ぐらさい日記   作:長之助

75 / 135
ゴブリンキラー、闇を祓う炎に見せられてみます?

「今回のゲストはティナさんです」

 

「はーい」

 

 元気よく手を上げるティナ、実を言うとグランより歳上である。グランでさえもあまり意識できていないことだが。

 

「ティナはルシウスの妹、アレーティアの娘……でちゃんとお酒を飲める歳です」

 

「私自身あまり飲まないようにしてるけどね」

 

「それまたどうして?」

 

「みんな飲んでる時に、私まで飲んじゃったら誰も介抱できないでしょ?」

 

 面倒見のいい妹である。それ故に、団内でも結構評判も人気もある女性である。お姉さんや母親に近い面倒みの良さに、子供たちも懐いているほどである。

 

「まぁ俺は飲まないからいいけど」

 

「皆も、節度は守って一応飲んでるけどね」

 

「おっさん共はたまに酔い潰れてるけど」

 

 時折行われるグランサイファー飲み会のことを思い出しながらも、グランはその時の惨状を切実に声に出す。一応、未だに酒の飲めない歳であるためその時の後始末をよくやってたりしている。

 

「あ、あはは……」

 

「そう言えばルシウスがお酒飲んでるところ見た事ないかも 」

 

「兄さんは多分飲まないんじゃないかなぁ……飲めるとは思うけど」

 

 飲めなくても一切の問題は無いが、飲めるのなら飲んでいる所は少しは見て見たいとグランは期待し始める。しかし、こういった期待をしながら酒を飲まそうとすると、恐らくルシウスは察知してなんやかんやで回避しようとするだろう。

 

「……まぁ、機会があれば飲ませてみてもいいかもね」

 

「ですねえ」

 

 ルシウスにお酒を飲ませる話が決定したところで、グランはいつも通り箱からお便りを取り出す。そして、そのまま適当に一通取り出して読み上げていく。

 

「1通目『パンツ見えてますよ』」

 

「……え!?」

 

 

 顔を真っ赤にしてスカートを抑えるティナ。グランも、頷くだけであり前から同じことを思っていたようだった。

 

「ず、ズボンズレてたの……?」

 

「え、あれスパッツじゃなかったの!?」

 

「こ、こういう柄のものだよ!!」

 

 顔を真っ赤にしながら、両手を振って否定するティナ。どうやら、グランが今までスパッツだと思っていたものは、まるでパンツのような柄が施されたズボンだったようだ。

 ここまでウブな反応をしていたら、確かに説得力はあるのだが……その説得力のせいでグランは納得せざるを得なくなっていた。

 

「……も、もしかしてパンツが見えてるって……」

 

「すごい思ってた……スパッツの上からパンツ見えてるよなぁって……え、ほんとにズボンなのそれ? だってブーツの内側に入れてるし……」

 

「そ、そういう柄の……スパッツじゃなくて、ズボンと間っぽいのだから……」

 

 恥ずかしすぎて頭が回っていないのか、ティナはしどろもどろになりながら否定する。グランの中では、ティナの履いているものがスパッツでは無かったことにとても驚いていた。

 

「まさかスパッツからパンツが見えていたわけじゃなかったとは……」

 

「ま、まさか皆からそんな風に思われてたなんて……」

 

「正直『パンツ見えてるよ』なんて言いづらいし……同性でも異性でも……多分、何度か同性からなら言われてたと思うよ……?」

 

「……多分本気にしてなかった……」

 

「もー、ティナったらお茶目さん!」

 

 茹でダコのように顔を赤く染めながら、ティナはテーブルに顔を突っ伏していた。横から見た時に見える潰れた胸を、グランはじっと眺めていたがずっと眺めていると秩序されるので、話題を振りまく。

 

「まぁまぁ、誤解が解けたと思えばいいじゃない」

 

「……確かに、そうだけど……」

 

「ずっとパンツ見えてるって思われるより、パンツっぽい柄のものだって認識された方が楽でしょ?」

 

「うん……うん……?」

 

 グランの言うことに対して、少しだけ疑問を感じるティナ。しかしグランは間髪入れずに、話題を振って逸らしていく。

 

「とりあえずティナの誤解が解けた所で2通目行っちゃいましょう」

 

「お、おー?」

 

「『ティナさんはお父さんから剣術は習わなかったんですか?』」

 

「習わなかった、というか……習えなかった……が正解かも」

 

「と言うと?」

 

「私達が村を出たのが、私が3歳の頃だったらしいから……」

 

「……なるほど、確かに無理だ」

 

 3歳では、習ったところでまともに理解出来ているかも怪しい年頃である。確かに、習えなかったというティナの言葉は正しいということになるだろう。

 

「だから炎を?」

 

「うん、そんな所……後兄さんの片手が塞がらないようにかな……ゴブリンって、洞窟にいることが多いから……」

 

 要するに、自分から灯り役になったといった所だろう。そのまま攻撃も行えて、尚且つ明かりにもなれる。面倒みのいいティナらしい判断をしている、と言える。

 

「でも、ルシウスもランタン持ってた時あったよね」

 

「兄さん、結局私が攻撃に集中出来るようにもしてくれてたんだよね……」

 

 兄妹でお互いのことを思いあっていると考えれば、微笑ましいとも言える。しかし、2人からしてみれば1番身近の肉親同士なのだから、大切になっていくのも頷けるというものである。

 

「まぁあかりは多いに越したことは無いと思うし……」

 

「そう、だよね……うん確かにそう」

 

 ちょっと困った顔をしながらも、ティナはなんとか理解してくれていた。話が一旦落ち着いたところで、また別のお便りを読み始める。

 

「『父親との仲はいいですか?』」

 

「お父さん……うん、私はまだいいと思うよ。でも、まだ遠慮されている気もするけど……」

 

「何だかんだ、アレーティアも思うところはあったらしいしね……」

 

 アレーティアは、自分が行ったことをただひたすらに後悔していた。それが負い目となっているのか、ティナが積極的に話しかけても会話はちゃんと行っているが踏み込んだ話は一切しないようにしていた。

 

「……基本、私から話しかけてる状態なんだけど……1回だけ例外があったんだよね」

 

「例外? なんか特別な日だったとか?」

 

「うん、バレンタイン」

 

 父親の心情が、グランはふと理解できてしまった。そりゃあ何年も離れていたとはいえ、娘が楽しそうな笑顔でチョコを作ってたら気になってしまうだろう。

 

「『誰にチョコを渡すんだ』って聞かれて、『団の皆だよ〜』って答えたら安心してた」

 

「へぇ……」

 

 まぁ本命チョコがあるとはどっちにしろ言えないが、ティナらしいのでちゃんと説得力がある。そのためグランはその言葉に納得したアレーティアに、納得していた。

 

「……でも、本命はちゃんといるんだけどね……」

 

「え、ごめん今なんか言った?」

 

「ううん、何も言ってないよ」

 

 笑顔で首を振るティナ。マイクにも拾えなかったその声を聞き取れなかったものはいないが、歴戦の戦士はティナの口の動きだけは見逃してなかった。

 

「……そう言えば、バレンタインの時のルシウスってどんな感じだったの?」

 

「いつも通りだったよ? 『何してる?』って聞かれたから『チョコを作ってる』って返したら『そうか』で会話が終わったくらいだし……」

 

 その時の兄の心情がどんなものだったかは知らないが、恐らく結構な確率で気になっていただろう。そこまで思ったグランだったが、ふと少しだけ気になったことが出来てしまう。

 

「……バレンタインの時ってさ、ルシウスとアレーティアどんな反応してたの?」

 

「どういう事?」

 

「無いかもしれないけどさ、『お前にティナのチョコを受け取る資格はない』とか言いながらアレーティア睨んでそうなんだけど、ルシウス」

 

「あはは、流石にそれはないよ」

 

「だよなぁ」

 

「兄さんからはチョコをお父さんに渡したかどうか聞かれたけど」

 

 ルシウスのアレーティアへの拗らせ方は、いつかちゃんと元に戻ればいいな……とグランは遠い目をするのであった。

 

「……まぁティナは全員分ちゃんと作ってたし、あんまり心配することは無いか」

 

「うん! これからバレンタインが来る度にみんなの分を作るよ!」

 

 ティナのチョコ代金だけで、一体どのくらいのお金が溶かされるのかグランは考えないようにしている。一応、自分で支払う形にはなっているので、ティナがどれだけ貯金を溜め込んでいるかがよく分かる。

 味も悪くないので、チョコの値段もそれなりのものを使っているだろう。

 

「……っと、もうこんな時間だ」

 

「またお話お願いしてもいい?」

 

「まぁいいよ。別に減るもんじゃないし……話すのは楽しいしね」

 

「やった!」

 

「……というわけでご視聴ありがとうございました、また次回この番組でお会いしましょう……さようなら」

 

 いつもの言葉を言いながら、グランはカメラの電源を落とすのであった。ティナはカメラの電源が切れるまでずっと顔の横で軽く両手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ……」

 

「どしたの?」

 

 終わってから部屋を出て、2人で通路を散歩している間のことである。ティナはふと思いだしたかのように、グランに話していた。

 

「アウギュステで遊ぶでしょ? そのために必要な水着を一緒に買いに行きたいなー……なんて」

 

「水着? いいよ」

 

「ほ、ほんとに!?」

 

「うん」

 

 グランとしてはティナの水着が見れるという思惑があり、ティナは2人で出かけたいという思いがある。偶然にも2人の意見は一致しているとも言える。

 

「じゃ、じゃあ今から一緒に行こう!?」

 

「よし来た、なら今すぐに━━━」

 

「団長さん、お話しましょうか」

 

 ふと後ろからグランの肩を掴むリーシャ。グランは目線を下に落としながら絶望しかけるが、今回は簡単には諦めなかった。

 

「こ、今回はちゃんと許可とってるぞ!?」

 

「いえ、そうじゃなく」

 

「ん?」

 

「……ティナ、水着を選ぶなら俺の方がいい」

 

 さらに突如現れるルシウス。彼は別段水着選びのスペシャリストという訳では無いが、しかし急に現れてそう言い放つのだ。

 

「え、兄さん水着選びって」

 

「こいつには後でサプライズで見せてやった方が喜ぶだろう」

 

「……確かに」

 

「あれ? 俺は今でも全く問題……あ、ちょっと待ってリーシャさん腕持って引っ張らないで」

 

「よし、なら行くぞ」

 

「う、うん!!」

 

 グランはリーシャに引っ張られてグランサイファーの奥へと、ティナはルシウスに説得されて一緒に外へと出かけるのであった。

 

「くっ……見てみたかった」

 

「アウギュステで遊ぶ人達の名簿、お願いしますね」

 

 後日、なんとかティナの水着を拝見したグランだったが、他の者達の水着と同じような反応を返してしまっていた。『素晴らしいものです』と。

 それを事細やかに、ティナの水着の素晴らしさを語っているうちに、再びリーシャに連れていかれて今回のバカンスはグランはほとんどお預けになったという。

 ティナよりも前に5~6回くらい同じ事をやってたので、バカンスは確実に没収になった……というオチなのであった。




ナルメアの次にダメにしてくれそうなお姉ちゃん(妹)

偶には長編とか書いて欲しい

  • はい(ギャグノリ)
  • はい(シリアス)
  • いいえ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。