友奈ちゃんの誕生日に何かやろうとか思ってたのに結局なにも出来ず仕舞い。来年こそは…!と思ってはいますがどうなることやら。
なお投稿が遅れた理由は転職だのなんだのでモチベが死んでらからです。
「俺が悪で、3人が正義。永遠に続いて欲しかった幸せがブチ壊れた俺に、抗う術はなかった。もう3人を殺す以外に、道はないと思っていたんだ。でも姉さんの言葉で、俺は更に地獄を歩む事になった。姉さんを生かして、3人も助ける。そんな夢を、現実にする為に。希望なんて、どこにもなかったのにな」
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「ゲホッ、ゲホッ、うっ…嘘だ、嘘だ…嘘だ……。なんで、なんであの3人が影なんだ……」
地面に広がる吐瀉物の水溜り。口一杯に広がる苦さと酸っぱさが、それが僕の口から出たものだ、現実だ、と執拗に責め立てるように教えてくる。
止まらない唾液が、まるで僕の正気のように零れ落ちていく。
あの大赦の施設で見たものは、いずれも信じがたい現実で真実だった。神様が……いや、神様かすら分からないあの存在が見せた幻覚かもしれない。でも、分かることはある。アレは敵だ。僕の神様にとっての敵だ。
何を思って影を一撃で殺せる武器を見せた後で3人の正体を見せたのかは分からないけど…どうせ碌でもない理由なんだろう。
もし、もし、だ。認めたくないから、千に1つか万に1つの確率で、銀達が本当に影で、僕の敵だとしたら。
あの施設でやっていた訓練のような運動。そして背後に居た指導する先生らしい眼鏡を掛けた女性。どう考えても大赦が、この世界の守護者である神樹様を奉る組織が敵だったという事になる。
じゃあ大赦と銀達3人から見た敵である僕は、本当の意味で世界の敵なんじゃないのか?
「……うっ…うげぇぇ!おぇっ、げぇえええ!!」
急に気持ち悪くなって、また嘔吐する。お昼ご飯に食べたうどんも、胃の中を空にする勢いで全てを吐き出した。
いい加減に現実を見て、認めるしかないだろう。
おかしいと思ってたんだ。あんな歪な味方に、壁の方から進行してた僕。敵の癖に人間臭い仕草をする影。姉さん達を人質に取るようにタタリを与えたのも…全部、全部騙してたんだ。なんで……どうして!
何がヒーローだ。何を浮かれてたんだ。酷すぎる。醜すぎる。僕はなんて馬鹿な事をしていたんだ。
僕は今まで人類の味方だと思っていた。家族だけでも守るために戦っていたのに、その根底から全てを覆された。
もう嫌だ。こんな事になるなんて思いもしなかった。家に帰りたい。姉さんに会いたい。
でも、僕はまだ代行者だ。辞める事なんて出来ない。今は神様からの視線を感じないからいいけど、もし仮にそんな事をあの神が僕を見ている時に言ってみろ。姉さん達は死ぬかもしれないんだぞ。
でも……だからって、3人を、殺すのか?
無理だ…出来る訳がない。憎くもない、僕の大切な友達を。世界を守る為に戦ってるはずの3人を殺すなんて、出来やしない。
でも、でも!3人を殺さなきゃ姉さんと、父さんと母さんが死ぬんだ。
「……殺さなきゃ、いけないのか?」
手が震える。膝も震える。恐ろしさに身震いが止まらない。3人を殺してしまうのが、とても怖い。あんな出会いさえなければこんなに苦しまなかったかもしれない。僕が舐めた事をしなければ、彼女達と遊ぼうとしなければこんな思いはしなかった。
人を殺したという罪は一生背負うことになるだろうけど、それは仕方がない。僕は生きて、姉さんと一緒に生きたいんだ。
だから……だから、あの3人を…銀を、鷲尾さんを……園子を、僕は…………。
「ゆうくん!」
僕を呼ぶ声。
ずっと聞きたかった、僕が求めていた声が背後から聞こえて来る。
その、声……は?でも、なんで……ここに姉さんが……?
「ゆうくん……!ゆうくん!ゆうくん!」
振り返る。
そこには汗だくで、涙も流していて、酷い顔をしている僕の双子の姉である、結城友奈が居た。
赤い髪の毛。鼻腔を擽る汗の匂い。僕が、今1番欲しかった存在。あぁ、これは間違いはない。この人は、本物だ。夢でも、幻覚でもない。僕の、理由の人だ。
姉さんは僕の顔を確認すると、僕を押し倒す程の勢いで僕の胸に飛び込んで来た。咄嗟に抱き止めたけど、勢いに負けて僕は公園の芝生の上に倒れ込んだ。
「ゆうくん!ゆう、くん……うわあああああん!」
大声で泣き叫ぶ姉さんに戸惑い何も言うことができず、ただ僕の胸元で泣く姉さんを抱き締めるしかなかった。
♦︎
「えっ?勇祐と喧嘩したのか?」
「うん……」
訓練の後、園子達は装束を脱いでアイスを食べながら休憩していた。
須美と銀は、珍しく訓練に身が入っていなかった園子を心配して声を掛けてみたが、その理由は勇祐と些細なことで喧嘩したのが原因と知るのだった。
「髪の毛を切ったって……私達でも気付くのが遅れたのに、勇祐くんが分かる訳がないじゃない」
少し呆れ気味で須美が言う。確かに須美と銀も、来て早々から訓練に入っていた事もあるが、こうして休憩に入る直前でようやく気付いた程しか髪の毛を切っていなかったのだ。
「そうなんだけど……そうなんだけどね?なんだかこう……胸の奥から怒っちゃって…今はなんであんなに怒ったのかわかんないんよ……」
「んー。なんか変な気持ちだったのか?あ!もしかしてせい……ぐへっ!」
「銀、デリカシーが無いわよ」
何かを言いかけた銀の頭を、須美が何処から取り出したか分からない「精神注入ハリセン」と達筆な筆字で書かれた大きなハリセンで銀の頭を叩いた。
盛大にバシーンという音と共にしばかれた銀は頭を摩りながら次は真面目に答えた。
「いてて…まぁ本当にその時の気分とかもあるからさ…偶々そうなっただけだろ?で、ユウキもカチンと来ちまって喧嘩になった。だろ?」
「そうかなぁ……」
「そうよそのっち。気にする必要はないわ。ちゃんと謝れば、郡さんも分かってくれるわ」
2人が口にする慰めの言葉も今の園子にはどうにもしっくり来ない。それもその筈だ。あの時、胸の内に流れ込んで来たように湧き出した、あのドロリとしたコールタールのような感情がどうしても胸に突っ掛かってしまうのだ。
アレは自分の感情だったのか?仮にアレが嫉妬だったとして、あそこまで喧嘩腰になるのか?
そもそも園子はあそこまで怒った事など人生で一度もなかった。だから不思議で不思議で仕方がなかったのだ。いつもなら心の奥に仕舞っておけることが、今日に限っては出来なかった。
「ま、とにかく次会ったときにしっかり謝ればいいだろ?私達も着いてってやるからさ!んじゃ、訓練の続きやろうか。のっぺら坊野郎を次こそギタギタにしてやんねぇとな!」
「そうね。あの白面をどうにかしないと、私達のお役目も終わらなさそうだもの」
よし!と気合を入れて立ち上がる銀と須美。そんな2人を見て、園子も頬をぺちりと叩いて気合を入れた。
「そうだよね。白面をやっつけないとユッキーとちゃんと遊べないもんね!」
白面。突如バーテックスと共に現れた、人型の敵性存在を、その顔につけた真っ白な仮面から大赦はそう呼んでいた。バーテックスよりも強く、賢い。だが最近は園子達への攻撃を躊躇しているように見えていた。
だから園子は、偶然知り合った『郡ユウキ』を疑った。もしかしたら、を重ね続けた。しかし結局のところ『怪しい少年以外の情報』は出なかった。
そう、『家庭の複雑な事情を抱える少年の個人情報』という情報も得られなかったどころか、本来なら結び付いてもおかしくない筈の『タタリの媒介元と予想される少年が行方を晦ませた』という情報が一切噛み合う事がなかったのだ。
園子が『郡ユウキ』イコール『結城勇祐』と知ることになるのは全てが終わった後の数ヶ月先の話になるのだが、何故気付けなかったのかはその時になってもわからなかった。
♦︎
姉さんをどうにか泣き止ませた後、僕らは公園のベンチに座っていた。木陰と海風が心地良い公園で、何を話すこともなくただ蒸し暑い空気を風邪の合間に感じながら泣き始めた蝉の声だけが耳に届いていた。
「……」
「……」
互いに無言。何を話せばいいのかも分からない。僕は怒られると思っていたし、これ以上姉さんを悲しませたくないと思ってた。だから言葉が出なかった。何も聞けなかった。
「……ねぇ、ゆうくん。今はね、何も言わないよ。たぶんいっぱい色んなことがあったんだと思う。家から飛び出したのも、今まで連絡の一つもなかったのも、何か理由があったんだと思うの。ゆうくんを見つけるまでは、いっぱいいっぱい…怒ろうと思ってた。今まで何してたんだーって。でもね、ゆうくんの顔を見たらそんな気が吹っ飛んじゃった」
ポツリポツリと、姉さんが言葉を紡ぐ。色々な思いを押し留めるように、努めて普通を装って。それがひしひしと僕に伝わってきて、とても痛々しかった。
「ねぇ、ゆうくん。お父さんもお母さんも元気だよ。みんな病気になってたらしいけど、病院に行ったらみんな治ったんだよ?私は、まだ病院に居て今日はちょっと抜け出して来たんだけどね、あははは…」
違う。それは僕が側に居ないからだ。僕が媒介者なんだから、元凶が居なければ呪いが薄まるのも当然だ。
「急にね、ゆうくんがこっちに居るって気がしたの。でね、頑張って走ってきたらここに辿り着いて、そしたらゆうくんが居るんだもん。本当に驚いて、嬉しくなって、お姉ちゃん泣いちゃった」
えへへ、と恥ずかしそうに笑う姉さんは僕のささくれたった心を癒していく気がした。あぁ、この手を取れたら、どれだけいいだろう。でもそれは、それだけは出来ない。僕はこれから、人を殺しに行くんだから。
「ねぇゆうくん。私に、話してほしいな。ゆうくんが一体何を背負ってるのか。
「姉さん……それは……」
話せない。
それだけは…話せない。
「大丈夫だよ!私はお姉ちゃんだから!悩んだら相談!成せば大抵なんとかなるよ!ほら、お父さんも言ってたから!」
でも、姉さんの言う事は間違っていない。
そう……絶対にだ。
絶対に姉さんの意見や考えは正しいんだ。
今までだってそうだ。僕がやる事は基本的に痛い目に会って、姉さんがやる事は全て良い方向に向いていた。
でも、僕でもなんとかやろうと思って姉離れを始めた結果がこれだ。やはり僕が間違っていたんだと思うと心が揺らぐ。
僕の決意が、萎んでいく。
だから僕は意を決して聞いた。姉さんに、僕はどうすればいいのかを。
「……例えば…さ、僕が姉さんの為に誰かを犠牲にするなんて言ったら、怒る……よね?」
精一杯濁して僕は姉さんに聞いた。
「怒らないよ。怒らないけど、たぶんゆうくんはいっぱい考えて、聞いてくれたんだと思う。でも私はね、誰かを犠牲にした上で生きたくなんてないかな。私は、誰かを助ける方が良いよ」
「つまり姉さんは、自分を犠牲にされた方が良いって……言ってるの?」
「うん。だって、私が我慢すればいいんだよね?だったら、私は我慢するよ?私は、ゆうくんのお姉ちゃんだから!平気、へっちゃらだよ!」
————断言。
自分は絶対に間違っていない、と言わんばかりに僕は突き放された。
我慢なんて出来るはずがない。死ぬ方がマシの痛みか、死ぬかのどちらかを選ばなければいけないんだ。でも姉さんはそれを知らない。知れる筈もない。知ればその時点で天罰が落ちてくるからこんな事を言えるんだ。
姉さんに、理不尽な怒りの感情を抱いた。
何かがプツリと切れた音がした。
音を聞いた途端に、僕の身体が勝手に動き出した。その行動を止められない。目の前を認識出来ない。何をしているか、何もかもが分からない。目は正確に物事を写しているのに、脳がそれを異常だと認識してくれない。
「ぅ…ぐっ……」
声が聞こえた。苦しそうな声。踠き苦しんでいるようだ。誰の声か分からない。けど僕のじゃない。
今まで目の前に誰が居た?僕の名前を呼べる人なんて…誰だ?
そもそも僕の名前はなんだっけ……。
全部、全部が消えていく気がする。ドロドロに溶けていく気がする。
「ゆ……ゆうく、ん……」
振り絞ったような声が僕の耳に届く。その声が何を意味しているのか、そして誰の声なのかに気付くのにそう時間は掛からなかった。
ボヤけた意識と視界を正常な感覚に取り戻した時、僕は姉さんの首を絞めている事をようやく理解した。
「う、うわああああああ!?」
咄嗟に飛び退いた。姉さんに馬乗りになりながら、僕は姉さんの首を絞めていたんだとやけに冷めた脳が理解した。
「ち、違うんだ……僕は……!」
「げほっ、げほっ。だい、じょうぶだよ……。怖がら、ないで……ゆう、くん……」
苦しそうな顔、でも僕を怖がらせないためか笑顔を保とうとしながら、姉さんが僕に近づいてくる。両手を広げて、ゆっくりと。
「怖く……ないよ…」
怖くない訳がない。弟に殺されそうになって苦しんだのに。自分の心を押し込んでいるのが見え見えだ。僕を必死に守ろうとしているんだろう。
「僕は……僕は……!」
「ね、ゆうくん。一緒に帰ろう……?2人でまた、一緒に暮らそう?」
姉さんの提案に心が揺らぎそうになる。明らかにおかしくなってる僕なのに、繋ぎ止めるようとする姉さんの必死に、思わず手が伸び————
その胸に、仄かに光る得たいの知れない痣がある事に気付いた。
「———ッ!?」
「ゆうくん……?」
「なんで…!どうして!何も話してないのに!なにも言ってないのに!!」
「ゆうくんどうしたの!?ゆうくん!」
「触るな!!」
触れようとしてくる姉さんに怒鳴るように声を荒らげて僕は咄嗟に飛び退いた。その一瞬の出来事に姉さんは理解が及ばないようで困惑した。僕を抱き締めようとした両手を、自分の胸元を掻き抱くようにして困惑を絶望へと移し替えた。
「どう、して……」
その言葉に、僕は説明が出来なかった。嘘を吐きたくはなかった。それは、死んでも御免だ。だけど姉さんを危険に晒すわけにはいかない。
僕は、不器用だ。
だから黙って家族の前から消えた。
悪手だと気付きながら、僕は自分だけでなんとかしようとした。その結果が姉さんの、させたくなかった顔であり、胸に仄めく痣だ。
本当に、僕は不器用だ。
今の僕には姉さんをただ拒絶する以外の方法が思い浮かばなかった。
「もう、放っておいてくれ!」
「待って!待ってよゆうくん!!」
拒絶して、また逃げ出す以外に。
僕は選択を思い付かなかったのだ。
そしてそれも、間違いだと、誤りだと。なんでこんなに間が悪いのかと。僕は僕自身を殺したい程に恨む事になった。
「おい、ユウキじゃないか。なにしてんだそんなとこで」
「ぎ……ん………?」
その瞬間、世界が止まった。静かな風鈴の音と共に僕も銀も、自分の正体を、バラすことになったのだ。後戻りの出来ない、最悪な形で。