ぐらさい日記   作:長之助

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竜殺しの騎士、我が剣で魔を断つのか?

「えー……なんと今回のゲストは元黒竜騎士団団長、ジークフリートさんです」

 

「どうも、不得手ながらも頑張っていこう」

 

「とりあえず一ついいすか」

 

「何だ?何でも言ってくれ」

 

 指を1本立てながら、グランはジークフリートに話しかける。その顔はとてもとても真面目なものだった。

 

「何でそんなに頭が良くて強いの?」

 

「ありがとう、でも俺はそこまで強くない……と言えば謙遜になってしまうな。質問されている以上、謙遜で返す訳にもいかないか」

 

「答えられる範囲でいいよ」

 

「とは言っても……人一倍頑張った、としか言い様がないな。何か特別なことをした、という意識は俺にはないよ」

 

「これが真の強者の言葉か……」

 

 グランはしみじみと感じとっていた。ジークフリートとの間にある、絶対的な何かを感じとっていた。

 

「それに、俺は一人で行動することに慣れているからな。皆が何かしている時は、俺が独自に動いてサポートするだけさ」

 

「パーさんのお兄さん……アグロヴァルの事件の時とか?」

 

「そうだな、直近で言えばそれが目立つだろう」

 

「確かにあの時のサポートは凄かった……」

 

「さて、お便りとやらは俺にはないのか?」

 

 ジークフリートが穏やかな笑顔で、お便りの読み上げを催促してくる。ちゃんと体は大人だが、こういう自分が体験したことの無い物に対しての好奇心は子供の様だと、グランはふと考えながらお便りを探していく。

 

「んー……じゃあこれ!『受けですか?攻めですか?』」

 

 どう考えてもルナールである。しかも、お便りに書かれている文字がとんでもなく歪んでいる。恐らく、これを書くだけで彼女は天命を全うしているのだろう……そう思えるほどに字が歪んでいた。

 

「そうだな……」

 

「素直に答えるんだ……」

 

「俺は基本攻めていくな。しかし、武器の大きさを利用して相手からの攻撃を全部受け止めることも出来る……そう考えると、『攻め』なのだろうな」

 

 今、おそらくルナールが部屋で悶絶しているのだろう……とグランは予測していた。下手をすれば、今のジークフリートの一言で精神が肉体から乖離する程には喜びで心が満ちているだろう。

 

「とりあえず、2通目行ってみよう……お、これとか『今使っている武器以外で使ってみたい武器はありますか?』匿名希望」

 

「武器か……確かに、この団にいると色々と気になるものもあるな。」

 

「例えば?」

 

「かの銃工房の、娘さんの最近使い始めている武器だな」

 

「娘さんと言うと……」

 

 グランの知っている銃工房で、なおかつ娘がいるところはククルやクムユがいる工房のことを指しているのだろう。しかし、娘と言っても二人いる為どちらのことを指しているのか、少々迷ってしまう。

 

「姉の方だ」

 

「……あー、あのガトリング」

 

「あれを両手に持って使ってみたいな」

 

「反動で肩があらぬ方向に曲がりそうだ」

 

「そこまで反動があるなら、その反動を利用して空を飛べそうだな」

 

「??????????」

 

 ジークフリートは、偶によく分からないことを口走っている。ガトリングの勢いだけで飛べるなら、今頃ククルの肩はあらぬ方向に吹き飛んで空の彼方に辿り着いていることだろう。

 

「反動があると言っても、流石に空は飛べないのでは……」

 

「ん?俺は剣を動かす時の勢いで5秒ほど飛ぶぞ?」

 

「めっちゃ飛んでる……」

 

 秒数制限があるとはいえ、流石に今のは盛りすぎなのではないだろうか?とグランは半信半疑だった。それをジークフリートも察したのか笑顔で立ち上がる。

 

「ならば、試してみるか?」

 

「試す?今から?」

 

「あぁ、丁度いい機会だ。前から俺の剣技を見たいという者達がいたのでな……前から見せられなかった者達もいるから、今ここでカメラ越しにとはいえ見せてやろう」

 

 ふむ、とグランは考え込む。番組としてはただ駄弁るだけの番組なので、ガチ指南の番組になるのはあまり好ましくない。

 しかし、ジークフリートの言う通り見たいと思っている人物が多いのもまた事実。2つの事柄を合わせて、そしてひとつの結論まで持っていく。

 

「……よし、ならカメラ越しに見せてあげてよ。何なら俺が相手でガチ目の特訓行っちゃう?」

 

「団長が望むなら、そうしよう」

 

 グランは、ジークフリートの笑顔を見てふと思ったという。『それにしてもこいつ、笑顔が似合いすぎだろう』と。ルナールのHPは尽きていないだろうか。

 ともかく、こうして異例の相談室を抜け出しての相談室が行われることになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、行くぞ?」

 

 恒例のフルフェイスの兜を被り、文字通り全身真っ黒な姿となるジークフリート。黒竜騎士団団長という肩書きは、伊達ではないのだ。

 

「いつでもどうぞォ!!」

 

 大してグランは、ベルセルクのジョブで挑むことになった。単純なパワーならこちらがいいだろうと思ったからである。何故か、妙にテンションが高くなっているが、ジョブで着ている衣装のせいである。

 

「なら……フッ…!」

 

「ぐげっ…!?」

 

 10mほど離れてたにも関わらず、ジークフリートはその間を一瞬で詰める。そして、上から振り下ろされる一撃をグランは装備していた武器で受け止める。

 

「重っ……うぉ!?」

 

「まだまだだ!」

 

 しかし、ジークフリートは器用に剣を動かして武器を滑り込ませてグランの得物を下から上に弾き飛ばした。当然、ほぼ不意打ちの形なのでグランの得物は物の見事にグランの手から離れて、空中に身を乗り出す。

 

「フンッ!!」

 

「うぉっと……ま、参りました」

 

 そして、さらにまた即座にグランの首に武器を迫らせてチェックメイトとなる。今回は、グランの完全敗北である。

 

「随分とすぐに決まったな」

 

「いや……ジークフリート本気で決めに来てたでしょ…今の動き今までの特訓でやった事なかっただろうし」

 

「そんなことないさ……あの動きを出来るか疑問に思ったからな……案外やれば出来るものだな」

 

「今の1連の動き、10秒どころか下手したら5秒も経ってない気がするけど?」

 

「あぁ、出来るだけ早く動きたかったからな」

 

 やはり、ジークフリートは化け物なのだと今更グランは理解した。分かっていたことではあるが、未だに成長を続けている辺り、そのうち本当に十天衆のシエテなどに勝てるのではないだろうか?とさえ思えてくるほどである。

 

「やっぱりおかしいよお前……」

 

「褒められるのは悪い気がしないな」

 

「……いやまぁ、本当に褒めてるからいいんだけどさ」

 

「さて、部屋に戻るか」

 

 そう言って、たった数秒で終わった特訓は更に数十秒の会話により幕を引いた。後日、ジークフリートの元には大量の挑戦者が団内で現れたようだが、ある意味自業自得である。ジークフリート本人は嬉しそうではあるので、問題ないのだが。

 閑話休題……その場を後にしたグラン達は再び部屋まで戻ってきていた。

 

「そう言えば、空飛んでた?」

 

「……いや、踏み出してから団長の武器を弾くまでは飛んでいたはずだ」

 

「武器弾いてる時に、どうやって腰に力を入れているのか謎だった……けどそれ一瞬だよね、決着が早かったし」

 

「……また今度、な?」

 

「まぁ、いいよいいよ大丈夫だし。予定が合えばお願いします」

 

「あぁ……と、まだ一通余ってなかったか?」

 

「そう言われれば確かに……んじゃま、最後のお便り読んでみますか。『ご飯作れるなら、グランサイファー内で定期的に行われる料理対決に参加してみます?』質問ではあるけどこれで聞くことじゃないね!!匿名希望だから誰かわかんないけど!!」

 

「……そのような催しがあるのか?」

 

「ん……まぁ、ある事はあるけど」

 

 グランサイファーに乗っている料理が得意な者達が集まる会合がある。とは言っても、自分の作った料理を提出して食べてもらうだけの会なのだが。

 

「なら、俺も参加してみようか」

 

「前にフェードラッヘのレストランで、俺たち手伝ってたもんね」

 

「あぁ、また今度行きたいものだ」

 

「それにしても魔物のプリンはどうなんだろうか……」

 

「なかなか美味かっただろう?」

 

「魔物って知らなかったら、確実に美味いと叫ぶほどには」

 

「ゼリー状の魔物を使ってゼリーも作ってみたいな……」

 

 ジークフリートは、どうやら探究心が強すぎるようでゲテモノ料理を作りたい欲求があるようだ。グランは苦笑いしながらもあのプリンは美味しかったので正直馬鹿にできないことはある。

 肉や魚をちょくちょく買ってきてはいるが、団員が多いので食費も馬鹿にならないのだ。

 

「前にレフィーエに怒られたしな…」

 

「ん?どうした?」

 

「いいや、質素姫に倹約して欲しいって言われたこと思い出して」

 

「食料事情はあまりいいとは言えないかもな、それでも俺達が満足して食べられる物があるのは素晴らしいが」

 

「ローアイン率いる料理得意組が頑張ってくれてます……」

 

 リュミエールなりローアインなりカタリナの後輩なりなどの料理が得意な人選が、グランサイファーの食料事情を担っている。魔物の肉もいいかもしれないが、こちらもプロではないのであまり勝手に捌けないのだ。

 

「ちゃんと下処理できる人見つけた方がいいのかなぁ」

 

「いや、案外皆そういう知識を嫌でも身につけていると思うぞ」

 

「それはいいような悪いような複雑な気持ちだ……」

 

「慣れておいた方が、今からでも問題は少なくなるだろう」

 

「なるほど……確かに考えたら、人っぽい見た目してる奴以外は皆食べてるしな」

 

「今まで食べた中で1番美味しかった魔物は?」

 

「アルバコア」

 

「星晶獣じゃないか……」

 

 星晶獣と言う割には、夏になれば決まって捕獲されるただの生物のような気がするが、そこをあまり気にしていてはしょうがないだろう。どっちにしろ、美味しいものは美味しいのだ。

 

「しかし……アルバコアは確かに美味しいな…」

 

「ジークフリートは、食べてみたい肉ってある?」

 

「リヴァイアサン、どんな味がするのか気になる」

 

「……あれって魚?それとも蛇?」

 

「蛇のような見た目をした海にいる星晶獣だろう」

 

 真顔でわかり切っていることをジークフリートは言うが、どちらにせよ今ここで食べられかけているリヴァイアサンからしてみれば、食べないでくれと思うのが本音であろう。

 

「……ちょっと今度魔物狩り行こうか」

 

「よし、パーシヴァル達も呼んでどの肉が食べられるか確かめてみよう」

 

「毒があるかもしれないし、毒抜きできる人も探さないとね」

 

 何故か珍味探しの方向に話が進んでいる相談室。もうそろそろ時間が迫っていることを認識したのか、グランは話を締め始める。

 

「……ってわけでね、そろそろお時間となって参りました」

 

「いつもならば、団長はそろそろ落ちているか秩序の騎空団に連れていかれてるな」

 

「けど今回はどうしようもないでしょ、さすがに男にセクハラするほど俺も酔狂じゃないさ」

 

「あまり、女性陣たちを困らせることはしないようにな」

 

「はーい……という訳で、今日の団長相談室はここまでです。ご視聴ありがとうございました」

 

 元気よく返事を返すグラン。そして、そのまま番組を終わらせてカメラの電源を落としてから、一つため息をついた。

 

「ふぅ……とりあえず、ご飯の話してたらお腹減ってきた」

 

「そうだな、何か作って小腹を満たすとしようか」

 

 そう言って、2人は部屋の外に出てくる。しかし、その場で確認した光景で固まってしまっていた。

 

「歩いてください、ルナールさん」

 

「はい……」

 

「━━━━ルナァァァァァァァァァアアアアアル!?」

 

「これは一体どういうことだ……」

 

 驚きながらも、グランとジークフリートはリーシャと連行されているルナールに近づいていく。

 

「あ、団長さん。実は……ルナールさんの部屋に大量の耽美絵が置かれていたんです」

 

「いつもの事じゃん……」

 

「いえ、えっと……ジークフリートさんと団長さんのものだったので、肖像権の侵害ということで逮捕しました」

 

「言わないでぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!」

 

 涙を出し、大声を上げて叫ぶルナール。しかし、その言葉に対してジークフリートもグランも何ら気にしていない様子だった。

 

「いや、まぁ妄想するのは悪くないしね。それで物販し始めたら流石に不味いけど、書くだけなら別にいいんじゃない?」

 

「団長さん…!」

 

「趣味嗜好は人それぞれだ。特に、絵というものは他人にインスピレーションを得て描くものだからな。

 団長の言う通り、物販した場合は少し問題だが……そうでないなら、大丈夫だろう」

 

「……ジークフリートさんが言うなら、しょうがありません。しかし、反省文自体は書いてもらいますよ。描いてる時の声が響き渡ってましたから」

 

「……はい」

 

 こうして、ルナールは連行された。彼女はまた戻ってきたら耽美絵を描くのだろう。それで逮捕されないことを、祈るばかりである。




設定上の強さ的な意味で、カリオストロやガンダゴウザに並ぶと思うんですよね。

※すいません、カツウォヌスとアルバコア完全に間違えてしまっていました。
ニワカ晒してしまった……訂正しときます。

偶には長編とか書いて欲しい

  • はい(ギャグノリ)
  • はい(シリアス)
  • いいえ

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