「はい、今日のゲストは錬金術師クラリスさんです」
「……」
「チョコ美味かったぞ」
「いや、うん……ありがと……」
顔を真っ赤にしながら、気まずそうに顔を背けるクラリス。しかし、グランはクラリスの顔をじっと見ながら、会話を続けていく。
「な、デートな……いつ行くんだ?」
「待って待って……今それ言うのは待って……」
「なぜに」
「いやほんと……ウチが言ったことだけど…」
その後の言葉が聞き取れないほどに小さかったクラリス。グランは軽く首を傾げるが、クラリスはいつもとは打って変わって大人しくなっていた。
「仲良くなるためのデート、って言ってたな」
「ほんと、ごめんほじくり返さないで……言葉をもうちょっと選んだ方がいいっていうのは分かってるから……」
「男女が出かけるんだから、それはもうデートなのでは…?」
「……あれ?そうなるの?」
「え?」
「……え?」
「「え?」」
お互いに声が重なり合うグランとクラリス。その時、ようやくグランとクラリスの目が合ったが、それに気づいたクラリスがすぐさま目を伏せてしまう。
「いやまぁ、うん……こ、今度…ね……」
「わかった……ところで今日全然元気ないな」
「いや、あの……ちょっとグランに聞きたいことがあると言いますか…」
「ほう、俺に?」
「えっとあの……何人から告白された…?」
「……告白?なんの?」
「……へ?」
再びキョトンとするクラリス。実を言うと、バレンタインの日にチョコを渡し、そしてデートの約束を取りつけたはいいものの、ほかの女性団員から告白されているグランの姿を何度か目撃していたのだ。
それを見て、少し今気分が落ち込んでいる……と言った状況である。
「え、いやだって……ディアンサとか……」
「あー…えっとまぁ、確かに好きだって言ってくれたけどさ……」
「……え、グラン意味理解して言ってる?」
「……何のことやら」
『あ、こいつはぐらかしたな』とクラリスは直感的に感じとっていた。そして同時に、クラリスはグランには複雑な感情があるということも理解することが出来た。
「ま、まぁわかんないならいいんだよ!!」
「そ、そうか!!」
強制的に終了させられた話。だが、こうでもしないと番組が進行しないのだから、仕方が無いとも言えるだろう。
「とりあえず、お便りを読んでいこう。1通目『クリスマスでなんで水着着てるんですか』」
「あれ水着じゃないもん!!」
「いやぁ、あれは水着だわ。布面積完全に水着だわ。じゃなかったら下着だわ」
「そ、そんなに酷い?」
「
「ゆ、ユエルに布面積で負けた…?」
ちょっと前のユエルと比べればどっこいどっこいだっただろうが、少なくとも今のユエルとクリスマスの時の衣装を着ていたクラリスを比べれば、どちらが布面積が多いかなんて言うのは簡単にわかることだろう。
「というかあれ寒くないのか?」
「まぁ……やる気?」
「お前のやる気どうなってんだよ」
ファータ・グランデではクリスマスは冬である。そして、クラリスは水着や下着同然の格好をそのクリスマスに行っているのだ。場所によっては凍結しかねない。
「それにクリスマスの衣装で言うんだったら、他の子達も結構露出多いじゃーん」
「少なくともお前の格好よりはマシだ」
「そうかなぁ……そう言えば、クリスマス…」
「ん?クリスマスになんか嫌な思い出でもあったか?」
「嫌な思い出というよりは……その、お母様から『孫の顔見せて欲しい』って言われたことあったなぁって…」
「お前のお母さん随分と直球なこと聞きますのね」
「お父様微妙に尻に敷かれてるから……止められなかったんだと思う」
そう言えば、1度自分を連れて帰ってこいと言っていたなとグランは思い出していた。
団の仕事もあるために顔見せ程度で済ませたが、恐らくあの時だろうか。
「とは言っても随分と直球な…」
「案外、お母様ってししょーの方に似てる気がしてきた…」
「性格が?」
「性格が……思い立ったら吉日!と言わんばかりに行動派なのに、すごく頭使って行動してるし…」
「それに関しては、クラリスが頭を使わないで行動することが多いからじゃないのか」
「う、ウチだって考えてる時くらいはあるよ!!」
「例えば?」
「……どうやって、どっかーん✩ってするかとか…」
「それはもう相手からしたらただの拷問ではないだろうか」
クラリスは錬金術師である。しかし、始祖であるカリオストロと比べて彼女は『ものを作り出す』ことにおいての錬金術の才能はからっきしである。
そうやって普通に錬金術を使おうとすると、どこかで綻びが出来て爆破する……それくらい『普通の』錬金術が向いていないのだ。
しかし、彼女の真髄は『分解』という一点においてカリオストロ以上の才能を持っている。それこそ、不要なものだけを分解して取り除くと言ったことも可能なのだ。
「だ、大丈夫だよ……ただの爆破するから」
「爆破でも十分怖いからな」
「……確かに」
逆になぜ今まで気づいていなかったのか、グランはそれがよく分からなかった。とは言っても四肢が弾け飛んだりする程でもなく、ただ爆破して吹き飛ばす物だから気にしたことがないのかもしれない。
「まぁいいや……話ズレてきたので2通目に行こう。『団内で尊敬する人はいますか?』」
「尊敬……ししょーとか?」
「カリオストロもそうだけど……他にいたりはしないの?」
「とは言ってもなぁ…みんな偉いなぁって思うのが尊敬だったら、みんなを尊敬してることになると思う」
「なるほど……じゃあ、最近こういうところ尊敬しましたよって人いる?」
「尊敬、尊敬…」
クラリスは言葉を反芻させながら、色々な人物を思い浮かべていく。そして、ある程度の候補に目星をつけた後に口を開く。
「うーんと…ウチ的にはコルワさんとか…?」
「あら意外な人選……何故また?」
「何というか、人をハッピーにしたいって言う気持ちで色んなものを作れるって才能だよねぇって」
「確かにね、コルワは自分の気持ちを素直に仕事に表してるもんね」
ハッピーエンド以外は認めない、そんなコルワが作るのは服だった。服という一点において、彼女もまた才能が突出している人物である。
「後はイオちゃんだよね」
「どういう所が尊敬できたの?」
「あの歳で宙に浮けるっていうのがね……才能の塊だよね、ほんとに」
空の世界において、個人単位で空を飛べる人物は数少ない。それこそ十天衆であるソーンや、ウーノクラスでないと当てはまらないだろう。例外として、メーテラが十天衆でもないのに自由に飛行しているが。
「まぁウチが最近尊敬したのはその2人かなぁ」
「なるほどねぇ……因みにグランサイファーで1番可愛いのは?」
「勿論ウチが最かわっ☆」
「はいありがとうございます、じゃあ三通目行くか」
「え、振るだけ振っておいて!?」
クラリスのいつもの言葉を何となく言わせたところで、グランはそのまま3通目に移る。今のセリフを言わせた意味は、全くないと言っていいレベルである。
「『オレ様が1番かわ』」
「それししょーのだよね!?それ本当に質問!?」
「うん、これ質問じゃねぇや。次行こう……『何でみかんが好きなんですか?』」
「え……お、美味しいからじゃ駄目?」
「まぁ、好きな食べ物なんてそれぞれで決まるからなぁ……ただ気に入った食べ物だったり、昔からよく食べてたりとかって理由も様々だし」
「そ、そうだよね!別にただ美味しいってだけでもいいよね!!」
みかんが好きでも嫌いでも構わないが、しかし語呂合わせのためだけにみかんが好きだと言っていない限りは、まったく問題ないだろうとグランは思った。未完の錬金術師はみかんが大好きである。
「後でみかん使ったデザートでもなんか作るか」
「え、グラン料理できるの?」
「元一人暮らしだぞ?基本色んなもの食べたかったから、料理は習ったし色々学んだよ」
「……ちょっと、みかんのデザート気になる」
「後でスフラマール先生に手伝ってもらって、みかんの粒入りアイス作ってやろう」
「わーい」
そう言えばみかんの在庫あったかなと、グランはふと思った。この際、足りないものを色々買い足していくのも悪くない……とも思いながら、後で向かう買い出しメンバーを頭の中で決めておくのであった。
「……あれ?でもアイスって固めるだけだよね?」
「おいおい、アイス作りは過酷なんだぜ?」
「そ、そんなに?」
「ただ凍らせるだけじゃあダメだからな、まぁ作り方見せながらやろうか」
「わ、わかった!!」
覚悟を決めたかのように目付きを変えるクラリス。ふと、そこまで来てグランは時間が迫っていることに、ようやく気がついた。
「では、時間が来ましたので今回はここまでとさせていただきます。ご視聴ありがとうございました」
そしてそのまま電源を切って、番組を終了させる。軽く背伸びをして、立ち上がる。クラリスも一緒に出ようと思ったのか、立ち上がる。
「……さて、出るか」
「そうだね〜」
クラリスと一緒に部屋を出るグラン。ふと、ここまで来てクラリスは気がついたことがあった。
「そう言えばさ、グラン」
「んぁ?どした?」
「女性団員にセクハラしてるけどさ、ウチにはしないの?」
クラリスの言葉に固まるグラン。クラリスも何故固まったのか分からない、という感じで首を傾げていた。
「え、何セクハラされたいの?」
「え、いや、あの」
「はい言質取ったー、もう言い逃れは出来ないぞ!」
「え、え……」
「ぐへへへ、言葉責めだけじゃあ終わらさねぇぞクラリスゥ?」
「キャラが!!キャラがまるで違うよグラン!!」
手をワシワシさせながら、グランはクラリスに迫っていく。まるで手の動きだけ作画枚数が違うのでは、という感覚を抱かせる程に滑らかに手が動いていた。
「覚悟しなァ!!」
「やぁぁぁぁぁ?!」
まるで子供の遊びのような光景だが、正直犯罪的な場面にも見えかねない。
グランがクラリスに後一歩迫ろうとした……その時であった。
「……あれ?グラン?グラーン?わっ!?」
「……ったく、何となく通りがかったらこんな状態になってんのかよ」
「し、ししょー…?」
通りがかったのは、カリオストロだった。グランはカリオストロが召喚したウロボロスに、頭だけを軽く咥えられてぶら下がっている状態になっていた。
「さ、帰んぞ」
「う、うん」
その場で離されて、地面に落ちるグラン。カリオストロはクラリスと共に戻り、その場にはグランだけが残されていた。
倒れたグランを見ながら、クラリスは少し勿体ない気持ちになりながらも、その場を離れるのであった。
「それとな、クラリス」
「ほぇ?」
「さすがにクリスマス衣装は水着だぞあれ」
「ししょーまでそういうこと言うの!?」
錬金術師師弟は、歩きながらしょうもないことを話しつつ、そのまま部屋へと戻っていくのであった。
バレンタインクラリスとかいうチョコを渡しすぎたいが為に時間を歪める女
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ