ぐらさい日記   作:長之助

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二天、逃がさないわよ?

「今回のゲストは十天衆のソーンさんです」

 

「よろしくお願いするわ」

 

「十天衆といえば知る人ぞ知る最強軍団、その中でもソーンは最強の弓使いです」

 

 ソーン。魔導弓を使い、どこまで離れていようとも相手を撃ち抜くことの出来る実力の持ち主。その精度もさることながら、本質は島の端から端までを見渡すことの出来る脅威の魔眼である。見渡せるだけではなく、対象を見つけることも可能である。なんだったら、近所の井戸端会議を読唇術で盗み聞きしたりも出来る。

 

「団長さん、少し違うわ」

 

「ん? なんか間違えてた?」

 

「武器の最強は弓だから、弓使い=そもそも最強なのよ」

 

「全方位に喧嘩売っていくスタイル辞めない?」

 

 お淑やかかつ、大人しそうに見える女性だが……仮にも全空の抑止力となる十天衆の1人。かなりプライドが高い。それが自分ではなく、弓の強さを誇示するために使われるのだからまだマシなのだが。

 

「というかその理論だと十天衆最強はソーンになるけど?」

 

「そんなわけないじゃない、ただでさえ十天衆は強いんだからその中で最強なんて決められないわ」

 

「いやだって自分で……」

 

「剣を使うシエテ、刀を使うオクトー」

 

 突然放った言葉に、グランは首を傾げる。どちらも剣と刀を使う十天衆のメンバーだが、それが何が関係あるのかと首を傾げてしまう。

 

「……?」

 

「2人とも、その場で剣を降るって騎空艇1隻は簡単に落とせるわ。勿論その騎空艇が抵抗するのも込でね……それでも私の理論が正しいって思える?」

 

「あ、いやなんでもない」

 

「そもそも今の理論はただの人間だったらの話、十天衆クラスになると武器のリーチなんて最早メリットにもデメリットにもならないわよ」

 

 オクトーとシエテの話を聞く限り、文字通りだろう。逆に言えばソーンも並大抵の相手ならば近づかれても問題ないということである。

 

「じゃあ俺が弓を使ったら最強?」

 

「残念ながら団長さんは私達側よ」

 

「……今日やたら押しが強くない?」

 

「ふふ、ガンガンに推していくわ」

 

「……とりあえず、お便り紹介のコーナー」

 

 無作為に、無造作にはこの中身をかき混ぜていくグラン。その中から三通の便りを取り出して並べていく。

 

「というわけで一通目『最近魔眼で覗き見て驚いた事はなんですか?』」

 

「私がまるで覗き魔みたいな言い方はやめて欲しいのだけれど……そうね、最近驚いたことは……団長さんがシエテから貰った私たちとお揃いの服をタンスから出しては着込んで決めポーズしていることかしら」

 

「OK、いくらでも払うからそれ以上は話さないでくれ」

 

 十天衆全員を船に乗せた祝いで、シエテから同じ十天衆の装いを貰っていたグラン。その際に一悶着合ってから、シエテが十天衆頭目としてのライバルとしてグランを認識し始めているのはまた別の話。

 

「気に入ってくれて何よりだわ」

 

「まあ、かっこいい服だし……そういえば、十天衆の服装で聞きたいことがあったんだけど」

 

「何かしら?」

 

「あれって個人で服のデザイン考えてるの? それとも別の誰かが一括?」

 

「またどうしてそんなことを気にしてるの?」

 

「え、だって……もし個人で考えてるものだったらエッセルとかすごい格好になってるよ? おしり丸出しだよ?」

 

 十天衆エッセル。十天衆の中でも銃の扱いに長けている女性である。2丁の銃を構えて、行う戦い方はスマートささえ感じられるが……いかんせん彼女の格好は、思春期の男子の性癖をねじ曲げるくらいには凄まじい格好になっている。

 

「ろ、露出度の話は……ちょっと……」

 

 顔を真っ赤にして俯くソーン。20歳である彼女だが、未だこの手のピンクな話題には着いてこれないでいた。

 

「まぁ、これ以上はエッセルの尊厳の為に黙っておくとしよう」

 

「というか……こんな話、カトルに聞かれたら大変なことになるわよ?」

 

 十天衆カトル。エッセルの弟であり、十天衆の中でも短剣の扱いに長けている少年である。ことエッセルの話になれば、唯一の血の繋がりのある身内である為とんでもなくキレる。えげつない暴言を吐く彼の素が出るくらいには、キレる。

 

「大丈夫、前にこんな話題振ったから」

 

「えっ」

 

「気まずそうに顔そらされたから、カトルとはそれ以上話してないよ」

 

 彼女の服装だが……グランの中では二択あった。『エルーンだからあの格好はそこまでおかしくない』説か『エッセルが考えたためカトルが強く出れないか』である。

 身内のことに関しては敏感に反応してブチギレる彼が、エッセルの格好で怒ってないのはどちらかだろうという予想である。

 

「そ、そうなの……」

 

「だから次の話題に行きまっしょい……『島の端から島の端まで見えるらしいですが、だいたいどのくらいの距離が限界ですか?』

 まぁ、前から思ってたけど結構曖昧な表現だよね?」

 

「そうね、島によっては距離も変わってくるもの」

 

「で、実際島の端から端なの? 今まで色んな島渡ってきたりしてるけど」

 

「そうよ? それ以上見る必要性も基本的にないから、見たことは無いの……だから、私自身限界がどこまでなのか把握出来てないかもしれないわね」

 

 あっさりと言うが、はっきり言って恐怖そのものである。つまりソーンと同じ島にいる間はサプライズはおろか、ドッキリ計画を立てようものなら矢文で提案まで出されかねないのだ。

 

「そう考えると、魔導弓っていう武器はソーンにはピッタリの武器なわけだ」

 

「そうね、私の目と一番相性がいいとも言えるわ」

 

 ちなみにソーンは飛行術、つまりは単独で空を飛ぶことが可能な程には魔力も高い。つまり島の端から端までという範囲はあくまでわかりやすい例えなだけであり、彼女の射程範囲は360度最大距離不明な百発百中の矢なのだ。

 

「……改めてほんと、十天衆になった理由がわかる気がする」

 

「まぁ、そのせいで偽名を使うこともあるけどね」

 

「まぁ有名税というか……名前を下手に出すわけには行かないもんね」

 

「そうよ、この間うっかり前に滞在してた島の服屋さんで名前言っちゃったら、ビクビクされて気まずくなっちゃったもの」

 

「それは……ご愁傷さま……」

 

「もう買いに行けないわ……」

 

 自業自得、とは簡単に言えないのが辛いところである。自分は隠していても、ツレによってはそこから名前が漏れてしまうことだってあるのだ。

 

「……とりあえず転換したいし、ラスト3通目」

 

「はーい」

 

「『結婚したいですか?』したい?」

 

「したいわよ? 女の子だもの」

 

「そっかぁ……」

 

 ソーンは20歳である。だからなんだ、という話ではないがお姉さん感を醸し出しつつも妙に同年代感を覚えているグランは、何だか知り合いの異性の友達が結婚して遊ぶ頻度がめっきり減ったかのような、よく分からない感情を抱えていた。

 

「そう言えばシルヴァも結婚しようか、みたいな話してたような気がするわ」

 

「まぁ、うん」

 

「それと一緒に話してたイルザやモニカ、後ヘルエスさん」

 

「これ以上は特定の人物にダメージが与えられるからやめよっか」

 

 突然の特定の人物にダメージを受ける話題を展開し始めるソーン。悪意はないが、おそらくそれを流すことは彼女達にとって大ダメージもいい所だろう。

 

「そ、そう?」

 

「うん、そう……とりあえずやめてあげよう」

 

「そう……」

 

「所でソーンは結婚したらどんな生活をしたい?」

 

「うーん……私は家で主婦をやって……旦那さんのためにお弁当を渡したりして……ごくありふれた、普通の家庭がいいかしら」

 

 望むは普通、十天衆という肩書きを持っているせいかよりその当たり前の夢に新鮮さを感じるグラン。しかし、彼女は一線を超えた強さを持っているだけで、その思考は紛うことなき一般人女性と何ら変わりないのである。

 

「……あ、でも逆もいいかも」

 

「逆?」

 

「私が働きに出て、旦那さんがお弁当を渡してくれるの」

 

「主婦じゃなくて主夫と……」

 

 十天衆なので、はっきり言えばそれ以上に稼ぎが悪いということは無いだろう。十天衆じゃないとしても、狩人としてなら破格の強さを誇っているソーンなので、割と引っ張りだこになりかねない。

 

「そうなのよ……でもどっちでもイチャイチャできるからありだと思うのよね」

 

「因みにその2つを比べたらどっちがしたい?」

 

「うーん……甲乙つけがたいわね……あ、そうだ」

 

 比較的わざとらしく手を合わせるソーン。何を思いついたのか、その表情は少し赤らんで笑顔を浮かべていた。

 

「せっかくだし、この後練習させてくれないかしら?」

 

「……何を?」

 

「新婚夫婦……のごっこ」

 

「新婚夫婦ごっこ」

 

「私は主婦の方が向いてるのか、グランが主夫に向いているのか……判断したいんだもの」

 

 さらっと旦那役にグランを抜擢しただけでなく、グランが自分の主夫になるという事を言い放つソーン。グランはあまりの自然さに全く気づくことがなかったので、そのままスルーしてしまっていた。

 

「まぁ、いいよ? とりあえず一旦終わらせよっか」

 

「えぇ」

 

「えー……ご視聴ありがとうございました、また次回お会いしましょうさようなら」

 

「私に依頼通す時は十天衆として依頼することをおすすめするわ、個人的に話す時は友達や仲間としてお話してほしいもの……じゃあね」

 

 フリフリと手を振りながらカメラを切るまで待つソーン。グランがカメラの電源を切ってから、ようやく手を振るのを辞める。それと同時に、別の話題を振る。

 

「それで、どっちからしたいかしら? 旦那様」

 

「今から始めるのか……うーん、とりあえずソーンが主婦からで」

 

「ならその後でグランが主夫ね」

 

「はいはい……」

 

 苦笑しながら部屋から出ていく2人。ちなみにこの後、勘が鋭い女性陣から質問攻めと滅多攻めにグランはされるのだが……またそれは、別のお話なのである。

 

「……うぅ……!?」

 

「どうしたの?」

 

「なんか嫌な予感がする……」

 

「大丈夫よ、何かあっても私が守ってあげるわ」

 

「やだ……この嫁さんすごくイケメン……」

 

 ……グランのこういう所も、原因なので比較的自業自得なのは否めないのが、難点である。




4月のイベントで胸囲が大きくなったような気がする

偶には長編とか書いて欲しい

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