「本日のゲストはデリフォードさんです」
「よ、よろしく頼む…痛っ……」
「……筋肉痛?」
「き、昨日の依頼で…」
「昨日の依頼、キツかったもんな」
「後で、カリオストロが薬師達と一緒に作った湿布あげるから、それ貼って…」
「もう貼ってある……」
「……」
黒い鎧に身を包んでいるデリフォード。湿布を貼っていながらも、筋肉痛に悩まされるその姿はグランには妙に他人ごとのように思えない節があった。
「……えぇ、はい。見てわかるけどデリフォード筋肉痛らしいので、ササッといきましょう」
「おじさんでもおっさんでもないのだ……これでもまだお兄さんなのだ……」
「30代でその言い訳はちょっときつい」
「えっ」
団内でも、おっさんまたはおじさん呼びを嫌う人物はいる。わかりやすい例としてアルベールが挙げられるが、彼は一応まだ20代後半という括りにすることが出来る。
しかし、完全な30代は流石にお兄さんで通すことは難しい様に思えている。
「いやいや、30代でもまだまだ頑張れる。40代からなのだおじさんというのは……」
「40代になっても、同じこと言ってないって自信はありますか」
「……言ってそうだなぁ、私」
「でもほら、自分がお兄さんだと思える時が1番お兄さんなんだよ」
「……なるほど、自分の最盛期は自分で決めるか」
「うん、まぁそんな感じじゃないかな」
何故か意味が通じているこの会話。グランもフォローしたまではいいが、彼本人も30代はおじさんだと思っている。
「ならば、私は未来永劫お兄さんだ」
「……」
妙にロゼッタが言いそうなことを言っている、とグランは思った。背中に植物の棘が飛んできて刺さったが、血は出てないので良しとしよう。
「未来永劫はちょっと…」
「なぬっ!?」
「まぁ、うん……そういう人がいてもいいんじゃないかな」
「……やはりカリオストロ殿に頼んで美少女にしてもらうか…?」
「え、何そんなこと言われてんの!?」
今までの会話から、突然飛び起きたかのようにデリフォードに詰寄るグラン。一応絡みがあったことはグランも知っているが、そのような会話をしているとは驚きだったのだ。
「あぁ…錬金術師の一件の時にな」
「はぇー…あぁ、クラリスの両親助けに行った時か」
「そう、あの時にカリオストロ殿に言われたのだ。『錬金術で作った体になれば、筋肉痛に悩まされない』と。ただ、美少女限定だと言われてしまったのだ」
「カリオストロらしい気の利かせ方だ」
団を辞めたデリフォードに対して、あの時のカリオストロは妙に敵意を抱いていた。気を利かせる事は、それが理由でありえないと思っていたが…筋肉痛を解消する代わりに、美少女の体になるなんていう捻くれた気の利かせ方をするのはカリオストロらしいと言える。
「って、あんまり世間話してる訳にはいかないや」
「お便りだったな」
「はい、大量に届いております。1通目『帝国兵って辞めても問題ないんですか』」
「退職金は出ないが…まぁ私には仕事と割り切って、子供を襲おうとする事は出来なかった、という話か。それに、私が辞めたところで帝国にはあまり痛手になっていないだろう」
「言っちゃあなんだけど…1兵士だもんね」
「それこそ、リュミエール聖騎士団の様な状況にでもなれば、相当な痛手なのだろうが…」
元帝国兵で、一番位が高いのはグランの知る限りカタリナである。しかし、辞めた人達は軒並み裏切り者となってはいるが……
「よく考えたらさ、デリフォードって辞めたんじゃなくて…」
「…うむ、上司と折り合いがつかず解雇されている…」
「かっこいいこと言ったのはすごいと思う」
「いや、私だけ解雇されて職場がないから着いてきた、じゃあ示しがつかないと…」
そう、デリフォードはグラン達とあった時既に帝国兵では無かったのだ。ではなんだったのかと言うと、仕事を探すことに翻弄している30代の男である。
「まぁ、夢は見るべきだけど見栄は張らない方が…」
「な、何故だかわからんが今日は団長がやけに辛辣なように思える……」
「さ、2通目行こうか。『槍の名手と言われているのは本当ですか?』」
「あぁ、百人将ダリルとゼシード…我ら3人は同期なのだが、何かしら噂されたものだよ」
「ゼシードって、一時期上司だった人だよね……」
「我ら3人、貴族の出でもなければ学があるわけでもない。この身一つで兵士となりのし上がってきた身なのだ」
ゼシードと百人将ダリル。共にデリフォードの旧友だが、一時期デリフォードが帝国軍に戻る際に二人とも口添えをしてくれた人物である。だが、結局仲違いしてグランサイファーに戻ってきたのだが。
「けど、お給料は向こうの方が良かったんでしょ?」
「……まぁ、その辺りはどうとでもなる。それに、帝国軍と違ってこちらはのびのびと過ごせるのだから一長一短だ」
時折帝国兵がやめたりしているのは、軍がキツすぎるからでは無いだろうか…と思うのはグランの勝手な妄想である。しかし、カタリナはともかくとしてもユーリやファラが辞めているところを見ると、明らかに帝国兵という立場の優先順位が低すぎる気がしなくもない。
「まぁ、俺はデリフォードの意志に従うよ。無理強いさせるわけでもなんでもないからね」
「けど、槍かぁ…」
「団長も使えるだろう?それも、私と同等に……いや、なんなら同等以上か」
「まぁ周りから教えられて覚えていってるからね……おかげでごちゃ混ぜになった我流の槍術だし」
「我流でいいのだ、他人の技を教えてもらったとしても、それを自分の技に昇華できなければ意味がない」
「教えてもらわなければ意味が無い、かぁ…」
「どうした?」
「いや、なるほどと思ってさ。確かにその通りかもしれないね」
「納得して貰えると、こちらも嬉しくなるな」
デリフォードはニコニコと微笑みながら、グランを見ていた。まるで親が子供を見るかのような視線だが、そういうのを含めておっさんとかおじさんとか言われるのではないだろうか……とふと考えてしまっていた。
「……」
「団長?どうした?」
「いや、デリフォードって結婚してるんだよね?って思って」
「あ、あぁ…結婚してるが……」
「奥さん大事にね…」
「あ、あぁ……」
何故か年下に妻を大事にしろと言われる始末。デリフォードは訳が分からず混乱していた。色んな意味で。
「さて三通目『鎧を脱げば筋肉痛もマシになるんじゃないですか?』」
「……?これは、どういう…」
「慣れてて忘れてるかもしれないけどさ、鎧って重たいんだよ」
「あぁ、それは知って……なるほど、脱げばその重さが無くなる分筋肉の疲労も少なくなるということか……」
「多分そういうことなんだろうね」
帝国軍に復帰前の彼の鎧は、丸みが目立つ銀の鎧だった。そして彼は、片手に槍もう片方の手には大きな盾を持って戦闘行動を行う。鎧よりも、大きな槍と盾が筋肉痛の原因という可能性もある。
「……いやしかし、私はこちらの戦い方で慣れきってしまってるからな」
「変えるとなると、ヘルエスみたいに綺麗に回しながら回避しつつ突くって戦法になるのかな?」
「……私には難しそうだ」
「いっその事羅生門研究所で、自動防御してくれる盾でも作ってもらう?」
「やるやらないより、そこまで行くと純粋な好奇心で見たくなるな…」
「多分羅生門研究所なら作れる気がする」
防御を捨てる戦法は、どうやらデリフォードにはまだ難しいようだ。そもそも30代なので、避けて戦う戦法を若い時から身につけておかないと、今更そんな戦法に鞍替えしたところで全く育たずに終わってしまうだろう。
「となると…やっぱり今の戦法?」
「そうだな…結局の所そうなってしまうのだろうな……若い時から、もっと動いておくべきだったか…?」
「やっぱりカリオストロに義体作ってもらった方が早いんじゃ…」
「いやしかし……美少女だぞ!?妻がいる身でそれは…」
「奥さん複雑な心境だろうね」
ある日、帰ってきた夫が何故か美少女になって帰ってきた。それは妻からしてみれば、ただただ困惑する状況だろう。一体何をどうしたらそんなことになるのか、カリオストロという存在を知らない限り、分かるはずのないことである。
「……いや待って、もし結婚してなかったらいいの?」
「……」
「え、デリフォード?」
筋肉痛が辛すぎるから、美少女になっても構わないから回避したい…だから何も言わないのだと、グランは考えるようにした。正直、仲間がいきなり美少女になるのはグランも困惑するからだ。
「……さて、今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました、また次回この番組でお会いしましょう……さようなら」
「…」
グランは話を切った。なぜだかこれ以上この話題を続けておいたら、成人男性の変な覚悟を聞くことになりそうな気がしたからである。
「じゃあ、俺…仕事に戻るから……」
「うむ…私も、依頼がないか探してくるとしよう…」
そして、まるで気まずい空気から逃れるかのように、二人は部屋の前で別れていた。グランは団長としての仕事を、デリフォードは依頼がないかをシェロカルテに確認しに行くこと。
二人とも、これ以上この話題を持ち出すことは無くなりこの話は自然消滅したのだ━━━
「そう言えばカリオストロって、美少女限定で義体作ってくれるんだよね」
「あぁ、デリフォードのおっさんには言ったな」
「む…」
とある日、カリオストロとグランが話しているところをデリフォードが見かけていた。
すぐさまもの陰に隠れていたが、盗み聞きは良くないと思いつつついつい聞いてしまっていた。
「あれって俺のも作ってくれるの?」
「いや、グランのは無理だ」
「え、なんで」
「無理というか、俺様の気分がむかねぇ」
「えぇ……」
「…私の時は気分が向いていたのか…?」
まったくそんな事は無い。ただ、グランは男でないとダメだとカリオストロが思っているだけで、気が向かないとかそういう話ではないのだ。
「わからん…わからん……」
しかしデリフォードはそれに気づくことは無い。自分の美少女化のことでただひたすらに複雑な感情を抱きながら、その場をこっそりと離れて悶々とするだけなのである。
「え、じゃあデリフォードの時はなんで美少女化させようと思ったのさ」
「元々冗談のつもりだったんだがな、よく考えたら他人の義体を作ったことがなかったんで、試しにな。まぁもうする気はねぇよ、あの時はあのおっさんに対してちょっとキレてたしな」
「え、なんでキレてたの」
「まぁ、俺からしてみたらあのおっさんはあの時裏切り者の可能性があったしな…俺様は、仲間を裏切る奴には容赦ねぇんだ」
「……なるほど、ありがとうカリオストロ」
ただ、この場を離れるのは正解だったかもしれない。何故ならば、あのまま居続けていたら、この2人の無駄に甘い空気を吸うことになっていたかもしれないのだ。
妻がいる身だが、無自覚の癖に甘い空気を出す女たらしとそれに好意を寄せている少女の若さはデリフォードにとっては危険だっただろう。
まぁ、デリフォードにはそこまで考える余裕が無いのだが。
「……なぜだろう」
「グラン?どうした?」
「今回、オチらしいオチを付けられていないような気が……」
「は…?」
おっさんさん