ぐらさい日記   作:長之助

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亡国の希望、お願いしますね?

「今日のゲストはヘルエスさんです」

 

「よろしくお願いします」

 

「突然ですが、おそらくこの騎空団全員が思っていることを聞いていい?」

 

「はい?」

 

「その服、というか鎧ってどうやってその位置を保持してるの」

 

 ヘルエスの鎧。それはこの騎空団きっての謎とされている。というのも、エルーン族の服装は決まって背中と脇が空いていることが多い。それは男女問わずなのだが、そうなると胸や腹の位置の服はどう保持するのか? という疑問になる。

 基本的に、首や袖などで保持していることが多いのだが……ヘルエスはそれすらない。背中は勿論、袖にも首からも何かしらで固定されている訳ではなく、上半身の服装は腕だけについてる袖と胸元と腹を隠すだけ鎧部分しか残っていない。

 しかも、胸は上からや横からでもある程度見えるくらい露出が高く、腹も横腹は完全に確認できるレベルである。

 

「ふふ、気になりますか?」

 

「気になるよ、気になりすぎてお便りの殆どこれだからね」

 

「皆さんどれだけ気になってたんですか……さて、どう言ったらいいのでしょうか……」

 

「え、なんか複雑な事情持ち……?」

 

「いえ、むしろあまりこれを気にしたことがなかったので、説明の仕方がわからないのですよ」

 

「……まじかァ」

 

 忘れているだけの可能性もあるし、はぐらかしているだけの可能性もある。しかし、はぐらかすにはあまりにもケロッとしているし忘れているなら忘れているで、その程度の理由でと言うのが説明できる。

 つまり、下手をしたら特に深い理由もない服装ということになってしまう。

 

「もしかしてアイルスターの王族……女性はそういう鎧着るのが当たり前だったり?」

 

「……その可能性はありますね」

 

 今のヘルエスの服装は、仲間になった時のもの。しかし、1度だけその鎧が変わったことがある。アイルスターに一時的に戻った際に着た服装なのだが、その服装も今のヘルエスと似たような服装だったのだ。

 

「にしても、相当やばい服だよねそれ」

 

「そうですか? 私はあまり気にしたことがありません」

 

「ヘルエス美人なんだから、近寄ってくる男も多いだろうに」

 

「おや、私がその辺の男に負けるとでも?」

 

「いいや? 全然思わない、だってその槍捌きが見事なのは俺も知ってるんだし」

 

「……あぁでも……」

 

「ん?」

 

「団長殿クラスであれば、負けてしまうかもしれません」

 

 微笑みながら、しかし少しだけ頬を染めながらグランの目を見るヘルエス。当然の事ながら、グランがそれに反応しないわけがないのだ。

 

「なら後で試すか、もし負けちゃったらそのまま部屋に」

 

 瞬間、グランの座る椅子の僅かな隙間に剣が突き刺さっていた。あと数ミリズレていれば、グランの男部分がぶった切りされていた可能性もある。

 

「……えー、秩序の人から催促来たので進めていきます」

 

「おや、残念です」

 

「というわけで一通目『その格好、子供達や男性諸君には目の毒ですよ姉上』」

 

「セルエル、相変わらず口が悪い」

 

「口が悪いのは兎も角として、言ってることは正論だと思う」

 

 何せ露出がすごい。一時期ユエルにも言ったことのあるセリフである。この団には、男女問わず子供がいる。思春期の男子にとっては、まともに目すら見られないほどのものであり女子からしてみれば価値観が揺らぎかねない。『大人ってこういう格好するんだぁ』とか思われたらグランは殺されかねない。

 

「後ほんとに目をそらすにしろ目を奪うにしろ、意識してしまうのは事実」

 

「しかし、これ以外の鎧となると……」

 

「もう水着着ちゃえば? あっちの方がなんか安心感ある」

 

 ヘルエスの水着。本来、水着とはいつも来てい服よりも露出が高くなるはずなのだが、1部のメンバーは水着の方が露出面積が低くなっている時があるのだ。

 主にユエルやヘルエスなどといった、露出過多の人物に言えるのだが。

 

「しかし、水着だと風邪をひいてしまいますが」

 

「え、あの鎧着てる方が風邪ひくよ!?」

 

 その鎧には暖かくなる魔法でもかけてあるのだろうか、とグランは気になった。というか、そうでも無い限りあの格好で風邪を引かないことがそうそうないだろう。

 

「そうでしょうか?」

 

「普通はそうなんだよ、ユエルにも同じこと言われたけど……何、2人はいつもの服装実は何かしらの魔法かけられてるの?」

 

「いえ、そういう訳では……」

 

「????????」

 

 これ以上2人の衣装に何かしら言うのは、間違いではないのだろうか。グランはそう思えてくるほどには、困惑しきってきた。確かに布の薄さとかを考えれば、水着は風邪をひくかもしれないだろう。だが、それ以上に布面積的に明らかにいつもの格好の方が風邪をひくというものである。

 しかし、本人らは特に意識していないのだと考えれば……もうそこはそれで放置していてもいいのかもしれないと、グランは結論づけるのであった。

 

「……とりあえず、2通目『横からかっさらっていくのはずるいと思うの!』……え、何の話?」

 

「おや、クラリス殿でしょうか?」

 

「なんでクラリス……?」

 

 何故かヘルエスはお便りの主がわかったようだったが、グランにはその内容は特に伝わっていなかった。しかし、深く聞くのは何となく地獄を見そうな気がするので、一旦グランは保留することにしたのだった。

 

「クラリス殿と言えば……ディアンサ殿からなにか貰っていましたよね?」

 

「あぁうん、貰ってるけど……」

 

「なにを貰ったのですか?」

 

「ヤンバルクイナの着ぐるみ」

 

「……はい?」

 

「ヤンバルクイナの着ぐるみ、ちなみにディアンサもヤンバルクイナの着ぐるみを着る」

 

 ヘルエスは、訳が分からなくてツッコミが出来なかった。何故ヤンバルクイナなのか、どうしてディアンサも持っているのか。グランとお揃いの格好といえば、恐らくグランサイファーの殆どの女性から羨ましがられる事態である。

 しかし、それはヤンバルクイナの着ぐるみなのだ。ヤンバルクイナの着ぐるみでお揃いになったところで、果たして本当に羨ましがられるのか。いや、もしかしたら羨ましがられるのかもしれない。何故ならば、自体の意味不明さよりも羨ましさが勝っているからだ。勿論、ヘルエス自身が……である。

 

「……えっと、因みにそのヤンバルクイナの着ぐるみというのはどういった……」

 

「これ」

 

 グランはどこから取り出したのか、ヤンバルクイナの着ぐるみを見せる。まず、ヘルエスが抱いたのは『思ってた以上にヤンバルクイナだった』という所である。

 というか、最早ヤンバルクイナの生皮をそのまま持ってきたかのような見た目だった。正直、異質な雰囲気しか漂ってこなかった。

 

「……その、随分と個性的……ですね……」

 

「正直自分もそう思う、これ個性の塊すぎる」

 

「……貰ったのに、理由が?」

 

「いや……渡されたし、無下に出来ないかなって……」

 

「そう、ですか……」

 

 ヘルエスは目を瞑る。この件は、あまり深く追求すると1人の元巫女の闇を見る羽目になるのが理解出来たからだ。つまり、この件からヘルエスは手を引くことを決めたのである。

 

「……最後のお便り、お願いしますね」

 

「3通目『手料理を習ってみてはどうだ、男もなびくだろうに』……誰これ?」

 

「……スカーサハ様でしょう、まったく……人間のとこに関しては……いえ、私のことに関してはエルバハの様に聞いてきますね……」

 

「え、何? エルバハさんになんか聞かれてんの?」

 

「いえ、私だけに関することですので……」

 

 うっすらと頬を赤く染めながら目をそらすヘルエス。グランは首を傾げながらも、本題へと戻していく。

 

「ところで、料理って出来たり?」

 

「あくまでも一般人の範疇ですけれどね……まだまだ精進しなければなりません」

 

「師匠は?」

 

「この団のコック全員ですね、私はもう王女ではありませんが……王女でないからこそ、料理も人並み以上に出来なければなりません」

 

「最近ハマっている料理は?」

 

「家庭料理です、主にこちらはローアイン殿から教わっていますね」

 

「家庭料理……」

 

 エプロンを付けるヘルエスが、グランの脳内で思い描かれていく。普段の格好がよく分からないので、鎧姿の上から思い描いたエプロンを当てはめる。するとどうだろう、ほとんど裸エプロンなことにグランは気がついた。

 

「なるほどありだと思う今度目の前で作って貰っていい?」

 

「……つまり、そういう意味だと受け取ってもらっても?」

 

「俺は料理を食べたいんであって下心が無いわけじゃないよ、決してない」

 

「つまりそういう事ですね?」

 

「そういう事」

 

 噛み合っているようで、噛み合っていない。今ここで実を言うとグランの命運は決まったも同然なのだ。それにグランは気づいていない。

 

「さて、そろそろ時間です」

 

「そうですね、時間は守らなければなりません」

 

「では、皆さんご視聴ありがとうございます。また次回この番組でお会いしましょうさようなら」

 

 少々早口で、しかも巻きながら番組を終わらせるグラン。裸エプロンもどきを見るために、その行動はとても早いものだった。そして、ヘルエスもヘルエスで自身の欲望のために動き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも、秩序しに来ました」

 

「げぇ! リーシャ!!」

 

「げぇって何ですかげぇって」

 

 グランの部屋で、予めリーシャが待ち伏せていた。どうやら、ヘルエスがグランをここまで連れてくることは予想出来ていたようだ。

 

「リーシャ殿、どうして貴方が彼の部屋に?」

 

「淫行防止条例違反の気配を感じました、逮捕します」

 

「ふ……私は止められませんよ」

 

 グランは嫌な予感がしてそそくさと部屋を出ていた。『まず狙われるのは自分』という予感がしたからだ。というか、基本的にこういう時に狙われるのは自分だと言うのが彼は1番理解出来ていた。

 

「逃げるが勝ちさ……!」

 

「逃がしませんよ」

 

「同じくです」

 

「さっきまで睨み合ってた者同士が手を組む速度が早すぎる」

 

 グランは捕縛された。その後、2人のテーブルを挟んだ舌戦をひたすらに眺めながら、明日何をしようかとグランは思考を明後日の方にしかとばす事が出来なかった。

 結論から言うと、グランは特に何もされることなく解放された。思考放棄してたので何を話してたのかは分からないが、少なくとも彼のメリットになるようなことらしいのは確かである。

 但し、内容を聞けば恐らくグランは『なんでさせてくれなかったん?』とどこかの異国の言葉混じりで話しながら、ちょっと怒ってる顔でリーシャを見ていたかもしれない。そんなことをすれば、死ぬのは明白なのだが。

 

『なんでさせてくれなかったん?』

 

『淫行防止条例違反』

 

『ぎゃー』

 

 とテンポよく秩序されてしまうのは分かりきっているのだ。故に、グランは死ななくてよかったね……と自分を言い聞かせておくことしか出来ない。

 

「でも正直、ヘルエスの裸エプロンは見たい」

 

 と、さらにこの後で漏らした一言から波乱が始まるのだが……それは多分移すことのない本当にただの日常の1枚だろう。




EX周回メンバーその1です

偶には長編とか書いて欲しい

  • はい(ギャグノリ)
  • はい(シリアス)
  • いいえ

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