「グランはどこだー!」
「団長を探せー!」
本日はグランサイファーもハロウィン1色だった。船のありとあらゆるところがハロウィン仕様になっており、団員全員でハロウィンという行事を楽しんでいるのがとても伝わる状態である。
「トリックオアトリートさせろー!」
「お菓子くれなきゃイタズラするぞー!」
そして、ハロウィンを楽しむ者は色々な楽しみ方をしている。お菓子を作り分け与えるもの、子供たちに混じってお菓子を強奪しに行く者。多種多様に別れているとはいえ、皆一様に楽しんでいることはとても理解ができる。
「……」
そして、そんな楽しいパーティの中……グランはたった1人グランサイファーで隠れていた。それはそれは見事なステルススキルを発揮しており、忍者もびっくりと言わんばかりのものであった。
「……クリア、このまま進んでいこう」
この日のためだけに作られたかぼちゃの置物、大体160cm程あるのでグランはなんとか中に隠れることが出来ていた。ちょうどいい具合に中に入れるスペースもあるのがいい塩梅である。
「回避しなければならない……絶対に……全てを……」
何故グランはこんなに逃げ回り隠れているのか。それはハロウィンパーティが始まる数日前の話である。
「━━━ん? こんな時間に食堂から声が……」
その日、グランは少し寝付けず巡回がてらグランサイファーを練り歩いていた。満遍なく1周すればそれなりに運動になるので、眠気を誘ったり目を覚まさせたり体を温めるにはちょうどいいと判断したためである。
「俺が言えた事じゃないけど……一体誰が起きているのやら……」
グランはこっそりと食堂の扉に耳を当てる。中から聞こえてきたのは、複数の女性の声、グランは仲間当てクイズでは自身があるので誰が話しているかまできっちりと判断することが出来る。
「━━━やはり、勝負形式にするしかないと思われます」
「……この声はヘルエス? 勝負形式って……一体何を……」
まず最初に耳に入ってきたのは、やけに真剣なヘルエスの声。彼女が真剣になっているということは、結構シリアスな話に違いないとグランは注意を更に食堂に注いでいく。
「……誰が1番早く、グランの『初めて』を奪えるか」
「……危険信号が爆爆滅滅……」
本来なら女性に取り合われるというのは、グランと言わず大体の男が歓喜する事だろう。しかも軒並み美人とくれば尚更である。だが、これが勝負形式ということは下手をすればグランの体が物理的に引き裂かれかねないのだ。
「ほ、ほかに誰が……」
「しかし、だ……無理やり襲っては彼にトラウマを植え付けることになりはしないだろうか」
「この声は……イルザ……よし、年上の威厳……! 姐さん最高っす……!」
その言葉はイルザが泣きかねない&ヘルエスもイルザと同年代という事を忘れているグラン。しかし、今のイルザの意見はグランのハロウィンの運命を左右していることは間違いがないのだ。
「そ、そうだぞ……それに折角のハロウィンでそんなハレンチな真似が……」
「シルヴァまで……できれば中を覗きたいけど、勘が鋭い誰かがいるだけで終わりかねない……」
可能な限りの警戒を持って、グランは中の様子を音だけで判別しなければならない。そのまま、監視を続けていく。全く見ていないので監視とはまた違うかもしれないが。
「そうよ、誰か1人だけ彼とハッピーエンドを迎えたら他の子達にとってはバッドエンドだわ」
「コルワまで……! というかさっきからお姉さま系ばっかりなんだけど……」
「━━━というか! ウチらを無視しないでほしいんだけど!?」
「この大声は……クラリスか……」
どうやら、年上系お姉さま以外にも何人かいることだけはグランは把握出来た。何人かはわからない、しかしこのまま待機し続けていてもおそらく全容は把握出来ないだろう。
「結構な大人数がいるみたいだし……立ち去るとしようか……」
「……プレデター? どうしたのよ」
「……どうやら、ネズミがいたようよ」
「サヨナラッ━━━」
グランは低姿勢のままグランサイファーの廊下を駆け抜けていく。後ろからピンクと黒の混じったオーラを感じとっていたが、振り向いてしまえばアウトになりかねない。
グランはグランサイファーの甲板まで音速でかつ音を出さずに走りきり……なんとかその日は彼女たちを撒いたのであった。
「……せっかくのハロウィンだ、いや別にお菓子じゃなくて女性を食べ」
「この辺から気配を感じます」
リーシャの声が聞こえてくると同時に、グランは置物と同化する。その間僅か0.1秒未満とされている。一瞬すぎる行動に、リーシャも気づくことは無かった。
「……んー……?」
「……」
「……おかしい、確かに気配はするのですが……」
話し合っていた女性陣も今や危険な対象となりかけているが、いちばん危険なのはリーシャである。今回の件、グランは逃げてはいるがどちらかと言えばばっちこい派な為に粛清されかねない。グランサイファーには子供たちもいるからとかなんとか。
『まぁさすがにアルドラとかヤイアとかいるから確かに今教えるのは速すぎるよね』とグランも思ってはいる。
「……気の所為、でしょうか?」
「……」
心臓をバクバク鳴らしながら、グランは静かに待つ。自分は置物だと自己暗示をかけながら、じっと待つ。その内リーシャも気の所為だと思ったのか、その場から離れていく。
「……」
しかし、グランはまだ動かない。リーシャは突如として現れる。動いた瞬間目の前にいても何らおかしくないのだ。だが、完全に離れきったというのなら少しくらいは歩く時間があるだろうと思い、それまで待つ。
「……よし、足音は完全に離れたな」
音だけではなく、床から感じとれる振動をも感じ取ってまで完全にリーシャが離れたことを理解する。そして、再びグランは歩き続けていく。
「……島に出られても安心はできない……そうだ、島の宿屋なら比較的安全かもしれない」
島へは依頼で来ていないのだ。皆グランサイファーで寝泊まりするだろう。となれば、宿屋は案外安全地帯かもしれないと思いグランは船の外……島の宿屋へと向かって慎重に歩みを進めていく。
「……順調に来れているな、このまま行けば……っ!?」
リーシャを撒き、そしてあまたの女性陣達を避け続けてきたグランしかしその前に最強の……今現在グランの障害となり得る人物たちが目の前にいた。
「んー……? さっちゃん、この辺に匂いが残ってるって言ってるー……」
まずメルゥ。相棒のさっちゃんと共に匂いでグランの場所を検知していた。匂いで探知されているとはわかっていたが、ゴールが近いところで待ち構えられているのが、悲しいほどに合理的すぎる。
「……私の魔眼からは逃れられない……似たような置物がいっぱいあるけど、グランがこの置物を被っているところを私は確認してるわ」
十天衆ソーン。一体どこから見てたんだ、とかまさかそれずっと使ってないよね? とかグラン的には色々と聞きたいことがあるが、とりあえずグランが今の置物を被っているところは確認していたようである。
「とりあえず、全部ぶっ壊せばいいんだな!!」
十天衆サラーサ。野生で鍛えたその直感力と攻撃力は伊達ではない。今の無防備な状態でグランが狙われた場合桃太郎もびっくりの真っ二つぶりを披露することになるだろう。
「……聞こえる、グランの心の旋律が……」
十天衆ニオ。心が読める彼女一人で十分じゃないか? と思わなくもなかったグランだったが、ほか十天衆二人を連れてきてる時点で十分ガチな事だけは伝わっていた。
「ふふ……彼がここにいるのは予知で読んでいたさ。何せ、私たちが追い詰める未来が見えているのだからね」
そしてアルルメイヤ。今回に限りグランがどこに逃げるのか未来予知で見ていたようである。念には念を入れすぎだと思う、というのがグランの今の内心である。
そう、今ここに十天衆3人と他メンバー3人による6人パーティが結成されていた。
「……」
それでも物になりきるしかないグラン。しかしこのままでは捕まってしまう。どうするか頭を必死に回す。猶予は全くない。こうやって考えていること自体、ニオは読んでいるかもしれない……とここまで考えてグランは閃いた。
「……っ!?」
「に、ニオ!? どうしたの!?」
突如として顔を真っ赤にして悶え始めるニオ。そう、心が読めるのならとグランはひたすら卑猥な妄想を……しかもニオで行っていた。それを読んでしまったニオは、あまりの恥ずかしさに完全に機能しなくなっていた。
「くっ……けど彼がここにいるのは間違いがないようだね」
「そうね……けど、一体どこに……」
「……匂いを追えば……簡単だよね、さっちゃん」
「……」
仮面をつけたさっちゃんの力を借りてるメルゥ。ニオは戦闘不能に陥らせることが可能だったが、メルゥ……もといさっちゃんは簡単に行く相手ではない。かぼちゃの匂いで最悪誤魔化せていたらいいと、グランは願うしかないのだ。
「くっ……ここまでか……!?」
グランはかぼちゃの置物の中で呟く。さっちゃんは段々とグランに近づいていく。グランはさらに素早く頭を回転させて、なんとか回避しようと務める。
だが、現実は無慈悲也哉……さっちゃんはグランのかぼちゃの前に止まってそのかぼちゃの中に手を伸ばす。
「━━━こうなったら……背に腹はかえられぬ!!」
その言葉とともにグランはジョブチェンジしつつ脱出する。ジョブチェンジ先はソルジャーだ。理由は簡単、弾丸をばらまけるからである。無論、ちゃんとケガしないように中身はペイント弾である。
「逃げたわ!!」
「ふふ……君の逃げる先は読んでいるよ」
「読んでいるからと言って追いつけるとは限らない事だな!!」
「そもそも……私の魔眼から逃れられるとでも……!」
「悪いなソーン! お前の目は貰うぞ!!」
そう言ってグランは1冊のノートを持ち出して、それをソーンたちの方向に投げる。そのノートはアルルメイヤ達からは全く見えないが、魔眼を持つソーンはそのノートの中身を完全に見てしまっていた。
「……! そ、そのノートどこから持ってきたの!?」
「ソーン!?」
投げられたノートに対して、真っ赤に赤面するソーン。アルルメイヤ達はなんのことか分からないが、これでソーンも使い物にならなくなっていた。
「だったらあたしだ!!」
「サラーサ! 俺の味方をしてくれたらいっぱい美味しいもの食べさせてやるぞ!!」
「なっ……」
「駄目だサラーサ! 話を聞いては!!」
「毎日美味しいものを……ケーキだって大量に食わせてやるぞ!!」
「よし!! 任せろ!!!」
「サラーサ!!」
十天衆、早くも3人脱落である。それどころかうち1人はグランに寝返っていた。そしてグランはこの場をサラーサに任せて、さっさと脱出するのであった。
「というわけで任せたサラーサ!!」
「任せろ!! グラウンド━━━」
「船が壊れるからそれはダメ!!」
ハロウィンパーティだ!!時期は過ぎたが気にしない