ぐらさい日記   作:長之助

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ママ姉

「グラン! 今日も特訓に行くぞ!」

 

 揺れる胸部、揺れる髪、凛々しく生えている大きな角。構えられしは強力な槍。ダークドラグーン団長兼騎空艇グランサイファーの一員フォルテ。とある日に、グランは彼女に誘われていた。

 

「グランちゃんグランちゃん! 今日もお姉ちゃんがアーンしてあげる!」

 

 上下する胸部、左右に動く髪、太く逞しく生えている角。構えしは身長以上に長い刀。蝶のように舞い、蜂のように刺すを体現せしグランサイファーの一員ナルメア。別の日にはグランは彼女に甘やかされていた。

 

「グラン! 何をだらけている! 今から訓練をするぞ!!」

 

 また別の日に、グランはフォルテに部屋から連れ出されてみっちりとしごかれた。足が棒のようになり、完全に動けなくなるまでその日はガッツリとされた。

 

「グランちゃん! お姉ちゃんがいっぱいなでなでしてあげるね!」

 

 また別の日に、グランはナルメアに部屋から連れ出されて別室でみっちりと甘やかされた。足が棒のようになり、完全に動けなくなるまでその日はガッツリとされた。

 

「グラン! 行くぞ!!」

 

 また別の日、フォルテはグランと共に魔物退治に出かけた。その日は夜になるまでグランはグランサイファーに姿を現すことは無かった。

 

「グランちゃん! ゆっくりしよ!」

 

 さらに別の日、ナルメアはグランと共に部屋でゆったりとしていた。その日は夜になるまでグランはグランサイファーに姿を現すことは無かった。

 

「グラン!」

 

 またまた別の日、グランは出かけた。3日経ったら姿を現した。

 

「グランちゃん!」

 

 さらなる別の日、グランは部屋から出なかった。3日経ったら姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「極端!! すぎるっっっっっっっ!!!!!!」

 

 2人を呼び出して、グランは珍しく感情を暴走させていた。それもその筈だ、飴と鞭とは言うがこの2人に関する日常は飴と鞭どころの騒ぎではない。糖尿病と八つ裂きくらいの差である。

 

「ナルメアが甘やかすからだ!」

 

「フォルテちゃんこそ、グランちゃんを厳しくしすぎだよ……3日経っても帰ってこなかった時もあったよ……?」

 

「依頼を受けていたんだ! 寧ろグランサイファーにいるにも関わらず部屋から3日も出ていない事の方が恐ろしいぞ!?」

 

「確かに」

 

 流石に3日も部屋から出ていないのはグランも反省していた。あまりにも何でもされすぎて、感覚が一時的に麻痺してしまっていたようだ。

 

「兎に角!! あんまり極端なのはやめて欲しい!!」

 

「腑抜けている貴様が悪い!!」

 

「休まないグランちゃんが悪い!!」

 

「……ほう、そんなこと言っちゃうか」

 

 珍しくオーラを醸し出すグラン。その異様な雰囲気に、フォルテとナルメアは呑まれかけていた。しかし、そこは歴戦の猛者である2人。何とか耐えていた。

 

「なんだ? 団長権限でも使うつもりか?」

 

「あぁ使わせてもらう! これから2人はやり方を入れ替えてみなさい!!」

 

「え、えぇ!?」

 

 やり方を入れ替える。つまり、ナルメア級の甘やかしをフォルテが……フォルテ級のスパルタをナルメアが行うという事である。無論、フォルテは兎も角としてもナルメアは不可能の極みである。

 

「無理っ!! グランちゃんに厳しくなんて出来ない!!」

 

「1回自分達がやってたことをお互いに感じなさい!!」

 

 明らかに対処法が間違っているのだが、それはそれこれはこれ。単純にグランはそのやりづらさを味わって欲しいのと同時にレアな2人を眺めていたいだけである。

 

「いいだろう! しかし私たちがそれをするメリットはあるのか!?」

 

「1週間! それで音を上げなかったら俺がなんでもしてやろう!」

 

「ならば私が音を上げなかったら、貴様はダークドラグーンの一員にしてやる!!」

 

「いいだろう! やってやろうじゃないか!!」

 

「男に二言はないな!?」

 

「男に二言はないよ!!」

 

 ノリと勢いとスピーディー差によって、フォルテはグランを極端に甘やかすことにした。無論、音をあげることはまず有り得なかった。だが、この安易な行動が後の自分の首を絞めていることに……フォルテはまだ気づいていなかった。

 

「わ、私は……!」

 

「どうする!? ナルメア!!」

 

「あ、あわわ……あわわ……! はうづ!!」

 

 変な叫び声を上げて、ナルメアは気絶した。どうやら、思考能力がオーバーして爆発してしまったようである。

 

「ナルメアは気絶したか……奴は母性四天王の中でも最強……それ故に母性のない行動は彼女にとっては、自らの寿命を縮めるに等しい……」

 

「何を言ってるんだ貴様は……」

 

「じゃあ明日からな! 明日から1週間だ! 正確には日付が変わった瞬間が始まりで同じく日付が変わった瞬間が終わり!」

 

「いいだろう!」

 

 こうして、フォルテはグランをこれから甘えに甘やかす生活を送ることになるのであった。しかし、ナルメアは一切そんな事しなくてもいいという話になったので……本当にやるのはフォルテだけ、という話なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、グラン! 今日は私が膝枕をしてやるからな!」

 

「……うーん」

 

「な、なんだ……甘やかすとはこういうことでは無いのか……?」

 

 翌日、早速開始したフォルテだが……開幕グランの渋い顔を見てしまったのでつい反論し返していた。しかし、その当の本人であるグラン自身も何が気に食わないのはよくわかっていないようであった。

 

「いや、確かに合ってるんだけど……」

 

「だったら何がダメなのだ……」

 

「……そうか、言葉使いか」

 

「こ、言葉まで縛るのか……!?」

 

「縛れるものはなんだって縛る! 無論それがにょた」

 

 グランの頭が、まるで後ろから何かをぶつけられたかのような……そんな急降下を見せる。無論、グランの後ろには誰もいなかった。しかし、グランの頭には大きな大きな斧が軽く刺さっていた。

 

「縛れるものはなんだって縛っていこう、それが己を鍛える唯一の方法なんだから」

 

「……頭、なにか刺さっているが……」

 

「大丈夫大丈夫、ちゃんとダメージ抑えてあるから。後は内功とかで何とか耐えとくから」

 

「そうか……」

 

 改めてグランが人間かどうか怪しくなってきたところで、フォルテは考えるのをやめた。正確には、考えるのをやめておかないとこれから先絶対苦労するのを予想してしまったからだ。大切な団長ではあるが、偶にはこうしないといけないようなときもある、という事である。

 

「……では、どうすればいいのだ?」

 

「まぁ待て……今からお前が全力で甘やかせるようにしてあげるからな」

 

 頭には斧が刺さった状態だったが、もうグランは特に気にすることも無く続けていく。その光景をただフォルテは眺めているだけなのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、ナルメアが人を甘やかさせる秘訣300選という本を作ってくれました。これを熟読で」

 

「なん、だと……」

 

 1時間ほど経ってから、グランが太い本をフォルテの前に置いていた。フォルテは驚いていたが、グランを甘やかさせるということを言ってしまっている以上後には引けなくなっている。

 

「くっ……な、ならばやってやろう!!」

 

「いい心構えだ、それを読み終えてからまたやるとしよう」

 

「いいだろう! 待っているがいい!!」

 

 グランは格好つけてフォルテのいる部屋から出ていく。そして、その部屋の前にはナルメアが立っていた。

 

「大丈夫かな……?」

 

「フォルテなら大丈夫だろう、ああ見えて人の事をよく見てたりするからな」

 

「なら、いいけど……」

 

 本気を出すことの定評は、フォルテはかなり高い。努力は必ず稔るものだと、彼女自身がその行動を持って示してくれているのが何よりの証拠である。

 それ故に、グランは信じているのだ。フォルテが人を甘やかせられる天才になるということに……

 しかし、確かにグランは信じていたのだ。だが、その信用は過小評価と言わざるを得ない結果になってしまうことを……彼は全く理解していなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁーい、ママだよ〜」

 

「……」

 

 グランは無表情だった。そう、甘やかすことに特化したフォルテは彼の予想を遥かに上回る結果となったのだった。そう、甘やかしに特化し過ぎて……本気で甘やかしすぎたのだ。

 

「あーん!」

 

 飯を食おうとすれば、まず口に運んでくれる。グランが手を動かす必要すらなく、まるで両手を骨折しているのではないかとグランが疑われるほどである。

 

「お風呂行こうね〜」

 

 移動する時もグランを抱き抱えて移動する。普段大きな槍を使っているために、筋力はきちんとあるということだろう。一切の動きがないことで、グラン本人ではなくよく似た別人ではないかと疑われるほどになったのだ。

 

「体、洗ってあげるから!」

 

 そして風呂まで一緒に……とはならない。流石にリーシャが止めていた。ここまで説明していたが、グランは無表情である。

 無表情というか、はっきりいえば虚無となっている。だが、その甘やかしが続いた場合……どういった事態を巻き起こしてしまうのか。

 

「ママァ……」

 

「グランちゃん!?」

 

 そう、何も出来ない赤ん坊と化すのだ。紙幣を渡されたらよくわからず口に含んだり、甘やかしてくれる女性がいれば年齢問わず甘えようとしたり、そのようなちょっとダメなタイプの男になりかけていた。

 

「ほらぁ、おねんねしましょうね〜」

 

 そして、あまりにもグランを甘やかしたが故にフォルテも自身を見失っていた。はっきりいえば、彼女はもはや以前の彼女ではなくなっていた。

 

「ママァ……」

 

「はぁい、ママですよ〜」

 

「こ、こんな事になるなんて……」

 

 一体何がこんな事態を引き起こしてしまったのだろうか、誰が原因でこんなことが起こってしまったのだろうか。ナルメアは記憶を辿るが、誰が悪いとも何が原因なのかもわからないままただただ時間だけが過ぎていっていた。

 

「わ、分からない……もう……グランちゃんとフォルテちゃんがどうなるのか……私にはわからないわ……」

 

「ママァ……」

 

「ふふふ」

 

 すっかり母親となったフォルテ。その甘やかしは一人の男を堕落させた。早くしなければ、この団は早々に終わってしまうだろう。それだけは避けねばならない。団が解散したら、グランはどうやって生きていけばいいのか。

 ナルメアは団が解散したら自分がグランを甘やかすとだけ考えていたが、しかし今の団の仲間と離れるのは彼女としてもとても辛いのだ。

 

「わ、私がなんとかしないと……」

 

 その後、ナルメアの尽力によりグランはなんとか社会復帰できるようになった。その方法を問いかけても、彼女はただ顔を俯かせるだけであった。しかし、フォルテの方はそうはいかなかった。

 ひたすらに甘やかす……その行為が彼女にとっては壮大な黒歴史になってしまっていた。故に、グランとともに立ち直りはしたものの彼女の心は深く傷ついたままになっていた。

 グランとフォルテが理性を取り戻すまでにかかった期間は1週間、その後さらにフォルテが立ち直るまでに約2週間……計3週間かけて、グランサイファーはなんとか立て直すことが出来たのであった。




サラとヤイアにひたすらに甘やかされてダメ男になりたいだけの人生だった

偶には長編とか書いて欲しい

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