結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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感謝祭、行きたかったなぁ(CD優先に外れた時の顔)

ところで全く話が変わりますがメイドインアビス、良いですね。映画観に行く前に一気見したらハマっちゃいましてね。映画も最高でしたよ。ナナチは可愛いですね……。
この小説に内容が反映されるかどうかは分かりませんが、悲鳴とかカートリッジとか祝福とかは凄く参考になったとだけ伝えておきます。




第6話 真実

 園子を助けたあの日から1ヶ月が経った頃、俺は白仮面を被ることも、流星を使う事も忌避感がなくなっていたように思う。流星はほぼ完璧に使えるようになってきたし、万引きやスリも順調。家族の事も、忘れるぐらいに楽しんでいた。たぶん、意図的に思い出させないように天の神が弄ったんだと思う。忌避感にしてもそうだ。今だって反吐が出る。俺は死んでしまえばよかったんだ。くそっ。

 

 丁度この頃に、俺は些細なことで園子と口喧嘩をした。

 本当に些細な事だ。髪の毛を切った事に気付かなかった俺に対して、園子が文句を言ったんだ。俺も頭に来て、酷い言葉で言い返してしまった。それがいけなかったんだ。だから口喧嘩が始まってしまった。

 今思えば、アレも『クソ神』の思考誘導だったのかもしれない。クソッタレ。

 

 園子は賢くて、罵倒のボギャブラリーも多い。

 俺は何度も言い返したけど最後には言い返えせなくなった。流石に今はもう言われた事は覚えてねぇけど、半泣きだったと思う。

 そんな俺を情けなく思ったのかどうなのかはわからないが、園子はプンスカ怒って帰ってしまった。どうやら用事があるらしかった。

 

 しばらくして、俺は漸く自分が悪いと認めた。あそこであんな酷い事を言うだなんて、どうかしてたってな。冷静になりゃあこんなもんだ。

 その時の俺は凄く後悔してた。俺は喧嘩をふっかけるどころか、ボロボロにやられた上に謝る事もしなかったんだ。これでは代行者としてどころか、人としても恥ずかしいじゃないか。そう思ってた。

 んで、俺は園子に謝りに行く事にしたんだ。どんな罰を受けてもいいと思った。そのっち呼びを強制されようが、仕方がないと思ってた。

 

 でも結局、俺は2年経った今も謝る事が出来ずに居るなんてその時の俺は思いもしなかったんだ。

 またきっと、笑い合える日が来ると……そう信じてたんだ。

 

 

 ———結城勇祐のノートより抜粋

 

 

 

 

 

『私もね、ずっとユッキーに謝りたかったんだ。そんな些細な事なんて、出会ってそんなに日が経ってないし、なにより毎日会ってる訳でもなかったから気付かなくて当然なのに、私は酷い事言っちゃったの』

 

「この天の神の影響、園子にもあったのかもね…」

 

『そうかもしれないけど、それを理由に自分がやったことを正当化なんてわたしにはできないから…』

 

 

 友奈の病室にて、勇者部は園子達の話を聞いていた。物語はいよいよ佳境に入ろうとしている。全員がこれから起こるであろう悲惨な結末に、顔を曇らせていた。自分達が経験してきた事だからか、先代勇者組の3人の顔色は明るい。だが他の3人、特に犬吠埼姉妹の顔色は特に悪かった。

 

 

「……一旦休憩にしよう。あんまり根を詰めて話すような事じゃないしな」

 

 

 銀が全員の顔を見渡してそう言った。

 

 

「えぇ、そうですね、三ノ輪様…風、樹、大丈夫?」

 

「大丈夫か大丈夫じゃないかと聞かれたら、大丈夫じゃないわね……。だって、酷過ぎるもの……」

 

 

 まだこういったドロドロとした話に耐性のある夏凜が犬吠埼姉妹を心配して声を掛ける。風はまだ喋れたが、樹は頷くしか出来ていない。よっぽど疲れたのだろう。疲れてもしょうがない。この話はどういう流れになったとしても絶望しかないのだから。

 

 

「ちょっと2人を談話室までまで連れていって休憩してくるわ」

 

「お願いね、夏凜ちゃん」

 

 

 夏凜が犬吠埼姉妹を連れて病室から出て行った。園子は画面越しにそれを確認した後、誰にもバレないように顔を悲痛に歪めた。

 

 

(あの時に私は、この気持ちがなんなのか認めたくなかった。向こうが気付いてくれればって何度も考えた。でもユッキーの目はミノさんの方に向いていた。それが悔しくて、悔しくて……)

 

 

 あの口喧嘩の元々の原因、それは園子の嫉妬であった。勇祐に見てもらいたいと思いながら前髪を切って新しく整えたのに、勇祐は気付かなかった。その時、心の中にどろりとした【ナニか】が流れ込んできたような感覚は、今でも忘れられない。

 

 

(天の神のせいだって、どうして言えるんだろう。言えるわけが無い。私は嫉妬して、恨んで、目の前に見える何もかもが羨ましくて狂った自分が嫌で仕方がなくて、殺してもらうためにユッキーを殺そうとした。そんな卑しい女なのに、私はまだユッキーに恋をしている。止めようって思っても、止められない。早くユッキーの顔が見たいって、思ってしまう)

 

 

 園子が思い出すのは、勇祐が蘇ったあの時だ。タタリを吸い取るためにファーストキスを奪い、タタリで辛いはずなのにそんな顔は一切見せず、園子の心配ばかりしていた彼の顔が鮮明に脳裏に焼き付いて離れない。

 ファーストキスの後、アレが2度目の口喧嘩だった。しかしあの口喧嘩は怒りも憎しみも存在していなかった。それだけで園子は嬉しかった。

 

 

(もう1度、ユッキー達と笑い合う為に。今私が出来ることは、罪の告白と過去の開示、そして…この想いを押さえつける事……)

 

 

 ギュッと、溢れそうになる想いを押さえつけるように旨を抑える。

 恋や愛情。後ろめたさや自虐。憎悪とも悲しみとも言えず、白にも黒にもならない灰色の感情。それが表に出ないように、誰にも悟られないように。

 目を瞑って息を整える。次に話を再開する時に、声と一緒に出ないようにと。

 

 そんな園子の姿を、東郷はカメラ越しで悲しそうに見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 謝りに行こうと決めた後、僕はそういえば園子の連絡先も知らなければ、行った先がどこなのかすら知らないというなんともお粗末な結果に即陥ってしまっていた。

 

 

「うーん。園子は用事があるって言ってたから、家には帰らないだろうし…むしろ僕あの家に入りたくないし……」

 

 

 なーんか嫌な感じするんだよねあの家。誰かに見られているというか……悪い視線じゃないんだけど、気味が悪いんだよね。

 後、よくよく考えたら大赦の、それもトップとも言える家に上がり込むのは僕の立場的にどう考えても駄目だろう。ファッションショーの時は拉致みたいなもんだったからしょうがないとして、いつ家族にバレるか分かったもんじゃない。

 

 

「しょーがない。これ使うか」

 

 

 白仮面を手の中に呼び出す。この動作も数十回に及ぶ代行者としての役目の中で手慣れたものだ。違和感無く使える様になったし、最近は使う時の嫌悪感も無くなってきた。便利だもんなぁこれ。でも日常で使う事はないんだよね、僕には流星——あの変な奴に貰った力の名前。カッコ良さそうだし名付けた——があるから。流星さえあればスリも万引きもし放題だしね。

 

 

「しかし罪の意識がなくなってきてるのは慣れてしまったからかな……嫌だなぁ、ほんと」

 

 

 悩むことも少なくなった。楽観的? というか。つい一ヶ月前はもっと悩んでたと思うんだけどね。慣れって怖いなぁ。

 

 ん? 慣れで済ませて良かったっけ……【まぁ、いいか】

 

 

「ここなら見渡してもバレなさそうだ」

 

 

 近くのビルの屋上に上がってから白仮面を被って辺りを見渡す。すると、大橋の方向に向かっていく、リムジンに乗った園子の姿が見えた。

 すっげぇ。流石大赦のお嬢様だ。あんなん乗れるんだな。

 

 

「っと、それよりもあっちは大橋の方向……」

 

 

 そういえば大橋の近くには大赦の施設があった。あの訓練施設に行くのかもしれない。でもなんでだ? やっぱり家がお偉いさんだから色々あるのかな。

 

 

「考えててもしょうがない。自転車でも借りて行くか」

 

 

 勿論、駅の貸し自転車なんて借りない。駅前に置いてる自転車を少しばかり拝借するだけだ。流星を使えばどうとでもなる。

 

 

「……随分と力を使いこなしたように見えるね、結城勇祐少年」

 

「ッ! お前は!」

 

 

 唐突に背後から声を掛けられて、慌てて振り返ってみれば、あの月の夜、僕に流星を渡した白いパーカーを着てフードで顔を隠した不審者が立っていた。僕の白仮面にも反応しなかった。こいつは本当に、一体何者なんだ…!? 

 

 

「まぁ待ってくれ少年。君と争いに来た訳じゃないんだ。ただ、最後の助言にね」

 

「助言だって……?」

 

「私が渡した力も扱いこなせるようになった君に、ね。戦い続けている君も好きだったが、ここ暫くは『おかしな花』にようになっていてね。観察対象が少なくなって……おっと、これは余計だったね。まぁとにかく、最後の助言だ。よく聞いてくれたまえ」

 

 

 パチン! と不審者が指を鳴らしたかと思えば、世界が停止した。

 音も聞こえず、風が頬を撫でる事もない。全てが止まった世界だ。

 

 

「なっ!?」

 

「聞かれたくない相手が居てね。これで私も奴に存在がバレるが、要はそれだけ重要なんだよ、結城勇祐少年」

 

 

 フードの奥で、見えない顔が嗤う。そして僕を迎え入れるかにようにゆっくりと両手を広げた不審者は、赤子をあやすかのような声で言った。

 

 

「決して逃げるな。決して迷うな。決して躊躇するな。結果に嘆くな。そして奴に打ち勝て、少年。勇者でもない、操られるだけの愚者たる少年よ。諦める事なく前に進み、貫け」

 

「……全部抽象的過ぎるんだよ。意味わからねぇよ」

 

「なに、その時になれば分かる。あぁそれと、次に奴に渡される武器はよく考えて使いたまえ。アレは殺傷能力が強過ぎるからね」

 

 

 くつくつと嗤う不審者はそのまま言葉を続けようとしたがその時、世界が地震のように唐突に揺れ始めた。

 

 

「おや、奴が気付いたな。ここまでのようだ結城勇祐少年。出来れば、と思っていたが流石に厳しいようだ。……忘れるなよ少年。天や地だけではなく、月も君を見ていると。さらばだ少年。また会える日を夢見ているよ」

 

 

 世界の揺れが大きくなり、不審者を中心に世界が崩れ始める。その崩落に、僕も巻き込まれた。恐怖はなかった。段々と強くなる眠気が、僕をあの戦いの世界に連れて行こうとしているのが分かったから。

 そして全てが崩れ去り、黒い闇の世界が訪れた後に僕は眠るようにあの世界にへと誘われるのであった。

 

 

「……向こうに戻ったら、園子を追いかけないとな」

 

 

 目が覚めて、僕は白仮面を付けながら起き上がった。

 こんな時に呼び止めた不審者も、恐らく呼び止められなくてもこの世界に連れて来たであろう神様に内心腹を立てながら、自分の体を見渡す。

 

 

「…言われた通りかよ」

 

 

 右手には見た事もない、杭打ち機のような武器が備わっていた。左肩には空気のように軽い大楯が取り付けられていた。

 杭打ち機は、恐らくパイルバンカーだと思う。いやそのままだけど、武器としての杭打ち機だ。神様がそう言ってる。

 ガシャン、と杭を突き出してみれば勢い良く射出された。凄い勢いだ。たぶん、あの影にまともに当てられれば一撃で仕留められるだろう。

 大楯は小さく格納する事も出来た。展開すれば僕1人は余裕で隠せる程に大きい。

 

 

「これさえあれば、奴らに勝てる……」

 

 

 ゴクリ、と唾を飲み込む。遂に終わらせられる。そう思うと気分が高揚した。この戦いも、全部!終わらせられる!と。

 

 

「終われば、姉さんのところにも戻れる!」

 

 

 いやっほう! そうと決まれば早速影達を倒しに……えっ? 今回は見せただけ? なんだよもう! ぬか喜びさせんなよな! 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 現実に戻ってきた。目が覚めると、そこはあの不審者と話していたビルの屋上だった。

 さて、次がいつになるのかは教えられなかったけど、決戦の日は近そうだ。ようやく暖かい家に帰れるんだと思えば、気分も軽くなる。さっさと園子に謝って、僕の本当に名前で3人と遊べるようにするんだ。そうすれば3人に対する変な罪悪感も無くなるはずだしね。

 

 

「よし、面倒だし白仮面を被ってひとっ飛びするか」

 

 

 前は神様に止められた気もするけど、なにも言われないし使ってもいいか。

 白仮面を被ると、パイルバンカーと大楯は出て来なかった。どうやら好きに呼び出したり出来るみたい。便利だなぁ。ま、今はあっても邪魔だしどうでもいっか。

 

 

「んじゃあ、行こう!」

 

 

 僕は勢い良くビルの屋上から飛び出した。高く高く飛び上がって、優に1km以上は飛んで、近くの建物に着地してまた飛び上がる。やっぱりこの移動は楽だ。

 

 

「んーでもどうやって謝ろうかな。まぁどうとでもなるか。ごめんねって言えばいいだけだし」

 

 

 そうこうと悩んで1人で解決している内に大赦の施設前にまで着いた。今回は監視カメラとかセンサーとかを掻い潜って中に潜入する。流石に素の僕でも見つかっちゃえば相当不味いしね。

 

 

「園子は……あれ?」

 

 

 さっきまで白仮面に映ってた園子の姿がなくなった。んー? なんでだろう。まぁさっきまで映ってたとこに行けばいいかなぁ。

 

 大赦の職員を天井に張り付いて避けたり、監視カメラに映らないように動いたり。本当に大変だよ、一言謝るだけなのにさ。

 

 

「ここだな……っと」

 

 

 訓練施設。以前忍び込んであの大赦の女性職員さんに見つかりかけた場所だ。耳を済ませてみれば、園子の掛け声が聞こえて来る。武芸の習い事でもやってるんだろうか。

 

 

「邪魔しちゃ悪いけど、ちょっと覗いてみよう」

 

 

 弓道場っぽい方の茂みに飛び込んで、そっと園子の声がする方を見る。

 どんな事をしてるんだろう。そんな好奇心だけで、見た先には———

 

 

「えっ……?」

 

 

 紫色の、影が居た。

 

 心臓が飛び跳ねる。

 

 なんでここに居るのか、とか。園子はどこ行ったんだ、とか。目の前の光景が信じられなくて、僕はただ呆然としていた。

 

 影は僕に気付いていないようで、あの槍を振るっている。まるで稽古をしているようだ。

 その側にはあの眼鏡を掛けた女性の大赦職員が見守るように座っていた。

 

 じゃあ、なんだ。僕は今まで大赦と戦っていたのか? この世界を神樹様と一緒に守っている、大赦と? あり得ない、あり得ない! そんな馬鹿な話があってたまるか! 本当にそうなら、僕は園子、と……。

 

 今、僕は…なんて恐ろしい発想に至ったんだ。いやまさか、そんなはずは。だって、もしそうだとしたら、僕は……僕はッ! 

 

 呼吸が荒い。心臓が破裂しそうなほどにバクバクと動いている。意識が朦朧とする。汗が止まらない。僕の思考が、仮定を全否定する。

 

 僕はゆっくりと、白仮面に手を掛けた。嫌だ、見たくない。見ればたぶん、僕は酷いことになる。僕の今までが全部否定される事になる。でも、確認しないと駄目だ。やらなきゃいけないんだ。だから、ゆっくりと、息を整えながら外すんだ。

 

 そうだ、そんな事ある訳がない。仮に大赦が敵だとしても、それは大赦が間違ってるに決まってる。

 

 そうだ。そうに決まってるんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「安芸先生! 遅れてすいません!」

 

「すいません、先生。銀が人助けをしていて遅れてしまって……」

 

「もう、皆遅いんよ〜」

 

 

 見た。見てしまった。

 

 影が、紫の影が紫色の装束と、特長的なあの槍を持った園子に変わるその瞬間を。

 

 この道場に遅れてきた銀と鷲尾さんがやってきた事を。

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃあ、私らもやるか〜」

 

「えぇ、銀」

 

 

 銀と鷲尾さんが仲良くストレッチをして、スマホを触ったかと思えば銀は赤色、鷲尾さんは青色の装束に変身し、その手にそれぞれ二刀の斧と、白い弓を構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う、嘘…だ……」

 

 

 手が震える。

 

 視点が定まらない。

 

 だって、だってアレは…あの、武器は……。

 

 

「そん、な……」

 

 

 もう一度、白仮面を被る。信じたくない、嘘であって欲しい願いを叶えるために。だがそこには、紫と、赤と、青色のあの影達がそれぞれ3人が居た場所に立っていた。

 

 願いは儚く散って、僕はこの世界の真実と僕の罪を知ってしまった。

 

 

 そして全ての信実に気付いた僕は、叫びそうになる口を両手で押さえながら茂みから飛び出して、訳もわからず逃げ出したのだった。

 

 

 

 





ようやく、書きたかったところを書けました。

感想、UA、お気に入り、ありがとうございます。
これからもこの作品を楽しんでいってください。
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