ぐらさい日記   作:長之助

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吸血姫、カプっとするよー?

「今日のゲストはヴァンピィさんです」

 

「がおー! ヴァンピィちゃんだよー!」

 

 両手を猫の手のような形にして、ヴァンピィはいつものポーズを取る。グランはそれを見てただ『可愛い』とだけ感じていた。真顔なので、誰も気づくことは無いだろうが。

 

「ねぇねぇけんぞくぅ」

 

「はいはい某はけんぞくぅ……どしたの?」

 

「これって何するのー?」

 

「このお姫様はこの番組を見たことがないのかな!! でも可愛いから教えちゃうよ!!」

 

「わーい!」

 

「まぁ、改めて再認識だけど……この番組は俺と簡単なお話をしたり、お便りを読み上げたりしてちょっとの間過ごす番組だよ」

 

「お話ー? お話ー……」

 

 少しだけ考え込むヴァンピィ。別にそちらから話題を降らなくても、グランから振るので構わないのだが折角という事で、グランは少しだけ待つことにした。

 

「あ、この間ヴァイトとお洋服買いに行ったんだけどねぇ?」

 

「え、2人で?」

 

「ううん、何人か着いてきてくれたよー?」

 

「ならいいけど、気をつけてね」

 

 ヴァンピィ……それに同種であり弟のヴァイト。この2人はヴァンパイアという種族であり、基本的に滅多なことでは島の外に出ることがない種族である。

 時折島の外に出て、人間たちと関わろうとしたりヴァンパイア社会から抜け出したりするもの達もいる。その内の一部がヴァンピィとヴァイトの2人なのだ。

 そして、この2人はヴァンパイアであるが故に人々から恐れられている。バレた場合、その島の警備を呼ばれたりすることもあるので、基本的にフードを被ってた場合のみ外に出ることになっている。

 

「それで、出かけてどうしたの?」

 

「ヴァイトに似合いそうな服があったから、買ってきたの。でもね、ヴァイトはその服を着るの嫌がってたの」

 

「あら、どんな服だったの」

 

「うーんとねー……フリフリのミニスカートでー」

 

「あ、うんそれは確かに嫌がるわ」

 

 ヴァイトは男である。しかし、少々童顔な所があるために女性物の服を着ても案外似合う顔立ちな為に、時折ヴァンピィの無茶ぶりによって女装させられかけてる。

 

「だからねー? 着せたの」

 

「……ん?」

 

「着せたの」

 

「……ヴァイト……」

 

 この番組でそんな羞恥プレイを受けさせられたヴァイトに合掌するほかなかった。姉から女装させられるというプレイを受けさせられた上に、それを団内で暴露されるという更なる追い討ち。まともな人間なら、そのまま船から飛び降りているだろう。

 

「……さて、そんな羞恥プレイはともかくとして……お便りを読み上げていこうと思います」

 

「はーい!」

 

「1通目『ヴァンパイアって色々な伝説がありますが、当てはまるものはありますか?』」

 

「当てはまるものー?」

 

「まぁ、世の中に伝わってる弱点って本当に通用するの? って話じゃない?」

 

 銀製の武器、ニンニク、太陽の光、流水、弱点以外なら鏡に映らない……などと言ったことも含まれるだろう。それらの中で当てはまるものはあるか、という事である。

 

「ヴァンピィちゃん、にんにく料理あんまり得意じゃないー」

 

「弱点だから?」

 

「臭い!」

 

「……これは弱点だから、という理由じゃなさそうで……」

 

 しかしヴァンピィもヴァイトも、強い方のヴァンパイアなのでもしかしたらある程度の弱点は効かないのかもしれない。グランはそう思うようにした。

 

「太陽は……あんまり問題ないもんね」

 

「暑いのも眩しいのもちょっと苦手かなー……でも、最近はあんまり気にならなくなった!」

 

 そもそも今では真昼間から外出してるので、苦手ということは無いのだ。この弱点が伝わった理由としては、恐らくヴァンパイアの島が常に濃い霧で覆われている為、太陽の光が届かないから……という事だろう。もしかしたら、ヴァンピィ達が特別なだけなのかもしれないが。

 

「他は……流水とか?」

 

「うーん……分かんない!」

 

「俺もそう言えばヴァンピィ達が流水に触るところ見た事がないなぁ……」

 

 グラン達は話題に出さないが、銀製の武器は明確な弱点である。しかし、それで実際にヴァンピィ達が襲われているため、グランは余計な話題を出すことは無いだろうと思って、銀製の武器に関しての話題は一切出さないようにしていた。

 

「……まぁこんな所かな? とりあえず2通目に行ってみよう」

 

「はーい」

 

「2通目『蝙蝠になることができるって本当ですか?』蝙蝠を使役してるのは、俺はよく見てるけど」

 

「出来ないこともないけどー、ヴァンピィちゃんはあんまりしないかなぁ」

 

「まぁ、する場面がよっぽど無いもんね」

 

 蝙蝠になる、というのはあまりいいことでは無いらしい。相手の不意を突くこと自体は可能かもしれないが、あまりしすぎると自分の不利になるかもしれないからだ。

 そもそも、ヴァンピィもヴァイトもヴァンパイアの中では強い部類なので、余程のことがない限りすることも必要性もないのだが。

 

「あ! 今度けんぞくぅの部屋にそれで遊びに行ってもいい?」

 

「いや、別に普通に来たらいいけど」

 

「ふっふっふ……けんぞくぅが部屋に入った後に、いきなり現れたらビックリするでしょ」

 

「まぁ確かにびっくりはするけどさ」

 

 ドッキリ計画を実行しようとしているみたいだが、それを本人の目の前でばらしている辺り、余程驚かせる自信があるのだろう。グランは別に驚かされても怒ることはそうそうないと思うが。

 

「とりあえず、蝙蝠にはなれるということで……3通目『スープが作れるって本当ですか?』」

 

「えっへん! なんとヴァンピィちゃんはスープを作ることが出来るのです!」

 

「なお味は保証しない」

 

「むー! ちゃんと美味しいんだからー!」

 

 ヴァンピィは、偶にスープを作る。グランも何度か飲んだことがあるのだが、劇的にというものでは無いものの……正直に言えば美味いとは言えない代物である。かと言って、食べられないほどでもないのでグランはよく飲んでいる。というか、作ったら大体飲むようにしている。

 

「まぁまぁ、俺はあの味大好きだよ」

 

「フォローになってないー!」

 

「また今度飲んであげるから」

 

 しかしそのスープの味に関しては、ヴァンパイアだからという訳ではなく、ヴァンピィ個人の問題である。現に、他のヴァンパイアやヴァイトが飲んだ時は困った表情になっていたからだ。

 

「にしても、スープだからあの味変わんないな」

 

「ヴァンピィオリジナルなのです!」

 

「どっかで聞いたことあるフレーズを使うんじゃありません」

 

 どこぞの四コマの世界からやって来ているジンは、スープを零された時にとんでもなく切れていたが、切れている方向が変態的な方向だったために、ヴァンピィが引いていたことをふとグランは思い出していた。

 

「ローアインとか、他の人達にもスープ教わってもらってるんだよね?」

 

「うん! おかげでヴァンピィちゃんのスープは、格段にレベルを上げたの!」

 

「レベル……上がってるのか……?」

 

 未だにヴァンピィのスープが美味しくなったという話を、グランは聞いたことがない。ヤイアのチャーハンと共にヴァンピィのスープが出されると、無意識に味の相対評価をくだしてしまう時がある。そうなったらまずいので、先にスープだけ飲みほしてからチャーハンを食べる人物が多いが……

 

「ちゃんと美味しくなってますー!」

 

「何か、ヴァンパイア限定の何かによってスープがあの味になっているのだろうか」

 

「けんぞくぅ!」

 

「あ、はい私けんぞくぅでございます」

 

「後でスープ飲んで!」

 

「OK、任された。鍋2つ分くらい作っても飲み干してやるからな」

 

「やったー!!」

 

 それはそれとして、美少女が手作りしたスープと言うだけで割と飲むやつはいるので、自分のためだけに作ってくれたスープというのは、一種のご褒美である。飲まない訳にはいかないだろう。

 

「……さて、少し早いようですが本日はここまでです。皆さんご視聴ありがとうございました。また次回、この番組でおあいしましょう、さようなら」

 

「ばいばーい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グラン、お前今日珍しくセクハラしてなかったなぁ。セクハラ考えてる時の顔にもなってなかったしよォ」

 

 番組が終わってから、グランは一旦自室に戻ってきていた。先に戻っていたビィが、いつものようにグランの頭の上に乗りながら話しかけてくる。

 

「え?」

 

「え?」

 

「ビィ、お前何言ってんの?」

 

 ビィからの質問により、グランは真顔以上に真顔になっており……ちょっとした恐怖があった。この時、ビィはいつもと同じようにセクハラ思考自体はしていたのだと勘違いしていた。

 

「ヴァンピィでそんな、セクハラなんて思いつかねぇよ……」

 

「おめぇ、今更そんな事言っても誰も信じねぇと思うぞ?」

 

「いやぁ、思いつかないものはしょうがないよね」

 

 笑いながら頭を掻いているグランだが、そんなことを今更言ったところでビィの言う通り、誰も信じてくれないだろう。事実、ビィもグランの言うことを全く信用していない。

 

「ていうかおめぇ、大体の女性団員にセクハラかましてんじゃねぇか」

 

「男の性だからな!!」

 

「1回ファスティバに締め上げてもらったらいいんじゃねぇか?」

 

「ビィ! 俺たちは相棒だろ!? 俺を見捨てるって言うのか!?」

 

「オイラ、お前がまともになるんだったらなんでもするぜ」

 

「相棒の心意気に俺は涙が止まらない……あと正論言われて反論できない事でも涙が止まらない……」

 

 膝から崩れ落ちるグラン。横たわる彼を見下ろしながら、ビィはため息をついていた。こういうところさえなければ、ただの好青年で終わるのだが……

 

「……まぁ、思いつかないのは事実だけど……思ったら思ったらでヴァイトに肩ポンされるの目に見えてるし……」

 

「まぁ、あいつなんだかんだ言ってもヴァンピィのこと心配してるしなぁ」

 

「そう……だから思わなくて正解なんだ……」

 

「……」

 

 この時、ビィは思っていた。『団長サンなら、ヴァンピィに見合う相手だから問題ないよ』なんて展開がありそうじゃないか? と。それがあるせいで、あまり強く反論できないでいた。

 

「……さて、この後スープ飲みにいかないといけないから」

 

「あれを飲む気かよォ……」

 

「ヴァンピィのスープだぞ、飲まないと拗ねるだろあの子」

 

「お前、たまにものすごい人を馬鹿にしてる時ないか?」

 

「何を言っているんだ? 俺はヴァンピィという少女の性格を理解しているだけだ。後約束は破らないタチなのでね」

 

 そう言って、グランは部屋から出ていく。その姿、背中を眺めながらビィはふと思う。『いつからあんなふうになったのだろう』と。

 しかし、思春期に突入して団を作って出会った仲間達の内、女性陣のレベルがとんでもなく高いもの達ばかりだった場合、必然的に少年は『変態』という大人になるのだ。

 

「……オイラも人間だったら、あぁなってたのか……?」

 

 ふと思ったその疑問は、しかし誰も答える訳でもなく……ただ空気に反響するだけなのであった。




くぎゅう

偶には長編とか書いて欲しい

  • はい(ギャグノリ)
  • はい(シリアス)
  • いいえ

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