「一応…蘇生は続けているんですけど……」
「復活出来なさそう…?」
「少なくとも……しばらくは寝たきりかと……」
「う、うぅ…なんでだよ団長ォ……!」
ベッドで寝たきりのグラン。悲しそうな顔をしているゼタ、悲しそうだが、それでも説明を続けるソフィア、そして何も言わないイルザ。
「なんで、どうしてこんなことに……」
「……食べ過ぎ、ですね…」
そう言って、ソフィアは今や立ち入り禁止となっているグランの部屋に視線を向けていた。
何故立ち入り禁止となっているか……それは、2/14がバレンタインだったこと…そしてグランが100を超えるチョコを貰っていたこと…それら全てが部屋に存在したことで、吐き気を催す程の甘ったるい匂いの空間になってしまっていること…それらの要因が合わさった結果である。
「それに、カタリナさんのチョコも食べてましたし…」
「ヴィーラがちょっと同情してたわね…」
「彼女もしばらく寝込んでましたが…せいぜい数時間でした…」
「なんで、既製品を買ったのに……あんな事になってるのよ、他の子はとめなかったの?」
「……同じものを、買ってる人もいました」
「……」
カタリナは、触れたものを毒素に変える力でも持っているのだろうか?とゼタは思ってしまった。しかし、それがトドメであるだけで過程の中で大量のチョコを食べたことも要因なのだ。
「薬草を取ってきたぞ」
「……実に非合理だな、食べられないのであれば言えばいいものを」
「それが彼のいい所、なんだろうな…」
「……まったく…」
外からカシウス、バザラガ、ユーステスが帰ってくる。グランの体を治すための、薬草を取ってきてくれたのだ。
「ありがとうございます……これで少しは体調も良くなるかと…」
「う、うぅ……!」
「ベア、あんたいつまで泣いてんのよ……」
泣いているベアトリクスの肩を抱くゼタ。ソフィアは薬草を煎じて、それをグランの口の中に流し込んでいく。
「それ、そのまま流し込んでもいいの?」
「これ、液体にするとかなり早い時間で気化してしまうんですよ……ただ、必要な栄養素を気体にして肺に流し込んで血管内の赤血球に運んでもらう…という方法が取れるので……」
「あー、うん。不思議薬草ハイハイ」
適当な返事をするゼタ。というか、泣いているのはベアトリクスだけであり、他の面子は呆れていたり同情してただけである。ゼタは前者6割後者4割である。
「それで?いつ復活するの?」
「さぁ……あれだけのチョコを食べたんです…血糖値がまともな値に戻るまでは……」
「せめて、薬が飲めるほどに回復してくれるのが合理的なのだがな」
「そうは言うが、団長も人だ…いや俺ですらあの量を食う気にはならん」
「……そう言えば、クラリス泣いてたわね」
「あぁ……」
『折角勇気出したのにこの結末は酷くない!?』と、泣きながら誰に八つ当たりするでもなく叫んでいたクラリス。流石のカリオストロも、これには慰めていた。
「バレンタイン……今年は1層おかしなものを出している人が多かったらしいわね」
「可笑しなものというか、お菓子なもの…というか…少なくともその類に位置するのはカタリナさんと、ドロシーさんくらいです」
「自分の等身大のチョコレートだなんて、どうやって作ったのかしら……」
自身の等身大チョコレート、などというおかしなものを作りあげたドロシー。流石のグランも、彼女の愛の重さにちょっと驚いていた。
「まぁ、ウイスキーボンボンを食べさせられなかっただけマシかもね…」
「確か、アルコールが入ったチョコだったな…酒の勢い……なるほど……」
「おい、イルザ。それ以上の事を考えれば俺も相応の対応を取らねばならんぞ」
妙に嫌な気配がしたせいか、ユーステスはイルザに注意を行う。イルザは軽く舌打ちをしたが、ユーステスは冷静に秩序の騎空団を呼ぶ為の準備を整えていた。
「流石に、酒を飲めない歳の子供に酒を飲ませるのはまずいだろう」
「バザラガ……そういう話じゃないからちょっと黙ってて」
「……喋りすぎたか」
「しかし、実際問題彼がいなければ船は動かないぞ?」
団長であるグランが倒れる。それ即ち団を動かすものがいなくなる…という事でもある。
しかし、カシウスが追求した事は予測できていたのか……何故かベアトリクスが自慢げに答え始める。
「ふふん、そう思うだろう?けどな、いざと言う時のためにグランは客観的な判断を取れる人物達にコンタクトを取って、そいつらで団を動かせるようにしているんだ」
「因みに、その内の一人は私だ」
そう言って、イルザが軽く手を上げる。組織メンバーの中では、一応上司に当たる人物なので一組織を動かすのに最適な人物だとも言える。
「何人ほどいる?」
「さぁな、私が覚えている限りでは10人はいたはずだが…この船にも新しい仲間が続々と増えている。今の時点では、そこから増えているかもしれないな」
イルザは思い出しながら指折り数えていた。200人ほどいるこの団には、確かに最適だと言っても過言ではない人数ではある。
「私は聞いていないが、他に彼からこれから行う行動を聞いている者もいるかもしれない」
「ふむ、なるほどな……だが、今この船にはまともに人数がいないようだが?」
「そりゃあね……動かせる、って言っても皆団長大好きとかいう集まりよ?」
「なるほどな……」
「まぁ、食糧の買い出しとシェロカルテとの相談…それに子供たちの面倒も見ないといけないし……あぁそれと解決できそうなら、依頼を解決し続けたりもしてるわね」
「……それは、いつも団長が行っていることか?」
「へ?そうだけど?」
ゼタが『今更何を?』と言いたそうな顔をしていた。しかし、カシウスは思っていた……『1人に任せすぎでは?』と。しかしそこは、グランの性格というかなんというか、彼は自分がやれる範囲のことは全てやろうとするタチなのだ。セクハラはするが。
「……ひとまず、我々はしばらく休めるというわけか」
「そうですね…薬草はこれだけあれば十分でしょうし……」
「にしても…いつからこうなんだ?」
「いつからって?」
「バレンタインデーなるもので、食べ過ぎによる昏倒だ」
ゼタ、バザラガはこの団では比較的古参の方である。2人は顔を見合わせるが、少ししかめっ面になっていた。
「うーん…少なくとも私達が一緒に行動し始めてから…の時点ではまだ倒れてなかったような気がするわ」
「自信はないがな…今のように昏倒する時間が長かった、というわけではなかったかもしれないのだからな」
「ふむ……何故団長が倒れる事態に発展しているのにも関わらず、バレンタインデーが禁止にならないか疑問だな」
「は?」
「……」
ゼタの比較的マジトーンな声に、カシウスは目を瞑って黙る。こういう時は黙ってやり過ごすのが1番合理的だと、判断したのだろう。
ゼタはしばらく睨んでいたが、すぐさま視線を外してグランに向き直る。
「……ねぇ、思ったんだけどさ」
「どうしたんだ?ゼタ」
「……寝たきりの団長さん襲えば既成事実できるんじゃない?」
「ゼタ、お前にそんなことが出来るわけ」
バザラガが苦言を呈そうとした瞬間、ゼタの持つアルベスの槍が炎を吹き出す。瞬間、バザラガは思った『あぁ、こいつ理性飛んでるわ』と。
「待ってください、流石に寝たきりの人と既成事実作るのはちょっと…体力的に……」
「あ、そっか……」
「そもそもだな……お前の場合恥ずかしがって出来ないだろう?前に胸直してた時の話振られただけで、顔を真っ赤にしていたくせに」
「ちょ、教官それ言うの反則……」
バザラガ、もとい組織男子メンバー+カシウスはそのまま黙って部屋を出る。女3人よれば姦しいなどと言う事もある。下手に薮蛇をつついて破局を食らうより、そもそもバトルを受けなければいいのだ。
「……それで?幾らなんでもずっとこのままって訳には行かないでしょう?」
「はい…シャオさんにもお薬は作ってもらって、飲ませたんですけどね…甘いものを食べすぎた弊害としか……」
「1週間?それともそれ以上?」
「さぁ……団長さんの気力次第という事しか……」
「……あれ、ここどこ?」
グランは、目が覚めると知らない場所にいた。それは綺麗な河川であり、そこの見えない深い川と、辺り一面に敷き詰められている小石が特徴的な場所だった。
霧が深く、そして自分のいる場所…そこから川を挟んだ反対側には、赤くて綺麗な花畑が存在していた。
「……とりあえず川を渡ってみよう。話はそれからだ」
ふと、顔を上げて川の向こうの霧を見つめる。しかし、ある程度見つめてからグランはとあることに気づいた。誰かがいるのだ、川の向こうに。
「だんちょ〜」
「ローアイン?なんでそんな所にいるんだ?」
「いやさぁ、キャタリナさんのチョコ貰ったから馬鹿スコーンって勢いでモリモリ食べてたわけよ。いつもよりちょーっと刺激的な味だったと思ったらさぁ……」
「なるほど、ここにいたと……というかここどこ?」
「三途の川」
「……ごめん、もう1回言って?」
「SansRiver」
「……マジか、ここ三途の川なのか…」
絶望に打ちひしがれるグラン。まさか、チョコの食べすぎで死んでしまうとは思っていなかった。
「いや、だんちょマダマダ生きてるよ。RiverってかLiver」
「あ、ほんと?……ってそっち側にいるローアイン達は…」
「あ、俺らヴィーラちゃんに刺されたりとか、キャタリナさんのチョコ食べてたらいつもこうなってて、なんかもう行き来出来るようになってんで大丈夫っす」
「え、マジで?お前そういう能力手に入れちゃった?」
「いやぁ、こんな能力要らないっすわ」
「俺だっていらないと思うよ。正直お前不憫過ぎない?」
「まぁしばらく遊んだら帰りますわ」
「……そう言えばトモイとエルセムは?」
いつも3人一緒のローアイン達。いつもどんな時でも一緒だが、今回彼らは被害に遭わなかったのだろうか。
「何かぁ、エルっちは川の上流見てくるって言って泳いでいって、トモちゃんは閻魔大王と飲みに行ってさぁ」
「え、なにそれ大丈夫なの?トモイ後で処刑されない?」
「いやぁ、流石に大丈夫っしょ。めっちゃ話わかりますよあの人、何か凄いから」
「あ、待ってローアイン。閻魔大王とかいう話はNG、めっちゃややこしくなるから」
恐らくその閻魔は、Fから始まってRで終わるような世界の話になってしまったり、ヤマがザナしてドゥーする人だったり、何か普通に地獄一の強さで鬼の灯の人の攻撃受け止められたりだったりする人とか色々いるのだ。ここはお空の世界なので、そう言った話はちょっとNGです。
「そういうの知らない人もいるから」
「……?まぁ、そうっすね…とりあえずしばらく遊んだら戻るんで」
「わかった、夕飯までには戻ってこいよー」
「うぃーっす」
「「「「死ぬかと思った!!!!」」」」
数時間後、ローアイン達とグラン…カタリナのチョコを食べて昏倒していた者達が復活した。
ヴィーラは数時間で復活したとの事だったが、ローアイン達の場合カタリナの(自称)失敗したチョコを沢山食べていたらしく、それで一時的に死にかけていたという。
団長の復活は喜ばれ、ローアイン達は自分達で肩を組んで生還を喜んだという。
今回の教訓としては、やはりカタリナのチョコは避けるべしということだろう。
最後の閻魔大王ネタは自分の知ってるやつだけ入れました。鬼さんの灯の方はちょっと名前だけだったんで間違えてたらすいません。
というか他作品のネタを使うなって話なんですけどね?