「これが……ソフィアが作った薬膳料理、味もそれなりに美味いと思ってる」
「おう、うめぇよ」
「こっちがラスティナが作ったクッキー」
「なぁ、俺ァ真っ黒のゲル状のものをクッキーと認めたくねぇんだが……ゼリーじゃねぇのかこれ」
「素材と調理方法を間違えたらこうなったらしい」
「つまりクッキーじゃねぇなそれ」
とある昼下がり、レッドラックはソフィアが作った料理とラスティナが作った料理を食べていた。だが、これらはレッドラックに直接渡されたものでは無い。
「なんで俺を経由してレッドラックに食べさせようとしたんだろう」
「味見役ってェ話だっただろ? 要するに、俺ァ毒味させられてんだ……スプーンねぇか?」
「ゲル状のクッキー食べるんだね」
ソフィアが作ったものは、薬草などをふんだんに使ったお粥だった。全部ぶち込んでいるせいで見た目が凄いが、味は意外と美味しいというのがレッドラックの評価である。グランも1口実は貰っていた。
ラスティナが作ったものは、黒くテカったゲル状のなにかである。彼女曰く、これはクッキーなのだそうな。
「……おう、味はまともだぞ」
「え、マジで?」
「クッキーじゃねぇけどな」
「どれどれ……」
グランも1口スプーンで掬って、口に入れて咀嚼する。ゲル状のものなので食感もまたゲル状なのだが、確かに食べられない味などではなく比較的美味い味だった。
「でもめっちゃ海鮮の味だよねこれ、パスタでたまにある海鮮物のスミのパスタみたいな味がする」
「つかそういうことなんじゃねぇのか?」
クッキーと聞かされていたはずなのに、甘くもない上にただの海鮮物のスミのゼリーを食べさせられているグランとレッドラック。彼らにはただただ困惑しか存在していなかった。
「……というわけで2人呼んでみよう。というかなんでこうなったのかラスティナに聞きたいわ」
「全く同じことを考えてたぜ」
「ってわけで、2人に調理法を聞いてみたいと思いたかったんです」
「では、私から説明しますね」
部屋に呼ばれるラスティナとソフィア。最初にソフィアが1歩前に出て、どういったふうにして言ったのかの説明をし始める。
「薬草はお店で売っている調理可能なものを選んできました。薬草を煎じたり、刻んだものを入れたり……そうしたものをご飯と混ぜて、あとはお粥と同じ要領です」
「こういうのは、大概薬草の入れすぎて苦くなったりするもんだがよォ……子供でも食べやすくできてんのはすげぇよな」
「ありがとうございます、ちゃんと消化も良いですから風邪をひいた時等はおすすめできると思います」
ニコニコと微笑むソフィア。その隣で、ラスティナは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。それもそうだろう、お粥に対して自分のものはよく分からないゲル状の食べ物なのだから。
「さてラスティナ」
「……クッキーだ」
「俺の知ってるクッキーじゃない……作り方、教えて?」
「……砂糖を使おうと思ったんだ、そしたら間違えて塩を取り出してしまってた……」
「そこはまぁ、よくあるミスだと思うけど……それ以降だよね問題は」
「……カラメルを作ろうとしてて、一旦冷やしておこうと別の場所に置いてたんだ。その時は気づかなかったが、海鮮物のスミが入った瓶が近くにあって……使おうと思った時には間違えてることに気づいたんだ」
「まぁ、まだ分からなくもない……」
そこまででも相当なものだが、なぜクッキーを作ろうと思ってゲル状になっているのか。グランはそれだけがただただ知りたいのだ。
「……生地を作ろうと思って、材料を探してて……小麦粉だと思ってたのが片栗粉だったんだ……」
「え、これ片栗粉なの……? どうしてゲル状に納まってるの……?」
「牛乳の入れ物だと思ってたのが、ミネラルウォーターで……」
「中身見えなかったんだよね……? いや、入れ始めた時に気づかないもんなのか……?」
「そのあと……なんやかんやあって、こうなった」
聞いたところでやはり理解できなかった、というのがグランの結論だった。いや、わかった所でどうしてそうなったとしか言いようのないものばかりなのだが……
「ラスティナには、料理教える云々以前の問題な気がするぜ」
「俺もそう思う。材料間違えるミスをしなければ……多分大丈夫のはずだけど……これ見せられると、逆に教えたら下手になるんじゃないかとさえ思えてくる」
2人の言葉に、ラスティナは顔を俯かせて真っ赤になっていた。辱めに近いが、しかし自分の料理の腕が全く別の方向性に向いているのが原因なために、何も言えないでいた。ソフィアも、苦笑いをすることしか出来ないでいた。
「で、でもちゃんとしたやり方さえ教えれば……出来そうですけどね?」
「いや、今回ばかりは料理が下手と言うより……ラスティナのドジっ子が作用してる気がする」
「……認めたくはないが、確かに凡ミスが多かったのは事実だ」
凡ミスとは、一体なんのことだろうか。グランはふとそう思ってしまったが、それにまでツッコミを入れると話が進まなくなるので、何も言わないでいた。
「まぁ、料理の基礎自体は出来てるみてぇだな……今の作り方聞いてる限り、まともなクッキーを作ろうとしてたのは間違いねぇみたいだし」
「……ベアトリクスと組んだらどうだろう?」
「……ベアトリクス? どういうことだ団長」
「いや、ベアトリクスはお菓子作りに関してはかなり上手だし……それに、まともな料理も見た目だけなら作ることが出来る」
「あぁ……そういやお菓子作りは1級品だもんなベアトリクス。何故かほかの料理を作ろうとすると劇的に甘いけど」
ベアトリクスはお菓子作りがとても上手だ。それに、材料さえ把握している料理があれば見た目だけなら完璧なものを作ることが出来る。しかし、お菓子以外の料理を作らせると何故かすごく甘いものが出来上がってしまうのだ。それも、美味しいのだから反応に困るタイプのものである。
「ベアトリクスは料理を甘くする力を持っているのか……」
「糖分の神様にでも愛されているのでしょうか……?」
「そんなものに愛されてしまったら、俺は除霊してもらおうと必死になるね」
材料は間違えていないはずなのに、作る料理が全て甘くなるなんて一体どこの呪いだろうか……とさえ思えてくるのだ。お菓子作りは戦士とは思えないほどに上手なのに、料理がそうなっていては結局の所出来ないのと何ら変わりない……とグランは思っていた。
「……実際、糖分の神様いるのかな」
「糖分司る星晶獣はいそうだな」
「星の民がそんなの作ってたら、俺はガッカリだよ」
割と居そうなところが星晶獣の恐ろしいところである。役割が細分化されすぎている、なんてことも結構ある。
「んで? 結局どうすんだ?」
「あー……いや、ラスティナは見張っとけばいいと思う。ミスしそうならヘルプ入れたり……それくらいなら多分ベアトリクスにも出来……出来る、かなぁ……?」
「お前のベアトリクスへの信用結構低いな?」
「いやいや、信用してるよ……お菓子作りと戦闘での巻き返しは」
見張りに関してはどうなのか、とはレッドラックは聞かなかった。大方プライドの高い2人が結局争いを始めてしまうせいで、見た目完璧な激甘料理と見なかったことで出来たよく分からないものが並ぶだけの結果になるのは彼にも明白だったからだ。
「……それで、結局どうするんですか?」
「まぁ、見張るくらいなら誰でも出来るし……うん、ジャミルに見張らせよう」
「なんであいつなんだ……?」
「いや、気配強かったら別のミス起こしそうだし……気配を完全に遮断できるジャミルなら、見張られてても分からないでしょ? 俺もよく気づかないから結構色んなところ見られてるし」
「おい団長今の話……いや、いいなんでもない」
ラスティナがついツッコミを入れていたが、ジャミルだからとツッコムのは面倒になって途端にやめてしまっていた。事実、ジャミルがグランを24時間365日見張ってるのは周知の事実なのだ。
「あ、ジャミルと言えば」
「お、今の話からどう話広げる気だ」
「最近家庭料理覚えてさ、何だっけな……えーっと、あひ、アヒー……」
「アヒージョです我が主」
「そうそう、ありがとうジャミル」
「いえ、それでは」
唐突に現れて唐突に消えるジャミル。それをさも当然のようにグランは扱い、ツッコミをすることがなかった。3人は驚くよりもグランの適応能力の高さに、もう何も言わない方が正解だと思ってしまっていた。
「でまぁ、そのアヒージョっていうのを最近覚えて食べさせてもらったんだ。すごく美味かったよ」
「ほー、そいつァ食ってみてぇな」
「じゃあ今からラードゥガ行こうか、ファスティバがいいお酒が手に入ったって言ってたし」
「おいおい、お前さんは酒飲めねぇだろ?」
「ファスティバの搾りたてオレンジジュース飲むから」
「……そっちもそっちで気になるなぁ」
「わ、私達も行ってよろしいですか?」
「よーし、皆で行こう」
その後、全員を連れてジャミルのアヒージョを食べにラードゥガに向かう一同。アヒージョに舌鼓を打ちながら、他愛ない世間話などを花を咲かせて、その内自然解散となるのであった。
後日以降の話。
「……何、物陰からの視線を感じる」
「またですか? 最近多くなりましたね、それ」
ラスティナは料理をしようとした時に限って、誰かの視線を感じることが多くなった。それもそのはず、グランがジャミルに頼んで本当にラスティナを見張らせているからだ。しかし、そこはジャミルの腕の見せどころ。キッチンの捜索を隅から隅までされようとも、絶対に見つからないようにしている。そのため、ラスティナの感じた視線は『結局ラスティナの気のせい』ということになってしまっている。
「もしかしたら、何かに取り憑かれているのかもしれませんね」
「な、なんだと!?」
そして、最終的にはこんな風にラスティナを軽くあしらう事になるまでには、皆慣れきってしまっていた。
しかし、ここまで来ていて誰も気づかないことが一つだけあった。
「…………それにしても、なぜ誰もラスティナ殿に料理をさせまいと行動を起こさないのでしょうか」
ふと、ジャミルが呟いた言葉。そう、結局のところ誰もがラスティナが料理をするところを止めないのだ。本当に危なかったりする時は、ジャミルが隙をついてヘルプに入るため問題ないのだが、誰も止めようとしないのはなぜなのか。
「……いえ、きっとこれは主に何か考えがあってのことでしょう」
ジャミルは自分にそう言い聞かせて、命令通りヘルプに入るだけである。しかし、ジャミルが思うようなことは……決してない。別にグランが何か深い考えがあってラスティナの料理をやめようとしている訳では無い。
あるとすれば━━━
『やりたいようにすればいいと思うよ、本気で危ないのはダメだけど』
━━━この程度のことなのだから。
ブレイブグラウンドの話なんて書きませんよ……銃が落ちない……