「今日のゲストはゴブリンスレイヤー……という肩書きのルシウスさんです」
「……別に構わんが、なんだその名は」
「ちょっと前まで、ルシウスが噂になってた時のあだ名みたいなものだよ」
ルシウス、かつて母親をゴブリンに殺された恨みでゴブリンを殺す事に命を掛けているとまで言ってもいいほどの男。妹と父親がこの団に在籍しているが、父親とは未だ確執が残っている。
「ゴブリンスレイヤー……か。ちょっと前という事は、今は俺の噂も風化したと言った所か」
「ま、ココ最近はゴブリンの大規模な群れは見かけられてないしね。ルシウスもゴブリンを相手にすることが少なくなってきたし、噂も風化するって事だよ」
「ふん……まぁ、目立たない方がいいがな。変なやつらに絡まれるのも少なくなるだろう」
『いや、そんな黒づくめの格好してたらどっちにしろ目立つんじゃね?』なんてことを言いたかったが、グランは抑えた。どう言った理由で絡まれようとも、ルシウスの眼光には大抵の奴がビビって下がるからである。
「まぁいいや、ティナとは相変わらず上手くやれてる?」
「……あぁ」
ティナ、ルシウスの妹である。ルシウスについて来ているだけあって、実力者でありルシウスのちゃんとした理解者でもある。しかし、理解者過ぎるせいかほとんど保護者の役割に納まってしまっていることがとても多い。
「ティナとのかかわり合いを、お前が気にする事はないんだぞ?」
「いや、同じ団の仲間なんだしさ……そりゃ気になるって」
別に変な勘違いをしてある訳では無いが、妹であるティナにも、少しだけルシウスは距離を置いている。ココ最近は、特に距離を置いているせいかティナでも滅多に会うことがないらしい。
「……ゴブリン倒しまくったせいで燃え尽きた?」
「……かもしれんな。ゴブリンの王を倒してしまったせいで、燃え尽きたのかもしれん」
かつて、グラン達がルシウスと初めて会ったあたりのこと。大掛かりなゴブリン狩りの依頼があった。その時にグラン達はルシウスとティナ、そしてフィーナと出会ったのだ。
そこでゴブリンの王を倒したのだが、それからの残当狩りが続くにつれて、段々とルシウスはその覇気を収めていっていた。ゴブリンを狩る時はかつての覇気が戻るが、最近ではゴブリンも見なくなってきたせいで、特に覇気が抑えられていた。
「……だが、それでもなんとか目標は作っていける気がするさ」
「目標?」
「お前は知らないだろうな、俺は氷魔法を使えるようになったんだ」
「え、マジで?」
「スフラマール先生の指導のおかげでな」
ルシウスに魔法の才能があったこと自体は、特に問題にするほどでもないが……グランはまずルシウスがスフラマールに教鞭を奮ってもらっていたことに驚いていた。どんな経緯だったのかはわからないが、凄く気になる事案なことは確かである。
「後でその話をたっぷり聞かせてもらうとして……とりあえず、お便りコーナー」
「……あるのか、俺に」
「無いんだったらしないよ……1通目『剣ボロボロですけど研がないんですか?』」
「……こいつは俺の勲章のようなものだ。ゴブリン狩りを主流にしていた頃のは、もっと刃がボロボロだったがな」
「お便りにもあったけど、研がないの?」
「ゴブリン共に苦しみを与えるためだ。それなりに腕力で切り裂かねばならんが……その分、痛みが奴らを襲うようになっていた」
思ってた以上に、えぐい手を使っているとグランは思っていた。ゴブリン達に苦しみを与えるという目的なら、これ以上ない合理的な方法だが……しかしまぁ、よくもここまで丸くなったものだとも感心していた。
「今の剣は?」
「……少しだけ、心機一転というやつだ。ゴブリンを相手にすることはもうほとんどないと言っても過言ではないだろう、他のものを相手にする際はこちらを使うことが多いはずだ」
昔は、細身の刀のような剣を使っていた。しかし今は、大剣を使っている。どちらもボロボロなのだが、ルシウスの趣味なのかと思うくらいにはボロボロが共通している。恐らく、安く手に入れるためにわざとそういったものを買っているのだろうと思われるが、真相は不明である。
「へぇ……使い心地は?」
「悪くは無い、俺の手に馴染んでいる」
「それが一番だよね、武器って言うのは」
「あぁ」
軽く微笑むルシウス。武器のことでグランが共感してくれたのが、嬉しかったのだろう。
「2通目『髪切らないんですか?』」
「あまり切ろうとは思わないな」
「でも確かにだいぶ長いよね」
グランはルシウスの紙を眺めて、そう思っていた。ルシウスの髪は、彼の腰よりも少し上の辺りまであるのだが、元来の男性の平均的な髪の長さよりも遥かに長いものとなっていた。
「戦いの時とか邪魔だとは思わなかったの?」
「万が一どこかに引っかかったり、ゴブリン共に掴まれた時は大概その場で切り捨てていたからな……余り気にしたことは無い」
「え、掴まれた事あるの?」
「あるな、だがすぐに切り捨ててやれば奴らは尻もちをつかされることになるがな」
もしかして、尻もちをつかせたいがために髪を伸ばしてわざと切っていないのでは? とグランは勘繰ってしまっていた。ルシウスならやりかねないが、わざわざそんな嫌がらせのためだけに、死にかけるような危ない目に合うのは流石に合理的ではない手段をルシウスが選ぶことは無いだろうと、すぐに頭の中で否定していた。
「まぁ、髪の長さは個人的な……そう言えばティナの髪は? 結構短い方だよね」
「あれは俺が切り揃えている」
「何で?」
「勿論、綺麗なハサミに決まっているだろう」
確かにそうである。自分の髪を自分で切るのは中々難しい。つまり、ルシウスが切っていたことになるのだが……
「……立派な理髪師になれそうだね」
「理髪師か……向いていると言うなら、目指してもいいだろうな」
あまり言いたいことではないが、ルシウスが理髪師になった場合その腕前と顔のギャップで人気が出るパターンか、それでも顔の怖さが勝って客が寄り付かないパターンかの2択のような気がグランはしていた。どちらにしても、理髪師をするルシウスはあまりイメージが出来ないのだが。
「理髪師って多分それなりに会話スキルいると思うよ」
「なんだと? どういう事だ」
「髪切ってる間、結構な確率で理髪師ってお客さんと
会話してると思うし……」
「そんな馬鹿な……」
あまり表情は変わらないが、ルシウスは落ち込んだ表情を見せていた。それだけ、理髪師もやってみようという気が強かったのだろう。自分の慣れないことに挑戦するのは、何も間違ってはいないのだから。
「とりあえず3通目『家族仲はいいですか?』」
「ティナとは仲がいいままだと思ってはいるが……」
この家族は、少し複雑なのである。それもそのはず、確かに妹であるティナとは仲がいいが、父親であるアレーティアとはあまり仲が良くないからだ。いや、団内で初めて会った時は仲が良くないどころか最早確執と言っていいものが確実に存在したのだ。
「……アレーティア?」
「……あいつとは、別段仲良くする気は無い」
「……まぁ……やるにしてもゆっくりと、だしね」
仲良くする気はないにしても、ティナは既にアレーティアを認めている。ティナが認めているからこそ、ルシウスもある程度は認めていかなければならない。
それをルシウス自身も理解はしているのだ。しかし、どうしても過去の確執がルシウスの心の邪魔をしていた。
「……だが、まぁ……最近は剣をぶつけ合う相手くらいにはなっている」
「……そっか」
ルシウスのその言葉を聞いて満足するグラン。久しぶりに会った頃は、それこそアレーティアを殺さんとする勢いで食ってかかっていたが、今はその時よりも落ち着いてはきていた。
「……グラン、もういいだろう」
「ん、ならそろそろ終わろうか」
今の一言が恥ずかしかったのか、ルシウスは被っている帽子を深く被り直してグランに声をかけていた。表情は見えないが、恐らく顔を赤くしててれていることだろう。ついつい笑みを浮かべてしまうグランであったが、ルシウスの言う通り終わることにした。そもそもそろそろ時間も迫っているのだから。
「では、今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました、また次回お会いしましょう、さようなら」
「……」
ルシウスは甲板で1人寝転がっていた。空を眺めながら、ただその蒼さに心を奪われていた。
「空はいつまでたっても変わらない……しかし、変わらないはずのそれは見方が変わっていく……」
「空がより蒼く見えているのか、それとも自分でもよくわからない印象を受けてるのか……どっちかな?」
そして、そんなルシウスに話しかけるグラン。横に寝転がり、ルシウスとともに空を仰ぐ。
「……グラン、俺は変わるぞ」
「一体どんな風に?」
「二度と俺達みたいな子供を生み出さないように、だ」
「立派だね……じゃあ、これからどうしたい?」
「……」
少し黙った後に、ルシウスは起き上がる。グランは起き上がらずにそのままルシウスに視線を移す。
「グラン……いや、団長……俺に力を貸してくれ。ゴブリン共以外の、魔物達によって故郷を滅ぼされる子供達が、これ以上生まれないように」
「まったく……そんな頼み事しなくてもいいよ? ルシウスは……よいしょっと、仲間じゃないか」
喋っている最中に起き上がり、ルシウスに目線を合わせるグラン。その言葉で嬉しかったのか、珍しくルシウスが微笑んでいた。そして、どちらからとも言わずにその手を取り合って握手をしていた。
「……ありがとう、グラン」
「どういたしまして」
2人は微笑み会う。その握手はどんなものよりも固く、絶対に着れない絆のようなものを感じさせるのであった。
「何この状況……!?」
そして、そんな状況に偶然通りがかったルナールが驚いていた。普通に見てみればただの親愛の証の握手なのだが、当然の如くルナールから見てみれば例の耽美本のような状況に見えてしまうのだ。
「……彼のことはネタには出来ないけど……シチュエーションとしてはありね……普段笑みを浮かべない孤高の剣士が、心を開く男性……うん、ありね」
そう言いながら、ルナールは一旦自室へと戻るのであった。そして、そんなことが一切起こっているとは知らずに2人は未だ握手を続けあっているのであった━━━
「……なんか嫌な予感がする」
「なんだ、どうした?」
「ちょっとお話する団員がいる気がする」
━━━━訂正しよう、ルナールの存在はバレていないが、ふと何故か唐突にルナールのことを思い出したグランは、一旦ルナールの部屋に向かって『お話』しようと決めて、そのままルシウスの元を離れてルナールの部屋へと向かうのであった。
火版で髪が長いことを知った