「今回のゲストはユーステスさんです」
「……」
「出来れば何か喋って欲しい……」
「……勝手がよく分からないからな、そちらに任せる」
「あ、はい……まぁただ雑談と質問コーナーするだけだからね……とりあえず、これどうぞ」
「…?っ!!」
ユーステスはグランに渡されたものを、確認しながら受け取る。そして、受け取った直後にその目を見開いて即座にグランの方に視線を向け直す。
「……いいのか?」
「あげるよ、今回出てくれたお礼」
「……そうか、受け取ろう」
そう言って、受け取った物をユーステスはポケットに丁寧にしまい込む。因みに渡された物は1枚の紙なのだが、その紙には『ワクワク触れ合いアニマル広場1日無料券』と書かれていた。
要するに、動物に惹かれただけである。俗に言う買収である。
「ユーステスの武器はフラメクって名前だけど……イルザと同じ銃型の武器なんだね」
「あちらとこちらでは、用途はまるで違う。そもそも、俺達の立場が違うから当たり前の話ではあるな」
「そう言えば同期なんだっけ?」
「あぁ、昔は仕事の時に今のような言葉遣いをする事は無かった。だが、今の言葉遣いにしてからの方が部下の生存率は、目に見えて高くなったと聞く」
「要するに、汚い言葉を使って反骨心を鍛え上げてるんだと思うよ。まぁ、部下の人達の場合反骨心というか、尊敬の方が上回ってる節があるけど」
仕事の時にはクソクソ言い放つイルザ。しかし、本来は下品なことは嫌いな性格なので、実を言うとちょっとだけ丁寧な罵倒になっているのだ。
「ベアトリクスは、イルザのことがトラウマになっているな。あいつが罵倒を言い始めた後に組織に入ったから、当たり前と言えるが」
「そう言えば、ペア組んでるんだよね二人で」
「あぁ……お前達と最初に出会ったのは、ノースヴァストだったな」
極寒の地、走るソリ、やたら騒ぐ世紀末風味なハーヴィン達。オダヅモッキーを壊滅させるために、ベアトリクスとユーステスはペアを組んでいたのだが、初めてグラン達と出会ったのがその任務だったのだ。
「前から思ってたんだけどさ……イルザ以外皆個人個人で思いのままに動いているよね」
「基本的に、組織から与えられる任務以外で組織の施設に赴くことは少ない。俺達が基本的にこの船にいるのは、そういった理由もある」
「あー、確かにずっと居るよね。魔物退治をその武器でやっても、文句言われないの?」
「文句を言われるのならば、わざわざ貸出はしないだろう。上層部は……武器に対しては凄まじい程に慎重だからな」
「あー、確かに」
使用者よりも、武器の回収が最優先などというのが組織の上層部である。グランが大嫌いな部類の一つである。
「……お便り、とやらは?」
「急に振ってきたね……まぁならいってみよう……何が出るかなー」
ガサゴソとダンボールを漁り、グランは1つの紙を取り出してそのまま書いてあるのを読上げていく。
「『今まで戦った星晶獣、または話に聞いた星晶獣の中で戦うのが辛かった、または辛そうな相手はいますか?』」
「星晶獣か……組織の任務で狩ったのは、一応喋らないようにしておこう。つまり、お前達が今まで倒した星晶獣の聞いた話をすることになる」
「それでも構わないよ〜」
「まずは……そうだな、天司達だろう」
天司、この空における島の浮遊を保たせている星晶獣達のことであり、それぞれ4種いるのだが……それとは別の天司がいるのだ。その中で戦った天司と言えば……
「サンダルフォンとかだね」
「あぁ……単純な戦闘能力の高さでは、かなり厄介な相手だったと聞く」
「そうだねぇ、かなり苦戦した記憶があるよ」
それでも倒せているのだろうと、ユーステスは珍しく笑みを浮かべてグランを見守っていた。
「もう1つ上げるとするならば……オネイロスだな」
「あー……」
星晶獣オネイロス。夢を司る星晶獣だが、厄介なことにあまりにも現実味のある悪夢を見させることにより、夢と悪夢の認識を入れ替える力を持つ。しかも厄介なことに、そのまま衰弱させたり長い眠りにつかせることだって可能なのである。
「まあ、もうそんな心配はないけどね」
「そうだな……しかし、夢か…」
ふと考え込むユーステス。夢になにか思うところでもあるのか、その瞳はかなり真剣なものとなっている。少し様子が気になったグランは、ユーステスに話しかける。
「ユーステス?どうしたの?」
「……いや、瑣末なことだ」
「……?」
ユーステスは言えなかった。『毎晩動物と触れ合う夢を見させて欲しい』などと一瞬でも思ったことを、喋る気にはならなかった。
「まぁいいけど……他にも強いって思った星晶獣はいる?」
「……そうだな…色々いるが、俺が感じたのは主にその2体だと言っておこう」
「なるほどねぇ……なら、次いってみよう。『銃使いとして、戦ってみたいまたは特訓などで戦っている相手はいますか?』」
「俺はあまり、武器を用いた特訓はしないな」
「あれ?そうなの?」
「肉体の鍛錬を行っている……そもそも、武器を手放す時がある可能性もあるからな、なるべく武器を選ばない戦い方を覚えた方が楽だと感じた迄だ」
「……確かに、いざと言う時いろんなもので戦えたらいいよね」
他人事のように言い放つグランだが、ごく稀に水風船やトレピリなどと言った明らかに武器ではないものまで、武器として扱っているのだから彼も人のことを言えた義理ではない。
「お前は少々規格外だ……兎も角、俺は銃使いとあまり戦わない…そもそも、フラメクやニバスのような類の武器ならばともかく、実弾のみを使う武器の場合、資材がもったいないだろう」
「……あー…」
銃弾を特訓として使うには危ない以前に、そんな撃ち合っていたら確かに弾薬が勿体ない事にグランは気づいた。
近接武器や銃身そのものならばともかく、火薬に関してはあまり買い占められないのだ。
「あの三姉妹も少しぼやいていただろう」
「ククル達ね…どうしても市販の火薬類って国が優先されやすいからなぁ…」
買えないこともないが、一騎空団が所属する分を補えるほど買えるという訳でも無い。故に基本的に火薬の素材を買ったり採掘したりして、ククルとクムユが弾薬と火薬を作るという状況である。
「……ま、シェロカルテにはあまり強く言えないけどククル達が作ってくれる方が質がいいから俺は好きだよ」
「……お前のそういう所が、修羅場を産むと本で読んだことがある」
「……修羅場?」
一体何の本を読んだのか問いただしたかったグランだが、それに時間を割いて居られないので、とっとと三通目にいくことに決めたのであった。
「『組織の中でペアを組んで1番相性がいいと思える人はいますか?』」
「ベアトリクスだ」
「即答……なんで?」
「……というよりも、恐らく1番組みやすいのがアイツだ」
「ベアトリクスが…?」
あのドジっ子が全員と相性よく戦えるほど器用だっただろうか、と明らかに失礼なことを考えたグランだったが、ユーステスはそのまま解答を言い放つ。
「あいつは武器の力もあるが、攻撃力に関しては1番の強みを誇る」
「…あ、エムブラスクって窮地に追いやれば追いやるほど強くなるんだっけ」
「あぁ、特に俺やイルザの場合……銃弾があいつの頭を掠めると窮地に追いやれる」
「まさかの無理やりピンチに追いやる戦法…!?」
「……冗談だ」
一切の表情を変えずに冗談を言われても、中々信じられないものなのだなとグランは思い知った。さすがにユーステスも悪いと思っているのか、ちょっと耳が垂れていた。
「突破力があるんだ、あいつは」
「あぁ、そっちだよね……うん」
「俺やイルザ、ゼタやバザラガではなし得ない突破力だ……ゼタは、ベアトリクスの次にあるようだが」
「エムブラスクの力、なのかな」
「さぁな、俺はあいつの性格や資質そのもののおかげだと思っている」
相変わらず表情を変えずに言うが、やはり信頼事態はあるのか客観的ながらも彼女をちゃんと褒めていた。年上のクール男がモテやすい理由がグランはわかったような気がした。
「……少し喋りすぎたな」
「そんな、バザラガじゃないんだから…」
「……」
照れ隠しなのか、バザラガのような事を言うユーステス。そもそもバザラガのあの言葉もグランは照れ隠しの1種だと思っているので、組織の男達はどうにも照れ隠しの印象が強くなってきていた。
「……もう、時間だろう」
「あ、ほんとだ……もう終わりの時間だった。では皆様ご視聴ありがとうございました、また次回お会い致しましょう」
そう言ってカメラの電源を落とすグラン。落とした後、ユーステスと一緒に部屋から出る。
ふと、グランはルナールの存在を思い出した。今回は、全く意識していなかったため何かが地雷になっているのかの可能性があるのだ。
「……いや、流石にもう大丈夫だと思うけど…」
「どうした」
「い、いや……別に」
「…?そうか」
ユーステスは一瞬不思議そうな顔をしたが、グランが何も言わないのなら、とそれ以上の追求をすることは無かった。そのまま2人が歩いていくと、目の前にほんの少しドヤ顔をしているベアトリクスが現れる。
「お、なんだユーステスじゃないか!」
「……やけにご機嫌だな」
「ふふん、これからも私を頼ってくれよな!!」
どうやら、番組内で言った一言がベアトリクスを調子に乗らせたらしい。ユーステスは呆れて、グランは苦笑いをしていたがベアトリクスはそんなことには気づかないで2人の前を通り過ぎる。
「……あいつは、また何かやらかしそうだ」
「まぁ、ベアトリクスだからね……何かやらかすのは分かりきっているというか」
グランとユーステスの妙な信頼は、このすぐ後に的中する事となる。2人も、ベアトリクスもその事には気づかないのだが。
「ふんふふんふーん!」
調子に乗って鼻歌を歌うベアトリクス。しかし、彼女がとある部屋を通り過ぎた瞬間に、いきなり扉が開いて何かが現れる。
「うわああああ!?」
「バウッ!!」
それはスカルの飼っているペットである。オダヅモッキー時代からの相棒らしく、いきなり部屋の扉から現れたベアトリクスは馬乗りにされていた。
「ちょ、おまっ!待っ!!あー!どこに連れていくんだ!ちょっと待って!ほんと何だ何なんだー!!」
「……あれ、助ける?」
「いや、別に大丈夫だろう」
犬に首根っこ掴まれて、拉致されていくベアトリクス。その光景は実にシュールなものであり、別段危機感を煽るようなやばいものでもないので2人はそこまで助ける気にもなれなかった。
「あれはじゃれているだけだ」
「へぇ、凄いねユーステス。そんなこと迄分かるなんて」
「見てないで助けてくれよ2人ともー!!」
船の中でベアトリクスの声が響き渡る。仕方なくベアトリクスは救出されたが、どうにも腹が減っていたようだったので、グランが何故か持っていたビーフジャーキーを与えることで解決したのであった。
因みに、主人のスカルは勝手に食料庫から肉を持っていこうとしたので、リーシャにこってり絞られていた。
後日、その事を本人は完全に忘れていたのだが。
2016年以来に来たらしいですよ延長メンテ
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ