ぐらさい日記   作:長之助

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アイルスト一念発起

「ええい少し待て!!」

 

「駄目です! 今行かなければダメなのです!!」

 

「朝から何事ですか、姉上。気でも狂いましたか?」

 

「セルエル、今は貴方の卑屈な言葉に付き合うつもりは無いです」

 

「スカーサハ、これは一体どういう事だ?」

 

 朝から騒ぐヘルエスとスカーサハ。そこにセルエルとノイシュが現れて、とりあえず獅子のごとき気迫のヘルエスを止めにかかる。しかし、事情がよく分からないので一旦初めから居たスカーサハにノイシュは尋ねていた。

 

「ヘルエスがグランの部屋に行くと言って聞かん」

 

「姉上、いまはまだ誰も起きていないような朝ですよ?」

 

「いえ、だからこそです!!」

 

「なんです? まさか団長殿の寝顔でも拝みに行くつもりですか?」

 

「その通りです」

 

「……セルエルさまが見た事ないような表情をしていらっしゃる……」

 

 心底呆れて何も言えなくなったセルエル。朝から起こされて微妙に機嫌が悪いのに、姉の恋路というセルエルにとっては基本的に関わらないでいる問題に首を突っ込まれてしまったのだから仕方ないのだが。

 

「姉上、朝から覗きに行けば団長殿に嫌われますよ」

 

「……セルエル、今の言葉をもう一度」

 

「嫌われますよ」

 

 真っ青な顔をし始めるヘルエス。グランに嫌われるのだけは、どうしても耐え難いもののようである。それに気づいたセルエルは、更に姉を止めるために追い打ちをかけていく。

 

「なぜその考えに至らなかったのです。たとえ姉上と団長殿が交際関係にあったとしても、その行為はかなりの迷惑行為です。朝自分が寝ている時は、基本的に自分で起きたいものです……しかし今の時間はどうですか、ノイシュ」

 

「そうですね……少なくともまだ私ですら起きていない時間です」

 

「そういうことですよ、姉上。ノイシュですら起きていない時間……つまりそれは誰一人として起きていない時間もいい所なのです」

 

「はい……」

 

「そんな時に起こされて見てください、きっと団長殿は姉上を睨むか軽蔑するか蔑むでしょうね」

 

「うっ……」

 

 追撃に追撃を重ねていく。完全に意気消沈したのを確認してから、セルエルは改めて本題に入る。どうして、今までこんなことをしていなかったヘルエスがこのような暴走をしたのかという話だ。

 

「それで? こうなった原因は?」

 

「先程まで、誰かと飲んでいたようでな」

 

「それで酔った姉上が特攻しようとしていたという訳ですか……」

 

「それで、飲んでいた面子は?」

 

「……ナルメア、アルルメイヤ、シルヴァの3人のようだ」

 

「はぁ……」

 

 そのメンツ、何を話していたのかセルエルはきっちり理解が出来ていた。恐らく、結婚だとかグランの話だとかで盛り上がっていたのだろうということは想像に難くないと言ったところだろうか。

 

「……今度から、その面子……ないし似たような境遇の女性達では飲ませないようにしましょう」

 

「む? 何故だ?」

 

「人間はとある年齢になってくると、結婚を妙に急ぎ始めるんですよ。そして、酔っ払うとそのタガが外れて既成事実を作り出そうと躍起になるのです」

 

「ほう、そうだったのか。あまりそういうものにヘルエスは興味を持つことは無いと思っていたが……」

 

「姉上も人の子です。恋愛感情を持つことはありますし、その人物と結ばれたいという思いもあるでしょう……そうなれば、酒の力さえあれば簡単に暴走するのが、今の姉上です」

 

「……セルエル様」

 

 先程から考え事をしていたノイシュ、ようやく口を開いたら何やら神妙な顔つきとなっている。セルエルは妙に嫌な予感を感じながらも、ノイシュから話を聞くこととなった。

 

「……ノイシュ、どうしたんです」

 

「……もしかして、他の面子も暴走しているのでは……」

 

「1番厄介なのは、ナルメア殿ですね……あの動き方は私達ではとても追えない」

 

 即座に頭の中で対策を考えるセルエル。1番物理的に厄介なのはナルメア、そして捕まえるのが厄介なのがアルルメイヤである。ナルメアは蝶になれる。なってしまえば例え十天衆であっても手を焼くほどと言われている。

 そしてアルルメイヤ、彼女は予知ができる。それだけで既に厄介なことこの上ないのだ。

 

「それと、アルルメイヤ殿もですね……」

 

「……いや、3人という所がミソだろうシルヴァが2人を囮にしてくる可能性も高い」

 

 事の重大さを理解したのか、スカーサハも、真面目な顔をして2人の話し合いに参加していた。恐らく、グランの所には暴走した3人が向かっているだろう。そして、全員止めなければ……グランの色んなものが危ないと思われる。

 

「ともかく、これから行われるのは団長殿の死守です。死ぬ気で守るようにしましょう」

 

「では、吾はグランの部屋で待とう」

 

「部屋で?」

 

「部屋の前にいても、アルルメイヤは恐らくそれすらも予知してくるだろう。ならばグランの部屋の窓から侵入されるより、グランの部屋にいた方が安全というものだ」

 

「なるほど、確かに合理的ですね」

 

 こうして、最後の砦としてスカーサハが配置される。では部屋の前には誰も置かないべきか? と考えたが、現状3人しかいない上に朝なのでできる限り起こさない方がいいのだ。

 あと、ほかの女性陣を起こして仲間にしようものなら、血みどろの嫉妬合戦が行われるような気が、セルエルはしてならなかったのだ。

 

「では、私達2人で捜索ですか?」

 

「いいえ、3人です」

 

「……驚かせてきますね、ジャミル殿」

 

 グランいるところジャミルあり、グランの危機にいつもの仮眠を終わらせて、ジャミルは3人の所へとやってきていた。

 

「3人で捜索……悪くないですね」

 

「特にジャミル殿は気配の消し方がプロだ。簡単に相手の背後を取ることができるでしょうね」

 

「お褒めに預かり恐悦至極」

 

「では、この3人で団長殿をお守りすると致しましょう」

 

「はい!」

 

「はっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ……既に予知で全てが見えているさ……だからこそ、私は……」

 

「予知で本当に見ていたのですか?」

 

「恐らく酔ってしまっているからまともに頭が働いて居ないのでしょう、フラフラでしたし」

 

 グランの部屋の前で、軽く縛られたアルルメイヤがちょこんと座り込んでいた。その顔は紅潮しており、どう考えても結構酔っている感じである。先程から妙に会話が成立していなかったので、相当なものだろう。

 しかし、グランのところに向かっているのは変わらない。よって捕獲したのである。

 

「さて、残りはシルヴァ殿とナルメア殿のお2人ですね」

 

「この調子なら、他2人も酔って実力を出せないかもしれませんね」

 

「だといいのですが……」

 

 妙に不安になるセルエル。酔って重心がズレるシルヴァは兎も角、酔拳というものがある以上、近接戦闘のナルメアはあまり弱体化に期待できない気がしているのだ。

 

「ぬぉ!?」

 

 そして、グランの部屋から窓の割れる音が響いてくる。どうやら、外側から侵入してきた人物がいたようだ。しかし、それは既に予測済みである。

 

「ノイシュ、貴方はここにいなさい。私が中に入ります」

 

「了解致しました」

 

 一旦セルエルは部屋の中に入る。そこではフラフラになっているナルメアが部屋の中に入っていた。

 

「グランちゃんグランちゃんグランちゃん……」

 

「セルエル! 吾は初めて人間に恐怖を抱いたぞ!!」

 

「これは私でも怖いですね、下手なホラー小説よりも奇怪で恐怖です」

 

 ひたすらにグランの名前を連呼するナルメアに、スカーサハとセルエルは青い顔になっていた。どうやって捕まえるか、それを必死で模索する2人だったが……

 

「きゃっ」

 

 動こうとした瞬間に躓き、得物である刀が床に刺さり、結構深い所まで刺さった刀の柄に頭をぶつけ、それの当たりどころが悪かったのかナルメアはそのまま気絶してしまうのであった。

 

「……今のは……」

 

「自爆ですね」

 

「セルエル様、少しよろしいでしょうか」

 

「どうかしましたか?」

 

「あれを……」

 

 部屋の外から声をかけるノイシュ。セルエルはノイシュの指さすところに視線を向ける。ついでにスカーサハも視線を向ける。指がさしている所は廊下の角なのだが……

 

「……」

 

「……あれは、シルヴァ殿ですか? なぜこちらに飛び込んでこない、もしくは狙撃しないのでしょうか」

 

「……そうか、シルヴァは照れているのだ。酔っていても、グランの部屋に潜入するといった事は、乙女のあやつにできることではなかったということだな」

 

 スカーサハが推理を披露する。確かに言われてみたらその通りなのだが、酔っていてもそれとは進展させる気はあるのだろうかと言わざるを得ないのだ。

 

「しかし、来ないのなら好都合です。彼女たちを部屋に返して私たちの仕事は終わりですね」

 

「じゃの……む?」

 

「スカーサハ? どうした?」

 

「……嫌な予感がする、構えろ」

 

 スカーサハに言われて構えるノイシュとセルエル。通路は1本、つまり左右の両方を警戒しているのだが……スカーサハの予感通り、『それら』は一気に来た。

 

「なんだあの大量の女性たちは……!?」

 

「やはりな……」

 

「知っているのかスカーサハ!」

 

「いや知らんよ……だが、予想はできる」

 

「予想? この状況に対して一体何の……まさか……!?」

 

 目を見開くセルエル。その顔はなにかを察したようであり、スカーサハもそれに対して頷いていた。

 

「あの女達は……全員グランの部屋に入るつもりだ」

 

「馬鹿な……まさか、団内の殆どの女性が飲んでいると……?!」

 

「いや、シラフも何人かいるみたいだが……しかし、全員止めねばグランサイファーは色んな意味で壊滅するぞ」

 

 グラン戦闘不能、そして女性陣達も戦闘不能最悪戦闘不可能状態になってしまえば、戦力も資金も何もかもが足らなくなってしまう。それだけは避けなければならない。

 

「それは確かに……」

 

「しかし、こんな時にこそリーシャ殿が必要なのに……一体どこに……?」

 

「リーシャとモニカならあっち側だぞ」

 

「秩序の騎空団が何たるザマですか……」

 

 酔った2人はもれなく秩序ではなく、痴女側だということが判明した瞬間である。セルエルは大きめのため息をついてから、構えていた。

 

「ノイシュ、ここが正念場ですよ」

 

「はい!!」

 

「にしてもクラリスまで飲んでいるとは……1度この団のお酒状況を調べなければな」

 

「だな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、よく寝た……なにしてんの3人とも」

 

「全く……あれだけ騒いでたのに何故起きないんですか」

 

「団長殿、大丈夫か?」

 

「いや俺は大丈夫だけど……」

 

「殆どの団内の女達が粗相をしてな、少しばかり処罰を加えていたところだ」

 

「……? そ、そう……リーシャは? まさか起こした側?」

 

「もれなくモニカまでついてきている」

 

「何が起こったかは分からないけど……ありがとう、3人とも」

 

 グランは事情を後で聞くことになるのだが、セルエルは終始呆れた顔をしていた。ひとまず、酔っていた団員は気絶させてシラフの団員は厳重注意で終わらせていた。

 だが、いつまたこういうことが起こるかわからないので、騎空艇内での飲酒はラードゥガのみになるということ、島での飲酒をした場合はその島で一夜を明かす事、グランの部屋がとんでもなく厳重な装備になった……という結果になったのであった。




スカーサハはノイシュが飲ませないタイプだと思いたい

偶には長編とか書いて欲しい

  • はい(ギャグノリ)
  • はい(シリアス)
  • いいえ

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