「今回のゲストはフェザーさんです」
「団長!!! 拳を交えよう!! そうしたら分かり合えるぞ!!!」
「ゲスト間違えた気がするわ……さて、今回もまた特別スタジオ……グランサイファーにある特訓場にて放送します。頼むからカメラは吹っ飛ばさないでくれよ?」
なぜまた特別スタジオなのか。理由としては2つある。フェザーが何事にも全力を出すタイプのせいで、先程ゲストと話す為に使われるテーブルと椅子が破壊されてしまったので、仕方なくお互いに立って話せる場所が欲しかったのだ。後フェザーと言えば、と言われるとここという発想がグランにあった。
「お前この番組の趣旨を理解してる?」
「あぁ! 勿論理解しているさ! 俺達団員同士がそれぞれ交流を深めるために、自己紹介を兼ねた話し合いの場だろう!!??!!」
「お、おう……分かってるならいいんだ……待て、わかってるならどうしてさっき殴り合い推奨してたんだお前」
「俺と言えば拳! 拳と言えば交えるものだからだ!!!!!」
「やっべ俺マジで間違えた説あるわ」
ちなみに先程から、フェザーが大声を出しているせいかカメラに付属しているマイクに、フェザーの声は音割れで入っている。五月蝿すぎたのだ。
「とりあえず、もうちょい声のトーン落としてけ。そんなテンションで話してても、俺は今は殴り合いしないから」
「……分かった、団長がいうなら少し抑える」
「脳筋なのか物分りいいのか、俺は偶にお前が分からなくなるよ……」
フェザーは話を聞かない脳筋の様に思われがちだが、実は結構物分りがいい。テンション上がってる時の声の大きさはあれだが、一言断れば基本的にそれを理解してくれる。理解してない時もある。
「じゃあ、ただ2人で立って喋るのか?」
「そんな感じ……そもそも殴り合いだと、お前テンション上がりすぎて大声で叫ぶしかしなくなるし」
「……そうか?」
「おっと……まさかの意識してないパターンと来たか」
実際そうなのだが、本人は全く自分のことを理解していないらしい。グランは冷静にツッコミを入れるが、内心今度から大声出すのをどう抑えさせてやるか考えていた。
「……とりあえず、お便り行くぞ」
「おう!」
「また大声の片鱗出始めてんなお前……1通目『ガンダゴウザさんと勝負はしてるんですか?』」
「島に降り立った時は良くしているぞ!! 2人の用事がない時は、専ら拳を交えている!!」
「お前ら島の地形変えてないだろうな!?」
ガンダゴウザ。幾つもの伝説を持つ凄腕の拳闘士である。その逸話の中には、信じられないようなものばかりがあるのだが、実際にそれを起こしているかもしれない……という妙な信頼感があるご老人である。
因みに、ガンダゴウザが本気で暴れると島の地形は割と簡単に変わる。殴り合い特化のフェザーもまた、その片鱗があるので下手をしたら島の地形ががっつりと変わってる説も出てしまうのだ。
「大丈夫だ、その辺はちゃんと抑えて戦っている」
「……じゃあそれを信用するけど、君ら2人の拳の強さは君ら2人自身がよく知ってんだからさ……それを理解してから特訓してくれよな」
「あぁ!!」
単純な一撃の重さでは、グランはこの2人に勝てる自信が無い。ガンダゴウザはもとい、フェザーも一撃が重いタイプなので避けては一撃を与えて避けては一撃を与えてを繰り返していかなければならないのだ。
しかし、フェザーは一撃が重く鋭い上に本人のスピードがかなりあるというタイプだから、中々そう簡単にさせて貰えないが。
「前にやった時に、散々に怒られて身に染みたからな!! 時には力をある程度加減することも大事だってな!!」
「……何故だろうか、間違ってはいないはずなのにお前が言うととんでもなく不安が残る……残ってしまう……」
理解力はあるが、『拳を交える』という一点が前提にあるためにどうしてもグランはイマイチフェザーに対しての不安が残ってしまう。ちなみに彼は幼なじみがいるのだが、その幼なじみの方はフェザー以上には理解力も落ち着きもある。時折、怪しいところがあるが。
「……いや、ここは実はそれなりに理解力があるフェザーを信じるとしよう……同じ艇に乗った団員だからな、信用しないとな……」
「拳を混じえたら1発だぞ!!」
「ことある事に布教するんじゃないよ!!」
ゼエン教ならばともかく、フェザーやガンダゴウザの拳教は時と場合を選ばなければならない。そこらかしこでやっていたら、タダの喧嘩屋である。
「何故だ!?」
「拳交えられないような人がいたらどうする、子供組にも同じことする気か?」
「む……確かにその通りだな」
理解はしてくれたようで、フェザーは思案し始める。ここで畳み掛けておかないと、話が終わりそうになかったので大急ぎでグランはもう1枚のお便りを箱から引っ張り出していた。
「巻きでいくぞ!! 2通目だオラァ!!」
「ん? そうか」
「えー……『相手が武器を持っている時、どうやって対処していますか?』」
フェザーは文字通り拳で戦っている。別に手に防具らしいものをつけている訳ではなく、付けているのはむしろ足の方である。それも簡易的なものなので、フェザーが来ているのはほぼ服である。
「武器を叩き割る!!」
「もっと他の人にも出来そうなことは無いのか……?」
「なら武器を弾くことだな!!」
「真剣白刃取りとかは?」
「あー……あれは、危険だからやめた方がいい。相手の攻撃を避けて、隙をついて武器の側面か相手の手を殴る方がやりやすいし簡単だ」
これに関しては、グランは成程と感心していた。確かに、真剣白刃取りは自分が相手の武器の直線上に来るような形になっているので、万が一失敗した場合そのままお陀仏の可能性が高いからだ。
それなら、安全に武器の側面か武器を持っている手を殴って無理やり武器を落とさせる方がいいと言う方が理解はできる。
「……相手がハンマーとかみたいな武器だと、側面殴ったところでだしなぁ……」
「俺は殴り壊すけどな!!!」
「お前レベルになってくると論外だよ……」
拳上級者の意見は、先程は参考になったが今のは明らかに参考になっていなかった。グランは溜息をつきながら、頭を抱えていた。フェザーの知的な時間がもっと増えて欲しいと、若干願っていた。それはもうフェザーじゃないのだが。
「……ちょっとテンポが早いけど……3通目行くか」
「おう!!」
「えーっと……『ガンダゴウザさん以外で、団内に拳を混じえたい人はいますか?』」
「全員だ!!!!!!!」
「うわびっくりした大声出すなよ」
全員とは大きく出ているが、その中には十天衆達も含まれているのか少し怪しいところがある。いや、フェザーの事なのだから含まれているだろうが……
「お前非戦闘員にも喧嘩売るつもりか?」
「それは無い!」
「そこの理性はあるようだから、安心したが……ちゃんと合意の上でやれよ?」
「あぁ! 勿論だ!!」
基本的に十天衆は挑まれたら大抵は受けると思うが……ニオがいるということを考えたら、今の質問はしたくなる。絶対にニオは戦おうとはしないからだ。
「全員って言ってたけど……戦ったことあるやつの例ってあるか?」
「前に停泊していた島で、十天衆のソーンと拳を……じゃなかった。特訓していた!!」
「ソーンと……?」
ソーンはとんでもなく遠くから射る、十天衆の射手。逆にフェザーは超近距離戦闘型。2人の戦闘スタイルは全くの真逆なので、やることと言えばコンビネーションの特訓などが思い当たる。
「あぁ! ソーンが島のどこかから放った矢を殴り落とすという練習だ!!」
「……思ってた以上に脳筋だったわ」
しかし、特訓というのは納得できるレベルである。どこかからいつ飛んでくるかも分からない矢を、落としていく。戦闘の気配の察知の仕方などを学べるので、練習としては申し分ないものである。
やり方が上級者過ぎるのが難点だが、グランもそれは真似しようかなと考えてしまっていた。
「しかしソーンか……よく引き受けてくれたな」
「頼んだら、何故かとても嬉しそうだったぞ。代わりにその後でお茶を飲みに行ったんだけどな」
「あぁ……」
ソーンは生粋の寂しがり屋である。恐らく、フェザーが頼ってくれて嬉しかったのでそのまま友達になろうとしたのだろう。それがフェザーに伝わっているかどうかはともかくとして、団内で親しくなれる人が増えるのはいいことである。
「……巻きでいったつもりだったけど、案外時間が経つのは早かったな」
「なんだ、もう終わりなのか?」
「もう時間なんだよ、理解してくれ」
「なるほど……」
やけに落ち着いて理解してくれたと、グランは少し疑問に思いながらも、少し安心していた。このまま『じゃあ拳を混じえよう!』なんて言い始めるかもしれないと、正直ビクビクしていたからだ。
「では今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました、また次回この番組でお会いしましょうさようなら」
そう言ってから、グランはカメラの電源を落とす。落としてから気づいたが、フェザーが後ろでシャドーボクシングをしていた。最早その行動で、次の言葉が何なのかくらい予想できるようになっていた。
「……拳を?」
「交えよう!!!」
「その前に始末書お願いしますね」
「うぉ!?」
唐突にフェザーの後ろに現れるリーシャ。フェザーは驚いていたが、グランは何も驚くことがなくて棒立ちになっていた。
「始末書!? なぜだ!!」
「自分が所持しているものならば兎も角、艇の備品を壊したじゃないですか……番組用のテーブル」
その言葉にフェザーは黙った。そう言えば、壊したままだったとグランは納得していた。だから始末書の提出をお願いしているのだろう。
「……い、いつまでに……」
「期限は問いません。しかし……まぁ、常識の範囲内でお願いします」
始末書はいつに出しても問題ないが、遅れれば遅れるほど出した時に見るリーシャの顔が、表情を失っていき真顔になっていく様は恐怖そのものである。酷い時ははにわのような闇の感じる表情になっていた。
「わ、わかった……」
「苦手でもやってくださいね、別に書き方もどんなものかは問いません……ただ、きちんとやった事を把握してくれたらいいだけですから」
「あ、あぁ……」
「では、失礼します」
普通に部屋の扉から出ていくリーシャ。因みに、リーシャが何か始末書を書くことになった場合は、グランに向けて提出する事になっている。
「……俺も気をつけないとなぁ」
「ぬおおお……! すまん団長! 部屋に戻って書いてくる!!」
少しだけ唸った後に、フェザーは部屋から出ていく。あの様子だと、しばらくは部屋から出られないだろうとグランは感じていたので……そのまま後片付けだけをして、同じように部屋から出ていくのであった。勿論、カメラはきちんと回収してから元の部屋に戻すために、だが。
SSRでも問題なさそうなSR
偶には長編とか書いて欲しい
-
はい(ギャグノリ)
-
はい(シリアス)
-
いいえ