ぐらさい日記   作:長之助

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聖乙女、私に任せてくれないか?

「本日のゲストはジャンヌさんです」

 

「よろしく頼む」

 

 戦乙女ジャンヌ、大きな旗を振りかざし戦いに赴く者を鼓舞する聖女である。趣味は裁縫とお菓子作りであり、その辺の趣味はかなり乙女なので案外女の子をしている時もあるのだ。

 

「えー、ジャンヌ……」

 

「……どうした? グラン」

 

「……いや、一時前のジャンヌって結構色っぽかったなって思って……別に今のジャンヌがダメって言うわけじゃないけど」

 

「あ、あの時のことは忘れてくれ……」

 

 ジャンヌは頬を赤らめていた。というのも、一時期ジャンヌは幽世の住人と呼ばれる者たちに騙されていた事があるのだ。ジャンヌは神を信じているが、その神に対する信仰をジャンヌから奪い闇へと堕としめたのだ。

 ただ、その時のジャンヌはまるでグランに依存するかのような態度となっており、それのことをグランは言っていたのだ。

 

「あの時の私はどうかしていたのだ……信仰を失うなんて、あってはならないのに……」

 

「まぁ、うん……あれはしょうがないと言えばしょうがない……そう言えば、最近可愛らしい服を着てたよね?」

 

「あぁ、あれは私がまだ今のようになる前に来ていた……村娘時代の服だな。引っ張り出してきて、着てみたら案外いけるということに気づいてしまってな……」

 

「なかなか可愛くて覚えてたよ」

 

「ありがとう、グラン」

 

 ジャンヌの昔の服、白の服にピンクのスカート。それにグランのデフォルト装備である、篭手のみ装備をやっていた装備だ。要するに、まだジャンヌが戦乙女となる前の……聖女である前の姿とも言える。

 

「……こうやって話してるとさ」

 

「あぁ」

 

「ジャンヌもカリオストロ並に色んな服着るよね。服というか……雰囲気が変わるもの」

 

「……いや、あとほかには水着程度だろう」

 

「なんか前にかなりゆったりとした服きてなかった? 確か、ジャージとかっていう━━━」

 

「それ以上いけない」

 

「あっはい」

 

 ジャージ姿のジャンヌ。要するにいつものキリッとした雰囲気を全て薙ぎ払って生まれた、グダっているジャンヌである。ルナールの妄想によって生まれたそれを、コルワが実現しようとしてジャンヌに渡されたものだった。

 意外と動き安いために団内ではそれなりに人気が高い代物である。オシャレを気にする女子達からは、かなり不評を煽っている。コルワもオシャレとしてはナシの方向性だった。

 

「……まぁ、そんなジャンヌにもお便りはあるわけで」

 

「ほう、まぁどのような質問が来てもなるべく答えるようにしよう」

 

「というわけで1通目『あの旗って重そうですけど、重いんですか?』」

 

「軽いぞ?」

 

「嘘つけめっちゃ重かったじゃんあれ」

 

「……? 私はいつも振っているから、別にそうは思ったことは無いが……」

 

 ジャンヌのあの振り回している旗だが、普通にグランの扱っている剣よりも遥かに重い。大体、鉄の棒に巨大な布をつけているのだから、剣以上の重さになりかねないのは当たり前なのだが。

 

「多分そういうことあんまり言わない方がいいぞ?」

 

「? どうしてだ?」

 

「力持ちとかなんとか言われたりして、パワー面で頼られる」

 

「それならば団の役に立っていいじゃないか」

 

「ジャンヌよりもパワーがない男子勢は若干凹む」

 

「……」

 

 そう、剣よりも重たいものを振るっているのならば、それ以下の重みのものを奮っている男勢はそれはもう気にするのだ。ハーヴィン男性陣は元より気にしないので問題ないが、1番気にするのはドラフの男子勢である。

 あの筋肉量でジャンヌよりも重たいものを持てないと知れば、おそらく大なり小なりショックは受けてしまうだろう。

 

「……いや、さすがにそれはないだろう」

 

「いやぁ、多分受ける男子は普通にいるからなぁ」

 

 忘れられがちだが、一応非戦闘員はグランサイファーにもいるのだ。例えばローアインなどがそれに該当する。ローアインだったら最早ショックどころか感心するだろうが、とりあえず何かしらのリアクションは確実に存在するだろう。

 

「そう言えば、あの旗で攻撃ってできるの?」

 

「……できないことも無いが、完全に殴るタイプの武器になってしまうな」

 

「相手の頭が弾け飛びそう」

 

「そこまででは無いぞ!?」

 

「片手で振ってる時点であんまり信用ないってことに気づいて欲しい」

 

 大剣はその重さを利用して相手を無理やり叩き割る武器である。つまり、重みさえあれば鋭くなくても大抵どうにかなるという訳である。

 

「くっ……グランも私のことをゴリラと呼ぶのか……」

 

「呼ばれてたのか……」

 

「私が小さかった頃は、剣を振るために剣よりも重いものをよく振ったのに……何故かそれが原因でゴリラと呼ばれてしまっていて……」

 

「そうか……」

 

 同情的な視線を送るグラン。ジャンヌは悔しそうにしているが、呼ばれる方にも明確な原因があるので、簡単にフォローできないのが現状である。

 つまり、フォローではなく見て見ぬふりをするのが得策なのだ。

 

「……2通目行こうな」

 

「……あぁ」

 

「『着替えると色々開放的になるのは何故ですか?』」

 

「いや、私はそこまで開放的になった記憶は……」

 

 グランとジャンヌは、今までのジャンヌを思い出していく。

 闇に落ちたジャンヌ、よくグランに甘える。自分の体を押し付けてくる。なんでもしてくれそうな雰囲気がある。言葉の意味を理解していながらも体を密着させてくる。結論、開放的。

 水着に着替えたジャンヌ、お姉さんみが強くなる。あーんしてくる。濡れた体でも構わずにこちらを誘惑してくる。お姉さん力が強い、甘えさせてくれそう。言葉の意味を理解していながらも甘えさせてくれそう。結論、開放的。

 ジャージに着替えたジャンヌ。もうなんか凄いだらけきってる、スイッチが完全にoff、モラルもオフ、キャラもオフ……色々とオフにしてスライムになっている。結論は開放的。

 

「結構開放的だな」

 

「待て待て、最後のは関係ないだろう」

 

「うるせぇジャージ着せんぞ」

 

「くっ……卑劣な……」

 

「卑劣なの?」

 

「卑劣だ……」

 

 テーブルに突っ伏しているジャンヌ。その覇気のなさは最早ジャージジャンヌも同然、と言ったところだった。カメラがあれば写真を撮ってやりたい程であった。

 

「……そうか、そんなにジャージ嫌だったのか……」

 

「あれは私の黒歴史だ……」

 

「黒歴史は再誕するものだから後で着せるね」

 

「馬鹿な……何故そんなことをする……」

 

「だらけているジャンヌがかわいいのがいけない」

 

「……」

 

 満更でもなさそうなジャンヌの反応に、グランの嗜虐心が疼いていた。この聖女、普段はキリッとしているがどこか抜けが会った瞬間にすごくいじりやすい対象となるのだ。

 

「……そ、そうか……しかしだらけているところを褒められても嬉しくは……」

 

「じゃあ俺の部屋にずっと居ていいからずっとダラける?」

 

「……」

 

 真面目にジャンヌは思案しかけていた。しかし、聖女としての意地が彼女をなんとかだらけさせない方向へと向かわせていた。

 

「……い、いや遠慮しておこう」

 

「そうかぁ」

 

「……は、早く次のお便りを読んでくれ」

 

「はいはい……三通目『裁縫が得意ならウチで働いて欲しい』……これコルワだな」

 

「うーん……」

 

 コルワからのお便りに難色を示すジャンヌ。普段の彼女ならちゃんと何かしらのきちんとした意見を言うが、何故かあまりいい意見を言えなさそうにしていた。

 

「……どしたの?」

 

「いや、その誘いは嬉しいのだが……」

 

「だが?」

 

「彼女の裁縫速度と技術では、私は足元にも及ばないだろうと思ってな……」

 

「確かに……コルワの速度は凄まじいしな」

 

 そもそも本業と始めたての人物では、明確な差が出てきてしまうのだが……ジャンヌはそれを気にしているようだ。さすがにコルワクラスともなると、その域に達するまでに時間がかかってしまうかもしれないが、問題は無いだろう。

 

「でも、腕前は関係ないと思うぞ?」

 

「……どういうことだ?」

 

「ジャンヌは誰かのためを思って裁縫ができる、お菓子作りも一緒だけどさ……誰かのために何かができるってやっぱりすごい事だし、素晴らしい事だと思うからさ」

 

 グランは思ったことをそのまま語っていた。ジャンヌはその言葉に感銘を受けたのか、目を見開いて驚いたような表情となっていた。

 

「……考えたこともなかったな、私の趣味が誰かのためになっている……というのは」

 

「趣味だからね、誰かのためにできることをした方がいいとか……どんな趣味をやっているから偉いとかはないけどさ……ジャンヌは人の為に出来ることを、本当に趣味にできているんだからすごいと思うよ」

 

「ふふ、ありがとうグラン。少し救われた気分だよ」

 

「助けになれたのなら、俺も嬉しいよ……という訳で今回はここまでです。ご視聴ありがとうございます、また次回この番組でおあいしましょう……さようなら」

 

「……ところで、ハロウィンの時に私のお腹を触った件についてだが━━━」

 

「団長さん今の話詳しく」

 

 映像の最後に現れたのはリーシャだった。ふとジャンヌが発現したセリフによって、本日のグランの残り時間はリーシャによる尋問となったのだった。

 だが、それはグランの自業自得なので仕方ないのだ。そう、仕方ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャンヌジャンヌ」

 

「どうした? グラン」

 

「ジャー」

 

「着ないからな?」

 

「ジャー麺食べたくない? 昼に」

 

「くっ……」

 

 後日、グランからのジャージ煽りは加速度的に酷くなっていた。ちなみに今の時間は、朝ご飯を食べたばかりなので完全に煽りである。

 

「いつまで私を辱めるんだ……」

 

「え? ジャンヌが俺に心を許してくれる限りずっと」

 

「君は1人になりたいのか……?」

 

「トーメンター見てみろよ、あんな顔してて仲良くしたいなんて言ってる奴がまともに見えるか?」

 

「確かに」

 

 しかし、煽っていてもすぐさまにこうやって普通に会話を始められるので、なんだかんだ仲がいいのは変わらないようである。グランもジャンヌも、お互いのことを信用しているのでできる芸当である。

 

「いやしかし、あまり煽られると少しおしおきしてしまうぞ?」

 

「ほう! どういったお仕置きをするのかな!!? ハロウィンのイタズラのような事かな!? だったら俺はジャンヌにジャージを着せるイタズラを」

 

「神槍マルテ!」

 

「こはっ!!」

 

 適当に横に薙ぎ払割られる旗。しかし重量が相当なのでグランはてこの原理も含めて簡単に吹っ飛んでいく。人間ひとりが吹き飛ぶ力を、ジャンヌは簡単に出せるのだ。

 

「……ナイスマッスル……」

 

「待て! 今の一言だけは絶対に認めない!!」

 

 ジャンヌはグランに駆け寄ろうとする。しかし、その瞬間つまずいてしまい……上から旗を振り下ろす形になった。

 

「あ━━━」

 

 神槍マルテが振り下ろされた先は、グランの神槍マルテだった。つまり、グランは今度からジータちゃんになってしまう……なんてことも無く、後日なんとかグラン君のまま復帰したのであった。




ゴリンヌ
ところでトーメンターの事をずっとトーナメンターだとおもってた

偶には長編とか書いて欲しい

  • はい(ギャグノリ)
  • はい(シリアス)
  • いいえ

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