「……」
グランは目を瞑ったまま、目を覚ましていた。と言うのも、意識が覚醒した時から身体が動かないのだ。
一体全体、何故動かないのかが分からないが、どうにも何かにのしかかられている感覚と両腕を掴まれている感覚があるのだ。そう、まるで腕ごと抱きしめられているかと言わんばかりに。
「……」
目を開けたい、しかし目を開けてそこにお化けとかいたら、正直トラウマになってしまうとグランは困っていた。今までそういったもの達は面と向かい合った時は、よく剣で倒せていたのだが……こういった呪い系となるともはや対処が思いつかない。
だが、グランは一つ気になっていることがあった。先程からやけに強いにおいを感じているのだ。例えるなら、というか臭ってきているのは香水そのものの匂いで……
「━━━ってこの匂いカリオストロか!!」
「やったー☆団長さんは、カリオストロの事分かってくれてるんだぁ☆!」
「一瞬新手の金縛りかと思ってヒヤヒヤした!!」
「あ?なんだ、金縛りにあってたのか?」
「カリオストロが抱きついてたからそう勘違いしただけだけどな!!」
息を荒らげながら、無理やり笑みを作ってるグラン。別にカリオストロに怒っているわけじゃなく、ただ安心したから大声出して突っ込んでいるだけである。
「……って今日何か出かける約束してましたっけ?カリオストロさん」
「あ?オレ様の記憶にねぇしそんなのしてねぇだろ?」
「……今太陽上がったばかりっぽいけど、というかなんで珍しい露出過多……それクラリスのクリスマス服だな!?」
「おう、寒いからベッドに入れてくれ……もちろんお前付きで」
「ハイハイ風邪ひかないと思うけど、風邪ひかない様に被せてやる」
そう言って入れ替わるようにして、グランはカリオストロをベッドで寝かせて自分はベッドから降りる。早朝の朝は、この時期寒いのだ。ベッドから出たくなくなるほどに。
「……で、なんで珍しい露出過多の服きてるんですか、カリオストロさん」
「夜這いだよ」
「随分とストレートな事で……」
「……ま、まぁ今のは冗談として……」
自分で言ってて恥ずかしくなったのか、カリオストロは顔を真っ赤にしていた。そして、今言ったことを忘れたいのかそのまま別の話題に移していく。
「こ、この服……似合ってたか?」
「んー……まぁ似合ってるよ?」
「何か歯切れの悪い言い方だな……そりゃあ、胸はあいつよりちいせぇけど……」
「いや、そうじゃなくて」
「ん?」
グランは首を振って訂正する。実際、カリオストロは綺麗で可愛いので比較的何着ても似合うのだ。グランが作った、特製のクソダサTシャツを着せても可愛かった。
「カリオストロは、いつものカリオストロの格好の方がいいよ。クリスマス衣装も、カリオストロがいつも着ている方がいいと思うし……あぁ、いつものって言ったけど前の赤中心の服も今の青中心の服も可愛いよ」
「……お、おう……あ、ありがと……」
小声で消え入る様に、カリオストロはグランに礼を言う。しかし、不意打ちのグランの言葉に顔を真っ赤かにして、本気で照れているためその声は本当にグランにすら届かないほどに小さかった。
「さて……じゃあちょっと素振りしてくる、この時間帯に起こしてくれてありがと、カリオストロ」
「あ、おい!……別に、オレ様は寒い暑いを感じないようにしてるけどな……」
そう言ってカリオストロは、
「ふん!ふん!!」
朝早い、未だ気温の低い寒空の下でグランは素振りを行っていた。1振りする事に、気合を入れ直しては直前の一振よりも強い一振を出していく事を繰り返していた。
「あ!おーいグラーン!!」
「アリーザ?この時間帯に起きてるの珍しいな?」
「いやぁ、目が覚めちゃってさ〜」
「……このまま模擬戦行くか?」
「お!いいねー!ルールはどうするの?」
「どちらかが膝をつくか、または首か胸か頭で寸止めされたら負けの三本勝負」
「よし!いっくよー!!」
開始の合図も特になく、グランとアリーザはそのまま模擬戦に突入していく。グランの得物は剣、アリーザは自慢の足である。無論、ちゃんとした装備をアリーザはつけている。じゃないと剣がまともに捌けやしないためである。
そして、2人が戦っているところを一人の女性が観察していた。
「ふふ、あの二人は張りきっているね……」
アルルメイヤである。早起きしていた彼女は暇で騎空艇内を散歩していたのだが、2人の戦っている音を聞いてここまで足を運ばせたのである。
「いっくよー!!」
「存分に!激しく!!動いてこい!!」
グランはよく分からない注文をしていた。アリーザは特に気にすることも無いが、そもそも昨日の自分どころか1分前1秒前の自分よりも早く強く激しく動こうとしているため、その注文は勝手に叶えられていた。
「はぁ!!」
「いい動きだ…!」
そういうグランの視線は1点に集中していた。跳ねて揺れて動き回る2つのものを凝視するために、アリーザを無駄に動かさせていた。そんな下衆な考えを、アリーザは悟った訳では無いが━━━
「灼龍炎牙!!」
「ちょ!?それ打つのは流石にげふぃ!?」
「あ」
アリーザの奥義の蹴りが、グランに向けて放たれる。剣でギリギリガードできたものの、勢いは止められないのかそのままグランは変な声を出しながら吹き飛ばされて……騎空艇の柵を壊して自由落下を始めた。
「ぐ、グラァァァァァァァァァァァァァン!!」
「これは……どうしようもないね」
天罰である、とアルルメイヤはふと考えた。この世の中は、残酷なのだとグランは悲しんでいた。特訓と男の欲望、2つを求めるものは何故救われないんだと落ちながら下唇を噛み締めるのであった。
そもそも、セクハラ目的で行動しているのが悪いのだが、それを辞めることはおそらくないだろう。
「団の女性達が一部を除いて全員漏れなく、バッドエンドなしでハッピーエンドを迎えるためには、どうすればいいと思う?」
「まーた、急にどうしたの?」
「……団長さん、自分のことをもう少し客観的に見られるようにした方がいいよ」
それから何やかんやあって助かったあと、グランはコルワとグレアと一緒に出かけていた。グレアの新しい服の見立てる為だが、コルワがインスピレーションを得たいからと着いてきたのだ。
「え」
「そうねぇ、出来れば皆が認めてくれるのなら構わないかもしれないけれど」
「待って待って、マジで急になんの話?」
「……確かに、唐突だったかしら?」
コルワが苦笑しながら首を傾げていた。少しだけ乗っかっていたグレアも、同じく苦笑してグランだけがよくわからないと言った表情をしていた。
「……というか着いてくるのはいいけど、俺服のこととかよく分からないよ?」
「あら、1人のプロから選ばれるより、プロアマチュア含めたいろんな人の意見を取り入れるのが、実は一番いいのよ?」
「そういうもの?」
「そういうものだよ、団長さん」
「だからグレアちゃんの新しい服、ちゃんと選んであげましょうね」
「団長だし、一人の男としても選ばせてもらうよ」
「えへへ……」
嬉しそうな顔をするグレアに、コルワはうんうんと頷いていた。売店で買った飲み物を手に、3人はぶらりぶらりと歩いていた。
「そう言えば、今回はどうやって助かったのよ?」
「
「いつも思うのだけれど、貴方マトモな人間じゃないわよね」
「いやいや、俺なんて十把一絡げだよ」
「全てが間違えてる気がするよ……」
苦笑するどころか、完全にドン引きしながらグレアは飲み物を流し込んでいた。今は太陽も完全に真上に来ており、昼時なので多少の腹も減ってくるというものである。
「あ、グレアちゃんちょっといいかしら?」
「何ですか?」
「貴方ちゃんとしたやり方で下着つけてる?」
「コルワ、慣れてるとはいえ男の目の前で下着の話を持ち出される10代女子の気持ちを考えてやって欲しい」
「……ごめんなさい、でもグランにも言えることなのよ?」
「え、男はパンツ履くだけだよ?」
「は?ちゃんと付けないと大きくならないわよ?」
「明確にどこが?なんて聞けないのが辛い……というか成人女性からこんな話振られるの初めてだよ」
くわっ!という擬音でも付きそうなほどに目を見開いて、コルワは熱弁をし始める。要約すれば、下着もちゃんとしたのを付けないといけないし、付け方もきちんとしないといけない……という事らしい。
「……わかった?」
「……は、はい」
「……」
「グラン?」
考え込んでいるグラン、その真面目な顔にコルワも少し緊張しながらグランに話しかける。一体どこから、真面目な考えをしているのだろうかと思ってふと話しかけるが━━━
「よく分からなかったんで、ちょっと騎空艇でちゃんとした履き方のレッスンを男女ともに同室で」
「セクシャルハラスメントで逮捕します」
「待って……リーシャ待って……」
キリッとした顔で凄まじいことを言おうとしたグランだったが、突如現れたリーシャによって手錠をかけられて連行されていく。2人はその光景を呆然としながら見守る事しか出来ないのであった。
「まさかこの時間まで正座させられるとは恐れ入った」
「君の足壊死していないかい?」
夜、グランサイファーのとある一室でグランとアルルメイヤが一緒にいた。そのとある一室とは、簡単に言えば団長……つまりグランの部屋なのだが、今アルルメイヤはそこにいるのだ。
「それじゃあ、いつもの頼むよ」
「よしきた、俺の準備はいつでも万端だ」
そう言って、グランはベッドの上で胡座をかいて、自分の膝を軽く叩いていた。
アルルメイヤは、グランの膝の上に頭を置いて横になっていた。無論、頭につけてる角のような髪飾りは今はつけていない。
「まったく……最近リーシャがいて、あんまり来れてなかったもんな……アルルは大丈夫だったか?」
「いや……少し、寂しかったけどね……」
予め断っておくが、この2人は別に付き合っている訳では無い。アルルメイヤの過去、それを教えられたグランはアルルメイヤと二人きりの時は定期的に甘えさせるようにしているのだ。
好意的かと言われれば是だが、恋愛対象としてみているかと言われれば返答を返さないと言ったところだろう。未来を予知出来るアルルメイヤは、その能力上街の人から敬われることが多い。しかし、一人の人間として見られることは少なく、そうやって見てくれているグランに甘えることが多いのだ。
「こうしてないと落ち着かないんだもんな」
「私の性格が問題なんだろう……最近は、マシになってきたとも思えるが……」
「……寝れてたか?」
「寝れてたさ、さすがにそこまで子供じゃない……それに、別にずっと1人だったわけじゃない」
「リーシャを嫌わないでやってくれよ?彼女も彼女でちゃんとしたルール敷いてるんだしさ」
「あぁ、そもそも彼女のルール自体は私は賛成しているんだ。恋愛自由、血を見るような争いだけはご法度……その原因となる行為もご法度。当たり前の話しさ
こうやってないと寂しく感じる、は私も恥ずかしいから言えないし」
頭を撫でられながら、アルルメイヤはグランの膝の上に手を置く。ズボンの上からでもわかる筋肉の硬さが、逆にアルルメイヤに安心感を持たせていた。
「……そうだな、確かに言いづらいな」
そう言いながら、グランは部屋の外……ドアの隙間から見えるものに視線を移していた。
そこには、少なくともカリオストロ、コルワ、グレア、アリーザの4人がいるのだ。つまり、覗かれていた。
「………」
さてどうしようかと頭を悩ませるグラン。アルルメイヤとしては、この秘密は2人のものにしていたかっただろう。彼女達がそれを他に吹聴するとは全く思わないが、知らず知らずの内に増えてしまった秘密の共有者をどうするか。
「……?」
だが、向こうもこちらが気づいたことに気づいたのか、それぞれ反応を示していた。コルワは親指を真上に立ててサムズアップ、グレアとアリーザは顔を真っ赤にしながら食い入るように見ており、カリオストロは両手を合わせて頭を下げていた。珍しく謝っているな、とグランは苦笑いを返していた。
それが通じたのか、ゆっくりと音を立てないように扉は締められて彼女達はそれぞれの部屋に帰っていく。
「グラン?どうしたんだい?」
「ん?明日のご飯、どうしようかなぁって」
「……ふふ、そうだね。寒い日だから温かいものでも食べたい気分だ」
そんな他愛もない話をしながら、グランはアルルメイヤの頭をまた撫で始めるのであった。
ハーレム的な話を作りたくて頑張った例がこちらです。えぇ、酷い有様ですよう……
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ