「今回のゲストはミラオルさんです」
「……よ、よろしくお願いするわ」
「おやおやミラオルさんや、緊張しておられるのかな?」
ニヤニヤと笑みを浮かべるグラン。明らかに理解している顔だが、ミラオルはそれに気づかないほどには赤面して緊張していた。前回のザーリリャオーの時のように、自分もまた辱められてしまうと確信しているからだ。
「う、うるさいわね」
「そんな時ははい、これを飲んで落ち着くといいよ」
「……何これ? 栄養ドリンク? なんか嫌な予感しかしないのだけれど」
グランが渡した栄養ドリンク。ラベルにはやたらとリアルなゴリラの絵が書かれており、ミラオルはどうもそのドリンクに危機感を抱いていた。
「シェロカルテが改めて作った栄養ドリンクだ。名付けて『ゴリラ1ターン
「な、何よその名前……というかコレ前の栄養ドリンクの改良……いえ改悪じゃないの?」
「大丈夫大丈夫、シェロカルテが言うにはさすがに前みたいなデメリットはそうそう発生しないってさ」
「ほんとかしら……」
以前、とある事情によりシェロカルテの栄養ドリンクを飲んだことがあるミラオル……もとい『おこたみ』の面々。しかし、飲んだ後ゴリラのような行動をとる者がいたり、ウホウホとしか喋れなくなったものもいたり、ミラオルは全員がゴリラに見えていたりと散々な結果になっていた。
「ただちょっとあるとすれば……」
「ん……?」
「飲んだ後、毛がすごく伸びやすくなるんだそうだ」
「……それって、髪の毛……よね?」
「いや、毛の生える場所全部から凄く伸びやすくなる」
「人間の尊厳ガン無視ね!?」
「大丈夫大丈夫、全身の毛がメリッサベルの髪の毛クラスになるだけだから」
それは恐らく生命に対する冒涜だろう。ミラオルはそう思わざるを得なかった。そして、それを平然と飲ませようとするグランにミラオルはさすがにキレざるを得なかった。
「あのねぇ!? 流石にそんな薬飲ませようとするのはどうなの!?」
「まぁまぁ、さすがに冗談だ」
「冗談……って、どこがよ」
「そんないきなり毛が生える薬をシェロカルテが作るわけないだろ?」
「……そ、そうよね! 流石に作るわけが……」
「作ったのは毛が生えた気分になる薬ってだけだ、俺がよく知ってるしな」
「どうしてそんなもの作ったの!? というか……よく知ってるってことは……」
「あぁ……古戦場で疲れたから、本来なら希釈しなといけないところを、原液で1気に5本くらい」
「それだけの量を希釈せずに飲んだら、そんな効果も出ちゃうわよ……」
少し前に、グランが謎の発狂をしていたのはそれが理由だろうかと、ミラオルはふと思っていた。だが、発狂しても延々と回り続けないといけないのが、古戦場なのだ。
「……さて、古戦場の話はともかくとして……お便りのコーナー行ってみよう」
「……」
これ以上、古戦場の闇を広げたくないのかグランは話を変えようとしていた。そんなグランを、ミラオルは哀れみの目で見ていた。
「1通目『どうして素直になれないんですか』」
「余計なお世話よ!?」
「分かってたけど、ミラオルってツンデレだよな」
「分かっているのだったら一々言わないでちょうだい!」
素直になれず、ついツンデレのような反応をしている時が多いミラオル。結構な頻度で団内のメンバーにバレているので、最早そのツンデレはツンデレの扱いにならなくなっている。
「ミラは好意を持っている相手には素直になれないんですよ」
「リャオ!? あなた一体どこから現れているのよ!?」
突如として、グランの足元から現れるザーリリャオー。現れた場所が現れた場所なせいか、ミラオルは顔を真っ赤にして震えていた。一体何を想像したのか、グランは分からないふりをしながらニヤニヤと微笑んでいた。
実際は、ただ視界の死角になっていただけなのだが。
「そ、それに別に好意なんて……」
「ははっ」
「待ってリャオ、今の笑いだけはすごく腹が立ったわ」
まるで前回の鬱憤を晴らすかのように、ザーリリャオーはミラオルに対して挑発的な笑みを浮かべていた。『照れているお前なんて怖くないぞ』とでも言いたげに、その笑みは余裕と自信に満ち溢れていた。
「とりあえず2通目行こうか」
「ちょ、そんな早くしなくても……」
「『偶にどうしようもなくアホになりますよね』」
「これ書いたのリャオよね?」
「そんなことするわけないじゃないですか、ハロウィンの時に団長殿に去年抱き上げられて驚かされたから、今年は逆に抱っこ要求して驚かせようとして、結局抱き上げられて恥ずかしい目にあってしまったミラオルの事をアホだなんて思うわけないじゃないですか」
「確信犯じゃない!!」
さらに顔を真っ赤にして、ミラオルは顔を突っ伏していた。その間もザーリリャオーの表情は煽るかのようなにやけ顔であった。シエテにも負けないほどの笑顔からは、圧倒的な余裕が感じられる。
「いやぁ、あそこまで綺麗な墓穴の掘り方というか……ピンポイントで落とし穴にダイビングしていくかのようなその姿には惚れ惚れしたよ」
「う、うるさいわね!!」
さらにグランからの追撃。最早若干涙目になってしまっているが、そんなミラオルが可愛いのでグランもザーリリャオーも、ついついいじめてしまうようであった。
「う、うぅ……そうよ! 私は依頼の時以外まともに頭を働かせられないポンコツですぅ!!」
「ごめんごめん、流石に馬鹿にしすぎた」
「もういいわよ……どうせ私は弄った相手から弄られ返される悲しい生物なのよ……」
「メンタルが湯葉クラスだ……」
怒ったり泣いたりと忙しいミラオルだが、それ以上にこの度重なる弄りにより、ミラオルが完全にしょげ返っていた。しかし、ハロウィンの時のことは実際自分の墓穴をほった行為が原因なので簡単に反論できない分、自虐的なことを言い出してしまっていたのだ。
「どうせ私は未来永劫結婚できないゴリラになっちゃうのよ……」
「さすがにそこまでは言ってないですよミラ」
ザーリリャオーの冷静な突っ込みが入るが、それすらもまともに聞けないくらい今の彼女は完全に拗ねてるかつ、諦めてしまっていた。
「何なのよ……なんで私依頼の時以外、ここまで頭が劣化しちゃうのよ……遺伝子なの……? 遺伝子なのかしら……?」
「まぁまぁ、ミラオル」
グランはミラオルの肩に手を置いて慰める。ミラオルは、グランに希望を縋るような目線で無言の懇願を行う……そして、グランから発せられた一言。
「そんなミラオルも俺は可愛いと思うよ」
「フォローになってない……!」
下唇を噛むミラオル。最早、彼女のポンコツっぷりは伝説級のそれである。だが、それを知られた以上彼女はグランサイファーでは確実に『クールな傭兵』から『団長大好きなツンデレ』へと変貌していることだろう。
「所で、そろそろ3通目に行きませんか?」
「いいだろう、3通目。『ミラって私服持ってます?』」
「ねぇこれはリャオよね?」
「まぁ、これに関しては否定しませんよ?」
「あー……確かにミラオルが私服着てるところって見た事ないな。ずっとその傭兵服だし、違いがあるとしたらフード付けているかどうかくらいだし……」
グランは、普段のミラオルの事を思い出していた。確かにあまり、私服らしい私服を着ているところを見た事がなかったのだ。
「……持ってないわよ? 持っててもすぐ着なくなるだろうし」
「可愛い服を着てたら、団長殿からナデナデされますよ?」
「えっ」
「後で服を買いに行くわよリャオ」
突然何故か自分がなでなですることになったグラン。別にすることが嫌ではないが、割と長い間篭手をつけていたりするので匂いが籠っていないか心配なのである。
「というかえらく即決だな」
「べ、別に撫でられたい訳じゃないわよ? ただ傭兵はプライベートと仕事のONとOFFの付け替えくらい出来ないとおかしいってだけよ」
「別にそこはいいんだけどね……着なくなるとか言った後にそれを言うと、凄まじく説得力が欠けるというか」
「世の中必要なのは愛と金よ、説得力なんてあとから着いてくるわ」
「やだ……ミラオル姉さんイケメン……」
「女性にイケメンって言うのはどうなんですかね」
妙に説得力のある雰囲気を出すザーリリャオー。グランは特に何も答えなかったが、申し訳無さそうにとある島のケーキバイキングチケットを渡していた。
「じゃあ3人で行きましょうか、ケーキバイキング」
「ケーキか……」
「ん? ミラオル甘いの苦手だっけか?」
「いえ、別にそこは問題ないのだけど……」
小声で『体重が……』と言ったのは、グランには聞こえていなかった。ザーリリャオーには聞こえていたが、聞かないふりでもしないとグランと出かけるタイミングなんてものは、滅多に来ないのだ。
「おっと、ケーキバイキングも大事だけど……それでは本日はここまでとなります。皆さんご視聴ありがとうございました、また次回この番組でお会いしましょう、さようなら」
「では3人でケーキバイキング行きましょう!」
「その島に着くまでお預けだけどな」
「いい計器を使った景気のいいケーキ屋さん……」
ケーキバイキングの店を見ながら、グランはそんなことをボソリとつぶやく。聞こえていようが聞こえていまいが関係なく、アザゼルすら失笑しそうなギャグをミラオルとザーリリャオーは無視していた。
「とりあえずありったけ食べましょうか」
「そうですね」
「おいおい、そんなに食べて動けなくなっても知らないぞ?」
「その時は抱っこでもして持って帰ってちょうだい」
「む、まさかの返し」
ミラオルにも余裕が出てきたのか、自分が本当に抱き上げられる事を冗談めいて呟いていた。
「でも実際、それだけ食べたら太っちゃいそうですよね」
「その時は動いて減らせばいいのよ」
「グランサイファー内で動ける環境は早々……」
「……」
グランは『ならベッドの上で運動一緒にしようZe☆』なんてことを口走りかけていたが、さすがにアウトだと直感で悟っていた。逆に言えば、直感が働かない限りこんなセクハラを普通にしてくるのだが。今回のは普通にアウトである。
「……とりあえず食べに行こう」
「そうですね」
「……行くわよ!!」
……ケーキバイキングに乗り込んだ3人、その後行われた甘味の祭典は……軽く3時間ほど続いてからようやく終わりを迎えるのであった。
ビキニミラオルはよ
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ