「今日のゲストはルナールさんです」
「……コロシテ……コロシテ……」
「まるで不本意に自我が芽生えてしまった機械のような事を言うんだな」
黒いボールのようになってしまっているルナール。そんな彼女は、耽美絵師である。簡単に言えば男同志が仲良くしている十八禁の絵を描くのが趣味のハーヴィンの女性である。
「だってぇ……呼ばれてきてみたらぁ……急に閉じ込められて、番組始め出すんだもん……」
「しょうがない、要望が多かったんだよ」
「要望って何!?」
丸まったまま文句を言うルナール。結構奇妙かつシュールな光景になっているが、グランは一切のツッコミをせずにそのままトークを続けていく。
「ルナールに出て欲しいって声がいっぱいあってな」
「……いっぱいって?」
「お便りがダンボール箱30~40箱になるくらい」
「なんでそんなに多いのよォ……」
「そりゃあおこたみが9割書いてかさまししてるしね」
「そんなのノーカンよ!!」
憤るルナールだったが、時すでに遅し。グランと共に閉じ込められた部屋で、これから番組を行わなければならないのだ。
「まぁまぁ、そんな丸まってないで元に戻ってご覧よ」
「誰のせいでこうなってると……」
「誰か元凶がいるのか!?」
「くっ……」
悔しがるルナール。しかし未だに丸まっているので、最早ルナールでは無く謎の黒い玉と会話しているようにしか見えなかった。だが、本気で抵抗しないのは諦めていると言うよりは、何だかんだ興味はあったということだろう。
「……仕方ないわね……少しだけ戻ってあげる」
「ところでその丸まる特技って、ハーヴィン全員できるの?」
グランの純粋な疑問による質問、しかしその答えは返ってこずルナールは目を合わせまいと顔を背けていた。自分だけの特技なのかと、グランは無言で理解してしまった。
「またひとつルナールのことを知れた、僕は嬉しい」
「物語りの主人公のような事を……というか、私に対してかさまし以外のお便りってあるの?」
「あるよ?」
ガサゴソと漁りながら、グランは3つのお便りをルナールの目の前に置く。いつもと違うやり方に、ルナールはお便りとグランを交互に見て困惑していた。
「え、なんでこれ私の前に置くの?」
「え、なんかおかしいことしてる?」
「え?」
さらに困惑するルナール。しかし、いつもならこのままグランが読み上げるので、きっとグランが読み上げるのだろうと少しの間待っていた。
「……え、読まないの?」
「いや、かさまし以外のお便りがあったよってだけ……因みにご丁寧に名前書いてる人もいるから」
「あ、あぁそうなの……えっと……白竜騎士団のヴェインさん、ランスロットさん、パーシヴァルさん……ゴフッ」
名前を読み上げていくうちに、自分に届いたお便りの相手のことを考えてしまって、ルナールに多大な負担がかかっていた。当たり前である、イケメン4騎士……それもなんかこういい感じの空気を出している……とルナールが語る四騎士のうちの3人がお便りを出していたのだ。その負担は想像を絶するものだろう。
「ルナール! 大丈夫か!?」
「無、無理……私には、読めない……」
「じゃあ俺が変わりに読むぞ。『そういえばこの間ランちゃんと俺を漫画で書いてなかったか? ちらっとしか見てなかったんだけど』」
「ゴブッファッ!」
ルナールに甚大なダメージが入っていた。何気ないヴェインの一言が、ルナールのハートに大ダメージを与えていた。あまりにも強すぎるダメージに、ルナールは最早立ち上がることさえ出来なくなっていた。
「またルナールがダメージを受けてる……」
「な、なんで……」
「そういえばこの間言ってたぞ、ルナールがいくら呼んでも部屋から出てこないし入ってみたら一心不乱に漫画書いてたって」
「い、いつの間に……」
「飯渡しに行った時だってさ」
「……気づいたらサンドイッチがあったのはそれが原因……!?」
「おっと、まさかそれに気づいていなかったパターン?」
ルナールの集中力に少し感心している中で、自分の見られたくないものがある時は、きちんと鍵くらいはかけておこう。グランはそう思いながら次のお便りに手を伸ばしていた。
「え、まさか今ので私の1通目終わり!?」
「いや、だって……これ以上話してたら多分ダメージ負うのは……」
「そうね、私も次のお便りに移った方がいいと思うわ」
「じゃあ二通目『何故俺とジークフリートの距離が近い漫画を書いている』」
「ぎゃっはああああああああああ!?!?!!!?!!????」
まるで心臓が炸裂したかのように飛び上がり、ゴロゴロ転がるルナール。最早彼女にとってこのお便りコーナーは、ただの処刑時間と化していた。
「はぁ、はぁ……も、もうやめて欲しいわ……」
「そんなわけにもいかない……お便りなんだ、さすがに二通連続で答えないわけにもいかない」
「いやいやいやいや!! さっき答えたでしょ!?」
「駄目です」
「ほとんど同じ内容だったのだけれど!?」
「大丈夫大丈夫……あ、ごめんランスロットも同じような内容だったわ」
「うっひゃわああああああああああああああああ!!!!!」
まるで地面で跳ねる魚のように、ルナールは地面を跳ね飛んでいた。最早彼女にとって、この時間は処刑時間を超えて惨殺現場である。真っ黒から真っ赤から色々顔色が変わっていった。顔色の変貌だけなら、シャノワールに匹敵するレベルだろう。
「う、うぅ……ランヴェイかヴェイランか……パージクかジクパーか……ソレで悩んじゃうのよぉ……」
「……え、そっち?」
グランはついルナールの口から出てきた言葉に反応してしまう。もっとほかに言うことがあったんじゃないだろうか、とさえ思えてくるのだが、どうにもルナール的にはそれが一番気になったらしい。
「……仕方ないなぁ、じゃあラスト1通目……まぁなるべくルナールの書いてる物以外の質問を探してみる」
「お願いします団長様……」
「んー……お、これなんかどうだ」
「え、何?」
「『魔物の絵の書き方のコツを教えてくれ』」
「……それ、誰からとかわかる?」
「ジークフリート」
「っ━━━━」
ルナールの意識はそこで一瞬吹き飛んでいた。あまりの事態に、魂と肉体が乖離しかけてしまっていたのだ。
「っ!! はぁ、はぁ……!!」
「あまりの事態に、ルナールの命が今やばかったように思えるけど」
「だ、大丈夫……大丈夫のはずだから……」
「……で、コツとかってあるの?」
ジークフリートからの質問とはいえ、結構まともな質問なのでルナールは少し考えていた。というのも、そもそもルナールは魔物の絵を書くことに向けては天才的だったのだ。しかし、彼女的にはそれは耽美絵にはむかない為に今は矯正中なのである。それでも偶に、魔物の絵自体は書いていたりするのだが。
「……これに関しては、魔物だけに限らないわ」
「と言うと?」
「絵って、書く対象の体の特徴を掴まないと書けないのよ」
「特徴」
「例えば……私の絵を描く時に、身長を高く描いてたらおかしいわよね」
「こんな事言うのもあれだけど、ハーヴィンだしね」
「そういう事よ、視覚的なバランスを考えてかければなんとかなるものよ」
「ふむ……」
確かに、とグランは納得していた。ルナールが魔物の絵をサラサラと書けるのは、慣れている以上にその特徴を掴んでいるからなのだ。ルナールは、魔物の絵のバランスを取ることに非常に長けているため、あぁして色んな魔物の絵を書くことが出来るのである。
「……後、これに関しては単純な経験値と技能の話」
「お?」
「絵を描くには、才能がいるわ。努力の才能とかじゃなくて、ほんとに描ける才能が」
「また現実的というか、厳しいというか」
「ただ、バランスを鍛え上げることは出来るわ」
「さっき言ってた体のバランスとかの?」
「そうよ、バランスさえ合っていれば一般的に絵が下手って言われる人でも人間を書くことは出来るわ」
「よくわからんのだけど……」
「そうね……まぁこれは書いてみたら案外分かるかもしれないわね、後で部屋に来たら教えてあげるわ」
「わーい」
素直に喜ぶグラン。この時、ルナールは気づいていなかった。実は今自分がサラっと年下の男子を部屋に誘っていることに。そう、耽美絵は18歳未満は閲覧禁止のアダルティゾーンなのだ、ハーヴィンとはいえ大人の女性が未成年の男の子を部屋に誘っているのだ。
「ほんと、こういうところ見てるとやっぱり子供って思えるわね」
「ところでルナール」
「何かしら?」
「今の一言でリーシャが動き出した件について」
「何故……!?」
ルナールは全くそんな邪な気持ちがなかったので、リーシャが動くことに疑問しか抱いていなかった。しかし、言動と状況があれなので動かざるを得ないのだ。
「部屋に誘うのがそんなにおかしいの!?」
「ルナール」
「何よ」
「見た目ショタのお兄さんが、自分よりも身長の高いショタを誘ってたらどう思う?」
「まず初めにどちらが受けか攻めかを考えるわね高身長ショタ攻めというのはある意味鉄板で年上が年下にいいようにされるというのは背徳感的な興奮を覚えさせられるわでも逆のパターンの低身長男子が高身長ショタを攻めているのもまた鉄板と言えるわね年上らしいところを見せようとしてショタとイチャイチャするのは何者にも味わいがたい王道を楽しむことが出来るわそしてそのシチュエーションだとどちらかがSかMかでまた答えが変わってくるものなのよ仮に攻められる方がSだった場合もう片方もSだったらMになるか屈辱感を味わいながらもその快楽」
「それ以上話すようなら私と少しお話することになるけれど構いませんか?」
「oh.」
覚醒して話している間に追いつかれたグランとルナール。趣味の話をするのはいいが、時と場合を考えなければいけないのだとつくづく感じるのであった。
「……ところでルナールさん」
「はい、なんでしょうか……」
リーシャと二人きりになっているルナール。次に何を言われるのかわからなくて、ビクビクと脅えてしまっていた。
「……その、ハロウィンの時に着てた魔法少女衣装を……」
「何故それを知っている……」
「……お願いします……少し貸してください……!」
「……いいけど、ハーヴィンサイズだから、着れないわよ?」
「……採寸し直してもらって、私が着ます」
「……何故?」
「か、可愛いオシャレってしたくないですか……?」
この一言で、ルナールはニヤニヤしながらもリーシャに魔法少女衣装を貸し出すのであった。因みに、リーシャがこんなことを聞いたのは、グランの目の前でこの衣装を着たルナールに対抗するためだったとは、誰も知らない話なのである。
古戦場でずっと同じページを書き続けてもらっていたウチのルナール先生はリミフェリちゃんの力でよくコンテニューで体力上限をリセットしています