「なぜだか分からないけど、今笑った人がいたような気がするわ」
「気の所為じゃないですか?」
今現在、マギサとペトラはとある荒野へと降り立っていた。理由は、今回受けた依頼の内容に関係している。しかし、2人の他に受けているはずのグランの姿が見えていなかった。2人はグランを待つために少しだけ暇を持て余していた。
「いいじゃない……私も魔女っ子って名乗ったって……」
「……えっと、マギサさん……?」
理由もわからずしょげているマギサに対して、ただ困惑することしか出来ないペトラ。マギサの身に起きていることが、ペトラには全く理解出来ていなかった。
「……いいわよ、別に……もうすぐ団長さんが戻ってくるんだから」
「へ? そうなんですか?」
「このくらいの会話をしていたタイミングで戻ってくる予知夢を見たのよ……ほら、その証拠に……」
マギサが杖を差し向けた方向に、ペトラは視線を向ける。しかしこのタイミングで、マギサはふと気づいた。よく考えたら、彼女の未来予知の能力はグランには十全に発揮されないのだということを。
つまり、この場合だとそもそもグランが来ていないか、方向が違うかの2択である。
「俺がどうかしたのか?」
「あれ? 団長さん? 今マギサさんがあっちからって……」
「いや俺真逆の方向から来てるなそれ」
そして、今回マギサの予知は外れてグランはマギサが指し示した方向とは180°違う方向から現れたのである。呆然とするペトラ、少し苦笑するグラン、顔を俯かせたまま銅像のように動かなくなってしまったマギサ。
「……おーい、マギサー? 大丈夫大丈夫、俺に関しては外れることがあるって自分でも言ってたじゃないか」
「……別にいいのよ……魔女っ子って言われて笑われる年齢なのよ私……」
「寧ろ成人してるのに魔女っ子って可愛がってる方が需要があったりするぞ」
「……ほんとに?」
グランが適当に言った言葉に反応するマギサ。グランからしてみたら、マギサはいつでも可愛いというのが本音なのだが今彼女が求めている言葉はそうでは無いと直感的に悟って、優しい嘘による慰めを始めていく。
「ほんとほんと、ほらギャップ萌えって奴だよ」
「ギャップ萌え……」
「そうそう、だから気にするなって」
「……いいえ? 別に私、気にしてないから大丈夫よ」
いつものように笑みを浮かべるマギサ。しかし、どうにもそれが強がりなように思えてしまうグランだったのだが、さすがにそれを口に出すような真似はしない。
「ところで、今日はどんな依頼なの?」
「んー? いや、ここの乾いた土地を潤して欲しいってことらしくてな」
1面見渡す限りの荒野。見た感じ土は枯れ果てており、草木も小さなものくらいしか生えていなかった。
「……ここを、ですか?」
「……私、それ力になれるかしら?」
「どちらかと言うと、地面を耕すというか……」
「……なるほど、モーさんね?」
魔人モラクス、マギサが使役している強力な魔人である。その一撃は中々強力であり、グランでさえも大きく手が出せる代物では無い。下手をすれば吹き飛ばされてしまうのがオチである。
「そういう事、ただ乾いてる地面に水をやったところであんまり意味はなさそうだし」
「なるほど……そうなると、私は雨を振らせればいいんですね?」
ペトラは自分の役割をいち早く察して、グランに尋ねる。グランの方も、そういう風に考えていたのですぐさま頷いて肯定する。マギサが魔人モラクスの力で地面を砕き、乾いて固まっている土を粉々にする。その上から、ペトラが雨をふらせて地面全体に潤いを与える。それがグランの考えていたプランである。
「そして、俺は団の有志達によって作られた肥料を全体的に撒く事で地面に草木がきちんと生えるようにするのが役割です」
「……ところで、地面に潤いを与えるのはいいんですが……かわいたここの土地というのはいつからのものなんですか?」
「1ヶ月ほど前から、らしいな。まぁ原因は星晶獣だったんで既に倒して原因は取り除いているけど」
「し、仕事が早いですね……」
「星晶獣が相手だし、なるべく早く相手しておいたほうがよかったしな」
忘れてはならないが、星晶獣は並の人間では歯が立たないほどに強力な『星の民の兵器』である。それを簡単に屠ったとか倒したとか言える、グランがおかしいのだ。
「まぁでも、今更じゃないかしら……」
「何がですか?」
「グランサイファーに乗ってる団員の中で、星晶獣を一人で相手できる人たち結構いるわよ」
「……それは、そうなんですけどね……」
何を今更、と言わんばかりにため息を着くマギサ。実際、1人で星晶獣を倒せる人物はグランサイファーにそれなりにいるので、結構否定できない問題だったりするのだが。
「……さて、世間話はここまでとして……早速作業に移るとするか。ペトラは雨を降らせる準備、その間に俺とマギサで地面を耕しながら肥料撒きだ」
「えぇ、了解よ」
「わかりました!!」
というわけで、グランとペトラとマギサによる土地の開拓が始まるのであった。
「……にしても、乾いて硬くなった土を壊すのはやっぱりマギサの方が早いな」
「モーさんの力は強力だもの、けど安心して? 直ぐに貴方も同じことができるようになるわ」
「え、何? 俺何したらそんな筋骨隆々のムキムキマッチョマンになるの?」
グランは普通に器具を使い、マギサはモラクスを動かしながら地面を破壊していた。かわいた地面を破壊、そして抉ることで下の柔らかい土を掘り起こしているのだ。
「それにしても、星晶獣によって起こされたって話だけど……随分と凄いことが出来るのね?」
「まぁ、これくらいならまだ対処できたしマシだったよ。土が乾いたと言っても、地面下の流水まで乾ききったわけじゃないみたいだし……」
「……平然と言うけれど、それでも大惨事なことに変わりはないのよ?」
「世の中にはもっと酷い能力を持ってるやつだっているしな……」
遠い目をしながらグランは呟く。自分たちが確認できる範囲内で、物理的な働きをもたらす星晶獣は強力そうに見えて、対処は比較的簡単に出来る。
しかし、世の中には概念的なところに対象を搾っている星晶獣も存在する。縁を司ったいたり、歴史に力を及ぼしたりとその数は決して少なくもないのがネックだ。
「……まぁ結構概念的的なところかつ、かなりギリギリのところにまで手を伸ばしてくる星晶獣はいるけども……」
「……そうなのね」
もれなく初めて星晶獣達はグラン達と敵対することがあまりにも多かって。初めてあって戦いにならなかった星晶獣は、片手の指で既に足りきっているほどには少なかったりする。
「……とまぁ、星晶獣は別に今じゃなくていいや。とりあえずさっさとこの辺耕し終わってから、ペトラにこの辺を水浸しにしてもらうとしよう」
「そうね、早く終わらせて団長さんと私は一緒にいたいんだもの」
『早く終わらせたい』という意見が1致した2人は、顔を見合わせて頷く。そして、そこから2人は驚異的なスピードで地面を耕し始めていた。
『さっさと終わらせたい』という気持ちだけで、今2人は今まで戦ってきた戦闘向けの星晶獣との戦い以上のパワーとスピードが出始めていた。
「そう言えば……ホワイトデーのお返しはもう考えてあるのかしら?」
「ホワイトデーねぇ……考えてある、というか……基本クッキーで渡す人それそれで味を変える程度のものになりそうだけど」
「それでも凄い人数にならないかしら?」
「それでも返さないと、失礼だろ?」
「……そういう所で、やっぱり人を引き付けてるのよねぇ」
「俺の魅力に惹き付けられてもいいんだぜ?」
「そうやって調子に乗るとまた痛い目見るわよ?」
「ふふふ……ごめん」
素直に謝るグラン。そんな馬鹿みたいなことをしながらも、2人は作業を進めていく。とは言っても、ただ地面を割って砕いて耕して柔らかくしていくだけの作業なのだが。
「では!! 雨を降らせようと思います!!」
「頑張れぇ」
「……」
「……マギサさん? どうかしましたか?」
無駄に甲高い声で応援するグラン。少し考えるマギサ。ペトラはそんなマギサが気になって、声をかける。自分がどこかで失敗しているのではないかと、少し不安になったのだ。
「……あぁ、いいえ。少し考えたのだけど……こんな乾燥してるところで、雨なんて降るのかしら? 星晶獣の影響で土地はこうなっているけど……既に星晶獣は討伐された後なのに、未だに雨が降ってないのが気になったのよ」
「……」
「……」
顔を見合わせるグランとペトラ。そして、マギサの方を見てから再び顔を見合わせる。
「「確かに」」
「降る可能性は……低いですね……いつも通りしても、降るかどうか……」
「じゃあこの辺水浸しにすればいいと思うよ、そしたら水分は充分足りるでしょ」
「へ? どうするんですか?」
グランの提案に、首を傾げるペトラ。グランは自信満々と言った表情で自分の胸を親指で数回軽く叩く。すると、彼の体が光初めて……中からルリアが現れる。
「る、ルリアさん!?」
「ふふふ……最近しなさすぎて忘れてたけど、ルリアって俺の体の中に入れるんだよね」
「はわわぁ、話は既に聞いてます。水浸しにすればいいんですね?」
「その通り、話が早いよ。なんかこう、いい感じに水浸しに出来ない? マナヴィタンとかでさ」
「じゃあ、リヴァイアサンマグナを使いますね」
「え?」
ルリアの言葉に固まるグラン。マナヴィタンを使えば雨を降らせる事が出来る、というのは置いておくとしても……リヴァイアサンマグナを使うのは明らかに過剰なのはわかりきっている事だからだ。
「リヴァイアサンマグナ、潰崩のタイダルフォール」
ルリアは、表情そのままにリヴァイアサンマグナを召喚し、技を発動させる。この技は、グランも何度も受けている技である。簡単に言えば……とんでもない激流で相手を流し尽くす技である。
「あ━━━」
そう、流し尽くす技である。この技が発動したが最後、ろくな対策もしないままだと……激流に身を任せないといけなくなるのだ。そして、今回グランはろくな対策をしていないので……どこか地平線の彼方へと流されたいったのであった。
「だ、団長さぁん!!」
「……間一髪だったけど……ルリアちゃん? あれ、いいの?」
モラクスの力を借りて、空中へと避難したマギサとペトラ。そして、ルリアはその隣にサタンに抱えられて飛んでいた。
「はわわぁ」
マギサに質問されたルリアだったが、答えることなくそのままどこかへと消えたグランの体の中へと戻っていく。結局、なぜルリアはここまで無茶苦茶な手を使ったのか。それはマギサですら、後から聞くことが出来なかった。
それとなくグランに話を聞いたが……やはり、詳細な理由はわからなかったようだった。ただ1つ、思い当たることがあるとだけ言い……とある日に言った一言が原因かもそれないと予想をしていた。
『ホワイトデーでのお返しとしてククルに抱きついたけど、予想以上に反応が可愛かったのと予想以上に膨らみがあったのが自分としては十分に良かったんだけどどう思う? グリームニル』
『どうでもいいけど特異点、秩序の子が後ろにいるけどいいの?』
『だってもう他のことで罰うけてるしこの際全部纏めて告白しようかなって━━━』
「それが原因よ?」
「あ、やっぱり?」
次回、6周年記念とホワイトデーの話
所でホワイトデーボイスのメリッサベルで不意打ちで殴られたかのような感覚を覚えました
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ