ぐらさい日記   作:長之助

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おこたみ怠み

「いやぁ、無いわ」

 

 グランは顔を抑えていた。というのも、とある時にマキラが作った『おこた』というものがある。簡単に言えば、暖かい空気を出す機械に分厚い布団をかけたものである。そこに体を入れると、全身を襲う温かさにより、体を出すことが不可能になってしまうという恐ろしくも怠惰で甘美な魅力があるものである。

 

「はふぇー……」

 

「ぴよ……」

 

「ぬふぇ……」

 

「はふぅ……」

 

 ━━━今そのおこたが進化した物に、おこたの民ことおこたみが懐柔されていた。つまり、全員おこたから出られなくなっていた。

 

「どうしたんですか……」

 

「マキラが作ったおこたは、確かに団員の心の癒しになっている。けどな……流石にこうもだらけていたら、なにか対策を考えないといけなくなるぞ」

 

「駄目よ団長さん……こんな素晴らしいものを退けたら、グランサイファーは凍りつくわ」

 

 ふやけているルナールの一言を聞いて、グランはため息を着く……のだが、『おこたをどかした程度で……』とならないのがグランサイファークオリティ。どかした瞬間にグランサイファーが凍りつく可能性もあるのだ。

 無論、寒さではなく氷の力を扱うとんでもない強さを持った人物達に限るが。

 

「まぁ、うん……イシュミールとかリリィが何故かおこたを気に入っているから、退かしたらどうにかなっちゃいそうなのがありそうで怖いが……しばらく撤去します」

 

「そんな……駄目よ絶対……」

 

「ミラオル……お前ですらそんなに怠けてしまうこのおこた……撤去しなければ、それこそこの冬グランサイファーは生き残れなくなってしまう」

 

 グランの言葉で、おこたみの全員の目にやる気が灯る。このままおこたを退かされてしまうと、自分達のこの冬の楽しみが完全になくなってしまうからである。

 

「ならば……実力行使しかありませんね……」

 

「えぇ……」

 

「微力ながら、私も手伝うわよ……」

 

「団長君、覚悟してください……」

 

「……」

 

 グランは構えることもせず、ただおこたみの4人を見るだけである。彼は、自分が動かなくてもこの場で対処できるということを分かっているのだ。

 理由は明白だ、これまでの行動から考えれば……簡単にわかることである。

 

「……ミラ、初手は譲りますよ」

 

「何言ってるのよリャオ……初手は失敗しても牽制にも威嚇にもなるから、あなたが適任よ……」

 

「ご自慢の機械なら、離れてても戦えるんじゃないの……?」

 

「操作盤は……はるか遠くです……」

 

「目がやる気なのに声と態度にやる気を感じない……」

 

 そう、誰もおこたから出ようとしないのである。当たり前だ、動けば寒気に触れてしまう。寒い思いなんて誰もしたくないのだから、誰も出ようとしないのは自然の摂理なのである。

 

「リャオ……なら私たち二人で行くわよ……手なら出してても問題ないわ」

 

「確かに……では2人で……」

 

「む……」

 

 流石に動かなくても打てるボウガン、それを出されると幾らグランとて構えなければダメかもしれないと感じ、少しだけ警戒を促す。しかし、これもまた無意味なことなのである。

 

「駄目よ……2人とも……」

 

「なぜ止めるのよ……ルナール……」

 

「確かに……手はあまり寒さを感じないけど……手が抜けた瞬間、隙間からおこたに、冷たい空気が入り込むわ……」

 

「……それは、まずいわね……」

 

「えぇ……そんなことは起こってはダメです……」

 

「……」

 

 まさかの、ちょっとした寒さですら許容できなくなってしまっているおこたみ。よく見れば、隙間から寒さが入らないように手で押えていた。

 

「というか、今更なんだけど……なんで全身突っ込んでんだよ」

 

「私達……ハーヴィンですから……」

 

 体を全身突っ込んでいるおこたみ。ハーヴィンなので、確かに大きいものさえ作れば全員の体が入るくらいのものは作れる。だが、そういったことに労力はあまり使わない方がいいのはわかりきっている話である。

 

「……少しばかり、俺も手を尽くさないといけないかもしれない」

 

「無駄ですよ……このおこたは……グランサイファーの床と直結しています……故に、取ることはできません……」

 

「大丈夫だ、そんな初耳の改造をガン無視できる猛者を今から連れてきてやる」

 

「ふ……私たちの意思は硬いわよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい熱い3人組を連れてきたよ!」

 

「すごい熱い3人組……?」

 

 しばらくして、グランは3人の人物を連れてきていた。まるで何かの三銃士の紹介のようになってしまっているが、誰も突っ込む気になっていなかった。

 

「多分団内での火力は世界一! シヴァ」

 

「汝が望むのならばここを燃やそう」

 

「小さい太陽みたいな炎の塊を作れる! ザルハメリナ!」

 

「あの……流石におこたにこもりきりはダメですよ……?」

 

「胸部のベルトをようやく閉めたのか! マギサ!」

 

「ねぇ、後で私の部屋で一緒に」

 

 揃えられた炎の3人組。この面子に……特にシヴァに対しておこたみは非常に焦っていた。正直、あれこれ手を考えるより物理的な熱でおこたから出すとしたら、1番向いている星晶獣とも言えるだろう。そんなのは、まったく嬉しくない使われ方なのだが。

 

「マギサくん……それ以上口を開くとリーシャくんが来ますよ……」

 

「あら……最近忙しくて出られないそうよ、彼女」

 

「そんな……秩序たる彼女がいなかったら……」

 

「誰がこの船の秩序を守るの……」

 

 おこたみはまるで満身創痍になっているかのようなセリフだが、再三申し上げている通りおこたに入っているだけである。つまり気だるげになっているだけである。

 

「そうは言うけどね少し考えて欲しいのよ」

 

「……何がですか?」

 

「この船にリーシャという邪魔する人物はいない、グランサイファーの団長は行為を簡単に受け入れてくれる……これって、チャンスじゃない?」

 

「そんな……全員で今の間にリーシャ君を抜け駆けしようということですか……?」

 

「さて、どうかしらね?」

 

「あぅ……」

 

 気だるげになりながらも、少し重い空気になる。グランはそれを微妙に感じとったのか、流れに乗じて自分もつい黙ってしまっていた。

 

「さて……私は彼をぺろりと頂いていくわ」

 

「待て、炎の魔女よ」

 

「あら、私の事? 一緒に呼ばれた仲だけど、あなた私のことをそういう風に呼ぶの?」

 

「特異点を頂くと言ったな」

 

「言ったけど……何、貴方そっちの気が」

 

「人が人を食らうなどあってはならぬ事だ」

 

 真顔でそう答えるシヴァ。素で勘違いをしているようで、マギサが食事的な意味でグランを食べると勘違いしているのだ。その反応に、全員が1度ぽかんとした表情となっていた。

 

「……どうしたのだ、皆の者」

 

「シヴァさん? 意味が違う、別にマギサは人食主義者じゃないから」

 

「さすがの私もそこまで趣味は悪くないわよ」

 

「では、先程の言葉はどういう意味だ?」

 

「後で教えるから、な?」

 

「ふむ……」

 

 少し納得がいかないようだったが、シヴァは後からグランが教えてくれるということで納得してくれたようだった。因みに、シヴァが話を遮ってしまったがために、マギサの話が有耶無耶になってしまったので、当のマギサは少しふくれっ面になっていた。

 

「……けれど、分かりました……団長君が本気で私達をおこたからどかしたいというのは」

 

「ようやく理解してくれたか」

 

「はい……ですので、1週間……1週間待って貰えますか。それまでに、このおこたから出ますので」

 

「……いいだろう、但し1週間過ぎても出てなかったらダメだからな」

 

「はい……大丈夫です、ちゃんとこのおこたから出ますので……」

 

 妙に引っかかる言い方をしているマキラだったが、グランはその言葉を信じて一旦部屋から出て、1週間待つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間だ! 答えを聞こう!」

 

 1週間後、グランは再びマキラの部屋に来ていた。そして、目撃したのだ。マキラが確かに『あの日入っていたおこた』から脱出している姿を。

 

「……何それ」

 

「……食料庫完備、トイレ完備、着替えを入れるクローゼット完備、トドメにグランサイファー廊下ギリギリを通れる幅までに大きくした動く図体……その名も……」

 

『移動式おこた要塞『カムクラ』』とマキラは自信満々に言い張っていた。しかもこのおこた、ただのおこたではなく数段積まれているおこたなのだ。

 1番上に監視塔マキラ、2番目に敵を排除できるよう配備されたザーリリャオーとミラオル、そして最下段には漫画を書いているルナールが配備されていた。

 

「どうですか、団長君……これなら……移動も出来ますし、敵の撃退も可能です」

 

「なるほどなるほど……」

 

「認めてくれましたか……」

 

「ダメ」

 

 その言葉にマキラは珍しくショックを受けていた。いや、正確に言うなら表情に現れている、と言うべきか。感情をあまり表に出さないマキラだが、この時ばかりはショックを前面に押し出していた。

 

「何故……」

 

「明日までに理由を考えて反省文書くこと……これは壊さないまま置いておくけど、反省はするように」

 

「そんな……」

 

「というわけで……全員退場!!」

 

 あっという間におこたから引っ張りだされたおこたみ。全員が1度身を寄せあって、まるで子犬のような表情をしながらグランを涙目で見ていた。

 

「そんな顔をしても駄目です」

 

「そんな……」

 

「ぬふー! ここは暖かいであります!」

 

「……はい?」

 

 突如として聞こえてきたシャルロッテの声。グランが顔をおこたの方に向けると、何故かルナールがいた場所からシャルロッテが首を出していた。

 

「ほんとだね、ここは暖かいよ」

 

「どうしてこの状態のことを暖かいと言うんだろうね」

 

 アルルメイヤ、フィラソピアもまたマキラがいた1段目とザーリリャオー達がいた2段目から顔を出していた。

 

「馬鹿な!? 他のハーヴィンもいたというのか!?」

 

「寒さには弱いんですよみんな……」

 

「ならば全員引っ張り出してやる!!」

 

 こうして、この日しばらくグランはおこたからハーヴィンを取り出すだけの作業に追われるのであった。尚、三段合計で10人ほどハーヴィンがいた事と、途中から出したハーヴィン達が家に戻るかのようにおこたに吸い込まれていったことは、また別の話である。

 

「いやこのおこた魔力強すぎじゃないか!?」

 

「やはりこの部屋を加熱するか?」

 

「シヴァストップ! それ本当にやったらグランサイファーが全焼する!!」




おこたで寝ると風邪をひくぞ!!
次回からクリスマスか年末年始の話をば……ねずみ年の子が欲しい

偶には長編とか書いて欲しい

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