「どうして……こんなことに…」
「デリフォード殿…!」
悲しむグラン、倒れ込むユーリ。その彼ら2人の目の前にあるもの……それは、ベッドで倒れて眠っているデリフォードの姿であった。
彼は安らかな顔をして眠っていた。だが、時折苦しそうな表情をしていた。その顔を見て、さらに2人は悲しさを加速させていた。
「なんで、こんな……」
「まさか、まさか……筋肉痛で気絶して倒れてしまうなんて!!!」
「…申し訳ないが…筋肉痛じゃなくて腰をやったのだ…」
「あ、起きてた」
「いや、ここまで騒がれて寝ていられるわけにも……」
「つか何でこんな事になったのかユーリ知ってる?」
「実は━━━」
時は少し遡る。デリフォードは、少しだけ船の外で運動をしていたのだが、帰ってくると食料庫の前でユーリが大量の荷物を乗せた台車を引っ張っていたのだ。
「おや…ユーリ殿、その大荷物はどうした?」
「これはデリフォード殿!実は、団長殿が荷物を受け取ったらしいのですが…あまりの多さにその場にいた団員全員で手伝うことになったのですよ。
俺は、ここに荷物を入れて欲しいと言われたので…ここにいるわけです」
「なるほどな…よし、ならば私も手伝おう」
「え、いや悪いですよ」
「いやいや、これも運動の一環だと思ってやれば問題ないだろう……ところで、かなり多いが主に何が入っているんだ?」
「干し肉と野菜、それにアウギュステで取れたカツウォヌスの干物らしいです」
台車から滑り落ちそうな程に積み込まれた荷物。ユーリ1人に任せているあたり、自分でも持てそうだとデリフォードは確信していた。そうして、ユーリの代わりに台車を引っ張ろうとするが…
「あ、それいきなり腰に力込めると結構ガッツリいくんで━━━」
「ふぬぁっ!?」
「で、デリフォード殿おぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!?」
「ユーリ注意してんじゃん」
「面目無い…」
呆れているグラン。申し訳なさそうに謝るデリフォード。それを見て、ユーリもデリフォードに同情の目線を向けていた。
「はぁ……自分で何日くらいかかると思ってる?治るの」
「明日までには…」
「カリオストロとかシャオに見てもらって、ソフィアとかにも様子見てもらって…後で一応俺も様子見てあげるから、経過見次第だけど3日は重たいもの持たないこと。槍も禁止だからね」
「そんな!?」
槍すらも禁止されて、驚くデリフォード。背中の痛みがひどいので起き上がれない為、少し返事をするのがきつそうである。体制的に、寝たままというのは辛いのだろう。
「で、では私はこのまま数日寝たきりでいろと!?」
「丁度いいからこの際だ、筋肉痛もある程度治してこい」
「言葉がきつい!!い、いや筋肉痛はないのだ!!」
「いや今起こっているとかじゃなくて、恒常的に起きないようにしてもらえって意味」
「それは最早不可能なのでは…!?」
グランのあっさりとした態度に困惑しきっているデリフォード。だが、休めるというのは彼にとっても悪い話ではなかった。
「いや、永久にってわけじゃないけど…ある程度なら矯正はできそうだよ」
「……というと?」
「ファスティバにマッサージしてもらうといいよ、すっごい効くから」
「なんと…!?」
今までデリフォードはその可能性を考えていなかった。そうだ、マッサージのプロに矯正してもらえばいいのだと、ここで思い至ったのだ。
「それに、デュエリストとして体を作ってるファスティバの意見を聞けば、健康面でも参考になると思う」
「おぉ…おぉ…!!」
感涙しているデリフォード。今までその可能性に思い至らなかったのか?とグランは思ったが、よく考えてみればデリフォードはどこか諦めているところがある。年齢の事を気にしているが、それもどこか諦めているところがあったのだろう。
「ファスティバには俺が話つけておくよ」
「感謝するぞ団長殿あだぁ!?」
「もう、起き上がるんじゃないよ!!腰を悪化させたいのかい!?このあほたれ!!」
こうして、何やかんやでデリフォードの体作りが本格的に始まったのであった……とは言っても、マッサージを受けつつ湿布を貼りつつ様子を見つつ……ある程度回復してからでないと、試せないものばかりなのは言うまでもないことなのだが。
「あれから1週間…」
「ファスティバ殿は大丈夫だとおっしゃっていましたが…」
そんなことがあってから1週間、デリフォードの様子を見に来たグランとユーリこの1週間の間、本格的かつ集中的にデリフォードを治療をしていたらしいが……その結果が今でたということなのだ。
「デリフォード、いる?」
「おぉ、その声は団長殿か。入ってきても構わんぞ」
「…元気そうですね、声も前聞いたデリフォード殿の声だ」
万に一つの可能性として、カリオストロの手によって女体化していたり魔改造されていたり…そんな可能性も考えていたが、声だけならば普通だった。少なくとも女体化はされていないようだった。
「じゃあ入るよー」
「……」
生唾を飲み、緊張するユーリ。そうして開かれた扉の先にいたのは……いつもと変わらない、ただラフな格好になっているだけのデリフォードだった。
「……ちゃんと、デリフォード殿ですね」
「あぁ……どんな姿になっていても動じないようにしてきた心が無駄になった」
「一体どんな姿になっていると想像していたんだ……」
「……で、まぁ…体の調子はどう?」
「あぁ、素晴らしいな。筋肉痛に悩まされていた体が、嘘のように軽い!これが若さか!!いや、私は今でも若いのだが!!」
まるで別人にでもなったかのように、デリフォードはその場で反復横跳びをしていた。なかなか速い。それに感心して、無意識に拍手をしてしまっていた。
「本当に、純粋に治ったんですね」
「あぁ!ただ、食事生活や運動なども、なるべく維持し続けていかなくてはならない」
「まぁ、それはそうだろうね」
「それで確実に、私はこの慢性的になる筋肉痛を……治す!!」
まさに覚悟の表情というのを、2人は目撃していた。前々から筋肉痛にならないように、試行錯誤していたデリフォードだったが…今回はそれが実ったようだと実に感心していた。
「良かった良かった……じゃあ、俺らは今から出かけてくるから」
「あぁ、私はこの後ファスティバ殿と再びトレーニングの時間を行う……何かあったら、呼んで欲しい」
「あぁ、その時は頼らせてもらうよ」
そうして、2人は扉から出ていた。そして、そのまま
「いやぁ、あんな状態になってるとは…」
「にしても、やはり不思議な空間ですね……夢、なんですよねこれも」
「うん、さすがに1週間じゃあ多分まだ治ってないだろうから……無理言って夢から様子見させてもらってよかったよ……ありがとうヴェトル」
そう言って視線を動かした先には……紫の髪をした少女が現れる。ヴェトル…今は人間の少女のような姿をしているが、これでも一応夢を司っている星晶獣である。他人の夢の中に他人を送り込んだりすることも可能だ。
「……ううん、貴方の頼みだから…けど、条件忘れてない…よね…?」
「条件?団長殿、何か交換条件を出していたのですか?」
「うん、でも忘れてないけど?」
「じゃ、じゃあ……今日から1週間…添い寝……して、いい?」
赤面するヴェトル、その光景を見ながらユーリは思う……『団長に好意を寄せている女性は、種族の壁が完全にない』と。人間ならともかく、星晶獣まであんな少女のような表情にできるのだから、相当である。
「いいよいいよ、カモンベイベー」
「やった…!」
「……ところで、デリフォード殿本人は?」
「まだろくに動けてないよ」
「夢を見させて…イメージが、体に追いつく様にしてる…私の夢は…見すぎたら夢の方に体と意識が引っ張られる、から…」
「……つまり?」
「デリフォードがあの夢を見せられてる限り、暫くは問題ないってこと」
「なるほど…!」
因みに、ヴェトルの能力によって過去ラカムとカタリナが被害に遭ったことがある。ヴェトルが仲間になる前の話だが、その時見せられた夢によってカタリナはグランを怖がり、ラカムはおじいさんのように老け込んでしまっていたのだ。
「……団長と、添い寝…ふふ…」
「……団長殿」
「ん、何?」
「夢でもしかして治るのを早めているのですか?」
「あんまり動かないでいると、筋肉も弱っちゃうしね。しょうがない措置だよ」
「そうですか…」
ユーリは静かにはしゃぐヴェトルを見ながら、グランと共にこの夢から覚めることになったのであった。
「ぬおおお…!」
「…何故だ…」
そして、そんなこんなで1ヶ月くらい経った頃……デリフォードは筋肉痛で苦しんでいた。その光景を見て、グランもユーリも困惑しきっていた。
「デリフォード殿…一体何をしたのですか……」
「ちょ、調子に乗って働き続けていたら……再発した」
「…何っでだよ…!」
グランの心からのツッコミが、デリフォードの心に突き刺さる。今日だけのものならばともかく、恐らくまた前と同じようになってしまっているだろう。
「ぬうう…私はまだ若いのに…」
「若いかもしれないけど…デリフォードはお兄さんじゃないよ……」
「…すまぬ…流石に今回は私が悪い……」
「そ、それよりも……何をして筋肉痛に…?」
「魔物の群れを1人で討伐していたのだ……昨日は…朝気づいたらこうなっていた……」
それでも何だかんだで、群れを1人で討伐出来ているので…槍の名手という名は、伊達ではないということだろう。何だかんだ言っても、デリフォードはかなり強い方なのだから。
「まぁ…これからはあんまり無茶しない様にね?」
「あ、あぁ……」
グランの言うことを素直に聞くデリフォード。こういう状態の時は、デリフォードが落ち込んでいる時とかによく見られる状態だ。何を言われても反論せず、自己嫌悪の材料として使ってきまう時のデリフォードである。
「……とりあえず治ったら、しばらく奥さんのところいたら?偶には会ってやりなよ」
「……そうだな、休暇をしばらく貰おうか…」
「奥さんと一緒にいてあげた方が、案外薬になるかもね」
「そうかもしれんな」
ユーリはグランとデリフォードが話し合っている中、1人考えていた。群れを1人で討伐している辺り、デリフォードは相当な強者だということと、いずれ自分もそこに追いつきたいという考えである。
「あの、デリフォード殿」
「む…?どうしたのだ?」
「強くなれる秘訣…教えてくれませんか?あ、勿論時間が空いているときで構いません」
「そうだな……私が休暇から帰ってきた時でいいか?」
「は、はい!」
ユーリ、彼は未だ強くなるために努力を積み重ねていく。デリフォードも、未だ現役でいるために強くあろうとする。グラン、言わずもがななので省略。
男3人、強くあるためにここで心の中で固い結束で結ばれた……様な気がするのであった。
ゼノコキュートスやりすぎて心が筋肉痛になりました。皆さん今日は休みましょう。
島ハード、マグナ、天司、アーカルムその他諸々やりながらも休みましょう。
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ