「おい、みどう! 将来の夢てお前」
「あはははは!!」
いやな笑い声が響く。
なんでやの?
「笑かすなギャグか?」
「ムリやろこれは!」
「ムリムリ!」
『スポーツ選手』と書かれたボクの夢を、皆笑う。
なんでやの?
「おまえバスケで転がってボール追いかけよったやろ」
「水泳もこいつまだビート版やで」
なんでやの―――
ロードレースは世界で一番過酷なスポーツなんや。
自転車と身体ひとつで、一日100キロ走るんや。
世界で一番過酷なスポーツなんや!
スゴいんや、めっちゃ早いんや!
なのになんで―――!
「俺が描き直したるわ」
クラスメイトの一人が、ボクが描いた夢を、汚そうとする。
やめろ、やめろや。
それはボクの夢なんや―――!
「はいどーん」
「ぐばぁ!?」
その時、そのクラスメイトの顔面にドロップキックが炸裂した。
「よっちゃん!?」
「おいお前、なんや!? いきなりとび蹴り食らわしてからに!」
「お前、昨日東京から転校してきた奴やな!? 何のつもりや?!」
「何のつもりや、だと? むかついたからやっただけだよバーカ」
――怒っとる。
なんでや。何のためや?
「人様の夢を笑ってたお前らの馬鹿笑いが気色悪かったんだよバカ。バスケができないだけでなんだ。ビート版でしか泳げない奴は夢を持っちゃいけねえのかよ」
そいつはあっという間にクラスメイトを殴り倒し、ボクの方へ歩いてきよった。
「大丈夫か?」
「――なんでや」
「え?」
「なんで助けたんや」
「え?あー……スポーツ選手。超かっこいいじゃん。それを笑ってるこのボケ共が許せなかっただけだ。噂には聞いてたけど、大阪ってアホが多いんだなー」
「…………」
「バスケとかサッカーできる奴より、たった一つのことを頑張れるやつの方が、すごいに決まってるじゃん。なあ?」
100コのことできるより、1コのことトコトンできる方が絶対エライやろ
驚いた。
ボク以外にも、そんなことを考える奴がおったなんて。
「えーっと、名前なんだっけ?」
「――御堂筋。
「御堂筋か。俺は
そう言って、にっこり笑った。
それがボクゥと新の出会いやった。
―――――――――――――
「へぇ!これがロードバイクなのか!!」
「……せや」
「ちょっと走ってみてくれよ、御堂筋!」
―――――――――――――
「うぉーーーー!速ぇ!! こんなに速いのかよ!! お前、本当は凄い奴だったんだな!!」
「……」
「……ちょっと照れた?」
「な、照れてへんわ!」
「嘘だー、このこのー」
「キモいわ、お前!」
「決めた!」
「?」
「俺もロードバイク乗る!!」
「……は?」
―――――――――――――
「おーい、待ってくれよ……ぜぇ、ぜぇ……」
「……なんでついてくるんや……」
「俺は……お前と走りたいんだっての……察しろバーカ……ぜぇ」
「……意味わからんわ」
「アー!? 置いてくな、アホ―筋ーー!!」
―――――――――――――
「ぜぇ、ぜぇ……追いついたぞ、御堂筋」
「……めっちゃ速くなってるやん」
「当たり前だっての……でもお前、やっぱ本当にはえーな……50m走ならぜってえ負けねえけど……」
「なんで、笑ってるんや」
「だって……ははっ、お前に追いつけたのが嬉しくてな……楽しくなっちまうんだよ……」
「……」(キキィ)
「あ? 休憩? ってここ……病院?」
―――――――――――――
「君が翔が言うとった新君かー!」
「え、御堂筋のお母さん?めっちゃ美人だな!」
「翔から聴いとるよー。学校の親友やって」
「え?親友?」
「ちょ、母さん!」
―――――――――――――
「なぁ、御堂筋のおばさん」
「ん、どうしたの新君」
「おばさん、死ぬの?」
「―――――――」
「おばさん、俺の母さんと同じ顔しとる。もうすぐ死ぬって顔しとる。俺の母さんが入院して死んだ時と同じ顔や」
「…………君がここに来るようになってから一年かぁ。関西弁も、ずっとうまくなったなぁ」
「引っ越してから随分経つしのー。まあ、まだ標準語が出るんだけど」
「なぁ、新君」
「なに?」
「翔をよろしく頼むわ」
「―――――」
「恥ずかしがり屋で、不器用な子やけど――これからもずっと、仲良くしてやってや」
「――当たり前や」
「……あ、これ翔には内緒やで?」
「分かってるよ、おばさん」
「(……丸聞こえや)」
―――――――――――――
「――――おばさん、死んじゃったな」
「…………」
「……なぁ、翔」
「……なんや、新」
「ロードレース、あるやん」
「あるなぁ」
「それに勝って、勝ちまくって――俺達の名前を、天国まで轟かせようや。おばさんに、『夢が叶った』って報告しようや」
「夢? ――――あ」
「スポーツ選手、なるんやろ。手伝ったるわ」
「手伝う、て……」
「ロードレース、俺まだ出たことないけど、確かアシストってのがあるんやろ? エースをゴールまで連れてく奴や。俺がそれになったるわ。お前がエースで、俺がアシストや」
「――新」
「俺とお前が勝つところ、天国のおばさんに見せてやろうやないか!」
「―――うん、ほやな。ボクとキミで、勝ち続けるで!!」
「じゃあ誓いのポーズや。拳を突き出せ!!」
――――ガッ
拳をぶつける。
その痛みは、前に自転車で落車した時よりも痛くて、びりびりして―――
ボク達の夢が始まった瞬間やった。
―――――――――――――
「母親が死んだ言うの、それ嘘やで。弱泉君」
「な、テメェ!」
「悪いな、エース君。これも勉強や思うて、今日は負けてくれや。今日勝つのはこいつやからな!」
「さぁ行くで新!全開で引けや!」
「当たり前だ!!置いてかれるなよ翔ァ!」
「くっそ、なんだあいつら!俺が追いつけないなんて……!」
―――――――――――――
「エースナンバーのイチは、ボクがつける」
「アシストの証、二番は、俺がつける」
「!?」
「はぁ!?」
「コースは任せます」
「一勝負してもらえませんか、エースさん、それで分かってもらえると思うんで」
「勝負はそっちの上級生4人と、ボクと新、二人の4対2や」
―――――――――――――
「なんだ!?壇上に二人上がったぞ!?」
「京都伏見にあんなやつがいたのか!?」
「二人ともでけぇ……!」
「おお、注目されてるなぁ」
「なんや、緊張してるんか新」
「まさか。楽しくで笑っちまうわ」
『今年の抱負は、箱根学園ブッ潰しまーす』
「なんだあいつ!?」
「マイク持ってハコガクに喧嘩売ったぞ!?」
「ほら、新もなんか言いや」
「えー…しゃーないな」
『えー……。ゴホン。今年、一番最初に俺達がゴールするんでシクヨロ』
『京都伏見一年、御堂筋翔と大坂新』
『このインターハイを踏み台にして世界にはばたく男達です』
3年間のロードレース、インターハイで、後に台風の眼と呼ばれる京都伏見の男の伝説が始まる。