「はい、今日のゲストはランドルさんです」
「よろしく頼むぜ」
「ランドルさんは、この団では数少ない足技を多用する人です。『足技使ってみたいなぁ』って人はランドルさんに聞いてみましょう」
「おい、団長何言ってんだいきなり」
ニコニコと微笑みながら、グランはランドルを推していく。いきなりの事だったので、ランドルはグランを睨みながら注意する。
「え、人に教えるの駄目なの?」
「そういうのは、俺の時間が余ってる時しか出来ねぇんだよ。勝手にそういうのをされたら、俺の予定を知らねぇ奴らが困惑するじゃねぇか」
「あ、そういう?」
てっきり『俺の許可も取らずに』的な意味だと思っていたグランだったが、自分の予定さえ余っていたら人に教えるのはいいと思っているランドルに、少しだけ驚いていた。
「ふん、拳より足技を習いにきてんだろ? そいつは見込みがあるって事じゃねぇか」
「あぁ、そういう……」
ランドルはフェザーと幼なじみのような関係である。しかし、フェザーが拳で戦っているのに対して、ランドルはそれが気に入らなかったのか足技で戦うことに固執しているのだ。それが理由なのか、足技を教えて欲しいと思っている者達に関しては、どこか寛容的になっていることもよくある話なのである。
「んだよ、なんか悪ぃか?」
「いや、全然大丈夫だよ。ただやっぱりランドルはランドルらしくていいなぁって話」
「あ……? よくわかんねぇな。とりあえず褒め言葉だと思って聞いておくぜ」
「実際褒めてるからね」
ニコニコと笑いながら語るグランに対して、少し疑問を浮かべながらランドルはひとまず納得していた。
「そう言えば、ランドルってフェザーと腐れ縁なんだよね」
「……あぁ、あいつがどうかしたか?」
フェザーと名前を聞いて、一瞬だけ眉が動いたランドルだったが、少しだけ反応が遅れただけでそれ以降特に何もリアクションすることは無かった。
「いや、フェザーに対してよく足技を鍛え上げることが出来たよねぇって思ってさ」
「別に、簡単だったわけじゃ無いからな。自分で言うのもなんだが、血のにじむような思いをしながら特訓したもんだぜ……それだけ、足を使う戦い方ってのは案外育てんのが難しいんだ」
「人間がよく使う部位だからね、そこを戦う目的で使うのは結構勇気がいるよねやっぱり」
「……けどな、足だけじゃ駄目だってのが思い知らされてよ」
「というと?」
「ソリッズ、って爺さんがいるだろこの団」
ソリッズ。年老いてなおその筋肉が健在である筋骨隆々の男である。少々スケベなところはあるものの、その拳から繰り出される一撃はまさに必殺と言っても過言ではないほどの威力。彼の拳は、一撃で大岩を叩き割る実力を持つ。
「いるけど……ソリッズは確か腕を主体にして戦う戦法だったと思うけど?」
「まぁそうなんだが……拳を鍛えたけりゃ、拳だけを鍛えても意味がないってこった」
「……あ、もしかしてバランスよく鍛えろって言われたの?」
「あぁ、足だけじゃねぇ……腰や腕なんかもバランスよく鍛えていかねぇと、足技は成長しねぇって事がよくわかった。フェザーの野郎が、なんで俺と互角に戦えてんのかもよくわかったぜ」
「そう言えば……フェザーは基本腕で戦ってるけど、足技も織り交ぜたりして戦ってるもんね」
本当に目立たないことではあるが、フェザーは自身の戦い方に足技を取り入れている。取り入れていると言っても、ただ殴る動作の合間に蹴りを入れる程度のものだが、それもある程度上半身と下半身の鍛え方をバランスよくしてこそ成り立っているものである。
「ま、多少気に食わかなかったが……そんなんで、特訓に好き嫌いを言ってたら洒落になんねぇからな」
「フェザーはその辺好き嫌いなさそうだもんね」
「あいつは戦うことしか頭にねぇ野郎だからな、本能的にどこをどう特訓すればいいかを無意識にやってんじゃねぇか?」
冗談めいた感じでランドルは誤魔化していたが、それがフェザーとなると、一気に現実味を帯びてくる。実に『あいつはやってそう 』という感覚が強いのだ、フェザーは。
「今度聞いてみようかな……」
「おいおい……本気にすんじゃねぇぞ? 仮にしてなかったら、あいつ今度からそれをしてそうな男なんだぞ?」
「確かにね」
軽く談笑をしていた2人だったが、ふと時間が経っていることにグランが気づき、そのままお便りのコーナーへと移っていく。
「さて、何だかんだでお便り紹介。ランドルにもいっぱい来てるから」
「答えられることならなんでも答えるがよ……」
「1つ目『トンファーキックってするか?』ヴァンツァから」
「……トンファーキック?」
トンファーキックという単語に首を傾げるランドル。普通はこうなるのは、当たり前である。何せ、トンファーは手につけるものであり、足につけるものでは無いからだ。
「トンファーを付けてキックするんだよ」
「……足に取り付けて薙ぎ払うような蹴りってことか?」
「え、手に持って普通に相手を蹴る技だけど」
「……?」
本格的に理解できなくなったのか、ランドルは完全に困惑していた。しかし、グランは何が理解できないのかが理解出来ずに、困惑していた。
「待て待て、トンファーを手に持つんだよな?」
「それ以外どこに持つって言うのさ」
「で? そのままキック?」
「そうだよ? トンファーキックなんだから蹴らないとおかしいじゃん」
「トンファー関係ねぇな!!」
「えっ!? トンファーを手に持つことで蹴りが強くなるんだよ!?」
「どういう原理だそりゃあ!!」
当然のことながら、訳が分からずに怒鳴ってしまうランドル。しかし、グランは真顔のままどこからか1枚の白い紙を取り出して、ペンでサラサラと何かを書き込んでいく。
「おい、何を書いて……」
「ランドル、トンファー握るときどこに力を篭める?」
「……そりゃあ、手だろ? 握る力を強くしてねぇとトンファーが落ちちまうしな」
「そうだね、じゃあトンファーを持ちながら蹴るとしたら、重心はどうなる?」
「重さにもよるが……まぁ、多少はズレるんじゃねぇの?」
「そうだね、じゃあ仮に重いトンファーを持ちながら蹴るとしたら……どうなる?」
「重いトンファーなら、より腕に力を込めて……重いから重心もズレるだろうから……はっ!?」
なにかに気づいたかのように、ランドルは驚愕の表情を浮かべる。グランもそれに合わせて笑みを浮かべていた。
「まさか!」
「そう……重心がズレたのを戻すために、上半身や下半身をある程度捻らなければならない。捻るということは、それだけ遠心力が生まれる……そこから繰り出される蹴りは……重い!!」
「……いや、それだったら普通に蹴るわ」
グランはキメ顔でそう答えるが、何故か途端に冷静になったランドルが、椅子に座り直しながら真面目にツッコミを入れる。
「というオチが着いた所で、2通目『バランスを崩したりはしないんですか?』」
「蹴ってる時にってことか?」
「まぁそれ以外ないんじゃない?」
「ねえよ、じゃなかったら今俺は足を使ってねぇ」
「ま、そういう事だよね」
合っていない武器は使わない、合っていない戦法は使わない。要するにそういう事である。長い間足を武器にして戦ってきているのに、バランスを崩してしまうようなら早々にやめておいた方が正解というものである。
「それ以前に、蹴りでバランスを崩す人間は相当運動神経がねぇ奴だな。一般人でもそこまでバランスは崩さんと思うが」
「あれでしょ? 連続で蹴りを出しているから、そんなに連続にしててバランスを崩さないのか? ってことだと思うけど……まぁ、どっちにしろだね」
「そういうこった。俺に憧れて蹴りをしようとするのは勝手だが、ちゃんと自分に合っている戦い方なのかどうかは把握する必要があるな……ハーヴィンは、蹴る行為はあんまりしねぇな」
「まぁ、そうだね」
せいぜいあるとすれば、相手を牽制する時に顔面に打ち出す程度だが……それを行えるものすら、結構限られている。
「……とりあえず3通目行こっか『武器相手にはどのように戦いますか』」
「これフェザーも同じこと聞かれてなかったか?」
「文章が微妙に違うけど……まぁ意味合いはあんまり変わらないかもね」
「俺の場合は……ま、その辺は一緒だ。相手の武器を蹴り落とすか、手を蹴って武器を落とさせるか、だ」
当然というか何と言うか、それが武器持ちに対する対策なのだろうと考えれば、実に自然な結果であるのは言うまでもない。実際効果的な事には変わりないのだから。
「やっぱりそういった対策に尽きるんだねぇ」
「まぁ俺の場合、カウンターを入れる要領で蹴り飛ばせるがな」
「それは……確かに」
単純なリーチの差である。フェザーと違い、殴るよりも蹴る方がリーチとしては長い。その長さを利用して、相手を蹴り飛ばしてカウンターを狙うことも可能なのだ。
「ま、さっきも言ったが基本的な事はなんも変わらねぇよ」
「相手の武器を側面から叩いて蹴り落とすか━━」
「相手の手を蹴って、相手に武器を落とさせるか……だ」
やはり武器を持たない素手での戦闘スタイルは、そういったことに尽きるのだろう。しかし、それはあくまでも基本的なことに過ぎない。ガンダゴウザや、ソリッズクラスになると相手の武器を砕いたり、そもそも拳圧によって相手を戦闘不能にしたり……そういった若干人外じみたことをしている時もある。
「……さて、そろそろ時間だ」
「もうそんな時間か……」
「皆さんご視聴ありがとうございました。また次回、この番組でお会いしましょう……さようなら」
いつも通りのテンプレ台詞を言いながら、グランはカメラの電源を落とす。その後、少し考え事をしていたランドルだったが……ふと思い立ったかのようにグランに向き直る。
「団長、いまから蹴り合うぞ」
「え、なに急に」
「色々思うところがあったってだけだ……それに、俺ァフェザーの野郎には負けたくねぇからな。これが終わったらさっさと特訓するつもりだったんだよ」
「まぁ、別にいいよ?」
「んじゃあ、早速行くぞ」
グランの腕を持って、引っ張っていくランドル。なすがままされるがままで、グランは特に抵抗することも無くただただ引っ張られていくだけだった。
「蹴り合うって……俺も足限定?」
「いや、今のは言葉のあやだよ……要するに素手での戦闘をやりてぇって話だ」
「OK、なら本気を出そう」
その体勢のまま着替え始めるグラン。ランドルは一切気にしていなかったが、ふと『本気』という言葉に違和感を持ったのか、グランの方に1度向き直る……
「なっ」
「これでいいだろう?」
そこには、レスラーとなったグランがいた。その威圧感、笑いだしそうになってしまうほどの謎の雰囲気。その色々な要素によって、ランドルは驚いていた。
「さぁ、やろうか……飽きるまでな」
その日、謎の本気を出したグランとそれに釣られて全力でグランに対抗したランドルの戦いは、皆が寝静まった頃まで続いたという……単純に、迷惑なだけの話である。
足技キャラもっと増えて欲しいという切実な願い
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ