世界をぶっ潰して羽ばたこう   作:ガオーさん

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「人って字は人と人が支えるから人って書くって言うけど」
「はぁ」
「俺達の場合は、絶対翔が支えられる側で、俺が支える奴だよな」
「せやなぁ。キミィはボクのアシストやからなぁ。ついでに言えば、石垣くん達ザクゥも、支える側や。ボクの勝利を支える発射台や」
「まぁ、知ってたけども。最近は先輩方の反発もまあ収まってきたしなぁ」

 スポーツというのは、残酷だ。競技と言うのは、残酷だ。

 争い、競い合う。そこに生まれるのは、敗者か、勝者か。

 勝つか負けるか。

 究極的に言えばそれだけだ。自らの強さを証明するなら、勝つしかない。

 そこに友情や仲間などと言った、所謂綺麗な物は必要ない。

 いや、必要がないどころか邪魔な物だと言うのが御堂筋翔の考え方。

 根源。

 ただただ勝利を求める御堂筋のスタイルに、案の定京都伏見の先輩方は猛反発だった。

 インターハイで全国九位という成績(トップ10に食い込むのはそれはそれですごいことなのだが)にある種の満足感を得ていた彼らにとって、御堂筋翔と大坂新はある種の劇薬だった。

 仲良くわきあいあいした京都伏見自転車部は一気に軍隊のようになった。

 練習は御堂筋と大坂の指導によって倍以上にきつくなった。

 そして彼らは、御堂筋翔というエースをゴールまで辿り着かせるだけの兵隊になるよう強いられた。

 全ては優勝するため。そう言い聞かせて。

「翔のスポーツマンシップを鼻くそみたいに扱う精神にはいつも恐れ入るよ」
「ぷくく。ありがとうなぁ新」
「いや別に褒めてねえし」


「まぁ、ええよ。お前が突き進む道を、俺は手助けするだけや」
「……ハッ、キモォ。せやけどな、新ぁ」
「?」
「君ぃはザクやない。ボクと同じ、特別や。支えられる側とちゃう」

 母親かしかいなかった自分を、助けてくれた。
 自分の夢をすごいと、手伝うと、唯一認めてくれた友達。
 御堂筋翔にとって、大坂新は特別だった。
 それは親友としてもだし、ロードレーサーとして唯一認められる男だった。

「買い被んなよ」
「いーや」


「キミィは特別や。それはボクゥが証明する。ボクゥが勝てば、ボク達二人が強いってことやからなぁ」

 にまりと、口角を釣り上げる。
 彼のトレードマークでもある白い歯がきらりと光った。


発射台の力

 

 

「頼むぜ福ちゃん!」

「頼みます金城さん!」

 

 

 

『千葉総北、神奈川箱根学園が残り500メートルでエースを出すぞぉ!!』

 

 

 今泉、荒北二人はそれぞれのエースを発射するため、二人の後ろに回り押し出す。

 

「「おぉぉおおおおおおおおお!!」」

 

 

「お願いします!」

「っけぇ! 福ちゃん!」

 

 

「神奈川と千葉のエースが飛び出した!」

「いっけぇぇ!」

「どっちだ!」

 

 

 インターハイ一日目のゴールを獲るのはどっちだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺らに決まってるだろタコ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 ――まず最初に見えたのは、91番というゼッケン。

 紫色のジャージ。

 

 忘れたくても忘れられない、俺がこのレースで絶対勝つと誓った相手、御堂筋だった。

 

 

 

「み……御堂筋!」

 

 

 直感で分かる。あの時と同じだ。

 こいつ、ゴールを狙ってる!

 

 

「なんだあいつ!」

 

 

「京都伏見だ!」

「後続の集団から飛び出してきたんだ!!」

「あの壇上にいた二人がゴールを狙う気だ!」

 

 

 ―――待て。二人?

 

「おい翔、はやりすぎだ。まだ俺のアシスト中だろうが。300mまで俺が引くんやろ」

「ぷくく……すまんなぁ新ぁ。弱い弱い、弱泉君がいたからぁ、思わず飛び出してしもうたわぁ。その間抜けな面、いつ見てもキモイわぁ」

 

 俺の横をすっと通り抜けるように見えたのは、御堂筋と同じ紫のジャージ。92番のゼッケン。白のキャノンデールだ。

 

「大坂……新ぁ!!」

 

 中学時代、俺を負けさせた御堂筋と大坂。

 俺はこの二人に騙され、5分以上の差をつけてやられてたんだ。

 

 

「てめぇらエース狙う気かよ!」

 

「くそが一年どもぉ!!」

 

 御堂筋達はあっという間に俺を抜き、俺も追いつくため再びダンシングに入る。後ろからハコガクの荒北さんも追ってきているようだったが、後ろに構っている暇はない!

 

 こいつら、本当に速い! このままだとエースに追いつかれる!

 

「く!ぐぉおお!」

 

 足がおっもい!!荒北さんとの勝負で脚を使い過ぎた、けど動け、俺の脚!

 

「くそ!張り付くのがやっとだ!」

 

 とにかくオレが!オレが!! 気になる要素は払い落としておかなきゃいけねえんだ!!

 

 

「あらら、付いてきてるやん今泉」

 

 大坂がちらりとこちらを振り向く。

 御堂筋に負けない長身。長い脚。

 そして止まらねえケイデンス!

 こっちはもう脚を使い切ってるってのに、疲れてる気配が見えない!

 

「後続から御堂筋を引っ張ってきたっていうのに、どんなスタミナしてやがんだ!!」

「悪いねぇ、今泉。スタミナだったら誰にも負ける気しねえんだわ」

「!!」

 

 

「総北今泉、箱学荒北、京都伏見の二人に必死に食らいつく!!」

「ゴールまで残り、300メートル!」

 

「予定通りやん、新ぁ」

 

「!?」

 

「レースに勝つために必要な物はなんやと思う? それはな――」

 

「勝利のことだけ考えること」

 

 御堂筋の言葉を繋げるように、大坂が言う。

 

「ゴールの位置、地形、距離、人数、実力、速度を計算してそれだけ狙って走ること。だろ。耳にタコができるまで訊いたよ……」

 

「ボクはなこのレース、くだらないファーストリザルトや山岳リザルトは初めから捨てとったんよ? その為に今の今まで、後続でボクは新の脚を溜めさせたんや。そして、残り500メートルで追いつき、新にアシストさせてボクがゴールを獲る!ぷくくく……予定通りすぎて笑いが止まらんなぁ」

 

「なあ、翔。そろそろアウター使ってや。俺もう疲れたわ。あとシクヨロ~」

 

「!?」

 

「ぷくく……もうちょいがんばりぃや新」

「お前だったらここから余裕で勝てるだろ。はよせえ。王様の為のゴール、さっさと獲れや」

 

 大坂はそうぼやくように言うと、御堂筋の前の道を空けた。

 その際、俺と荒北さんの前を塞ぐように。

 

「くっそ、どけ大坂ぁ!!」

 

 俺が叫ぶが、大坂はどく気配を見せない。

 

「上手い!京都伏見の大坂新、エースを出すタイミングと同時に後ろの二人をブロッキング!!」

 

「くっ!一年がぁ!!」

 

「……そうそう。あとさっきのに付け加えるなら―――自分のとっておきは、最後の際まで見せたアカンいうことや」

 

 そう言って御堂筋は―――左手の指のテーピングを外した。

 

「アウター…? まさか、封じてたのか今の今まで!」

 

「新がおるなら、ここに来るまでフロントで十分や」

 

 フロントとアウター、同じギアでも大きな違いがある。

 一言で言うなら、アウターの方がずっと速い。だがアウターはペダルが重くなり、使う体力も比べものにならないぐらい消費する。だがロードレースに置いてアウターは重要だ。加速するための必需品と言っても過言ではない。

 なのに御堂筋は一度も使わずに……先頭まで……!?

 

 

「予定通りや……新ぁ。残りはボクが行く!!」

 

「ほらいけ、エース。さっさとハコガクぶっ潰してこい」

 

「いぃぃいいい……」

 

 御堂筋が下ハンドルを握り、ダンシングを始める。

 ゴールスプリントの体勢に……!

 

 

「イヤハァァアアア」

 

 

 そして、俺は御堂筋に追いつけず―――

 

 ゴールまで残り150メートルまで足を残していた御堂筋はあっという間にエース二人に追いつき。

 

 一日目、インターハイに最初にゴールしたのは、京都伏見だった。

 

 

 

 

 

 

 


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