ぐらさい日記   作:長之助

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西南西の守護神、この世の理を知らない?

「はい、今回のゲストはアンチラさんです」

 

「やっほー」

 

「よく起きれたな」

 

「え、酷くない?」

 

「起きなかったら起きるまでハグしてた」

 

「……直ぐに起きなかったらよかったかも」

 

 最初にある程度の会話を行い、ちゃんと話せるかどうかの確認を行う。そして、その後に手を鳴らして序盤の会話を終了させる。

 

「というかマキラは私服で来てくれたんだけど、アンチラはお役目の時の服なんだな」

 

「こっちの方が好きでしょ?」

 

「あぁ、実に大好」

 

 いつもより早く、床に穴が開く。自由落下し始めるグランだったが、アンチラ……の分身が両脇から支えてくれたおかげで落下せずに済んだ。

 

「今日は実に早いな」

 

「確かに早いかも……今のって駄目なんだね」

 

「さすがに好きな服の話で落とされたら堪んないぞー、リーシャー」

 

 その声が届いたのか、床は一旦閉じる。再度降ろされてから新たな椅子を用意し、グランはそれに座り直してトークを続けていく。

 

「まぁ、リーシャが落とそうとしたのも分からんでもない」

 

「え、なんで?」

 

「いやだって、お役目の時のアンチラの服って凄い色々見」

 

 再び床が開く、アンチラの分身が支える、グランがリーシャを説得する、床が閉じる、座り直す。今回、既に2回も扉は開かれてしまっていた。

 

「いや、タダの注意じゃん?え、何……マジで今回厳しいぞ」

 

「何でだろうなー」

 

「………アンチラって何歳だっけ?」

 

「10歳だよ?」

 

「それでか……」

 

「へ?」

 

「いや、今一つの解を見出しただけだ。気にしないでくれ」

 

 真面目な顔で何かを悟るグラン。アンチラは首を傾げながらも、言われた通りに気にしない方向でいくことにした。

 

「さて、十二神将2人目という訳でね。色々聞いていこうかなと」

 

「ふっふーん、何でも聞いてくれていいんだよ?」

 

「まず、勘違いされやすいからこそこの話題からいってみよう」

 

「ほうほう?」

 

「みんな!アンチラはエルーンだからな!!」

 

「そうだぞー、エルーンなんだぞー!」

 

 グランに便乗するかのように、アンチラはグランの言ったことを復唱する。自分の尻尾をチョロチョロ動かしながら、実に楽しそうに叫んでいた。

 

「そうなんだよねー、僕って女の子だしエルーンなんだよ」

 

「前に尻尾は自分でつけてるのか、みたいな事聞かれてたからね」

 

「生前から付いてるよー」

 

「いや、生前だったらお前前世も尻尾付きになっちゃうからな。せめて生まれつきと言いなさい」

 

「はーい」

 

 グランに軽く注意され、アンチラは笑顔を浮かべながら返事を返す。このやり取りだけでも、十分楽しいようだ。

 

「まぁでも、頭の上に耳が無いからな。勘違いされやすいと言われればそうなのかもしれない」

 

「エルーンにもドラフ並に分かりやすい特徴があれば……それが耳なんだよねぇ。ちゃんと横だけどケモノ耳着いてるよほらほら」

 

 自分の猿のような耳を指さして、アンチラはそれを強調していく。この耳さえ隠してしまえば、確かにただの小さなヒューマンの子供である。

 

「耳を隠すっていえばさぁー」

 

「うん」

 

「フォリアいるじゃん?」

 

「フォリアがどうかしたのか?」

 

「帽子取るまでヒューマンだと思ってたよ、僕」

 

「分かる」

 

 グランが大きく頷きながら同意を返す。フォリアは基本的に帽子を被っているため、露出がちょっと多めの少女にしか見えないのだ。

 

「俺も前に部屋に来た時に初めて帽子脱いでくれてさ、その時初めてエルーンだって分かったんだよ」

 

「へぇー、そんな経緯があったんだ」

 

「おう、そういう経緯が」

 

 3度、さすがに慣れてきたのかアンチラの助けを必要とせずに、開く床に瞬時に力を込めて壁に飛び移って、落下を免れる。というか今回アンチラは分身をださなかった。

 

「待って、今なんで落とされかけたんだ俺」

 

「え、いたいけな少女に手を出したから現行犯で極刑って意味じゃあないの?」

 

「まて、決して俺はそんなことをしていない。というか来たのは団に入ったばかりの頃で、部屋にはビィとルリアもいたぞ」

 

「……まぁ、その2人がいるんなら本当にそうなんだろうね」

 

 微妙に膨れっ面のまま、グランは閉じた床に改めて座り直して再びトークを再開する。

 

「とりあえずなんだ、お便りを読むからな。1つ目『分身ってどのくらいまで出せるの、アンちゃん』」

 

「あ、マッキーからだ。でも……うーん、何体まで僕分身出せるんだろ?」

 

「え、限界までやった事がないの?」

 

「そもそも分身をそこまで使わないし……分身で1軍隊作れたとしても、作るよりジークフリートさん一人連れてきた方が早いよ」

 

「言いたいことは分かる」

 

 ジークフリートはこの団においては、上位に食い込むほどの強者である。よくシエテと特訓している光景が見られるが、明らかに本気の戦いにしか見えないというものもチラホラといる。

 

「でも分身を作って、分身に何かやらせたい……みたいな人もいる訳だが、した事ないのか?」

 

「しても多分僕だし……」

 

「全員で寝てるか」

 

「どう頑張ってもそうなる未来しか見えないから、僕自身の力で頑張るか本当に他人の力を借りるしかないんだよねぇ」

 

「まぁなんだ、とりあえず自分で早寝早起きするくらい頑張れ」

 

「はーい」

 

 アンチラは再び手を挙げて、返事をする。どうにもやるのが楽しいようだった。

 

「では2つ目…『そんなに飛び回って下着が見えぬのか?』」

 

「アニラお姉ちゃんからだ!」

 

「でまぁ、確かにアンチラって棒高跳びみたいな攻撃多用してるよな」

 

「凄いでしょ、僕のバランス能力と如意棒の力は」

 

「確かにすごいが……で実際にどうなの?」

 

「うーんあんまりその辺気にしたことないんだよねぇ、見えたところで何か変わる?」

 

「少なくとも俺が気になる」

 

「んー……」

 

 アンチラはグランを見て虚空を見て、再びグランを見てを繰り返し始める。考え事をしているのだろうが、今何を考えているのかグランは気になっていた。

 

「まぁ、グランになら見えてもいいかなぁくらい」

 

「ほうそれはまた何」

 

 床が開いた。

 

「びっくりしたわ……俺が即座に天井に掴まれる技術がなかったら即死だった……」

 

「どうやって天井にくっついてるのそれ」

 

「気合いで」

 

「時々思うけど君って星晶獣だったりしない?」

 

「天井や壁に貼り付ける星晶獣なんてものがいたら、俺は星の民をこれから暇人と呼ぶことにするぞ」

 

 溜息をつきながら、グランは床に着地する。ここまで慣れてしまえば、不意打ちで開けられようとも落ちることは無いだろう。

 

「慣れたら番組的に面白くなくない?」

 

「とは言っても進行も何もしないまま落ちたらそれこそグダグダになってしまうじゃないか」

 

「確かに」

 

「という訳でね、三通目行きましょう。『君の部屋を掃除している時に、ガルがグランのパンツを持ってきたんだけどどういう事?』」

 

「……」

 

「………アンチラ、弁明を」

 

「い、いやぁ……干してるのが飛んで行ったのが見えてさ……筋斗雲使って拾って来て……渡し忘れて……」

 

「そうか……」

 

「だ、大丈夫!僕それ以外の用途で使ってないからね!?」

 

 アンチラが両手を動かしながら、弁明しようとする。グランは真面目な顔でじっとアンチラを見つめた後に、手を叩いていた。

 

「呼びましたか?団長さん」

 

 それと共に、リーシャが扉を開けて入ってくる。アンチラの顔が青ざめていくのが、グランにはハッキリわかった。

 

「アンチラに……話を聞いてやってくれ……」

 

「待って!本当だから!本当に洗濯物拾ってきただけだから!!」

 

「……実はな、アンチラ…」

 

「へ?」

 

「俺の下着……特にトランクスが……1日置きで無くなっていくんだ…1週間もしたら…帰ってくるんだけど……」

 

 その話を聞いて、アンチラは咄嗟に目を伏せた。それが、無くなっている原因を知っている者の反応だと、グランは判断した。

 

「リーシャ、アンチラだけじゃないだろうから……アンチラと同じような事をしている団員の情報を出させて」

 

「分かりました……それで、あの…犯人が判明した場合は……?」

 

「いや別に?そのパンツ持っていっても良いしなんなら俺をお持ち帰りしても」

 

 床は開く。グランは落ちる。リーシャの手にはボタンがひとつ。本日の回収要員ではメーテラがいるので、ちゃんと拾ってくれることだろう。面倒臭がりだが、彼女がとても優しいことをみんなは知っているのだ。

 

「……そのボタンで、開くんだね」

 

「開け、と言うだけでも開きますよ。なんだったら念じれば開きます」

 

「あの床はどんな改造してるのか気になって怖い……」

 

「という訳で、同業者のお話を聞かせてもらいますよ」

 

「はーい……って待って?今同業者って言った?もしかして君も」

 

「行きましょう、大急ぎで」

 

「あっ!ちょっと待ってー!!」

 

 リーシャは早歩きで先へ進んでいく。それについて行くように、アンチラもついて行く。リーシャが連行する立場のはずだが、ただの同行者のようになってしまっているのはご愛嬌。

 既に閉じた床は開くことは無く、グランはメーテラに回収されて今は船首にいる。それもまたいつも通りなので、誰も気にすることは無いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ビィ」

 

「何だぁ?」

 

「俺の部屋のタンス……鍵つけようかと思う、南京錠の」

 

「そりゃあ構わねェけどよぉ、つけたところで多分変わらねぇと思うぜぇ?」

 

「え」

 

「えっ」

 

 グランは素っ頓狂な声を出す。ビィは逆になんでそう思わないのか全く疑問に思わないのか、と思ってしまう。

 

「つーかよぉ、別に取られてもいいんだろぉ?」

 

「いや、買ったリンゴを強奪されるのと買ったリンゴを渡すのとではまた話が違うだろう?」

 

「まぁ、そりゃあそうだけどよぉ」

 

「そういう事だよ……」

 

 ビィは、どうせ部屋の鍵を変えようが部屋のタンスや押入れに鍵をつけようが、その鍵がとんでもなく複雑なものだろうが、結局関係なく開けられては取られるというのがオチな気がしてならないのだ。

 

「ともかく……俺はタンスに鍵をつけるからな」

 

「まぁ、好きにしたらいいんじゃねぇかぁ?黙って付け替えることは出来ねぇから、ちゃんと相談しろよー」

 

「そこら辺はラカムやノアと相談するよ」

 

 恐らくその2人も今のビィと同じ事を言うのだろう、とビィは呆れ顔で考えていた。実際、このあと相談しに行ったらラカムとノアに微妙な顔をされてグランはビィに言ったことと、同じ事を言う羽目になったのであった。

 そして後日、グランは自分の部屋に置いてあるタンスに鍵をつけた。が、今度は騎空艇の湯浴び場の更衣室に置いていたパンツが取られるようになったというのは、また違う話なのである。

 そして、とある昼間。

 

「……団長君が部屋から出てきません」

 

「という訳で、部屋の前まで来ました」

 

「そして……この全自動万能鍵開け機(羅生門研究所に屁理屈捏ねて作らせた機械)を使えば……」

 

 グランの部屋の前にいるのは、マキラとアンチラである。昼間から来ないグランに少し疑問を感じて部屋まで来ていた。

 

「3秒で開きます」

 

「さすがマッキー!」

 

 そうして開かれたグランの部屋の扉……そこに居たのは、大量のトランクスに囲まれたグランの姿だった。

 

「何これ」

 

「朝気づいたらこんな事になってた……まだ片付け終わらない……というかなんで100個以上取られてんの俺……」

 

「……失礼します」

 

 顔を真っ赤にして、マキラは部屋から退散して行った。アンチラは苦笑いしながら、1歩ずつ後ずさっていく。

 

「じゃー、僕も退散するねー」

 

「あ、待って!!せめて片付け手伝って!無理そうなら男手呼んできてぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 騎空艇にグランの叫びが谺する。しかし悲しいかな、トランクスに囲まれた男を救う人物は、男女ともに誰もいないのであった。




十二神将の中で1番やばい格好だと思います。
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