ぐらさい日記   作:長之助

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船旅の夢現

 天候は晴れ、気温は程よい温かさ。そんな時にグランサイファーは空を飛んでいた。団員達もそれぞれ穏やかに過ごしている中で、グランは1人甲板の上で日向ぼっこをしていた。

 

「眠い」

 

 そう言いながら、寝転がっている姿には威厳なんてほんの少しも感じられないほどである。

 残念ながら、それに付き合う姿が2人あった。

 

「そうですねぇ……暖かいですもんねぇ…」

 

「確かに、こんな時は眠たくなるのもわかる気がするよ」

 

 うつらうつらと、隣にモルフェとノアが同じように寝転がっていた。今この場に、ヴェトルはいない。

 

「そう言えば、ヴェトルはどうしたの……いつも二人一緒にいるのに」

 

「姉さんは今部屋でぐっすりです……僕は少し散歩してましたけど、多分今でも寝てるんじゃないでしょうか」

 

「流石……俺たちも見習って昼寝するとしよう…」

 

「でも、こんな日に昼寝だけで済ませるのって…なんか勿体ないよね…」

 

「ノアの言いたいこともわかるけどねぇ……」

 

 いい言い方をするのであればゆったりと、はっきり言うのであればぐったりとしながら3人は甲板で寝転がっている。その雰囲気のせいか、会話もまるで適当に話している感が否めないものとなってしまっていた。

 

「あー…そう言えば、この後停泊するし……グランサイファーも昼寝させてやろうか……」

 

「うん…きっとそれがいいよ……ココ最近、グランサイファーもみんなも動きっぱなしだったしね…」

 

「僕も…皆さんが休めるようにハーブを調合しておきますねぇ……」

 

「ありがとうモルフェぇ……」

 

 寝返りも打たず、ただただぼーっとしているだけだが、それでもそれが有意義な時間の過ごし方だとでも言いたいのか、グラン達は満足そうに笑みを浮かべながら話し合っていた。

 

「……あ、そう言えば後で買い物しないとなぁ……」

 

「食料…足りてないんですか…?」

 

「干し肉とか、保存食色々あったでしょ……あれ今ね、全部ないの…」

 

「また、なんでそんなことに……」

 

「いやぁ……最近減りが何故か激しくてさ……」

 

 新たな団員がよく増えたり、子供達が成長期だったりもするので…主な理由としては、それらが食料が減りやすい理由なのだが、それを理由として思いつかないほどに、今のグランは惚けていた。

 

「まぁでも、みんなよく食べてるってことはいいことだもんねぇ」

 

「そうだよ……船も人も、みんな成長するのだから…」

 

「だらけながら言っても、いつものミステリアスさは消えてるよノア…」

 

 威厳も何も無い団長には言われたく無いと思うが、それを突っ込むものは誰もいない。ツッコミ役が不在となっているこの空間において、これほどカオスな空間はないだろう。

 

「あー……ヴェトルに後でなんか買ってあげようかなぁ……」

 

「姉さんを甘やかすのは辞めてくださいって……」

 

「いやぁ…反応が可愛くてついつい……」

 

「だから、姉さんも甘えちゃうんですよ……」

 

「甘えられるだけ、マシって事だよ……」

 

 ヴェトルの甘えん坊っぷりは、団の中でも有名な程である。とは言っても、子供の甘え方と同等レベルの扱いをされているのはヴェトルは知らないが。

 

「そう言えば…後で油を買ってきていいかな?」

 

「んー?何に使うんだ…?」

 

「ラカムがね……舵輪の動きが悪い、って言ってて…見たら所々状態が悪くなってたみたいなんだ……」

 

「あー……それは早いところ治さないと……」

 

「緊急性を要する程じゃ無かったから……あんまり気にしてなかったけど……」

 

 舵輪が動かしづらいというのは結構な問題の筈なのだが、『ノアが言うんだったら』とグラン達は余り気にすること無かった。事実、艇の事ならばプロフェッショナルよりも理解しているのがノアという星晶獣である。安易に頼りきるのも、あまりいい選択とも言えないわけだが。

 

「そう言えば……ラカムさんと言えば、最近爆発する夢をよく見るそうです……」

 

「え…グランサイファーが……?」

 

「いえ、自分が……」

 

「何それ…正夢…?」

 

「いえ……爆発はするけど、何だかんだ生きてるらしいです……」

 

「夢の中で…?」

 

 モルフェが言っていることを、グランはよく分かっていなかった。モルフェ自身、ラカムがまったく何を言っているのか理解していないのだが。

 

「まぁ……心が休まるハーブティーを最近飲ませているので、そろそろ大丈夫だと思います」

 

「ハーブティーで何とかなるもんなのそれ…」

 

「多分…何か、不安なことがあって……自分の身に不幸が訪れる…かもしれないって思った……のが……」

 

「……モルフェー?」

 

 説明も途中のまま、モルフェの声は次第に小さくなっていきついには聞こえないほどにまでなってしまっていた。グランが顔を横に傾けると、そこには寝落ちしたモルフェの姿があった。

 

「……寝ちゃったか」

 

「まぁ……僕達も似たようなものだけどね……」

 

「モルフェー…グランー…どこー…?」

 

 唐突に、少し離れたところから声がグランの耳に入ってきた。声の主は、ヴェトルだとすぐに理解出来た。恐らく、部屋で目が覚めてモルフェがいないことに気づいてから探しに来たと言った所だろう。

 

「ヴェトルー、こっちこっちー」

 

「あ…グラン、やっと見つけた……!」

 

「ぇぐぼっ!!」

 

 見つけるなり、ヴェトルはグランに駆け寄ってからその腹にダイブを決めていた。ヴェトルの頭が綺麗にグランの鳩尾にジャストフィットしたせいか、グランは一気に意識が覚醒していた。

 

「えへへ……」

 

「げほっげほっ……そんなに探し回ってたのかー?」

 

「うん……モルフェが部屋にいなかったし……グランの部屋に行っても、グランはいなかったし……」

 

「あー、ごめんな。ずっとここで3人で寝てたから……」

 

「……あっ」

 

 3人と言われて少し首を傾げたヴェトルだったが、そこでようやくノアの存在に気づいたのか、グランを挟んでノアとは反対側の位置に陣取る。そっち側には、モルフェがいたのだが、無理やり隙間に入り込んでいた。

 

「あはは、余程寂しかったみたいだね」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「いいよ、大好きな人が近くにいないって言うのはそれだけ寂しいことなのだから。すぐに会えてよかったよ」

 

 素直に謝るヴェトル、そして全く気にもしていないノア。ノアの態度に少し安心したのか、ヴェトルはホっとしながらグランの腕により強く抱きついていた。

 

「ふふ、団長さんはやはりみんなから好かれて愛されるタイプだね」

 

「そうかな?」

 

「…私は、グランの事好き、だよ……?」

 

「おー、ありがとうなヴェトル」

 

 優しく頭を撫でるグラン。ヴェトルは気持ちよさそうに目を細めて、撫でられることを享受していた。

 

「あ、そう言えば……」

 

「ん?どうした?」

 

「さっき、頼み事されたの…」

 

「頼み事?誰に?」

 

「あの…ファスティバっていう…………………………………………えっと、人」

 

 男の人か女の人か、そこをヴェトルは迷ったのかかなり間が空いてから言葉を続けていた。グランにも、ファスティバがどんな性別なのかはわからない。強いて言うなら、漢娘と言ったところだろうか?

 

「へぇ、なんて?」

 

「正確には、モルフェが呼ばれたんだけど……『ハーブティーの入れ方を教えて欲しい』って」

 

「あー、モルフェか……」

 

 ちらっと視線をモルフェに移すグラン。そこでは、安らかな寝息を立てながらガッツリと眠りについているモルフェの姿があった。これは明らかに、しばらくは起きないレベルである。

 

「……うん、しばらく起きなさそうだ」

 

「なら…起きるまでここで寝ておく」

 

 ヴェトルはわざわざ、グランの隣からグランの腹の上へと移動してから、その顔をグランの胸板に擦りつけながらゆっくりと寝息を立て始める。寝ようと思ってから、眠りにつくまでの間の時間があまりにも短すぎる。

 

「……ヴェトルまで寝ちゃったか」

 

「しかも、この寝方……まるで猫みたいだね」

 

「猫か……」

 

 そう言えば、最近団の仲間入りを果たした若い猫は一体今どの辺にいるのだろうか?自由奔放にグランサイファーを歩き回っているので、見る時は見るし見ない時はてんでその姿を見る事はない。

 

「猫が甘えてる時って、確かにこんな感じだよねぇ…」

 

 ダーントの猫達の中で、未だ甘えん坊なみいちゃんはよくダーントの腹の上で寝ている時が多い。起きているのかはたまた元からなのか、ダーントはその間寝返りを一切打っていないのもよく確認している。

 

「……それにしては随分大きな猫だことで」

 

「重たい?」

 

「全然、むしろ飯食ってんのかってくらい軽い。これなら後ヴェトル何十人も持てるよ」

 

「バランス悪そうだね」

 

 ノアのよく分からないツッコミを聞きながら、グランはヴェトルの頭を優しく撫でていた。静かな寝息を立てながらも、無意識なのかその顔には笑みが浮かんでいた。

 

「…ん?」

 

「どうしたの?団長さん」

 

「……なんか、そろそろ魔物の群れとかがこっちに突撃してきそう」

 

「団長さんの勘って、よく分からない当たり方をするからね……彼女達、僕が部屋に連れていこうか?」

 

「ん、お願い」

 

「ところで……なんでそろそろ魔物が来ると思ったんだい?」

 

 ノアの何気ない質問に対して、グランは空を見上げる。そして、遠い目をしながらも一言だけ、発する。

 

「…いつも、タイミングのいい時に現れるから」

 

「……あぁ…」

 

 これには、ノアも苦笑して納得するしかなかった。そう、いつも何かやろうという時に限って、大体魔物が現れるのだ。それはノア自身も理解していたので、ついつい納得してしまっていたのだ。

 

「確かに、昼寝をしよう…って時に来そうだね」

 

「全く…4人仲良くお昼寝タイムに持ち込む気だったのに……」

 

「団長さん、ここのところ忙しかったからね」

 

「めっちゃ忙しくて、すっごい疲れてる。なんなら2日くらい爆睡したいくらい」

 

「でも、それをせずに団長の仕事をちゃんと続けてくれてる辺り、やっぱり責任感がある人だよね、団長さんは」

 

 グランはノアにそう言われて、若干嬉しそうになっていた。が、遠くから魔物の群れの声が聞こえてきたために、すぐさま思考を切り替えてヴェトルをノアに優しく渡す。

 

「じゃ、モルフェとヴェトルの2人よろしくね」

 

「うん、任されたよ」

 

「俺はあの魔物の群れを滅ぼしてくるから」

 

 ここら辺の空域では、騎空士初心者でも狩れそうな魔物しかいないはずなのだが、昼寝の邪魔をされたせいかグランの持っている武器が、明らかなオーバーキルだということにノアは気づいた。

 

「程々にね、団長さん」

 

「程々に焼いてくる」

 

 そう言いながら、いつもの早着替え……もといジョブチェンジを行い、ベルセルクへと姿を変える。ノアは苦笑しながらも、その姿を見送ることしか出来なかった。正直、グランサイファーさえ大ダメージを負わなければあまり問題にはしないし、グランがそんなことするわけないというのはノア自身も理解しているので、その辺は安心していた。

 

「真・魂魄灰滅!!」

 

「……うん、大丈夫…のはず……」

 

 向こうから、火柱が立ちのぼるのがノアは確認できた。魔物の群れはそこまでいないように思えるが、そこまで強力な魔物がいる気配もないが、恐らくきっと必要なことなのかもしれないのだ。多分。

 

「さて、僕達は部屋に戻ろうか」

 

「んにゅ……」

 

「ふぁい……」

 

 ヴェトルとモルフェを抱えながら、ノアはそのまま2人を団長室へと連れ込んでいく。その直後に本気を出していたグランによって魔物は壊滅したので、グランはそのまま団長室に行って2人と1緒に遅れて昼寝を始めるのであった。




次イベにモルフェとヴェトル出ますね、楽しみです

偶には長編とか書いて欲しい

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