「今日はオーウェンさんです」
「オーウェンです、趣味は鍛錬を行う事などです」
「いやぁ、分かっていたけどオーウェンは真面目だね」
「そ、そうでございましょうか?」
グランに言われて、戸惑いながらも背中をきっちりと正すオーウェン。そういう所が真面目なんだぞ、と言いたくなるような真面目さである。
「趣味が鍛錬って言うのは、俺と一緒だね」
「しかし、団長殿の腕前は相当な鍛錬の成果です。私も、それほどの量を出来るようにならねば…と思っています」
「うん、マジで真面目だよね」
「あまり、そう言われても……私としましては、普段と変わらぬ態度なので」
ローアイン達ほど、とまでは言わないがもう少し砕けていても問題は無いだろうと、グランは苦笑いを浮かべていた。実際問題、それで問題が起きていないのだから、強く言うのは間違いなのだが。
「団長殿はどういった鍛錬を行っているのですか?」
「と言われても簡単なことばかりだけどなぁ……あぁでも、やっぱり強い人と戦い合うって言うのは強くなれると思う」
団内にいる、グランよりも強い者達のことを思い出しながら、グランはそう語る。それを参考にするつもりなのか、オーウェンはきちんとメモを取っていた。
「普段どういった人達と鍛錬を行っておられるのですか?」
「基本団内全員だからなぁ……まぁあくまで戦えるメンバーに限定するけどさ……例えば十天衆とか?」
「全空最強と名高い七曜の騎士と肩を並べる十天衆……確かに、この団に所属していることは知っていますが、団長殿と特訓をしていたとは」
「まぁ、そんなこと言われてるけど十天衆達も人間だよ。みんなで競い合えばみんなで強くなれる!って訳じゃないけど、強くなろうとはしてるんだよね、俺も含めて……全員」
「強くなろうとしてる……」
グランのその言葉に納得しつつも、驚いた表情をしているオーウェン。やはりそれをメモすることも忘れていなかった。
「…とまぁ、こんな感じで世間話しながらゆるゆるとしていくから、もうちょっと肩の力抜いてもいいよ」
「かしこまりました」
本当にそれ肩の力抜いてんのか、と突っ込みたくなったがグランはそこを堪えながらお便りダンボール箱を取り出す。やはりというかなんというか、お便りもいっぱい来ていた。
「はい、という訳でお便り紹介のコーナー。1通目『普段誰と鍛錬を行っていますか?それはいつ行われていますか?』」
「普段は、朝に行っております。姫様が起床される数時間前に起床し、腕立て伏せなどの一般的なトレーニングを行ってから、一緒に鍛錬を行う感じです」
「一緒にって……誰と?」
「相手は選んでおりません。鍛錬室に訪れる人は様々ですので、その人と行うようにしております」
「なるほど、相手は選んでないんだね」
「そういうことですね」
相手は選ばない試合。それは相手を固定化しないことによる、戦闘慣れが広い範囲で行われるというメリットがある。無論、相手がいなければ鍛錬が行えない、バランスが難しいなどといったデメリットもあるが、いろんな人間がかなりの数存在しているこの団では、あまり起こらないデメリットだろう。
「最近戦ってて、驚いた人物って居る?」
「そうですね……ヴィーラ殿でしょうか」
「あれ?でも前に強いからこそ鍛錬相手に云々みたいな事言ってなかった?」
「いえ、私は剣の腕だけで判断しておりました。そして、剣の腕は私の予想以上であり、同時に星晶獣の力をあぁも使いこなせていることに驚いたのです」
ヴィーラは、体内にシュヴァリエが存在している。故に、シュヴァリエの力とも言えるビットを、自分の手足のように扱うことが出来るのだ。
「なかなか相手にできない戦い方してたでしょ」
「はい……しかし、彼女と相対することはとても有意義であったのは間違いありません。何せ、高速で動く火器を持った大多数の人間を相手にしているようなものなのですから」
中々のポジティブだが、そんな人物達がいるのかどうか甚だ疑問なグラン。しかし、動体視力を鍛えるという名目であれば、確かにヴィーラは中々の相手になるだろう。シエテ等も、剣拓を飛ばして戦ったりするので闘うことは出来るはずだが。
「まぁオーウェンが馴染んでいるようで良かったよ」
「ここの人達が優しいおかげですね」
「オーウェンもその中の一人に入るんだけどね」
「ありがとうございます、団長殿」
謙遜をせず、褒められたら素直に受け入れて感謝を述べる。しかし、謙遜するところは謙遜する。それもまたオーウェンの魅力なのだろう。
「さて、2つ目に行こう……『マナリア学院で武器の持ち込みというのはOKされているのですか?』」
「基本的にはOKされていたはずです……まぁ、一部の生徒のみですが」
「一部、というと」
「簡単に言えば、私や姫様のような特殊な立場に置かれているものならば…ということです。それであっても、私は基本的に抜かないのを前提として許されています」
つまりは、生徒個人の良心が信頼されているということになるのだろう。そうでなければ、魔導書以外は基本的に許されないはずだ。グレアのような、さらに特殊な体質も存在するために本当に良心に任されているのだろう。
「なるほど、確かに普通なら許されるとは思えないもんね」
「まぁマナリア魔法学院に通っている生徒は皆礼儀正しいもの達ばかりですから。故に、見た目にあまりこだわられない様になっているのです」
確かに、例として上げるならば幽世からの敵のせいで自分に魔法の才能がないと感じ、未来に不安を抱いた者達が素行不良を起こし、特殊クラス等という所に入れられている生徒達でさえ、武器を持ち込んでいなかった(はず)。そう考えれば、皆根はいい子達ばかりなのだろう。
「なるほど、マナリア魔法学院はそれなりに自由な校風という事だ」
「それでも、厳しいところは厳しいというきちんとした一面も持っています。しかし、そう言ったところがマナリア魔法学院のいい所なのでしょう」
「うーむ、きれいにまとまった。まさか2題続けてこんな綺麗にまとめられるとは思わなかった」
「ゆくゆくは全空に『話す人と言ったらこの人』を目指している姫様のサポートをするつもりですから」
「まさか夢が合致するとは思わなかったぜ……」
オーウェンがアンに合わせたのだろうが、本人が本当にそれをやりたいと思っているのならば、グランにそれを止める権利は一切ないのだ。故に、驚くには驚くがそれ以上グランは言うことがなかった。
「ではそろそろ3つ目といこう……『好意的に見てくれる女性がいたらどうしますか?』」
「……申し訳ありません、あまりに回答に困る質問です」
「前提が曖昧?」
「…はい……」
「なら前提を設定しよう」
グランは『マナリア魔法学院の生徒のパターン』と『生徒でないパターン』更にそこから『好意的に見れる女性』と『見れない女性』という4つの前提を作りあげた。最後の項目は性格、見た目ととりあえず何でもいいので好意的に見れないものとして扱う、という前提とした。
因みに、アンを見守ることが仕事だが今回はその前提は外させてもらう。あくまでも一介の生徒という扱いである。プラス、相手は同い年だ、
「なるほど……」
「じゃあ、パターン組み合わせ1『生徒』で『好意的に見れる』」
「……そうですね、受けると思います」
「ポジティブな意見ありがとう…次は『好意的に見れない』」
「ふむ……」
少し考え込むオーウェン。もう少し絞った方が良かったかとグランは思ったが、その前にオーウェンは回答を行った。
「……それでもうける、と思います」
「お、意外」
「女性に対して差別は行わないと言うつもりなので。しかし、その女性が犯罪などを犯していた場合は自首を勧めますし、別れを切り出されればそれを素直に受け入れるつもりですが」
「君ほんと紳士やね……『生徒でない』『好意的に見れる』」
「私と時間を合わせる事ができるならば、という質問をさせて頂くことになるやもしれません。生徒でないのならば、生徒である私と時間を合わせるのが苦痛になるかもしれませんので」
こうもポンポンとそれなりに紳士の回答をされていると、グランは申し訳なくなってくる。セクハラばかりしているためである。ならばやめろ、という話なのだが。
「最後『生徒でない』『好意的に見れない』」
「2つ目と、3つ目の回答を組み合わせたものですね」
要するに、注意するべきところは注意する時間が合わせられないことを苦痛と思うのならば……という事なのだろう。
というか全部受ける前提で考えてんな、とグランは思った。まぁあくまでも、相手を傷つけない…かつ犯罪や悪いことをしているのならば注意する、という前提なのだろう。
「なるほどねぇ……というか全部受ける前提だよね」
「まぁ、初めから『断る』という選択肢では話が進まないと思いましたので」
「そんなところまで考えてたのか……」
「さて、団長殿……もうお時間です」
「おっともうこんなお時間か……というわけでご視聴…」
「…団長殿?」
「……いつも言ってるから以下略!!」
言うことに飽きたのか、グランは唐突にそう宣言した。ある程度時間が経てばまた言うかもしれないが、今回はそんな気分だったのだろう。
「オーウェン!」
「は、はい!」
「解散!!」
「はっ!!」
何故かキビキビとオーウェンに指示を出してテキパキと片付け始めるグラン。オーウェンもそれに乗っかって、動いていた。ササッとカメラの電源は落とされ、後片付けも行われ、そして1分未満の内に2人は部屋の外へと出ていた。
「あ、そうだ……この後訓練で1戦やろうか」
「分かりました、団長殿が言うのでしたらやりましょう」
「ぶっ!?」
軽く訓練の約束を取りつけたグラン。しかし、その直後に謎の声が聞こえてきたので、その方向に目を向けた。そこにはルナールが倒れていた。偶然ここを通りがかったのだろうか、それとも狙っていたのだろうか。
オーウェンは瞬間的に、ルナールをお姫様抱っこして医務室まで運んで行った。その最中、それを見守っていたグラン。
「……なんか、やけにスピーディーに事が進んだなぁ…」
何故自分はあんなテキパキとオーウェンに指示を出せたのか、また何故一切のツッコミもなく急にこんなことになったのか。
もしかしたら、オーウェンの紳士ぶりに当てられて自分のやっていた行為に罪悪感を感じて、早く話を終わらせたかったのかもしれない。
しかし、それはグランにも答えがわからないことである。何故なら、特に考えず行動していたためだから。
「……つかルナール!大丈夫か!?おーい、ルナール!!」
そして、勢いのままにルナールを抱き抱えたオーウェンをグランは追いかけるのであった。
最後は勢いのない勢い
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ