカブツの援護はあるけど、アテには出来ない。だから僕が呼ばれた。
「------!」
「何言ってるか分かんないけどッ!」
動きが鈍い3つの影に向かって殴りかかる。取り敢えず、弓持ちの水色だ。僕に対応出来ないようで、僕のパンチで吹き飛んで行った。自分の事ながら、あり得ない威力に凄く驚いた。
「———!」
「------!」
影達が何かを叫んでいるけど、デカブツの援護が来ると神様から言われた僕はすぐさまその場所から飛び退く。そのタイミングを見計らったように、台風のような激しい水流と、水の弾が2つの影に襲いかかっていた。
「あの槍、盾にもなるのか……」
見れば、水流に争うように、紫色が槍の穂先を傘のように広げて何とか防いでいた。普通なら吹き飛んでいくような威力の中耐え切っているのは敵も中々に強いということかもしれない。
でも赤色は水の弾に苦戦しているようだし、水色は吹き飛んだままだ。割とどうにかなりそう。
もしかしたら僕はいらなかったかもしれないなぁと思っていると、水色を吹き飛ばした方向から矢が降って来た。もう回復したのか!
「猪口才なぁ!」
「------!」
「そんなへぼっちょろい矢が当たるもんか!お前はそこでぶっ倒れてろ!」
殴りかかるけど、弓で防がれた。反応は中々良い感じだと思う。でも僕が対応出来ない程じゃない。遠距離武器は真っ先に潰しとくに限る!後からチクチク撃たれるのも鬱陶しいし!
「————!」
「赤いのが来たっ!?」
水色を助けに来た赤色が邪魔をして来た。振り回される斧は的確に僕を狙ってくる。神様が僕を強化してくれてなかったら、一瞬で負けてたかもしれない。
「こなくそっ!」
反撃してみるけど、全部防がれてカウンターが帰ってくる。左腕に斧が掠ってピリッとした痛みが走った。不味い、一旦デカブツと合流して体制を立て直さないとこのままじゃ押し切られる。
大きく飛び退いて、今は逃げに走る事を選択した。デカブツは僕を無視してさっさと前に進んでるみたいだ。もうちょっと援護してくれても良かったんじゃないかな……。アテに出来ないってこういうことかぁ。
♦︎
「何とか、って感じかな。向こうは連携が取れてないけど、個々は強い。今の僕じゃ敵わなさそうだ……」
正直悔しいけど、一度戦ってみて分かった。アイツらは強い。初っ端の奇襲で1人倒せたと思ったのが間違いだった。紫色とはまだ戦ってないけど、赤色の事もある、たぶん紫色も強い筈だ。
水色は、どうだろう。近接戦は苦手のようだったけど、僕のパンチを防いでみせた事を考えるに十分強いと思う。
普段は感じない切り傷の痛みが思考を泥濘へと誘ってくる。どろりとした倦怠感が体を包み込んで、諦めを促してくるのがわかる。
「……無理ゲーじゃないかなぁ、これ」
思わず溜息をついた。こっちはやる気のないデカブツを守りつつ、ほぼ3対1で、相手には遠距離武器がある。こっちは気まぐれに攻撃する、ゲームの出来の悪いNPCのようなデカブツを守りつつ戦わなきゃいけない。勝ち目はない、とは思わないけどどうしても勝機が薄い気がする。
神様も僕が訓練とかする時間をくれたら良かったのに……。
その時、衝撃音と共にデカブツの背面に矢が突き刺さった。あの水色の攻撃だ。
然程ダメージを食らってないようだけど、デカブツの動きが止まった。そのまま動いてりゃあいいものを、どうして止まるのかな……。
「何にせよ迎撃しないと……!?」
見れば、3つの影が上空から迫ってくるのが見えた。アイツら、僕が近接攻撃しか出来ないと見て、上からの攻撃に切り替えたのか!
紫色の盾が水の弾を弾いてるし、これは不味い。
状況判断を捨て置いて、とにかく影共を迎撃する為に跳躍する。盾の後ろから水色の矢が降って来た。狙いは水の弾っぽいけど、こっちにも牽制目的であろう矢が何本か飛んで来た。
甲高い金属音と共に全力で振るった籠手付きの両腕で弾き飛ばしたが、大凡本命であろう一射が眼前に迫っていた。恐らく、他の矢は全て、この本命たる一撃必殺を狙い澄ました矢を隠す為の迷彩に過ぎなかった訳だ。
鈍い音と共に反動で頭が大きく仰け反る。衝撃と共に痛みが襲い掛かるが、仮面のお陰で即死は免れた。けど目の前がチカチカするし、思考が定まらないし、頭の中で鐘が鳴り続けるようで音も聞こえにくい。
「————!!」
「しまっ…!」
僕のその隙を突くように何かを叫ぶ赤色が僕の横を弾丸のように通り抜けた。今までの攻撃が全て陽動だったってことか。この赤色の突撃こそ本命のようだ。やられた!流石に自由落下を始めた今、あの赤色を止めるのは不可能だった。
「くそっ……!」
落下しながら、僕はデカブツが赤色の閃光に解体されていく様をただ見ていた。全くなんてザマだ。僕にはあの影に対抗する全てが足りなかった。力を過信して考える事を止めたら、ただの間抜けに過ぎないと父さんにも言われたはずだったのに。僕は最初の一撃で調子に乗り過ぎたんだ。
神様は、今回は負けたけど、まだ次があると言った。たぶん慰めてもくれてるのかな。
……。あれ?次が、あるのか?
じゃあそれでいいかと気楽に言える事態でない事に気付いて、僕の背中に冷や汗が垂れた。
————次があるなら、『その次』は?
あるのか、ないのか。いや、絶対にある。もしかしたらあの影達を倒してデカブツを橋の向こうにまで渡らせない限り、永遠に終わらないのかもしれない。
僕が中学生になって、高校生になって、その先に行く歳になったとしても……。
僕は永遠に戦い続けるのか?
あの影の他に敵が居ない筈もない。
そんなよく分からない存在相手に。さっきみたいに学習して、対処してくるような敵に。
恐らく死ぬまで、この身体が燃え尽きるまで、僕は戦い続けるのだろう。
その疑問に神様は答えてくれず、視界が花びらの嵐に包まれていく僕の思考は、ブツリと切れた……。
♦︎
「ゆうくん、調子悪いの?保健室行く?」
「……うぅん、たぶん大丈夫。でもお腹痛いからトイレ行ってくるね」
あの戦いから戻ると、朝のホームルームが始まった直後だった。
どうやら僕はあの戦いの間、眠っていたか、気を失っていたようだ。といっても数秒あるかないかの時間、目を瞑って言葉に反応しなかっただけのようだけど。どうにもしっくり来ない。
一瞬で俺の不調を察した隣の席の姉さんが心配して声をかけてきてくれた。なのでその好意に甘えて、取り敢えず腹痛を装ってトイレに来た訳だけど。
「やっぱり、傷はあるみたいだ」
トイレの個室の中でピリピリと痛む左腕を確かめる為に袖を捲ると、そこには確かに切傷が存在した。
ここから分かることは、僕はあの奇妙な大橋の上に確かに存在していて、確実にあの3つの影と戦ったということだ。
そういえば頭に思いっきり矢が刺さり掛けた筈だけど、やっぱり仮面のお陰だったのか痛みはあんまりない。それだけは幸いだった。兎に角、血が服に滲まないように取り敢えずトイレットペーパーで血を拭き取ってみたら既に傷は塞がってた。
その代わりに傷口から砂がポロポロと落ちる。
「……なんで砂が?」
運動場で転んだ訳でもないし、あの世界だって砂なんて落ちてなかった筈だ。
じゃあこの砂は一体全体どこで付いたんだ?神様はなにも答えてくれないし、取り敢えず放っておこう。問題はたぶんないだろうし。
「あとは……大橋、だよなぁ」
あの世界は大橋を基準とした世界だった。とすれば、現実世界の大橋まで行けば何か分かるかもしれない。例えば、そう。敵に関する何かとか。
これは決して僕が大橋まで遠出したい、という遊び心からじゃない。そう、僕は崇高な使命があって行くだけなんだ。
「明日は休みだし、行くっきゃないよなぁ!父さんと母さんと、姉ちゃんには黙って遠出するなんて、なんだか冒険してるみたいだ……!」
僕はどこまで行っても、多分まだ子供なんだろう。この時はただ純粋に、こうして楽しんでいただけなんだから。
そういえば創作用にツイッターアカウント作りました。
かなり自分の趣味に走っているのでフォローされる方がいらっしゃればお気をつけください。進捗とかは特に呟かないと思います。
@WB_Tarou
追記:アカウント凍結されました(半泣き)