結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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プロットが仕事してないの......。

それはそうとお気に入り、評価共にありがとうございます。励みにして完結まで頑張りたいです。これからもよろしくお願いします。


第5話 それは料理教室の話

「邪魔しまっす」

「邪魔するなら帰ってもいいわよー」

 

 何百年前のお笑い番組だよ。俺もなぜ知ってるのか分からんけどパイセンもなんで知ってんだ?

 

 今、俺はパイセンの家にやって来ている。理由は簡単。料理を習いに来ているだけだ。

 そもそもの話、我が家には現在俺と姉の2人しか居ない。両親は事故......で死んだ。

 一応、後見人として隣の東郷家の夫婦に面倒を見てもらっていたのだが、東郷夫婦に苦労をかけない為にも俺と姉貴は家事を学んだ。最初は酷いものだったが、パイセンの元に修行しに来るようになって今では俺の料理はパイセンと東郷夫婦と姉のお墨付きだ。ちなみに俺は洋食しか基本作らないので東郷は食べない。

 

「もう私から習う事ないんじゃないのー?」

「いやパイセンの料理、結構リスペクトするとこあるんで助かるんすよ」

「そう言われると悪い気はしないわね!私の女子力に任せなさい!」

「うっすおなしゃっす」

 

 女子力については、スルーが安定だ。男の俺からしてよく分からんし。そもそも飯を2、3人前は軽く食べる女に女子力があるとはあまり思えない。それを言ったら睨まれるので口は噤んでおく。

 

 今日のメニューはうどんだ。なぜうどんかといえばパイセンが食いたかっただけらしい。それだけの為に態々出汁から丁寧に作っている。お揚げも家で漬けてきた自家製だ。流石に麺は製麺所で買ってきたものだが、評判が良い製麺所なので美味い。茹で時間も完璧に把握済みである。黄金に輝く汁、そこを彩る白い麺、黄金色のお揚げ、そして刻みネギと天かす。最高の布陣だ。フハハハ!きつねうどんこそうどんの至高!

 

「んで、味はどうっすかパイセン」

「ズズズーッズズッ、ズーッ!」

「あぁ、美味いんすね。そのヘドバンのような首の縦振りで分かったっすから」

 

 どうやら好評のようだ。やったぜ。まぁパイセンに出汁の味を見てもらってアドバイスを貰った上でのきつねうどんだから美味いのは当然であるのだが、出汁すらまともに取れなかった頃を思えばずいぶん成長したものである。今日の晩飯はうどんだな。姉も喜ぶだろう。

 

「そういえば犬吠埼妹はどうしたんすか?見かけないっすけど」

「んー?まだ寝てるわよ」

 

 えっまだ寝てんの?もう12時だぞ。いくら今日が休みの日でもだらけ過ぎだろ。流石に呆れるわ。あの後輩そこまでだらしなかったんだな。

 

「これ食べたら起こすわ。今日は料理教室やってて起こすの忘れちゃってた」

「ていうか俺が家に来る度にいっつも部屋に篭ってたっすよね。そろそろ慣れてくれねぇかなぁ」

「まぁ大丈夫よ。その内慣れてくれるわ」

 

 んじゃあお代わりお願いねーと言ってパイセンは犬吠埼妹を起こしに行った。

 

『くぉらぁ!そろそろ起きなさい樹ぃ!』

『んぅ〜...あと5分......』

『それで起きた試しないでしょ!とっとと顔洗って起きる!ご飯もう出来てるわよ!』

 

 いやー、微笑ましい。

 扉の向こうで聞こえてくる声は俺と姉貴で当てはめられる。小6の終わり頃にあった『あの事件』以降、一切無くなってしまった一連の流れだが、当時は俺がパイセンで、姉が犬吠埼妹だった。懐かしい......が、心は酷く痛む。

 

 

『大橋の惨事』

 あの事件は、直接的な原因こそ覚えていないが『俺が引き起こした事』だとは覚えている。

 そして、俺の両親、犬吠埼姉妹の両親はそこで犠牲となった。

 

 それを知ったのは2人に出会ってすぐだ。

 偶々パイセンと出会って、勇者部に勧誘されて、俺は断って。それから噂話として聞いた。それからというもの、俺は償おうと思いながらもどうすれば良いか分からず、ただの先輩と後輩の関係が続いている。恐らく、2人も俺たちの両親が同じ事故で死んだのを悟っているのだろうが......それを聞いてくることは無かった。

 

 俺は、いったい2人にどうしたいのだろうか。両親を亡くした2人は、もう自立して過去から未来へ歩いている。

 俺の自己満足、なのだろう。何も出来ない俺自身だからこそ、こうしてこの環境に甘える事で自己の贖罪という欲求を解消しているのだろう。

 酷く、醜く、浅ましい限りだ。自己嫌悪で吐きそうだよほんと。

 

 そこまで考えて、無意識のうちに茹でていたうどんの茹で時間を図るタイマーの音で意識が戻る。素早くうどんをお湯から引き上げ、軽く湯切りして替え玉の形でパイセンの器に盛る。

 

「パイセーン、茹で上がりましたよー」

『ありがとー!すぐ行くからー!樹!布団に潜るな!着替えてる最中でしょ!』

 

 もしかして俺、邪魔だったかなぁ...なんて。そう、軽く考えて辞めた。あの夢以来、どんどんネガティブになってる気がするな。

 

「むにゃ...んんぅ〜」

 

 犬吠埼妹が眠い目を擦りながら部屋から出てきた。寝巻きから着替えたであろう部屋着もヨレている。だらしねぇなおい。ていうか俺が居ること気付いてないだろこいつ。

 

「んんっ?......誰ですか.............?」

「犬吠埼料理教室の生徒」

「そうですか......」

 

 いつもだったら怖がるのに、だらしない顔で全く俺を気にせずに洗面所へと向かう犬吠埼妹。

 俺が居る事に気付いてないどころか、俺が俺だと認識してないな?ふざけた回答したのもあるんだろうけど。

 ふらふらと洗面所に入っていく犬吠埼妹、いやほんと大丈夫か?

 

「いやぁーごめんねうちの樹が」

「邪魔してるのは自分なんで俺は大丈夫っすよ」

「そう言ってくれると助かるわ」

 

 犬吠埼妹のだらしない姿を見て恥ずかしいよりだらしないな、という感想が先に来る辺り、俺には年下趣味はないようだ。

 パイセンは用意したうどんを啜っている。犬吠埼妹の分もそろそろ茹でるべきかと思っていたら洗面所から叫び声が聞こえた。

 

「ひゃああああ!」

「どうしたの樹!?」

「ゴッ、ゴキッ...ゴゴッ......」

 

 言葉になってないぞ。一体何が...?

 洗面所から飛び出して来て洗面所方向を震える手で指差す妹くん。

「ひゃああ!来たぁああ」というこれまた情けない叫び声を上げて姉に抱きつく妹くん。それに気付いたのか姉の方もどんどん顔を青くしていく。だからなんなんだ...?

 

 手を拭いて洗面所の方を見ると床を這う奇妙な黒い物体。あの生理的に嫌なヤツである。二本の触覚を持つ、あの例の昆虫だ。成る程、やっぱ女子は苦手なんだなゴキって。俺も好きか嫌いかと言われれば当然嫌いだが。

 怯える2人を他所に俺はパイセンが大事に残しているスーパーのビニール袋を取り出す。

 が、一手遅かった。

 怯える2人に黒い昆虫がその羽根を羽ばたかせて襲い掛かっていったのだ。

 

「「わあああああああ!!??」」

 

 この距離では間に合わんなぁ。んー、トラウマ残させるのも悪いし、本気出すか。

 意識を加速。なんてことはない、集中すれば人間はバレットタイムとかクロックアップとか一刀修羅とかそんな類の超思考と超加速ぐらい出来るようになる。

 

 足に力を入れ、飛び上がる。

 

 間髪入れず、キッチンカウンターを飛び越えるように両手をつき、腕に力を込めて全身を押し出す。

 

 キッチンカウンターを飛び越え、その先にいる黒い飛翔体に狙いをつけてスーパーのビニール袋を被せた右手でそれを掴み取る。

 

 2人にぶつかりそうになる自分の体の事まで考えてなかった事に気付き、止まったような時間の感覚の中で考えを巡らせる。

 目を必死に瞑って姉妹仲良く抱き合う姿を見て、怪我させられねぇなぁとぼんやりと思考。なので姉妹の目の前で自分の体が落ちるように、まだカウンターの端に残っていた自分の足でブレーキを無理やり掛ける。いってぇ。足の爪割れそう。けどいける。後は落ちるだけ......。

 

「へゔっ!」

 

 情けない声を出しながら俺は落下。勿論、右手は離していない。もぞもぞと抵抗するように動く中身が非常に気持ち悪いが必要経費だ。握り潰されないだけマシと思え。

 

「あ、あれ......?」

 

 気付いたパイセンが恐る恐る目を開ける。

 ビビり過ぎだろ、たかだか昆虫程度に。汚いから少なくとも素手では触りたくないけどさ。

 

「獲った」

「えっ」

「獲った」

「そ、その右手......?」

「うっす」

「ひぇっ...」

 

 パイセンの顔がさらに引き攣る。妹に関しては必死に目を閉じてガタガタと震えてる。本当に怖いんだな。

 別に反応を求めてた訳じゃないんで、とっとと袋を縛ってゴミ箱に......?

 

「ちょっちょちょ、ちょっとまって!そのままゴミ箱にシュートするつもり!?」

「えっ?あぁ、中に洗剤入れて殺してからの方がいいっすか?」

「いやそういう訳じゃなくて!存在自体が!嫌なのよ!」

「どうしろと......」

「どうにかして!」

「無理難題かな?んじゃあ洗剤で殺してトイレに流すか......」

 

 そういうことになった。

 

 

 ♦︎

 

 

 パイセンはゴキブリ退治用の殺虫剤やら罠を買いに急いで出掛けていった。流石に勇者というお役目を担う存在であっても、ゴキブリには勝てなかったか。その辺は女子らしい。

 さて、家に残ったのは俺と犬吠埼妹。どうやら朝ご飯(もうお昼だが)を食べる気力はないらしい。流石に目の前に飛んで来たのを見たら食欲失せるよな。あの後腰抜かしてたし。ちなみにパイセンはうどんの残りをひと啜りで平らげてから出て行った。本当に食に関しては人外だなあの人。

 

「......」

「......」

 

 特に話す事が無いので俺は食器を洗いながら犬吠埼妹の動向を疑う。どうやら俺に話したい事でもあるのか体をもじもじとさせている。いや、というかすまんな。苦手な男と一緒に居させる事になって。恐らく気まずさもあるんだろう。

 

「あ、あの......」

「ん、なんだ?」

 

 犬吠埼妹に声を掛けられる。まだ食器洗いの最中なのでながら作業になるが応える。

 

「すいません、いつも...怖がったりして」

「あぁ、そりゃあこっちのセリフだ。誰だってこんな不良男、怖がるわな。こうやって家に上がり込んで料理習ってんのも意味わかんねーだろうし、だからすまない」

「あっ謝らないでください!その、怖いのは噂...とか色々聞いちゃってこっちが勝手に怯えて、勝手に距離を取って、勇祐さんの事を知ろうとしなかったのが悪いんですから」

 

 良い子だ。あのパイセンが溺愛するのも、よく分かる程に良い子だ。

 自分の間違いを認めて、それを正そうと前を向いて進めるだけの勇気を彼女は持ち合わせている。それがとても眩しく、同時に羨ましい。そんな犬吠埼姉妹だからこそ両親の死から立ち直り前を向けているのだろう。俺たち姉弟とは、正反対だ。

 

「その...私も怖がらないよう、頑張りますから......犬吠埼妹ではなく、名前で呼んで頂けませんか?」

「えっいいのか?」

「むしろお願いします。言うのとか大変そうですし...」

「あっ分かっちゃってた?たしかに面倒臭かったんだよな」

「えぇ...」

「そういう訳でこれからもよろしく頼む、樹」

「はい!よろしくお願いしますね!」

 

 洗い物を終えて手を拭いた俺は樹に握手を求め、樹も返してきてくれた。

 

 その後、俺がこの後にカラオケでも行って一人で練習しようと思っていたギターで樹と話が盛り上がり、一曲引いて欲しいというので十八番の曲を引いてやった。

 

 そのうちにパイセンが帰って来て「うちの樹がとられた!!」という意味の分からない濡れ衣を着せられたり、楽しい1日を過ごしたのだった。

 

 ---その胸の内に、黒い感情を燻らせながら。

 

 

 ♦︎

 

 

「ただいまー」

「おかえり姉貴。今日はうどんだぞ」

 

 夕方、家に帰った姉を俺は出迎えた。既に晩飯であるうどんと、それだけでは寂しかったのでコロッケやハムカツ、メンチカツなんかの揚げ物の盛り合わせも付けている。俺は王道のきつねうどん。姉は肉うどんだ。

 

「おーっ!うどんだー!」

「手洗えよー」

「わかってるよーゆうくん。それにしてもお母さんみたいだね...ってアレ?お母さんって......」

 

 ---不味い。

 

「ッ......。つまり俺の事が東郷みたいって、言いたいんだろ?」

 

 必死に、拙い誤魔化し方だが言葉には出来た。

 冷や汗が止まらない。

 

「あー、うん。そうかな?」

「そうだろ?」

「そうかも!」

 

 なんとかなった。

 じゃあ手を洗ってくるね、と言い洗面所に向かう姉を見送り、溜め込んでいた息を吐き出す。姉にとって、親の話題は厳禁だ。

 思い出せば、姉の精神は崩壊して、姉はまた姉では無くなる。もうあんな姿は見たくない。

 

「話さないといけない。パイセンの事も、姉貴の事も。でも......」

 

 大事なものが壊れると知っていて、破壊する為のスイッチを喜んで押す人間はいない。

 だから俺は話せない。

 そんな俺の苦悩は姉が手洗いから戻ってくるまで続いた。

 

 

 ♦︎

 

 

「おぇっ...うおぇっ......おえぇぇ.........」

 

 少女は、その顔を苦痛に歪ませながら、洗面所で胃の中を空にさせる勢いで中身を吐き出していた。

 

「はぁ......!はぁ......!」

 

 記憶が混濁する。頭痛が激しい。鼓動も止まらない。なにかを考えても、雁字搦めになった思考が全てを拒否して嘔吐感を増させた。

 ただ、「思い出したら自分が壊れそう」だという事だけが分かる。

 

 少女は目の前の鑑を見た。

 酷く歪んだ顔。シワが寄っている眉間。少なくとも彼女の弟の前に出せる顔ではない。

 口元には吐瀉物の一部が張り付き、流してもいない洗面台からは異臭が漂っている。この異臭が、今この瞬間を現実だと再確認させていた。

 

「情け、ないなぁ......私」

 

 ぽつりと呟きながら蛇口を捻り水を出す。記憶と思考を洗い流すかのように吐瀉物ごと排水溝へ流れていく水。

 顔も洗い、タオルで顔を拭った時には歪んだ顔もだいぶマシになっていた。

 

 記憶は戻らない。

 生まれてからの記憶の一部に、齟齬がある事を少女は知っていた。

 それが悪い事ではない事も知っている。弟が私を助ける為に記憶を消してくれた、と少女は気付いていた。

 結局、それを弟に聞くことは無かった。

 つい先程でさえ、弟は顔を悲壮に歪めて誤魔化そうとしていたのを少女は知っている。

 だから聞けなかった。弟が私の為にしてくれたんだ、と。私が思い出せば、酷い結末が待っている筈だ、と。そう姉である少女は理解出来たから。

 

「ゆうくん、私...頑張るから」

 

 姉、結城友奈は皆の為、そしてたった一人の家族の為、自分と同じ時間に生まれた半身の弟である結城勇祐の為に、勇者になった。彼が生きる日常を守れ、と。心が、失くしたはずの記憶がそう言っている気がしたから。

 もちろん、勇祐が居なくとも友奈は勇者になったであろう。友奈は一人で抱える性質だが、諦めない強い心を持っていた。

 

 最近の勇祐の顔が暗い事も、友奈は知っている。

 何か隠し事がある事も知っている。

 バーテックスとの戦いで出て来たあの白い仮面を被った存在が勇祐に近い存在、いや勇祐本人である事も、勇者部の女子会と称した作戦会議で話すうちに友奈だけが気付いた。

 いつか話してくれる。友奈はそう確信していた。だから他の誰かに話していない。

 

 結城友奈は勇者である。

 だから、悩み苦しむ双子の弟を救う事だって出来るはずだと確信している。

 

「私は、勇者だから。だから待っていてね、ゆうくん」

 

 記憶が消えても、姉として弟を守る。その想いだけは消えない。

 




結城勇祐
色々とやらかした過去。罪悪感で押しつぶされそうだけど日々をなんとか生きている。

結城友奈
弟の悩みはお見通し。お姉ちゃんは強いんだから。更に覚悟を決める。超ワルな弟の為にがんばるぞい!

犬吠埼パイセン
もう私が教えるこたぁ何もねぇ!だからうどん作って!勇祐が作るうどん美味しいから!でも樹はまだ嫁には出さねーぞコラァ!喰らえ!錐揉み回転キック!!

犬吠埼後輩
やっと仲良くなれた。良かったね。それはそうとギター弾いてもらってる時に無意識だが鼻歌を歌っていた。勇祐曰く「可愛い」らしい。
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