ぐらさい日記   作:長之助

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不滅の群青、私に任せろよ?

「はい、今日はベアトリクスさんに来ていただきました」

 

「ふふん、私に任せな」

 

「その場合お前から目が離せない」

 

「はぁっ!?」

 

 グランの唐突に放った一言により、ベアトリクスは顔を真っ赤にする。グランとしては『無謀すぎるから』『危険すぎるから』などといった理由からの拒否である。

 しかし、ベアトリクスは意味そのままに受け取ったのか、はにかみながら指で遊んでいた。

 

「い、いやぁ……い、いきなりそんな事言われても……こ、公開告白ってやつかこれが…!」

 

「え、何言ってんの?」

 

「え?」

 

「ベアトリクスから目を離したら、いつも何か起こってるから……そういう意味での目が離せない、なんだけど」

 

「な、なんだよぉ……!私ひとりで恥ずかしいみたいじゃんかぁ…!」

 

 今度は照れではなく、羞恥によって顔を真っ赤にしていたベアトリクス。1人で勝手に突っ走るところは、こういうトークでも変わらないようだった。

 

「ま、とりあえず世間話でも……ベアトリクスはお菓子作りが得意なようで…カロリーが凄まじく高いみたいだけど」

 

「ふふん、私は料理が得意なんだ。見直したか?」

 

「いやぁ、料理をしてもお前が作る料理は全部お菓子になるんですけどね。その辺、どういう解釈をしたらいいんですかね」

 

「うぐっ……あ、あれは本当になんでなんだろうなぁ……」

 

「それはともかくとしても……まぁ、ホットケーキくらいならまともだったよな」

 

「あ、前にこっそり焼いた時か?あれもうちょっとちゃんとしたの作りたかったんだけど」

 

「縁は黄色くて中心は茶色くできている以上、立派なホットケーキだと思うんだがなぁ……どうやってあれ以上にちゃんとする気なんだ」

 

「クリームとか果物でデコレーションしたかった」

 

「なんで君パティシエやってないの?」

 

 純粋な疑問をぶつけるグラン。ベアトリクスもそのことに気づいたのか、ハッとした顔になっていた。

 

「……まぁ、組織に入ったのは別にいいことだったと思ってる。パティシエでも、やっていけてたのかは分からないしな」

 

「まぁ、ドジだしなぁ」

 

「だ、誰がドジだぁ!!」

 

「よーし、ならお前の体を亀甲縛りでガチガチに固めて」

 

 久しぶりに、グランは落下した。久々の女性団員とのトークなので、ついつい早いところからセクハラを始めてしまった、というのが彼の言い訳である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「きょ、今日はそのまま続けるんだな」

 

「リーシャに『流石に落ちるのが早すぎる』って怒られた」

 

「……確かに早すぎたな」

 

 平然と部屋に戻ってくるグラン。久しぶり過ぎて対処できなかったのは、ある意味彼は自分の失態だと卑下するだろう。

 

「とりあえず、お便り行ってみよう」

 

「誰から届いてるかなぁ」

 

 ワクワクとした気持ちを隠しきれずに、ソワソワするベアトリクス。その様子を微笑ましく見ながら、グランは1通目の手紙を覗いていた。

 

「まず1通目『ねぇ、何であんた本当に作った食べ物全部甘くなるの?』ゼタからです」

 

「そ、それは私にもわかんないんだってぇ……」

 

「……ん?よく見たら裏面に何か……『というのは冗談で、何でそんなに家庭的なの?』」

 

「ゼタァ……!」

 

「家庭的って言うと……お菓子作りを初めとして、裁縫もそれなりに出来るよね」

 

「あ、あぁ……新衣装も自分で作ったものだしな」

 

 ちょっと嬉しさで涙目になりながら、ベアトリクスはグランとの会話を進めていく。彼女の意外と家庭的な所は、案外周知されていないのだ。

 

「そうだねぇ、これで料理もちゃんと上手く出来たらもう立派な嫁に行ける娘になっちゃうよねぇ」

 

「よ、嫁って……」

 

 3度顔を真っ赤にするベアトリクス。照れ芸、恥ずかしがり芸、そしてキレ芸と、顔を真っ赤にする手段には事欠かないなとグランは内心で苦笑していた。

 

「まぁそれ以上のドジっ娘属性をとうするかだな」

 

「わ、私だって上手くやれればいける!!」

 

「亀甲縛り……の話は落ちるし、今度本当にドジっ娘って言われないように特訓でもするか?」

 

「ふ、2人で……だよな?」

 

「いやもうこの番組で言ってる時点で無理でしょ」

 

「うぅ……そうだよなぁ……」

 

 泣いたり笑ったりと、忙しい人だなとグランは思っていた。ところで、彼女はグランよりも一応歳上である。これを見る限り、逆に彼女が年下見えてしまいかねないと、グランは謎の焦燥感を感じていたが。

 

「という訳で無慈悲に2通目『どうして鎧がそんな薄いんですか』ルリアから」

 

「私のはゼタモチーフだからなぁ……って言っても、そもそもあんまり分厚い鎧は着ていけないんだよな、私達」

 

「って言うと?」

 

「そもそも分厚い鎧なんて着てたら、戦う際にちょっと面倒だしな」

 

「あー、星晶獣と?」

 

「星晶獣と」

 

 そう、ベアトリクス達……つまりは『組織』に入っている者達は、全員1人で星晶獣と戦える程の力を持っている。

 ベアトリクスでさえ、1人で星晶獣を倒せる力を持っているのだ。そして、星晶獣の一撃は並の魔物の一撃と比較にならないほどの強力な攻撃である。となれば、あえて体を軽くするために装甲を薄くする方が無難という事である。

 

「でもそこまで露出激しくすることも無くない?」

 

「しょ、しょうがないだろ?一応鎧なんだからできる限り薄くしたいんだよ」

 

「……そう言えば、ユーステスもイルザも普通に服だったな…」

 

 組織メンバーの中で、鎧を着ているのはゼタとベアトリクスである。現在諸事情(Second Advent)によってベアトリクスは鎧を着ておらず自家製のスーツを着ているが。

 

「でもさ、私思うんだよ」

 

「何が?」

 

「国とかが使ってる鎧って、割りと意味成してない時あるよなって」

 

「え、それまたどうして?うちの団にも鎧着ている人はいっぱいいるけど?」

 

「だってさ、全員直接攻撃は当たらないように避けてるか攻撃に対して反撃するとかじゃん……鎧に攻撃が当たったところなんて、見たことないぞ?」

 

「……ん?あれ、ほんとだ……!?」

 

 白竜騎士団の面々や、リュミエール聖騎士団の者達は鎧を着込んでいる。しかし、その鎧が相手の攻撃を防いだ……と言ったのを見た事がない。

 そもそも、偶に帝国軍と戦っていた時だってグランですら帝国軍の鎧…それも兜を凹ませたりして倒していたのだから、人間同士の戦闘ですら、鎧が役に立っていないということになる。

 

「まぁ、騎士団とかのだと由緒正しいとかなんとかで着てるんだろうから、そこら辺の事情は仕方ないんだろうけど」

 

「まぁ、そうか……」

 

「にしても、グランは最初ゼタと会ってたんだよな?」

 

「まぁ、うん」

 

「……その、ゼタってどんな印象だった?」

 

「強いて言うなら……ちょっと年下の男の子にイタズラしてる近所のお姉さん」

 

「そ、そうか……私とか、教官は?」

 

 何故か急にそんなことを聴き始めたベアトリクス。グランはそこまで疑問に思わないまま、ひとまず答えていく。

 

「ベアトリクスは……おっちょこちょいでドジだけど、けど真っ直ぐな印象……ドジだけど」

 

「そ、そうか…!……ん?私今サラッと馬鹿に」

 

「イルザは表面上厳しいけどめっちゃ女の子らしい人」

 

「……え、マジで?」

 

「offの時に前会ったもんで、その時色々と話してた」

 

「で、デートしてる……」

 

 ガックリと項垂れるベアトリクス。グランは首を傾げるが、しかし何となくフォロー入れておこうと考えていた。入れておかねばならない気がしたからだ。主に、相談室のドアの隙間から覗いているリーシャの視線が怖いから。

 

「……偶然出会っただけじゃデートになんないって、結局数言話した後に色々あってすぐ別れたし……10分も経ってないと思う」

 

「ほ、本当か?」

 

「本当本当」

 

「そ、そうか…!」

 

 嬉しそうにするベアトリクス。そしてそれと共にリーシャの気配がいつの間にか消えていた。グランは安堵した。

 

「……っと、そろそろ三通目行くか『初めて見たものでも調理できるんだな、鉄砲玉』」

 

「きょ、教官……」

 

「そう言えば、確かに魚とかキノコとか初めて見た割には滅茶苦茶上手に料理できてたよね。お菓子だったけど」

 

「まぁ…鱗取るくらいはわかるよさすがに」

 

「いやいや、それが結構難しいって話してるんだけどな」

 

 ベアトリクスは、作るものが大体お菓子の味になる代わりに、料理だけは初めて作るものであっても、プロ顔負けの見た目にすることが出来る。味は完全にお菓子の味なのに、滅茶苦茶美味しいという奇妙な料理になってしまうが。

 

「そういうもんか?」

 

「そういうもんだよ……」

 

「……ふふん、そうかそうか!」

 

「天才なのは誇っていいと思うけど、調子乗ったらまた酷いしっぺ返しを食らうことになるぞー」

 

 褒めると調子に乗り、褒めなくても手柄を立てると調子に乗る。何だかんだ頼まれた仕事は完遂することも多いので、組織を続けていられるのだろうと、グランはふと察した。

 

「……ん?もしかしてもう結構時間経ってるか?」

 

「おっと、ほんとだ……結構時間経ってるな」

 

「落ちないのか?」

 

「いや、まるで俺が落ち芸を取得してるみたいな言い方するのはやめてくれよ…あながち間違ってないか」

 

 満更でもない表情をグランはするが、ベアトリクスはそれを華麗にスルーして締めにかかる。

 

「じゃあ皆!今日はありがとうな!!」

 

「あ、ちょっ……司会進行役の俺が切るのが定番だと思っていたんだけどなぁ……いや、こういうのもありか?」

 

 ベアトリクスがカメラの電源を切り、番組を強制的におわらせる。『もう終わりの時間』という所だけを認識していたので、グランの言葉にベアトリクスは頭に疑問符を浮かべていた。

 

「……にしても、戻ってくるのはありなんだな」

 

「さっきも言ったけどリーシャに戻されてなぁ……まぁ、俺も早すぎたと思うけど」

 

「ところで、私が縄抜けを出来ないほどだと思ってるのか?」

 

「出来てたら捕まった時なんて勝手に抜け出せるでしょ」

 

「うぐっ……あ、あの時は油断してただけだ!!ちゃ、ちゃんと冷静ならできるさ!!」

 

「ほーう?」

 

 グランの目が怪しく光る。自分の言ったことは撤回しないベアトリクスだが、グランのその瞳を見て一瞬たじろいでいた。

 

「リーシャー、リーシャー!!」

 

「はい、何でしょうか団長さん」

 

「こう、ベアトリクスをいい感じにギッチギッチに締め上げてくれ。縄抜けが出来るか見てみたい」

 

「分かりました、ベアトリクスさんには秩序の騎空団仕込みの『えげつない拘束』をしてあげましょう」

 

「え、拘束するだけだよな?縄だけだよな?ま、待っ……あー!!」

 

 ベアトリクスの無慈悲な叫びがこだまする。リーシャに結ばれるベアトリクスというくんずほぐれつな場面を見ながら、グランは真顔でただ頷くだけである。

 

「あ、忘れてました」

 

「ん━━━」

 

 グランが疑問に感じるよりも早く、リーシャは自分が持っていたボタンを押す。そして、その瞬間にグランの足元の床が開き、グランは本日2度目の落下を味わう。

 

「え……きょ、今日はもう一回落ちてたんじゃあ……」

 

「別に一日の落下回数に制限はごさいませんので」

 

「あー……」

 

 ベアトリクスは、グランが落ちた穴をただ覗く事しか出来なかった。リーシャに何故か全く抵抗出来ずに、ただふん縛られてがっちりホールドされるのを、ただ気にしないようにしかできなかったのだ。

 その後、ベアトリクスが縄から抜け出すのに約3時間ほど掛かったという━━━




最新組織イベント後のベアトリクスです。

偶には長編とか書いて欲しい

  • はい(ギャグノリ)
  • はい(シリアス)
  • いいえ

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