ぐらさい日記   作:長之助

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親バカ兄バカ

「……夏だね!」

 

「そうだな」

 

「というわけで、私の水着はどう?」

 

「すっごい似合ってる」

 

「えへへ、ありがとう」

 

「うん」

 

 夏、アウギュステのとある島で。ティナとグランは2人で浜辺を歩いていた。色々な店が立ち並んでいるところも多く、歩いているだけで食欲をそそる匂いがそこらかしこに立ちこめていた。

 カツウォヌス、カツウォヌスを焼いた煉獄カツウォヌス、煉獄カツウォヌスがあまりの熱により身が削がれた煉獄骨カツウォヌス。色々な食材が出回っているところで、ティナ達は苦笑いをしていた。

 

「……カツウォヌスばっかりだね、ここ」

 

「最近どっかの島で、カツウォヌスが大量に乱獲されたらしくてな……その影響だろ」

 

「……海ってアウギュステ以外にもあるの?」

 

「いや、溶岩とか島の熱気によって陸地に上がって空に浮遊して燃えてる煉獄カツウォヌスだ」

 

「カツウォヌスって星晶獣だっけ?」

 

「魚」

 

「だよね……」

 

 しかしいい匂いがするのは事実であり、とりあえず2人は店に入っていく。別にカツウォヌス限定の店ではないはずなのだが、メニュー一覧にはカツウォヌスの名前ばかりが乗っていた。

 

「見事にカツウォヌスばっかりだね……」

 

「Hey店主! 煉獄カツウォヌスのたたきと煉獄カツウォヌスの刺身と煉獄カツウォヌスの焼きそばと煉獄骨カツウォヌスのスープをおくれ!」

 

「ヘイ! かしこまりぃ!!」

 

 注文するグラン、その様子を見てティナは困惑していた。あまりにもカツウォヌス……しかも煉獄カツウォヌスを連呼している事によって、脳がゲシュタルト崩壊をおこしかけているのだ。

 

「……頭がどうにかなりそうだよ……でも、こんなカツウォヌスがいっぱい乱獲されてたら絶滅しちゃうんじゃないの?」

 

「いやぁ、例によって古戦場の島だし……減らないでしょ」

 

「あぁ……」

 

 妙に納得してしまう自分に、ティナは少しだけ呆れてしまっていた。この特殊な状況を起こすアウギュステの夏というのは、最早怪奇現象の起こる島になりかねない。

 

「ていうか……煉獄カツウォヌスってなんだろうね……」

 

「燃えてるカツウォヌス、脂が燃料となって燃えてるけど……実はあいつらが生きようと思う気持ちが出かければデカいほど、炎が勢いを増す」

 

「え……じゃあ骨になってる個体は……?」

 

「生きようとするがあまり、皮肉にも骨になってしまったカツウォヌスだ。あいつらが安心した瞬間、煉獄の炎は消えてあいつらはただの骨へと帰る」

 

「そんな……じゃあ燃えた時点で……」

 

「あいつらは死ぬことが確定しているってわけだ……まぁもちろん全部ただの妄想なんだけどな」

 

「もー!」

 

 傍から見れば、恋人なのかと思ってしまうほどのこのイチャつきっぷり。しかし、それを外から眺めている二人の男がいた。ルシウスとアレーティアである。

 

「……グラン……ティナとあそこまで仲良くするとはな……」

 

「親としては複雑な気持ちじゃぞい……」

 

「あの、お客様方……暑くないのですか……?」

 

 ルシウスはいつも通り黒い服装に帽子を付けた格好、アレーティアもいつも通り魔法使いのような格好だった。しかし、少なくとも砂浜でそんな格好をするのは見るだけでも暑苦しさが存在してしまうレベルである。

 

「……ティナとグランが2人きりで出かけるなんてな……」

 

「ルシウス、年頃の男女なんじゃしそういうこともあると思うんじゃがのう」

 

「お前は黙っていろ……それにしてもこの辺は暑いな……」

 

「その服を脱いで水着になればいいのでは……?」

 

 幸いにも、グランとティナは2人の存在に気づいていなかった。明らかに目立つレベルで、明らかに観光客たちの目線がそっちに行ってるにも関わらず、グラン達は気づく素振りすら存在していなかった。

 

「日差しがきついの……熱中症になりそうじゃ……」

 

「ふん、ならば戻るがいい……この暑さに耐えられないようでは、剣聖の名が泣くだろうがな」

 

「舐められたものじゃの……ワシはまだまだ頑張れるぞい」

 

「いや、本当に危ないんで帽子以外脱いで水着になった方がいいですよ……?」

 

 先程から店員が忠告してくれているのだが、2人の耳には1切入っていなかった。それでもちゃんと仕事しながら忠告してくれている店員は、かなりいい人だと言えるだろう。

 

「……しかし、ティナがグランを選んだというのなら……俺はそれを認めないといけない……いや、グランならば問題は無いが……」

 

「しかしルシウス、グランはグランサイファーのほとんどの女性から好意を持たれておる……その中には、あまり言いたくないが実力行使をしかねない人物もおるぞ?」

 

「だが、暴力的な女はグランも望まないはずだ……そうなると必然的にティナになる。料理洗濯家事に世話……ティナはありとあらゆる平和的な事が出来る」

 

「兄バカじゃのう……」

 

「ふん、こんな所までのこのこ着いてきているお前はさしずめ親バカだろうな」

 

「汗凄すぎて服張り付いてますけど……」

 

 店員はそろそろ無視されすぎて泣きかけている。それでもルシウス達は自分達のことだと未だに気づいていなかった。一体どうすればここまで鈍感になれるのかは不明だが、少なくとも自分たちの格好はビーチでは問題ないと思っているようだった。敢えて言うなら、ティナのことを考えるあまりそれ以外の常識的なことをそれなりに忘れてしまった……という方が正しいのかもしれないが。

 

「……しかし、あまり汗をかくのもたしかに問題だな……おい、俺は少し着替えてくる……いや、変装してくる」

 

「変装じゃと?」

 

「あぁ、俺が普段しないような格好をしておけばティナ達に気づかれる心配も少なくなるだろう」

 

「俺の後でした方がいい……2人を見失う訳にはいかないからな」

 

「うむ」

 

 店員もようやく話を聞いてくれたのだと思い、一旦その場を離れていた。その後にルシウスが一旦離れて、アレーティアが2人を見ることになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、カツウォヌス美味いなぁ」

 

「カツウォヌス美味しいねぇ」

 

「……後でカツウォヌスが食べたいの、ルシウス」

 

「俺も同じことを思っていただけに、腹が立つな」

 

 少し経ってから、ルシウス達は着替えていた。ルシウスはピンクのノースリーブのアロハシャツに、星型のサングラス、髪は後ろで縛ってポニーテールに。

 アレーティアは白いワイシャツ1枚に半ズボン、そしてサングラスと子供が被るようなデザインの帽子を被っていた。とりあえずとてつもなくダサいということを2人は認識するべきなのだが、一切認識していなかった。

 

「しかし、お前のその格好……バレやすいんじゃないか?」

 

「そうかのう……普段のワシなら絶対しない格好じゃからバレるとは思わないんじゃがのう」

 

「ふん……普段しない格好というくらいなら俺くらいになれ」

 

 ティナのことしか頭にないためか、2人ともいつもの冷静さはどこへやら完全にポンコツと化していた。着替えたとは言っても、別の意味で目立つような格好をしているために、また視線を集めていたが。

 

「あの、お客様……入られるんでしたら入って欲しいのですが……」

 

「……そうだったな、では少し腹にものを入れていくか……」

 

 観察がてら、2人は何か胃袋に物を入れたほうがいいと判断して、店の中に入り軽くスープとチャーハンを頼んでグランとティナを観察することにしたのであった。

 そして、その様子を遠くからグラン達も確認していた。

 

「すげぇ格好だなあの2人」

 

「そうだね、でも結構可愛い趣味してると思うよ?」

 

「え、あ、はい……」

 

 ティナは全く気づいていないが、グランは気づいていた。遠くから観察しているあの二人が、ルシウスとアレーティアだということに。ティナが気づいていないのは、2人が来るのを予め拒んだためか、はたまたあの二人があそこまでラフな格好をするわけがないと考えているのかは分からない。

 とりあえず、気づいていないということだけは……事実であった。

 

「あれが可愛いとか言うのか君は」

 

「可愛いと思うよ? ピクのアロハシャツ」

 

「あれを着て可愛いのは女の子だけだから、あとへそ出ししてる」

 

「そうかなぁ、私は男の人が来てても可愛いと思うよ?」

 

「まぁ人によってはギャップ萌えとかあるから分からなくもない、けど……いやまぁいいや、カツウォヌス食べよう」

 

「はーい」

 

 ひとまずルシウス達のことは置いておいて、グラン達は出された料理を食べることになった。グランも気にはなっているが、カツウォヌスが美味しいのでもう思考するのがめんどくさくなり、『カツウォヌスおいしー』しか考えないようにし始めた。

 

「……にしても本当にカツウォヌスばっかりだなこの店……」

 

「でも美味しいし……」

 

「そうだな……」

 

 美味しいとかわいいは正義である。別段、グランも不満がある訳では無いが、ティナの下から上を見上げるような視線で見られると、とても可愛いと思えたのでもう全てがカツウォヌスでも問題は無いだろうと思ったのだ。

 

「……食べ終わったら次どこに行こっか」

 

「大きな浮き輪を貸出してるお店があったから、その浮き輪を貸してもらって2人で海を漂流とか?」

 

「いいね、ならそうしようか」

 

 ティナはグランと一緒に居たいと考えており、グランはいざとなればティナにくっつく事が出来る大義名分を得られるかもしれないとかんがえているので、今2人の利害は……1人おかしな方向ではあるが、一致していた。

 

「さて……ご馳走様っと」

 

「美味しかったねぇ」

 

「だなぁ、また来年来てみるか……」

 

「来年もカツウォヌスいっぱいかな?」

 

「多分いっぱいじゃねぇかな……」

 

 そんな他愛もない話をしながら、グラン達はお会計をして店から出ていった。それを眺めていたルシウスとアレーティアも、自分たちの頼んだものを急いで掻きこんでから、追いかけていく。

 

「ティナ……お前の海での安全は俺たちが守るからな……」

 

「そこを守るのはグランじゃないかのう……」

 

「お前は黙ってろ」

 

 いつものようなやり取りを行いながらも、ルシウスとアレーティアもまた店から出ていくのであった。

 結論としてだが……今回、ルシウス達は結構簡単にティナにもバレてしまった。理由としては、殺気を出して近づきすぎた為である。本人達も意識しない間に殺気を出して近づいてしまっていた為、ティナに敵扱いされかけてバラした……という結末であった。

 ティナもティナで今回グランと二人きりであんな事やこんな事を画策していた為、それらがすべて水の泡になったことにキレてしまい、珍しくルシウスともあまり口を聞かなくなってしまっていた。

 

「ふんだ!」

 

「ティナ……」

 

「ワシも怒られてしまったぞい……」

 

「いやぁ、今回は2人の自業自得だよ……俺が宥めてくるから謝りな……まぁティナも2人がティナのために動いてたことは伝わってると思うし……」

 

 ……だが、それでも唯一の父親と兄。グランが軽く宥めたらある程度落ち着きを取り戻して、何とか仲直りまで漕ぎ着けたのであった。




前からいるキャラの水着化はよ

偶には長編とか書いて欲しい

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