「今回のゲストはセワスチアンさんです」
「はっはっは、この老獪を出してくれるとは嬉しいですよ」
「自分のことを老獪って言う人は、多分まだまだ元気じゃないかな」
「団長さんも、だいぶ毒されていますね」
この団には子供も多いが、逆に老人が少ないという訳では無い。寧ろ老人も子供と同じくらいに多いのだ。セワスチアンもその一人だが、グランは元気な老人の姿ばかり見てるので感覚が麻痺していた。
「さて、セワスチアンはリュミエールでも屈指の料理人。有名なリュミエールグルメを作ることの出来る1人なわけで」
「特殊なことは何もしておりませんよ、ただ技術のみなのでこの団でもレベルを上げることが出来れば、作ることが可能なものです」
「少なくとも、食材の栄養素を200%引き出せるなんて料理はとんでもない練習量を積まないとできないのでは……?」
「どんな事も簡単にはできません、練習を積んでこそ出来るものばかりなのです。今我々が地に足をついて歩いていられるのも、赤子の時に練習したおかげなのですよ」
ほっほっほと、笑いながら語るセワスチアン。言っていることは、グランは理解もできるし納得もできるが、この団にいる数々の料理人達ですらまだその領域に達していないのだから、とんでもない練習量があるのはその通りだと思っていた。事実、セワスチアンは練習量が多いことは否定していないのだから。
「元々は荒れてたんだって?」
「ええ、まぁその通りでございます。若い頃はそれはもう荒れに荒れておりました。まぁ、私が若い頃の話ですよ……それに、その時や今と比べても多少『行き過ぎた時代』という物もございました」
過去、リュミエール聖騎士団は『清く、正しく、高潔に』というモットーが行き過ぎた時があった。本人の素行だけでなく、血縁者の素行までも調べあげていたのだ。駄目なら、もちろんその者は退団である。
「まぁ、あまり湿っぽい話は無しに致しましょう」
「そうだね……そう言えば、シャルロッテとは彼女がリュミエール聖騎士団に入る前からの付き合いなんだよね」
「えぇ、まぁ。お嬢様が小さい頃からの付き合いでございます。料理も、その時に培ったもので御座います」
「もしかしてシャルロッテも料理が出来る?」
「はてさて、彼女は剣を握ることを選んだのです。料理が出来るかどうかは、考えたこともございませんでしたな」
知らないという事実か、それとも知っていて誤魔化しているのか。老獪と自分で言う部分を見せてきたセワスチアンだが、これに関しては本人に聞けばいいので、グランはそれ以上の追求を行わなかった。
「さて、お便りに行ってみましょう」
「ほほ、楽しみですよ」
「1通目『今でも剣は使えるんですか?』料理をしているところをよく見るからこそ、この質問なのかもね」
「勿論でございます。握れなければ、騎士ではなく給仕係と何ら変わりませんからな」
「ただの給仕係は、国の式典に自分の料理を出すとは思えないんだけど」
「確かに、その通りでございます。まぁあくまでもものの例えですよ」
事実、剣を握れば恐ろしく強い。剣が重いという類ではなく、技術面において器用な剣の動かし方をするのだ。
ただ一撃が重いという事よりも、ある意味厄介なものである。
「ま、セワスチアンは剣は握れるし凄く強い……って結論になるね」
「団長さんには敵いませんよ」
本心なのだろうが、グランからしてみればセワスチアンは実力を隠しているような気がして、しょうがないのだ。
「まぁいいや……とりあえず2通目『お子様ランチはよく作るのですか』」
「そうでございますね……お嬢様の分ではよく作ります。ここに入る前に行っていた『ゲリラ炊き出し』でも、器さえ足りていれば子供たちに振舞ったりもしていましたよ」
「ゲリラ炊き出し……?」
「突発的に、村や町で炊き出しを行うのです。ご飯を食べれば、皆笑顔で元気になる……その顔を見るのが楽しくてしょうがないのですよ」
「清く、正しく、高潔に……モットーが綺麗だから純粋に人の為に動けるんだね。凄いと思うよ」
「人の為に自らを捨てる覚悟で動ける団長さんも、中々のものだと思いますけどね」
「俺はまだ若造だしね、突っ走ることしか出来てないよ」
グランの回答に、セワスチアンは頬を緩ませて笑みを浮かべているだけだった。まるで、お爺さんが孫を眺めているようなそんな表情である。
「……その表情を見ると、こうなんかモヤッとする」
「それは恐らく、お嬢様と同じような気持ちでしょうな」
「お嬢様というと……シャルロッテ……?」
シャルロッテとなると……という感じに連想ゲームを始めるグラン。そこまで長い時間思考するのも駄目なので、素早く頭を回転させる。そのおかげで直ぐに答えに行き着く。
「あぁ、これが子供扱いされた時の気持ちか……」
「まぁ、お嬢様は本当に成人していらっしゃいますが、団長殿は実際未だ子供ですがね」
「うぐっ……確かにまだ20にもなってないひよっこだけど……」
「しかし、実力はかなりのものです。恐らくこの団にいる強者達も、あなたの歳ではまだ貴方並に強くなかったでしょう」
「なんか、褒められてんだか褒められてないんだか分からない……でもまぁ、そうやって褒められたら嬉しいややっぱり」
「ふふ」
『そういった素直さが、子供の様に好感が持てる』とセワスチアンは内心思っていた。が、これを口に出すとまた変に拗ねる可能性があったので、これ以上は特に触れることもなかった。
「その笑みでまた何か考えてそうだけど……何か会話が泥沼になりそうだから、切り上げておこう。
じゃあ、三通目行ってみようか。『騎士の鎧は使わないのですか?』そう言えば、スーツというか……執事が着るような服きてるよね」
「あくまでも、お嬢様の執事ですからな。リュミエール聖騎士団の騎士でもありますが、それ以上に執事……いや、爺やでいたいのですよ。
それに、鎧は纏わなくても戦うことは可能ですからな」
グランにも思い当たることがあった。最近使ってるジョブの中にも、鎧を使わないジョブが多くなってきているような……そんな気がするからだ。
「もしかして、鎧って強くなっていくと着なくなってくる……?」
「どうでしょうねぇ……『殴られる前に殴る』と『肉を切らせて骨を断つ』という2つの戦法が主なものですが、そのうち後者をメインで使う者は、さすがに鎧が必要になってくるでしょう」
「セワスチアンは……まぁ前者だよね」
「お嬢様もですな」
シャルロッテ、というよりもハーヴィン全体がそのような傾向にあるだろう。一応、鎧をつけているハーヴィンもいるが軽装だったりする。それこそ、ブリジールなどがいい例である。
但し、何事にも例外は存在するのだ。
「そう言えば……エルーンも軽装が多いような……」
「さすがにそれは気の所為で御座いましょう、鎧を付けているものも多い。ただ、この団には先程申した2通りの戦い方の内、前者を主にしている者が多いというだけでございましょう」
「そういうものか」
そもそもエルーンの服装が、背中と脇がガッツリ空いているものが多いので、元々布面積がヒューマンの半分以下というのもざらである。
とんでもないレベルになると、最初の出会った頃のユエルなどになってくるが。
「さて、そろそろお時間ではございませんか?」
「んー、ちょっと早い気もするけど……いや、中途半端な時間になるよりマシなのかもしれない」
「では、最後におひとつよろしいですかな?」
「珍しい……一体何事」
「お嬢様との事です」
「何も、おかしな関係にはなっておりませぬが……」
「いえいえ、ただ……私、誠に申し訳ありませんがお嬢様が本当に悲しんでいる時に、少々我を忘れてしまうことがありまして」
グランは冷や汗をかいていた。セワスチアンが言わんとしていることは、ちゃんと彼に通じていた。通じているからこそ、グランは下手なことが言えなくて腹に穴が空く思いをしていた。
「さて、話を戻しましょうか」
「はい」
「お嬢様が泣いている時、背中にはお気をつけください」
「はい」
「では、代わりに私が締めると致しましょう。皆さんご視聴ありがとうございました、またこの番組で団長殿とお会い出来ますよ。
では、お元気で」
そう言って、セワスチアンはテキパキとカメラの電源を落として、後片付けをして既に部屋から出るだけの状態に収めていた。その間、グランは顔が青を通り越して藍色に染まっていた。
「おやおや、随分と体調が悪そうですな」
「HAHAHA、そんなことないよ……うん、そんなことない」
原因を生み出したのはどこのどなたやら、そんなツッコミを入れても目の前の自称老獪は、軽やかに流すだけだろう。故に、グランはこれ以上この話題を続けるのは不毛だと感じていたし、これ以上ここに居ると胃に穴があくどころかそれ以上のことが起こりかねないとさえ思っていた。
「さて、そう言えばそろそろご飯の時間ですな」
「あ、確かに」
「子供達もお腹を空かしていることでしょう、ついでにいつもの料理体験会をしますか」
「え、何そんなことしてんの」
「えぇ、まぁ。子供たちに料理の美味しさ、そして調理をすることの楽しさと同時に、危険性を学ぶにはいい機会ですからな」
グランも、正直それに混ざりたかった。ただ、この場合の子供達というのは恐らく自分よりも年下……良くてクムユやアレクなどの年齢の子達になるだろう。
よく考えたら、あの子達とそこまで年は変わらないのだ、この団長は。
「……料理ができる子供って、ヤイアとかだよね」
「そうですね、彼女はとても腕がいい。そして何より、料理にかける思いが違う……彼女もまた、リュミエールグルメを作ることが出来る逸材なのかもしれませんな」
「ヤイアのリュミエールグルメ……」
彼女がいつも作るチャーハンのせいか、妄想してもチャーハンを作っている絵しか浮かんでこない辺り、相当なイメージがこびりついてしまっているように思える。
実際問題、チャーハンをかなりの頻度で作っていることは間違いないのだが。
「団長殿も参加しますかな?」
「え、いいの?」
「えぇ、構いませんよ」
「なら参加する」
突如、団内で開催されている料理体験会に参加することになったグラン。しかし、かれはまだとある事実に気づいていなかったのだ。
主催者は、言わなくてもわかる通りセワスチアンである。そして、セワスチアンが定期的に開いている以上……それを教えられている子供たちの腕も、メキメキと育っているという事になるのだ。今、彼らがどのレベルにいるのかグランはまだ分かっていない。
後日、そこには一心不乱に料理を作り続けてルリアやアーミラ、そしてレッドラックの胃袋に延々と料理を送り込ませるグランがいるのだが……それはまた別のお話。
グランサイファーに住んで延々味見係をしていたい人生だった
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ