「……ここにいるのか?」
「情報によるとそのようです……相手は魔物を使役してきます、気をつけて掛かりましょう」
「……にしても、ある意味では過剰戦力じゃない?」
とある日、リーシャとモニカとグランの3人は、とある森の中にある屋敷へとやってきていた。これは、3人が受けたある依頼によるものなのだが、グランはこの3人で来ることは過剰戦力だと訴えた。
「何言ってるんですか団長さん、足りないよりも多い方がいいんですよ」
「ま、言ってることは正論なんだけどね」
グランも、リーシャの言っていることは理解出来る。足りなくなってピンチに陥るよりも、多い方がいい時もあるのだ。
だが、3人とはいえ実力的には相当なものである以上グランが過剰戦力だと考えるのも無理はない。
「しかし、魔物を使役するのだろう? ここはもう何人か連れてくるべきではなかったか?」
「いえ、この屋敷……森の中にあるだけあって、相当老朽化が進んでいるんです。あまり多い人数だと、下手したら建物が崩壊するくらいには……脆くなっています」
「そんなところを根城にするなんてなぁ……ここに来たやつ、相当な怖いもの知らずというかなんというか……」
依頼内容は、逃げたチンピラを捕まえて欲しいというものだったのだが、このチンピラが少し術に長けている者であり、一般人に魔物をけしかけたりする事でやっていること以上の罪がかけられている。
秩序の騎空団でも、この男は捕まえなければならないという結論が出ていた。
「しかし、ここに隠れているおかげで今まで見をかくせていたのも事実……それに、魔物を操れている以上この森であっても彼が有利なことには変わりありません」
「それもそうだ……よし、じゃあさっさと捕まえて美味しいものでも食べに行こうか」
「そうだな……私も早く帰って、紅茶を飲みたいところだ」
「にしても、ここに屋敷を作ったやつは何を考えてたんだろうか」
「森の中で住居を構えたい理由でもあったのだろうな」
あくまで追っている男は逃げ込んで根城にしているだけであり、元々ここに住んでいたと思われる者たちは、何を考えているのか。ふとグランはそれを疑問に思っていた。しかし、単純な興味以上の事は気にならないし、別にそこまで知りたいとも思っていなかった。
「無駄話はそこまでにしておいて下さい……次はこの部屋を調べますよ」
「へいへい……よっと」
扉を蹴り飛ばすグラン。そこはもぬけの殻だった。屋敷と言ってもそこまで広いものでは無いので、あまり時間をかけたくないのだが、どうにも上手くいかず先程から部屋には誰もいないという状況が続いていた。
「……でかいベッドだな」
「確かに……」
しかし、代わりにおいてあったものに3人はふと感想を漏らしていた。ダブルベッドどころか、それの倍くらいはありそうなほどでかいベッド、あまりのでかさに寧ろこれだけ広いのをどう使っていたのか……という疑問すらあった。
「こんなに大きいのが必要な程だったのでしょうか」
「よほど寝相が悪かった……とかか?」
「いやぁ、蜜月でしょ」
グランの言った一言で、2人は顔を伏せていた。何故だか、グランがこのベッドを使っていないのがおかしいんじゃないかとさえ思ってしまったためである。
「……貴君はこれくらい大きいのは付けないのか?」
「グランサイファー沈んじまうよ、というか置ける部屋がない……」
「まぁ、はい分かってるんですけど……」
自分たちの頭の中にでてきた妄想を振り払い、3人はその部屋を後にする。所々穴が空いて、抜けているようなところさえあるような屋敷なのにも関わらず、あんなバカでかいベッドを置けるのは一体全体どういうことなのだろうか……とさえ思いながら、グランもその部屋を後にした。
「にしても、何処に潜んでんだろうなぁ」
「さぁ……?」
「案外、この屋敷は氷山の一角だったりしてな」
「なるほど……貴君は、この屋敷の地下があると思っているのだな」
「じゃなかったら、ここはあんまり根城にしたくない」
氷山の一角、水の上から見えている氷山が実はとても大きなものの1部分でしか無かったという諺。ようするに、グランはこの屋敷はただの表向きのものであり、実際は地下が存在していると考えているのだ。
「じゃあ探してみますか?」
「じゃあそれぞれ三手に別れて調べよう、待ち合わせ場所は入口で」
「了解した」
小一時間ほど経過した時だろうか。3人は再び入口に集合していた。その表情は、とても真面目そうな顔を保っていた。
「1番手グラン、地下室の入口が見つかりませんでした」
「2番手リーシャ、同じく見つかりませんでした」
「3番手モニカ、同じく見つからなかった」
というわけで、全員見つかることなく入口に集合してしまっていたのだ。その表情は暗いとまでは言わないが、少しだけ焦っていることには変わりなかった。
「……地下室、本当にあるんでしょうか」
「さぁ……自分で言っておいてなんだけど、もしかしたら無いというオチになるかもしれない……」
「あくまでも予想だったからな……そう言えば、探している最中に地下室ではなく天井裏があることが分かったぞ」
「天井裏?」
「まぁ、屋根と部屋の天井部分の間の狭い空間だがな。正確に中は見ていないが、部屋の大きさと屋敷の大きさを考えれば、広く見積っても這って進むのが限界……と言うくらいには狭いだろう」
グランは少し考える。そんな狭い場所に、まさか犯人が潜んでいるわけがないだろうと。しかし、同時に自分のその思い込みが視野を狭めているのではないかとという考えもあった。
「……よし、確かめてみよう」
「屋根裏をか? かなり狭いから、あまりおすすめは出来ん気がするが……」
「いやいや、調べることに価値があるんだよ」
「……貴君がそう言うなら……私も付き合おう」
地下室の探索の後は、屋根裏の探索に回るのであった。
「……ほんとに狭い」
「そうですね……」
「と、というかだな……本当に狭くないか……? 私は動きづらいのだが……」
「え、俺そんなことないんだけど……後それ以上余計な事言うと、修羅が目を覚ましそうだ」
屋根裏部屋に入り込んだグラン達。リーシャの後ろにいるモニカだけが狭さを主張する中で、グランの後ろにいるリーシャが何故だか凄まじいオーラを発揮しているような……そんな気がしていた。
「……お?」
「……団長さん? なにか見つけましたか?」
「ハシゴだ……こんな狭いところからどうやって降りんだよ……というかどこに繋がっているのやら」
器用に体を動かしながら、グランはハシゴを下半身を下にしながら降りていく。それ相応の狭さと這って移動しているせいで、体の反転が難しかったが何とか降りれていた……先にグランだけ降りて、下に何があるのかを確認してから、上がってくる手筈でことを進めていた。
「地下室」
「……え?」
「まさかの屋根裏部屋から地下室行くルートだった」
「えぇ……」
思いがけない所で地下室の予想が当たり、グラン達はそのまま地下に降りて目当ての人物を探しに行くのであった。
「……本当に広いですねここ」
「確かに広いな……何故か水が流れてるのがとても気になるけど」
「屋敷に、地下水を流し込むための設備なのかもしれないな。これならば、一々外に出ずとも水を汲みに行けるのだから」
3人はそんなことを話し合いながら、足を進んでいく。あまりにも広そうだったので、曲がり角に来る度に壁に傷をつけて矢印を作っていく。
そうしてしばらく歩いている内に……3人は自分達以外の人影を見つけていた。
「……例の人物でしょうか」
「分からん、確かめて見なければ……」
「先手必勝」
グランは人影に向かって全速力で走っていき、そして上手く壁を使いながら前に出る。その顔は紛れもなくグラン達の探していたチンピラだったのだが……
「た、助けが来たァ……」
「……は?」
チンピラからの思わない一言により、急遽彼を逮捕するのは止めになったそうだった。
「……要するに、この屋敷に隠れたはいいものの、あまりにもボロくてろくに出歩くことさえままならない状態だった」
「はい」
「いざ地下室を見つけたのはいいものの、どこが外につながっている道か分からないまま、さ迷っていて……」
「はい」
「気がついたら自分がいるところすらわからなくなっていて、非常食で食いしのぎながら私達が来るのを待っていたと」
「はい……全くもってその通り、1つの間違いもございません……」
今回の話として、意外な結末というか予想的中だったというか……なんとも言えない結果となってしまっていた。3人とも、仕事としての顔つきにはなっているが、内心ちょっとだけ困惑しているのも事実であった。
「何ともまぁ……」
「ひとまず、外に出ましょうか」
「そうだな……」
「はい……」
チンピラと共に屋敷から出て、見事チンピラは秩序の騎空団の厄介となった。後日、あの屋敷は秩序の騎空団が調べることになり、場合によっては取り壊す可能性があるとの事である。
「うーん……」
「Hey、モニモニ」
「その仇名やめて欲しいんだが……」
グランサイファーの一室で資料を読んでいるモニカ。その最中に、ドアノックされたかと思えば突如として、グランが部屋に入ってきた。
「どうしたんだ?」
「緊急連絡、って訳じゃないんだけど……結局、屋敷の上部分は取壊すことになったらしい」
「私の貰った資料にもそう書いてある……無論、地下施設は残す方針らしいがな」
貰った資料をグランに見せながら、モニカはため息を吐いていた。仕方ないとはいえ、地下はかなり広かったので壊してしまうとあの辺一帯の地盤がどうなるかわかったものでは無いからだ。
「しかし、あの技術は見習いたいものだな」
「確かに……1人であそこまで広い施設を作り上げるなんて相当だし」
屋敷に1人で住んでいたかは定かではないが、しかしあそこに数百人も入れるような大きさなく、またあの屋敷の中にあった日記やほかの書物などを確認してみる限り、人数としてはあまり多くないのも確かだったようである。
「どちらにせよ、研究材料にはなるようだ」
「ま、あの設備があれば色々と楽になりそうだしね」
「だな」
「さて、ひと段落着いたことだし……そろそろ休憩にしよう」
「さて、ここでモニカさんに問題です」
「ん?」
「俺は今2つの袋を持っています。そのうち1つはモナカ、もうひとつはシナモンの粉です。選択したどちらかを上げます」
両手に持った袋2つを見せながら、グランはそのような問題を出していた。シナモンの粉だけを渡されても困るが、モニカとしてはお菓子のモナカをもらえるといのならば、その好意には甘えようと思った。
「では、右手の袋を……」
「こっちは……残念ながらシナモンの粉です。というわけで、かけたら美味しそうなのでモナカも一緒にあげましょう」
そう言いながら、結局グランは彼女に2つの袋を渡していた。初めからこうする気だったのだが、周りくどい事をやっている事にモニカは苦笑していた。
「ふふ、それじゃあ一緒にお茶にしよう」
「ほーい」
仕事休みのタイミング、2人は紅茶を飲みながらモナカを頬張っていくのであった。
ぐらぶるっ!でまさかの登場で震えちまったよ……
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ