「今回のゲストはサビルバラさんです」
「よろしゅう頼むぜよ」
「サビルバラは刀を使って戦う侍、侍と言ってもござるをいうって訳じゃないけど」
「ござる言うんはあの娘っ子くらいじゃ、ワシが言うにはちいと歳を食っとるからの」
軽く笑みを浮かべるサビルバラ。ここだけ見れば、気のいい兄貴分のようにしか見えないが、その実彼は仕事を果たす時はかなり冷静になる。人が変わったように。
「それと、前から気になってたんだけど」
「何じゃ?」
「使ってる刀結構でかいよね」
「そうじゃの、自分の体を使って相手を切り裂いとる」
シャルロッテも、自分よりも大きな剣を使っている。使っている得物の多少の差はあるとはいえ、戦い方は似たような感じだとグランは前から薄々思っていた。
「まぁ、確かにその刀の切れ味で魔物をバッサバッサ切ってるけどね」
「……ま、ワシは人も切っておるが……」
「え? 今なんか言った?」
「いや? 特になにも言うとらんが?」
笑みを浮かべて誤魔化すサビルバラ。因みに彼はグランよりも年齢としても精神年齢的にも、きちんとした大人である。その分の汚れ仕事を、実は密かに受けていることもある。
「しかし、身の丈より大きな武器と言うならばリュミエール聖騎士団の現団長殿も似たようなもんじゃろ……いや、最強と言われるだけワシより強いんじゃなか?」
「……うーん、正直どっちが強いかって言うのは気になる。でもなぁ……」
そう言ってグランはサビルバラに目を向ける。彼は何のことだかわからずに首を傾げていたが、グランは内心こう思っていた。『どうせ言ってもはぐらかしてやろうとはしないだろう』と。
サビルバラは、そういう男なのだ。『殺し』をやる、またはそれくらいの殺意を見せる時に刀を抜く。
無論、特訓でも抜く時はあるがそのときはあくまで木刀を使う。真剣を使うことは、ほとんどないと言っても過言ではない。
「なんじゃ」
「いや? なんでもない……とりあえず、お便りを読み上げていきます」
「ふむ、まぁワシに答えられる事だけは答えていこう」
グランは、いつの間にか取り出していたお便り三通をサビルバラに見せる。少し困ったような顔を見せていたサビルバラだったが、答えることにはあまり積極的では無いだけのようである。
「1通目『この船に知り合いはいますか?』」
「いるぜよ? ミリンじゃろ、あとはもう1人いると思うんじゃがのう」
「会えてない?」
「うむ、年中忍者の仮装をしておる子供でな」
ふと、頭の中に思い浮かべる一人の少女。名をレオノーラ、年中忍者の格好をしているという枠には当てはまるし、何よりサビルバラの故郷はハーヴィンが多い。あながち間違いでは無いかもしれないが……何故かグランは、名を告げる事にあまり肯定的ではなかった。
「団長殿は何か知らんかの」
「うーん、いたとしても……自分で探して欲しいかな!?」
「この広い船の中でか……」
少しだけ笠を深く被るサビルバラ。グランも気持ちはわからなくもなかった。グランサイファーは結構どころかかなり広い。かなり広い為に、人を探すのも移動するのも一苦労なのだ。
よくルナールがぶっ倒れるくらいには広いのだが、外から見た感じあまり広くなさそうに見えるのが不思議な程である。
「……まぁ、万が一別人だとしたら言わない方が正解ということもあるぜよ」
「そうそう、そういう事……正直言うと仮に知り合いだったとしてもそれ目当てで探し回るのが1番しんどい」
「じゃろうなぁ……」
お互いにため息を吐く男2人。グランサイファーの広さは有意義に使わせてもらっているが、あまりにも有意義に使いすぎて最早1つの小さな島レベルの密度がある。
食料を買うのも一苦労である。最近のグランの悩みは買い物に行くとちょっと店主から睨まれることである。
「……とりあえず、2通目行こっか」
「じゃな」
「2通目『他の剣士のことをどう思いますか?』」
「そうじゃな……ヨダルラーハ殿は、偶に教えを乞う事があるぜよ」
「教えを?」
「ワシの剣は廃れた流派じゃが、だからこそ他の者の流派を覚えてワシの流派を伸ばさねばならん……ま、正直に言うんじゃったら……技術を盗んでいる、と言った方がいいのかもしれんの」
「俺もよく盗んでるし、大丈夫でしょ」
「その言葉だけじゃと、妙に勘違いされかねんのう」
『技術を盗んでいる』とグランは言いたかったのだが、どうにも間違えてしまったようで。言いたかったことの意味は伝わっているので、まぁいいかとグランは特に訂正することも無く続けるのだった。
「にしても、サビルバラも誰かに教わるんだ」
「どういう事ぜよ?」
「いや、既にかなり強いのに教わることあるんだなって」
「まぁ、ここにはワシよりも上等な剣士がいっぱいいるぜよ。だったら、一緒に戦って特訓しての方がワシにとって有意義になると判断してるだけぜよ」
「因みにグランサイファー七不思議の内の一つに『有名な剣士は二刀流になりやすい』って噂がある」
アレーティア、ヨダルラーハ、ランスロット、そして団長であるグランもまた二刀流の使い手である。無論、必ず二刀流になるという訳でもないのだが、どうにも二刀流に増える人が多くなってきているのは事実である。
「それ前から思っとったんじゃが、単純に力よりも手数を優先する戦い方の者が二刀流になってるだけじゃないがか?」
「ま、俺もぶっちゃけそう思う。シャルロッテやジークフリートは大剣1つで戦ってるし、そっちの方がまだ信用出来る」
「そうじゃろうな、ワシの流派かて別段二刀流での戦法がある訳でもなし……作ろうと思えば出来るじゃろうが、ワシは今のところ刀1本で戦うつもりぜよ」
「まぁ、ぶっちゃけ戦い方なんて人それぞれだしね。俺だって刀1本かと思えば二刀流してたりするし」
「団長殿は、多才すぎるぜよ」
「よく言われる」
グランも褒められて悪い気はしないが、1つの道を極めていくというよりは、使えるものを常人より使いこなす……程のレベルアップをしていくタイプである。
団員の中でも未だに勝てない人物はいるが、おいおい勝つつもりではあるのだ。
「さて、とりあえず3通目『刀を背負っていて困ったことになったことはありますか?』」
「そうじゃのう……特に思い当たらんが……」
「まぁ、刀と殆ど一緒に暮らしてるようなもんだしね。早々困ったことは起こんないでしょ」
「まぁ、あるとすれば……人混みが多いところでは歩きづらいっちゅうところかのう」
「……それは、まぁ予想しやすい」
自分よりも大きな刀を背負っている、それだけで結構人混みでは引っかかりやすくなっているのだ。それでも、サビルバラの場合縦向きで持ってあまり邪魔にならないようにしている事がほとんどだが。
「後、刀を持ってると妙に狙われやすいんじゃ」
「と言うと?」
「辻斬り、または妖刀持ちに間違われて……なんちゅうことも、団長殿達と出会う前はそれなりにあったぜよ」
妖刀、サビルバラの故郷に伝わっている呪いの刀。覇空戦争の時代のものとされているが、それがこの世界に散らばって伝わっているのだ。その妖刀を握っているものは、強大な力を得る代わりに自我を段々と妖刀に蝕まれていく。
グラン達が昔であった妖刀を持った男……コルウェルという名のその男は、妖刀に精神を蝕まれきっていたせいでサビルバラの妹を殺したという事があった。
だが、その当のコルウェルはまともな会話すら出来ないほどとなっており、最終的に無残な最期を遂げている。
「……ま、ワシにはなんら問題ない相手ばかりじゃったけどな」
「というと?」
「本当に強い者っちゅうんは、強者を求めてさ迷ったりしないっちゅうことぜよ。まぁ、中には強いかつ他人と戦うことを目的としとるやつもおるが……基本的に誰かと殺し合いを望んでいる者は、大体自分が死ぬことは考えてないぜよ」
確かに、とグランは納得していた。フェザーのような人物は、殺し合いではなく他人と拳を混じえて試合をするのが楽しみなタイプだ。決して、殺し合いを望んでいるような者ではない。
「まぁ、妖刀に蝕まれとるやつは相手するのがかなり面倒じゃがの」
「本当に強いもんね」
「そして理性もない……理性がないどころか、生物としての本能すらもろくに残っとらん」
「というと?」
「死ぬことは恐れず考えず……そのまま相手を殺すまで戦いを続けるっちゅう事じゃ。それが一番厄介でな……相手をするのが、かなり面倒だと正直に言わせてもらう」
本当に面倒そうに、ため息をつくサビルバラ。グランも、そんな面倒臭いというのは身をもって知っている。しかし、それでも頭を働かせられるというのも残っており、死ぬのを恐れていなくても冷静に死を避けるということを頭で考えている風ではあるのだ。
「……まぁ、妖刀対策会議はまた今度行うとして……」
「ふむ、もう時間か」
「そういう事。という訳で今回はここまでとなります、皆さんご視聴ありがとうございました。また次回この番組でお会いしましょう……さようなら」
外に出てて、サビルバラは甲板で風を浴びていた。加えた葉が風によって揺れて、憂鬱げに空を見上げる。その目には何が写っていて、一体今は何を考えているのか。それはサビルバラだけにしか分からない。
「……カラクラキル、おんしとも……楽しく暮らしたいぜよ。完全に昔みたいに、とは言わんが……それでもおんしとは……」
かつての友に、今の楽しい暮らしを見させてあげたい。いや、どうせならグランサイファーで飲み明かしたい。今は難しくても、いずれそうなるように、今彼が負っている問題を解決したい。そう考えているのだ。
「……そうは言うが、ワシにやつを止められるか……?」
暴走する友を救いたいのは、変わらない。しかし、その友にも信念があり覚悟があり……それを自分に止められるほど弱いものなのか、とも思えてしまう。
「……いや、ワシの覚悟も本物じゃ」
覚悟を決めた目。それは友を止めるため、友を救うため……自分に出来る事を、できるだけ精一杯行わなければならない。そう考えているサビルバラの目には、再び覚悟の炎が宿っていた。
そして、それを後ろから眺めているのは━━━
「……声掛けづらい雰囲気だなぁ」
「今から飯行くから誘おうって言ったのおめぇじゃねぇかよ」
「でも、一体何を考えているんでしょう……」
グラン、ビィ、ルリアの3人。ご飯にしようと誘おうとしてきたのだが、凄まじくシリアスな雰囲気をまとったサビルバラに、声がかけづらくなっていた。
「……もうちょい待ってみる?」
「その方がいいぜぇ……」
「そうですね……私お腹が空いちゃいましたけど、大丈夫です我慢出来ます」
そうして、グラン達はシリアスなサビルバラに中々近づけないまま、30分程してサビルバラから声をかけられるまで、一切声がかけられない状況が続いたのであった。
土佐弁翻訳機欲しかった…
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ