ぐらさい日記   作:長之助

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年末年始の1幕

「ハハッ! ぼくビッキィ! みんなで楽しくしようよ!」

 

「ふむ……」

 

「……えっと? そんなにジロジロ見られると、流石の僕もちょっと困るって言うか……何かしたんじゃないかと心配になって、不安になるというか……いや、あの……ほんとにごめんなさい……」

 

 グランは新しく仲間になったビッキィ……もといビカラを眺めながら、ただ頷くだけだった。白い服、白い髪、そして丈があっていないのかわざとなのか、露出した腹に少し短めのスカート。そして、つけ耳であるネズミの耳……そう、ビカラは十二神将の中の一人でありヒューマンである。

 

「ネズ耳外そうか」

 

「えっ……いやそれはちょっと……ネズ耳なくなると私何も出来なくなるし……スライムみたいに溶けるし……あぁでも、スライムの方が役に立つから……私スライム以下かも……」

 

 冒頭の一言、あれとは打って変わって凄まじいネガティブオーラを発するビカラ。これが彼女の素である。ネズ耳をつけている時だけ、彼女がイメージする『陽キャ』のビカラになれるのだ。それでも、ネズ耳が無くなるとダメになってしまうのだが。

 

「ネズ耳外したままその格好な……って言っても髪色が合わないし、服の色はまた変えよう」

 

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや…………私なんかの服装なんて誰も気にしませんよ……『陽キャのビッキィ』ならともかくとしても、私は……ビカラは……ダメな子でしかないので……」

 

 そして、ビカラはどういう訳かネズ耳をつけている時は白い髪……つけていない時……正確には十二神将であるビッキィとなっている時以外は黒髪の地味めな女の子となる。

 髪の色が変わる理屈は、よく分かっていない。別に、ネズ耳にセットでカツラがついているとか……そういうわけではない。

 

「私みたいなダメで地味でドジでノロマで……そんなのがコルワさんみたいな陽キャの塊みたいな人が作る服なんて……着たら服がダメになります……服が良くても素材がダメだったらダメなんです……」

 

「……ビカラ!!」

 

「ヒイッ!?」

 

「一言言うぞ! お前は可愛い!」

 

「え……いやいやそんなことは……」

 

「地味な格好と雰囲気になっているだけだ! ビカラは可愛いし、色気もある! ビッキィもそりゃ確かに魅力的だ! だがそれ以上にお前の方が魅力的だ!!」

 

「あ、あうあうあ……!?」

 

 顔を真っ赤にして困惑するビカラ。彼女の心臓は今現在バクバクと鳴り響いており、ビカラ自身ここまで胸を高鳴らせた記憶はなかった。

 

「黒髪! 目の色! やわらかそうな肌! たしかに地味目かもしれないが整った服のコーデ! 自分よりも他人を目立たせようとするその姿勢! 俺には全てが魅力的だ!」

 

「え、いや、あの……?」

 

「それに陽キャになっているとはいえ、ビッキィも君の1部だ! つまり君が望んでいることはビッキィも望んでいることであり、逆にビッキィが望んでいることは君が望んでいることなんだ!」

 

「べ、別に二重人格とかじゃないから……普通、そうだと思う、けど……」

 

「つまり、だ!! 君も心のどこかであれほど目立ちたいという欲があるんだろう! へそと横腹を目立たせて注目されたいという欲があるんだろう!! 腰を振ってスカートを翻して見えないギリギリのところを責めたい欲があるんだろう!! そんな腰振りダンスはしてたら男たちが目の色変えげっ」

 

 目が完全にイかれている人物のそれになっているグラン。そして、そんな彼は後ろから現れたリーシャからの一撃で昏倒してしまっていた。

 

「……」

 

「ひえっ……」

 

 完全にネガティブモードへと移行しているビカラは、恐怖を覚えていた。当たり前である、先程までマシンガントークを繰り広げていた男が、たった一撃で昏倒させられているのだから。

 

「大丈夫ですか? ビカラさん」

 

「は、はい……」

 

『少なくとも目の前に新たな驚異がある』ということは、ビカラは言えなかった。言ったら、殺されてしまうような気がしてならなかったからだ。

 

「ど、どうせ私なんて誰も相手にしませんし……だから殺さないで欲しいとありがたいなって……」

 

「おや、先程団長さんも仰ったいましたが……あなたはすごく人を魅了することが出来る人材だと思いますよ?」

 

「ほ、ほんとですか?」

 

「はい、その理性とか何やらが崩壊するほどに影響力が大きすぎるのが問題ですが」

 

 ビカラが仲間に入ってから数日経った時、ある日グランサイファーに侵入者が入った。しかし、その時にいたのはネガティブモード……つまりネズ耳をつけていない素のビカラだけだった。

 幸か不幸か、ビカラはその時はまだ団員たちの顔をきちんと覚えきれていなかったので、彼をラカムだと勘違いした。そこまではまだ良かったのだ。

 しかし、そこからビカラと話している内に何故か侵入者は自分のことをラカムだと思い込み始めていた。そう、自分の事を操舵士のラカムだと勘違いしたのだ。

 その後無事に侵入者は捕まったものの、ビカラには人を惑わす何かがあるのだろうかと団員内でしばらく噂になっていたのだった。

 

「まさか、侵入した男が自分のことをラカムさんだと思う程になるのは……誰も予想出来ませんでした」

 

「す、すいません……私がちゃんと顔を覚えてたら……」

 

「いえいえ、これから覚えていけばいいんですよ」

 

 ネガティブモードの時は、常に下を向いて俯いているというのもあってか、ビカラはあまり人の顔を覚えていない。少なくともいつもしているような格好を、侵入者がしていたとは到底思えないが……ビカラはその辺の記憶も曖昧となっているようである。

 

「そう言えば……ドーマウス、でしたっけ?」

 

「ど、ドーちゃんがどうかしたんですか……?」

 

「ご飯って……食べるんですか?」

 

「……えっと……どうなんだろ……昔の子の神将の人が作った式神みたいなものだから、あまり考えたことないけど……」

 

 ドーマウス、鼠の十二神将を選ぶ式神である。元はトラバサミなのだが、過去の十二神将がそれを式神としており、ドーマウスに選ばれた者が鼠神宮の神将として1年間お勤めを果たす……という決まりがある。

 つまり、過去の十二神将達と違い……後天的に選ばれるシステムとなっているのだ。

 

「……食べてるところを見た事は?」

 

「ない、です……多分式神みたいなものだから……ご飯はいらないと……」

 

「成程……ご飯は食べないのですね」

 

「食べたとしても……どこに消えてるんだという話なんですけど……」

 

 ドーマウスはトラバサミに鎖を取り付けただけの見た目なので、はっきり言って何かを食べていたとしても、吸収される先が口の部分を形成するトラバサミか鎖の部分しか存在していない。

 

「成程……ひとまず、ドーマウスはきちんとお世話をお願いしますね」

 

「た、確かにドーちゃんはちょっとどころかかなり見た目がおっかなくて動く時にガシャンガシャンなってしかも喋んないし目も鼻もなくて牙と口だけしかないししかも金属だから多少の灯りがあったら反射で鈍い光を発するし……あれ?」

 

『よく考えたらドーマウスって怖い要素てんこ盛りでは?』とビカラは考えに至った。よく考えなくても、あの見た目のものが夜徘徊していたら、まず恐怖で子供は泣いてしまう可能性が高いのだが。

 因みに、ドーマウスの紹介をする度にポケットの中にいるネズミのことだといつも勘違いされている。

 

「ところで、そちらのネズミにはなにかお名前はあるのですか?」

 

「い、いえ……気づいたら私のそばにいたので……可愛いので、そのままにして私個人で飼ってます……一緒にチーズを部屋の隅で齧る仲間です……」

 

「そうですか、では今名前をつけましょう」

 

「えっ」

 

「『ツーマウス』でいきましょう、2番目のドーマウスという意味合いを込めました」

 

『ネーミングセンスねぇなこいつ』とは口が裂けても言えないし、仮に自分がつけることになっても恐らく手酷い批判をされるため、ネガティブモード状態のビカラの精神状態は彼女のその名前に対して愛想笑いをうかべることしか出来なかった。

 

「は、はは……」

 

「やはりいいと思いますか」

 

「ち、ちなみに……リーシャさんは自分でなにかに名前をつけることって……ありますか……?」

 

「そうですね……この間団長さんが拾って使えるようにした剣があるのですが、それに名前をつけさせて頂きました」

 

「な、名前は……?」

 

「1度使えなくなっていたけど、研ぎ直して使えるようにした……という所から文字って『グラン君ソード・リカバリー』です」

 

 予想通りのような名前に、ビカラは卒倒しそうになっていた。しかし、ここで気絶するのはおかしいし下手なことも言えないしでビカラの精神にはとんでもない負荷が今現在掛けられていた。

 

「ち、ちなみに……どんな反応されましたか……?」

 

「何故か見たこともないくらい渋い顔だけでした。返事は特に何も聞かされてないです」

 

『そりゃそうだ』とビカラは内心呟いていた。誰が聞いても内心ネーミングセンスがないだろう、と思えるその名前に否定以外の意見があるとすれば、それはもう黙ってスルーすることだけしかないだろうという話である。

 

「……は、はは……」

 

「……ともかく、これからよろしくお願いしますね」

 

「は、はいお願いします……」

 

「ところでネズ耳外すと性格が変わると聞いてましたけど……今は外してないんですね」

 

「……はっ……!?」

 

 ここでふと思い出した。よく考えたら、耳は今つけたままでありネガティブモードキャンペーンをする必要性はないということを。しかし、最早ここまでしてしまった以上いきなり戻すのは失礼だろうということをビカラは考え始めていた。

 二重人格ならともかく、ビカラのいう『ビッキィ』は単なる演技に近いものである。よって、こうなってしまうことも本当にしばしばあったりする……とのことである。

 

「いつもはどんな感じなんですか?」

 

「え、えっと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハハッ! 僕ビッキィ! ゆ〜とぴあの住人さ! さぁ、君も一緒に鼠神宮で僕と握手!』

 

 突然の無茶ぶり、リーシャから振られたビカラの頭の中は、最後にこれを唱えたまま真っ白になってしまったのだという。ルナールのような人物には、過度な負担をかけないように気をつけようという認識が、グランサイファーに広がるのであった。

偶には長編とか書いて欲しい

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