ぐらさい日記   作:長之助

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遅れました


神箭の射手、お見せいたしましょうか?

「今日はスーテラさんです」

 

「どうも、スーテラです」

 

 キリッとパリッと。姉のメーテラとは違い、スーテラは真面目に自身の自己紹介を行う。しかし、これでも姉に心酔している辺り姉妹仲は本当に良好と言えよう。

 

「スーテラって真面目だけどさ」

 

「はい」

 

「ローアイン達に聞いたけど、懇親会やったんだよね。あの3人と、スーテラとコルワとラムレッダの3人で」

 

「そうですね……姉様に女子力を鍛えてこいと言われてきましたので」

 

「女子力……」

 

 ここでグラン、ボケるか素直に話すかの2択を迫られていた。1つは女子力を何らかの『力』だというボケ、もう1つはまともなやり取りをするだけ。

 考えていた時間は1秒にも満たないが、その思考の時間がグランにボケる機会を奪わせる。

 

「よく分からなかったのですが、姉様が言う通りならば私は強くなったと思います!」

 

「おっと本格的に勘違いしてたよこの子」

 

「えっと……何か間違えていたでしょうか?」

 

「女子力って、そんな何かの力とかじゃないんだけど…」

 

「なんと…!?では、一体どのような力なのでしょうか」

 

「女子力っていうのは━━━」

 

 女子力って……何だ?グランは笑顔のままそう思考した。そもそもグランは男である。女子力というものを、ふんわりとしか理解していないのだ。ファッションセンスや、おしゃれなどの『なんか女子っぽくて可愛いもの』としか認識していないのだ。

 いや、グランですら理解していることをスーテラは理解していないので、相当な天然が入っているのだが…はっきり言って説明するならば、グランでは無く姉のメーテラやコルワなどに任せた方が確実な気がしていた。

 つまり、この場での回答はただ一つ。

 

「━━━俺に聞くより、メーテラやコルワに聞けば確実なものがわかるよ」

 

「なるほど…では後程姉様達から聞いてみます」

 

「それがいいと思うよ」

 

「コルワ殿といえば…あの人は色々な人と仲が良いのですね」

 

「まぁファッションデザイナーだし……おしゃれを気にする人だったら、多分大体の団員が話をつけてると思うよ。

 イルザでさえ、面識あるくらいだから…多分人と相談することも仕事としてあると思う」

 

「そのような事が…」

 

 水着の1件で、イルザはコルワと知り合うことが出来た。というか最近、団の中でグランに聞けばどんな有名人が団員として入団したか…と言ったことを聞けばわかると思っている団員がちらほら居る。

 実際、入団しているもの達で王族や騎士団などもいるために何も間違ってはいないのだが。

 

「さて、そろそろお便りに行きましょう。1通目『懇親会でギャップ萌えをされたってあったけどマジで何したの?』メーテラからです」

 

「姉様にはそのことを何度も聞かれました…」

 

「言ってないの?」

 

「と言うよりも、多分伝わっていないのだと思います」

 

「……どゆこと?」

 

「それが━━━」

 

 度々出てくる懇親会。『どんなシチュエーションで恋人を作りたいか』という話題になったそう。その中で、スーテラはメーテラのように男を誘う…という事を伝えたそうな。

 それを妄想した一同は、ギャップ萌えという話題になった…という物である。因みに、スーテラのシチュエーションでは『男を逆ナンして、狩りに誘う』というギャップ萌えの中に野性味を突っ込んだよく分からないものだった。

 

「逆ナンはスーテラがやると、良心が無くなる」

 

「へ?」

 

「あの村長さん、凄い顔になりそう」

 

 村長とは、メーテラやスーテラがいた村の村長ことである。そこは外界とほとんど隔絶されており、スーテラはそこで村のしきたりとして守り人として仕事をしていたのだ。

 そして、この村長はスーテラ達の父親であり…当然の事ながら真面目だと思っていた娘が男を誘って狩りに出る…などというよくわからないことを提案した暁には、恐らく頭を抱えることだろう。いや、これで頭を抱えない方がおかしい。

 

「大丈夫です!ちゃんと村の猪を狩れる実力は伴っています!」

 

 そして、スーテラはこの返しである。天然さだけでいえば、メーテラすら唖然とするほどの天然っぷりなので、恐らく彼女達の父親もスーテラの勘違いやその他諸々のことを説明するのに時間を要するかもしれない。

 

「そういうことじゃないんだけど…」

 

「へ…?」

 

 しかし、天然真面目キャラは可愛いのでグランはそれを眺めていたいと思うようになった。単なる趣味である。

 

「さて、話題はこの程度にして次のお便りの紹介にいこうか」

 

「はい!楽しみです!」

 

「2通目は〜……『スーテラちゃん、好きなタイプはいるのかにゃあ?』ラムレッダからです」

 

 ラムレッダ、水色の髪が特徴的などラフである。元シスター見習いなのだが、とある事情により酒にハマってしまったため教会を脱走…酒飲みのドラフだが、最近グランはクビを持ち出してきている時がある。

 

「好きなタイプ……団長殿のような人でしょうか」

 

「うわっ、素直に嬉しい……とは言うけど、あくまでも『俺のような』って事でしょ?俺じゃないんだよなぁ…」

 

「なるほど……これが唐変木と言うやつですか」

 

「はい?」

 

「いえ、姉様が団長殿は唐変木の人たらしと言ってましたので」

 

「メーテラに言われるのはなんか釈然としない…」

 

「それと……」

 

「ん?」

 

「同性愛者を疑ってました」

 

「事実無根の嘘だよそれ!!」

 

 事実無根とは言っても、友人関係を超えているのではないか?と言わんばかりのスキンシップを行っているのは、グランの方である。偶にルナールが鼻血を出しているので、それが基準となっている時がある。

 

「しかし、これだけ女性がいて…1人の恋人もできないというのはそう疑われてもしょうがないのでは?」

 

「言わないで欲しい」

 

「女性の気持ちに気づきにくいのも、異性に興味が無いからでは?」

 

「そんな事は無い」

 

「女性にセクハラするのは、本命の男性から自分を遠ざけるため…」

 

「待って待って…俺メンタル弱いからそれ以上スーテラに言われると死んじゃう…」

 

 グランは椅子から転げ落ちて、床に突っ伏していた。冗談めいた感じで言われるよりも、真顔で淡々と言われ続ける方がどうやらメンタルに響くようである。

 既に顔が真っ黒になっており、グランはこの世全てに絶望しているかのような表情になっていた。

 

「も、申し訳ございません…どうやら言い過ぎてしまったようです」

 

「許すけど心がぴょんぴょんしない…赤き地平の世界にまで落ちる…」

 

「えぇ…?」

 

 困惑しきっているスーテラ。当たり前である。目の前で男が意味不明なことを言いながら、自分の前で倒れているのだから。

 

「……」

 

「……あの?団長殿?何故私のことをじっと見ているのでしょうか?」

 

「……いや、もうちょっと前に移動してるあぁっ!?」

 

 グランの目の前に突き刺さる剣。随分と見覚えのあるその剣は、秩序の騎空団のものだった。

 結構な速度で飛んできて突き刺さったためか、揺らしながら独特の音を立てつつ剣は落ち着いていく。

 

「……DIEorDIE」

 

「その選択肢は死しかないぞリーシャさん」

 

 ゆっくりと起き上がって、目の前に突き刺さった剣を抜いてから部屋の外にいるリーシャに返すグラン。その間、謎の言語を発しながらリーシャはグランを見ていた。睨みつける、というより目を見開いて観察していると言った方がぴったりの表現である。

 

「あ、あの今のは……」

 

「気にするな、グランサイファーにたまに現れる秩序の精霊だ」

 

「随分と黒い殺気を放っていた精霊ですね…」

 

 スーテラは、グランに精霊の定義を聞きたくなったところだったが…しかしあれに触れるのは何かの黒さが遺伝するような、そんな感じがしたので触れることは無かった。

 

「はい、というわけで三通目に行こうか」

 

「は、はい…」

 

 既にリーシャはいなくなっているので、安心してグランは三通目に移行するのであった。

 

「『もう少し自分のハッピーをまともに考えてもいいかもしれないわよ』どう考えてもコルワだこれ」

 

「ハッピー……ですか」

 

「まぁ、要するに結婚しないのって話だよね。コルワの話ってそういうのだし」

 

「私が幸せになる……少し、思いつきづらいですね」

 

「んー……守り人の仕事しすぎてるのかな。それで頭が硬くなってるんじゃない?」

 

 アステールは、まだ小さいために恋に恋すると言った状態だが、スーテラは恋ということそのものを知らないために、メーテラに置き換えるくせが、少しばかりでているようにグランは感じ取っていた。

 

「硬くなってる、ですか…」

 

「だって、何かにつけてスーテラはメーテラの話してるんだよ?気づいてた?」

 

「……いえ、私はそんなにしているつもりは」

 

「別に悪いことって言ってるわけじゃないよ。というか、仲良いところどんどん見せつけて欲しいんだ」

 

「それはまた…仲がいいのは、もちろんいい事だと思います。私も姉様と仲良くしていたいですし」

 

「……とまぁ、話ズレちゃってるけど…」

 

 グランが、ズレた話を戻すために一旦区切る。ハッピーというのが、人によって変わってくる定義なため、コルワの定義を使って考えるがやはり思いつかないようだった。

 

「恋、というのが何度説明されても私には理解できなくて…」

 

「まぁ、気持ち的な問題だしね」

 

 恋をたとえ今スーテラがしていたとしても、恐らく気づいていないだろう。姉であるメーテラや、妹分のアステールなどを優先する事が多い…というか、スーテラが他人を尊重しすぎる性格なのも相まって、自分のことは特におざなりになってしまうのだ。

 

「申し訳ありませんが、私にはその質問は答えられないということに…」

 

「ま、しょうがないよ」

 

 結局、コルワの質問には答えられなかった。しかし、別に正確な回答を求めるようなものでもないので、グランは気にしていなかった。

 

「さて、では今回はこのくらいにさせていただきますご視聴ありがとうございました」

 

「……あ、団長殿ちょっといいですか」

 

「ん、何?」

 

 カメラの電源を落とそうとした寸前、スーテラがグランを静止させる。今ここで止めるということは、何か言うつもりなのかもしれないが……グランはスーテラが何を言うのか全く理解できなかった。

 

「━━━私のこと、イイ男の人は誘ってねぇ」

 

「ぐはっ!!」

 

 突然のメーテラのモノマネ。ダメージがでかかったのか、グランは血を吐いてその場に倒れてしまっていた。

 

「だ、団長殿!?」

 

「だ、ダメージカットが通じなかった…まさか、無属━━━」

 

「団長殿!?今の遺言はなんですか!?」

 

 いい顔をしながら倒れるグラン。困惑し、叫ぶスーテラだったがすぐさまメタノイアをさせるためにグランを担いで、運んでいくのであった。

 運ぶ形式が米俵を担ぐタイプだったので、役得とばかりにグランはスーテラの背中に顔を押し付けていたが、当然のことながら復活した瞬間にリーシャに秩序されたのであった。




スーテラがメーテラみたいな男の漁り方してたら、故郷のオヤジさんが血反吐吐きそうなんて思ったり

偶には長編とか書いて欲しい

  • はい(ギャグノリ)
  • はい(シリアス)
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