ぐらさい日記   作:長之助

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ヴァンパイアダブル

「ヴァンピィちゃん、本気出しちゃうんだから!」

 

「……」

 

 とある依頼を受けたグラン。その依頼に付いてきたのは、ヴァンパイアのヴァイトとヴァンピィだった。そして、依頼も終わりに差し掛かっている中、ヴァイトは魔物を倒しているヴァンピィを見て何やら考え事をしていた。

 

「ん? どしたの、なんか思うところあった?」

 

「いや……前から思っていたことなんだが……ヴァンピィ」

 

「んー? なぁにー?」

 

 魔物を倒しきったすぐ側から、ヴァイトはヴァンピィを呼ぶ。呼ばれたヴァンピィは、なぜ呼ばれたのか分からないままは2人の方に近づいていく。

 

「前から思っていたんだが、本気を出すなら初めから出してもいいんじゃないか?」

 

「ふふん、ヴァイト知らないの? ほんとーに強い人は本気を簡単に出さないんだよ」

 

「……何のことだ?」

 

「えっとー……そういう言葉があったの!」

 

 グランとヴァイトは少しだけ考えていく。なんの事だか一瞬わからなかったため、二人同時して考え込んでしまったが、思いつくのもほぼ同時だった。

 

「あ、能あ━━━」

 

「能ある鷹は爪を隠す、って奴?」

 

「そう!」

 

 グランが先に言いかけていたのだが、ヴァイトの方にセリフを取られてしまったため、いい損なった言葉を飲み込みながら黙っていた。

 

「ヴァンピィ、意味を勘違いして覚えてないか?」

 

「ほぇ? 本気を簡単には見せないよーって事じゃないの?」

 

「あれは本気を見せないんじゃなくて、無意味に自分が強いってアピールをするな、って話だ」

 

「へー……」

 

「ヴァンピィ……自分が興味無いことの反応が分かりやすいな……!」

 

 握り拳を持ち上げるヴァイト。殴ることはしないが、今の反応のせいで余程げんこつを与えたかったように見えた。グランがヴァイトを落ち着かせて、ひとまずは危機が去った。

 

「でも、どっちにしろ本気を出さなくてもいい相手ではあるな。魔物とはいえ、そこまで強力なやつじゃなかったし」

 

「団長サンはヴァンピィに甘い! もっとキッチリさせないと!」

 

「とは言われてもな、本気を出さないって言ってもちゃんと線引きはちゃんとしてるぞ? だから毎回ちゃんと怪我なく勝ててるんだから」

 

「うぐ……まぁ、確かに……ヴァンピィは確かに力の加減がわかってるけど……」

 

 何だかんだ言っても、ヴァンピィは『この相手ならこれくらい力を出せる』という線引きがちゃんとしている。自分の実力を正しく把握している為、行える行為である。

 

「でも、ちゃんと出来ているからいいなんて後から付けた言い訳だよ。もしヴァンピィの身に何があってからじゃあ遅いじゃないか!」

 

「……まぁ、それも確かに」

 

「なら……」

 

「よし、だったら折衷案と行こうか」

 

「……折衷案?」

 

 グランのはなった一言に、妙に不安を覚えるヴァイト。一体今から何をするというのか……それだけが気になってしょうがないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「折衷案ってなーに?」

 

「全員で本気出して一瞬で相手を片付ける」

 

「それは折衷案って言わないと思うよ、団長サン」

 

 目の前には割とデカ目の魔物。そしてグラン達は3人。ぱっと見れば中々苦戦するように思えるだろう。しかし、グラン達からしてみれば目の前の魔物はただの依頼達成に必要な頭数である。

 

「じゃあ、あの魔物が突っ込んできたら俺が正面担当するから2人は側面から叩いて」

 

「はーい!!」

 

「分かったよ」

 

「んじゃあ……GO!」

 

 そう言いながら、グランは魔物に向かって石を投げる。その石は魔物の額にクリーンヒットし、魔物は怒り狂いながらグラン達へと突っ込んでいく。

 

「いくぞ……! ブラッドエッジ!」

 

「いっくよー! ブラッディ・アブソープション!」

 

「夢幻ノ誘ヰ!」

 

 3人の攻撃が、魔物一体に炸裂する。 当然の事ながら、魔物は一瞬で倒されて、そしてその体はあまりの攻撃の苛烈さに耐えきれずに遠くへと吹っ飛んでいった。

 

「……団長サン?」

 

「3人でも本気を出せば、こうなってしまうという典型的な事が起きたな」

 

「あれ回収するの面倒そうだけど」

 

「何、時間はたっぷりあるしゆっくり回収しに行けばいいさ」

 

 そう言ってグランは歩き始めていく。結構遠くに飛んでいったので、探しに行って依頼主に討伐の証拠として見せなければいけないからだ。

 

「……団長サン、これはやっぱり折衷案じゃないと思う」

 

「うーん、案が悪かったな」

 

「いやだから」

 

「ヴァイト、なんかいい案ある?」

 

「え、あ……ちょ、ちょっと待って? 今考えるから」

 

 突然話題を振られて、困惑するヴァイト。しかし、突然振られた事により、戸惑ってそれを受けてしまう。そして、真面目に考え始めてしまうのであった。

 

「……やっぱり凄い強い魔物に限定して、本気を出すとかでいいと思う」

 

「やっぱりそうなっちゃうかぁ」

 

「ふふーん」

 

「……まぁ、初めから本気を出し続けていたら途中でもたなくなる可能性もあるし……」

 

「なる程なぁ」

 

 真面目に頷くグラン、ドヤ顔のヴァンピィ、ヴァンピィを見て頭の羽がちょっと萎れててまるでテンション下がった犬のようになってるヴァイト。

 ツッコミのいない空間が、今ここで出来上がってしまっていた。

 

「あ、いたいた。つかこの魔物も良く原型とどめてたよな」

 

「僕達の攻撃で消し飛んでてもおかしくなかったのにね」

 

「消し飛ぶくらいならまだいいよ」

 

「え?」

 

 グランの言葉に首を傾げるヴァイト。消し飛んでしまえば、依頼主に見せられないというのに、なぜ消し飛んでるのが『まだいい』と言えるのだろうか。

 

「中途半端に原型が残ってて、ところどころグチャグチャになってるのが1番きつい」

 

「……あぁ」

 

「偶にそうなってるのを依頼主に見せると、めっちゃビビられる。一応前もって確認させるんだけど、それでもめっちゃビビってる」

 

「……そう、なんだ」

 

『そりゃあ驚かれるだろう』とヴァイトは苦笑いしていた。しかし、見せないことには依頼を達成したかどうかの確認が出来ないので、グランの行動は間違ってはいないのだ。

 

「……とりあえず、こいつ回収して見せようか」

 

「そうだね」

 

「……さっきからやけに静かだけど、ヴァンピィは?」

 

「えっ」

 

 いつの間にか声が聞こえなくなっていたので、慌ててヴァイトが振り向くと確かにヴァンピィの姿が見えなくなっていた。絶対にいるものだと思っていたため、完全に確認が遅れていた。

 

「い、いつの間に!? ヴァンピィー! どこ行ったー!?」

 

「……ヴァイト、ヴァイト」

 

「何!? ヴァンピィ探さないといけないんだけど!?」

 

「あっち見てみ、めっちゃ深い草っ原がある。この辺見晴らしいいから、遠くに行ったとしてもさすがにここで見失うほどじゃない。でも、あの草っ原に入っていったんなら……」

 

「……あっちにいる可能性がある!!」

 

 グランの言葉を聞いて、ヴァイトは走り始める。グランは頭を掻いて、あとを追うようにそのまま走っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァンピィー! どこだー!!」

 

「ヴァイトー、こっちー!」

 

「こっちって言われてもどっちだー!!」

 

 草っ原の中で、ヴァイト達はヴァンピィを探し始めていた。叫んだらすぐに返事が来たので、ここにいるのは間違いがないようだった。

 

「声がそんな遠くにいなさそうだし……近くにいると思うんだけど……お?」

 

 グラン達の真上を、コウモリが飛んでいた。恐らくヴァンピィのものだろう。これについて行けば、ヴァンピィに会えるはずである。グラン達はそう確信できたのか、そのコウモリの後を着いていく。すると、少しだけ開けた場所に出てきた。

 

「ヴァンピィ! お前何してたんだ!」

 

「この子、足に怪我してるみたいで……ここなら、食べちゃう動物から身を隠せるかなって」

 

 そう言って見せてきたのは、ウィンドラビットだった。確かに足を怪我しているようであり、動かしづらそうにその足を動かしていた。怪我の手当は既にできているようであり、患部には包帯が巻かれていた。

 

「……はぁ、ヴァンピィ。その子の手当てをするのはいいけど、勝手にいなくなるのはやめてくれ」

 

「ごめんなさい……どうしても、放っておけなくて……」

 

「いいよ、僕も怒っていないから。でも、今度から気をつけてくれよ? こういう草っ原にこそ、罠とかが仕掛けられてる可能性だってあるんだから」

 

「うん……」

 

「……まぁまぁ、見つかったしいいじゃん。ほら、ヴァンピィもそんなに落ち込んでないで、その子の怪我の治療をしないといけないし一旦グランサイファーに戻るよ?」

 

 話を終わらせて、ちょっとした気まずい雰囲気も無理やり変えるグラン。ヴァンピィ達も、グランの言うことを聞いて一旦グランサイファーへと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、手当は終わりました」

 

「いやぁ、応急処置しててよかった」

 

「えぇ、おかげでちゃんとした手当もかなり早く終わりましたし」

 

 グランサイファーに戻ってから、グラン達はソフィアにウィンドラビットの手当を頼んでいた。迅速な対応により、ウィンドラビットの怪我はちゃんとした手当がなされて、周りを飛び跳ねられるようになるくらいには、元気になっていた。

 

「えへへ、良かったね!」

 

 ヴァンピィが抱き抱えて、ほほ笑みかける。それに返事するかのように、ウィンドラビットは一声鳴いていた。

 

「……で? あのウィンドラビットはどうするの?」

 

「そりゃあ自然に返さないと、でしょ。見た感じまだ小さいから子供だろうし」

 

「まぁ、グランサイファーで飼うわけにも……」

 

「いや、単純に親から離れるのは寂しいでしょ?」

 

「……あれ、そんな理由がなかったらもしかして飼うつもりだったの?」

 

「そりゃあね、そもそもここただでさえペット飼ってる人多いのに」

 

 ふと、どこかから『オイラはペットじゃねぇ!』という声が聞こえてきたが、完全に被害妄想である。グランは、そんなことは決して考えていないのだ。

 

「そう言われてみれば、確かに……」

 

「特に猫が多い」

 

 相棒として扱っていたり単純なペット扱いをしていない人も多いが、どちらにせよグランサイファーは他の騎空団では類を見ないくらいには動物天国しているのは間違いがないだろう。

 

「なるほどね……一応飼える環境は整ってる、ってわけ」

 

「とりあえず……親に返さないとね」

 

「そう言えば……ウィンドラビット自体が結構小さいけど……親ってどんな大きさなの?」

 

「いやぁ、さすがに俺達がいつも見ている大きさでしょ。たまに似たような個体でかなりでかいのがいるけど、流石にウィンドラビットは見た目通りの大きさのやつしかいないでしょ……」

 

 その後、ヴァンピィにもウィンドラビットを返す旨を伝える。ヴァイトは駄々をこねるかと思っていたが、ちゃんとヴァンピィはそれに納得して返すことを理解してくれた。

 グランは正直でかい親が出てくるのを半分期待していたが、そんなことも無かったために、落胆半分安堵半分の感情のままその日を過したのであった。

 

「……そう言えば、依頼主に魔物を見せるのは?」

 

「……あっ」




最近ソフィアさん出ずっぱりっすね

偶には長編とか書いて欲しい

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