「えーっと…見慣れた人からはちょっと驚くかもしれませんが、今回のゲストはバウタオーダさんです」
「団長殿、今の言葉の意味は一体…」
「……いや、鎧着てなくて兜も外してるせいで誰かわからなくなりかけてるってのが……」
「なんと……」
「だって貴方兜できっちり髪の毛隠す上に鼻上あたりまで兜の真ん中のあれがあるじゃないすか…」
今回のゲストはバウタオーダ、いつもは分厚い鎧を着ているのだが、今回はいつぞやのリュミエールグルメの時の格好だった。何故コックの格好をしているのか謎である。
「私の印象は鎧なのですか……」
「ちょっと例え話しようか」
「?」
「俺がもし初めてあった時から、つい最近までレスラーの覆面をつけてました。そして先日、気がつくとその覆面を脱いで普通に話しかけてきました。
その時、俺の自慢の仲間は俺を俺と認識するでしょうか」
「……声だけだと、ちょっと判別しづらいかもしれませんね」
「つまり、そういう事だよ……」
「何も無い時くらいはせめて兜は外しておくべきでしたか…」
グランの例えでも理解出来たのか、バウタオーダは遠い目をしていた。実際、グランも『本当に同一人物か?』と、初めて見た時は疑いがなかなか晴れなかった。
「というかあの兜ってどうやって被ってるの?バウタオーダってドラフだから、角が邪魔になりそうな気がするけど」
「今の鎧は新しくなっているものですが……基本的なことは何も変わらないのですよ、ちょっと持ってきますね」
そう言って、一旦バウタオーダは部屋から出ていく。グランはしばらく待ち、5分ほどしたらバウタオーダが戻ってくる。
「さて、この形はいつも私が被っている時と同じですね」
「これだけ見ると角が引っかかりそうなものだけど……?」
「まずは、この顎にかかる部分…ここを上げます」
「あぁ、それ持ち上げられるんだ」
バウタオーダが実際に兜で実践してくれる。顎にかかっている部分は、根元が角に引っ掛けて使うものなのでそういう仕組みになっているのだろう。しかし、それでもまだ終わらないらしい。
「次に、このままだと角がまだぶつかってしまうので後頭部を守る部分を少しだけあげるように後ろに下げます。あとはこれを被り、締めて取れないように固定すればいつもの私です」
「さっき言ったこと根に持ってる?」
「いえ?私が私たる所以を披露したのみです」
「そうですか……いやほんとすいませんでした」
「ふふ、冗談ですよ団長殿」
少し皮肉を言うバウタオーダだったが、冗談が過ぎるのもいけないと感じたのか、苦笑を浮かべて軽く謝罪をする。グランも少し安心をしてため息をついていた。
「と、というわけでお便りの方いこうと思います」
「なんだかんだ、楽しみですよ」
「1通目『リュミエールグルメを教わろうと思っていますか?』」
「そうですね……出来れば作りたいところです。しかし、私があれを学ぶ域に達しているかどうか……」
「騎空団の一員として依頼を受けながら厨房までやってくれているのに、その料理の腕もほかの料理人達に負けず劣らずの腕を持っているバウタオーダがその域に達していない…?」
グランは自分で言っていて、その言葉の意味が全く理解出来ていなかった。確かに、リュミエールグルメはただの料理ではなく文字通り『精気を養う料理』である。美味すぎる、というのもあるが食べれば元気と活力が即座に湧いてくる料理なんて、調理方法が秘密であってもおかしくない。一応、レシピこそあるがグラン達が作るとただの料理になってしまうのだが。
だがしかし、バウタオーダの料理も相当なものである。豪快かつ繊細な味というものを表現しているのだ。そんなバウタオーダの料理でさえも、リュミエールグルメを作ることに達していないなどという言葉は本当に彼にとっては理解が不能だった。
「というよりも、唯一料理を作れる人材が料理の鉄人すぎるというのが主な話な気もしますけどね……しかし、いつか作れるようになろうと思っていますよ、リュミエールグルメは」
「頑張って欲しい…そして俺は食べてみたい……2通目『どうして騎空団に入ったのですか?』」
「自分の正義が奮えないのならば、騎士団にいる意味が無いと当時は思っていたからです」
現在、リュミエール聖騎士団のメンバーが5人在籍している。その内、バウタオーダは自分の正義のために聖騎士団を抜けているのだ。しかし、聖騎士団団長が身長の問題で抜けていることを知った時渋い顔をしていたが。
「まぁこれに関しては俺は知ってたけどね」
「団長殿はあの時一緒にいましたからね」
「正直なこと言うと、感動してたりするんだよね」
「…というと?」
「まぁ、当時の帝国の騎士達に追われてたからね……頭では違う人、と分かっていても……どうしても騎士って人に苦手意識が湧いてた時もあったよ。
あ、勿論別にそれで信用していなかったなんて事ないよ?わざわざこっちの団に来てくれた人もいるしね」
「なるほど……確かに、大きな国の騎士団ともなると何かを勘違いした騎士が出てくることもありますね」
帝国。グラン達は当時彼らに追われていたのだが、グランも一応は帝国の兵達も仕事でやらされているとは分かっていた。しかし、どうにも追う者達の柄が悪い事が結構多かった為、一時期騎士という役職に苦手意識を少しだけ持たされたことがあった。
無論、それで仲間の騎士達が信用出来なくなったとかや同じように苦手になった……ということは無かった。
「……まぁ、中には面白い人もいるって思ってたから…結局中身までガラの悪い人が苦手なのかも?」
「中身まで?」
「ほら、口悪くても性格がすごくいい人がいるじゃん……エルモートとか」
「確かに…彼の面倒みの良さは団内随一ですからね」
エルモート。炎を使う赤髪のエルーンの男性である。口が悪いが面倒みは物凄くいい。この事を本人は否定するが、団内で彼を知っている人は彼がいい人だということを知っているのである。
「さて、そろそろ三通目……『リュミエール聖騎士団、ちゃんと動けてます?』」
「……」
「……これに関しては、本当に一言ある」
「はい」
「大丈夫か?リュミエール聖騎士団」
現在、リュミエール聖騎士団から来ている者達は5人である。その内、団長がいるのだ。そしてバウタオーダは部隊長、残り3人の内、セワスチアンも重要な人物である。
「まぁ、それだけ団長殿が魅力的な人物だと言うことなのでしょう」
「そう言われると悪い気はしない。けど、悪い気がしないだけで流石に心配になってくる」
無論、リュミエール聖騎士団だけという訳では無い。白竜騎士団団長と副団長もいるし、なんだったら元帝国兵も何人かこの船に乗船しているのが事実なのだ。
「……しかし、よくよく考えてみれば…」
「ん?」
「グランサイファーに乗船している中で、何人が元または現騎士団…そして王族関係なのでしょうか」
「それはグラサイ七不思議の内の一つだ」
「え…いや、団長殿の誘いに乗っているためでは…?」
グランサイファーで、王族や騎士団が何人仲間になっているか…という話はある意味禁句である。ごく稀にここで会談をしたりしているのを、グランは定期的に確認している。しかし、それを止められるほどメンタルは備わっていない。
「まぁ、うんそうなんだけど……いつの間にかこんな重要な船になってるなんて思わないじゃん」
「まぁ、確かに……あまりこの船で王族や騎士団の話をするのもどうかと思いますし……」
「それはいいよ、うん。そういうのって多分大事だし、仕事ほっぽってまでここに乗って貰うと、逆に俺の胃が壊れちゃう」
真顔で返事するグラン。バウタオーダも、これ以上はあまり話題に出さない方がいいのかと感じ取ったのか、それ以上お互いに話題に出すことは無くなった。
「さて、そろそろ時間かな」
「ふむ…確かに話していると、時間が経つのが早く感じますね」
「それだけ楽しんでもらえたってことだからね、この番組を立ち上げた身としては嬉しい限りだよ……さて、ご視聴ありがとうございました、またこの番組でお会いしましょう……さようなら」
「エヴィのチャーハンです」
「いただきます……美味い…!」
番組が終わってから、グランはバウタオーダにチャーハンを食べさせてもらっていた。新しく味付けを変えたらしく、それの試食の為に番組終了後、キッチンに来ていたのだ。
「前のと違って、辛味が効いてるよね」
「少し雑誌で見たのです、少しくらい辛い方が食欲も増すと」
「なるほど、確かに」
「にんにくも使わせてもらいました」
バクバクと食べるグランに対して、チャーハンの説明をするバウタオーダ。素材の説明を聴きながらも、グランは飯を食べる手を止めていなかった。いや、止めたらむしろ料理に失礼だと言わんばかりに咀嚼していた。
そして、あっという間に食べ切っていた。
「……いやぁ、やっぱりバウタオーダの料理は美味い。流石リュミエール聖騎士団団長の胃袋を掴んできただけある」
「お褒めに預かり光栄です」
「これでもまだリュミエールグルメを作れないなんてなぁ…」
「セワスチアン殿の腕が良いのですよ」
最早美味すぎてグランに取っては『滅茶苦茶美味い』か『とんでもなく美味いか』でしか判別できなくなっていた。最早リュミエール聖騎士団で飲食店を経営できるレベルである。
「とりあえず…ご馳走様でした」
「お粗末様でした……そう言えば、団長殿は料理はなされるのでしたね」
「まぁ、一応ビィと長い間二人きりだったからね。出来ないことも無いけど…正直なこと言うと、ここの料理メンバーに勝てる気がしないんだよね」
「ふふ、それでも貴方の料理を食べてみたいと思う人はいるようですよ」
「ルリアとか?」
「彼女もそうでしょうけど……」
そう言いながら、バウタオーダは一瞬だけ目線を後ろに飛ばしていた。グランも倣って、ほんの一瞬だけ後ろ……ドアの方面を確認する。するとそこには、キッチンの近くに在籍している女性メンバー達がドアの隙間からこちらを覗いていた。
「というわけで、偶には団長殿が料理を振舞ってみても良いのではないでしょうか」
「……まぁ、普段みんなに頑張ってもらってるし……やるか!」
こうして、グランは突発的にバウタオーダが見守る中女性団員達に料理を振る舞うことになった。それでもかなりの人数がいるので、作る料理が増えに増えて……久しぶりに団の食料庫を使い切ってしまう結果となった。
久々に空になったグランサイファーの食料庫を見て、グランは少しの達成感とこの後の飯をどうしようかと頭を悩ませることになったのだが……それはまた別の話なのである。
兜取ったら誰か分からなくなったというのが初見の印象です
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ