「今日のゲストは……あー……」
「名前呼ばなかったらなんでもいいわ」
「怪盗夜煙に来て頂きました」
「よろしく、本名を教える気はないわ」
「怪盗シャノワールとは違い、目立つことを嫌う彼女ですけどどちらも怪盗です。違うところは、やはりその本質だったりとか」
それっぽい解説を加えていくグラン。優雅に紅茶をすすりながら、余裕そうな表情を浮かべる夜煙……本名キャサリン。子供をからかう大人のお姉さんと言えば、わかる人にはわかるだろう。
「そうね、同じ怪盗として負ける気はないわ」
「まぁでも、シャノワールに無くて夜煙にあるものが存在していることを僕は知っている」
「アラ、褒め言葉?」
「だと思うじゃん? 実際は……こうだ!!」
「きゃんっ!?」
不意打ちのように、グランはキャサリンの露出している腕を触る。触られた瞬間顔を真っ赤にして、キャサリンは腕を引いていた。これこそが、シャノワールに無くてキャサリンにあるもの……それは━━━
「触られることに弱い」
「い、今のは誰だって驚くわ!!」
「果たしてそうかな……確かに今のは俺が不意打ちで触りに行った。だが、夜煙の反応が本当に不意打ちで触られたかどうかなんて、俺達以外の誰にも理解出来ないぜ……」
「し、してやられた……!」
「まぁこんなことしてたら━━━」
グランの頬をかすり、銃本体が壁に突き刺さっていた。銃弾ではなく、銃本体が突き刺さっているのだ。
「リーシャがこうやって狙ってくるんだ」
「待って待って、銃そのものを突き刺さるくらいつよく投げてるって、当たってたら死んでたわよ!?」
「大丈夫大丈夫」
「な、なにが大丈夫なのよ……」
「事前に星晶獣カグヤをルリアから貰ったからな……1回だけ復活することができる」
「死ぬこと前提なのね……」
グランのどこか捻れて曲がってる答えに、キャサリンは呆れていた。根本的な解決には一切ないけど、一時的な解決策をこうじているところが実にねじ曲がっている答えである。
「さてさて、軽い談笑も終わったことなので……お便り紹介のコーナー行ってみましょう。まずは第1枚目『触られるのが苦手で、どうしてそんな格好をしているんですか?』」
「うぐっ」
「今更な質問だが、確かにその通りだ……もしかして、怪盗となっているのは誰かが自分を追いかけるのを楽しみにしているから……!?」
「違う違う違う! 決してそんな理由ではないわ!!」
グランの言っていることが事実ではないとして、ではなにが真実なのか……と言わんばかりにグランはキャサリンをジト目で見ていた。キャサリンは目を逸らしているが、グランは見ることを辞めなかった……だが、それをまだ辞めてくれる人物はいるのだ。
「だったら一体どんな理由ぶへっ」
濡れタオル……ではなく、なくした雑巾がグランの顔に激突していた。それなりに素敵なフレーバーがある事により、グランの顔は異臭を感じとった猫のような顔となっていた。
「……それ、臭い?」
「雑巾はきっと臭いもの、っていう概念がどこかで生まれてきそうだ。きっと雑巾の星晶獣はいるから、そう言った概念が生まれていても何らおかしくない」
「雑巾の星晶獣はいないと思うわよ」
確証はないが、そんな無駄な使い方をする星の民がいるとはキャサリンは到底思えなかった。そんな暇な星の民なんて居るのだろうか、と。
「どうだろうな、星晶獣なんてそれこそ人間の数ほどいると思っているぞ」
「ま、まぁ……思うのは自由よ、思うのは」
「……いや、雑巾の星晶獣の有無はどうでもいいよ!!」
まるで今までの会話が無駄だと言わんばかりに叫ぶグラン。振ったのはそっちだろうと内心突っ込むキャサリン。2人の駄べりが本当に無駄だった瞬間である。
「でもホントなんでその格好なの」
「怪盗としての格好なだけよ」
「でも背中ガン開きなんでしょ? 僕エルーン何度も見てきたから知ってる」
「というか、私に露出度の話を降らないでよ。正直わたしなんて足元にも及ばないわよ」
確かに、とグランはつい納得してしまった。下着だけのような姿がなんだ、と言いたくなるのも理解できるのだ。何故なら、グランの周りにはそれ以上にやばい露出度を持っている女性たちがいるのだから。
「……結論としては、夜煙はまだマシな方と言うことで」
「なんか気に食わないわねその言い方」
「じゃあ2通目行きましょう『触られるのが苦手でどうして他の人を誘惑してるんですか?』」
「よ、余裕を持ってる方が……いいからに決まってるじゃない……」
「お前俺が良識ある人間だったからいいものの、あんな誘惑してそれに素直に反応する人間だったらどうする気なんだ」
「……私、そこの所はちゃんと見てからしてるわよ。手を出しそうな人間と、手を出さななさそうな人間の区別はできるようにしてあるわ」
とは言っても、誘惑して誘ったりしているのは今のところグランだけである。彼女は喫茶店の店員『キャシー』としての姿も持っているが、その時によく話す警察の『リック』という人物には決してこういうことはしない。
気に入ってる人間ではあるが、キャシーが夜煙ということはばらさないくらいである。
「判別つけている……か。果たしてそうかな」
「……どういう事よ」
「『え、この人ってこんなことするの……?』みたいなことはなかった訳? リーシャとか俺とかその他多数とか」
「……いえ、予想してなかったなんてことは無いから大丈夫よ」
「むしろリーシャを予想出来てたのはすごいわ」
遠い目をするグラン。その目には、まるで思ってたのと違うと言いたげなほどの思いが込められていた。キャサリンもグランの言いたいことはわかったのか、苦笑するしか出来なくなっていた。
「まぁ結論はもう出ちゃったな」
「えぇ、私貴方くらいにしかこういうことしないもの」
「アレクとかには手を出していないと」
「そんな小さい子に手を出すわけないでしょう……」
まだ12歳の子供に手を出すわけがないと、キャサリンはため息を吐く。しかしグランに対してだけとはいえ、それだけ誘惑するような行為をしていたら疑われるのは当たり前である。一応、まだグランは少年の類なのだから。
「とりあえず三通目『よくグランサイファーに入ろうと思いましたね』」
「そりゃあ、ここが私にとっての居心地がいい場所になってるんだから……」
「でもまぁいいたいことは分かる。秩序の騎空団も、探偵も、シャノワールも色々居るしな」
「探偵さんの方は、案外変装してたらバレなくて済むわ。秩序の騎空団の方は……まぁ見逃してもらってる感じね。シャノワールはそもそも会おうとは思わないし、会う気もないわ」
「まぁ……降りるほどではないと?」
「……そうよ、えぇ」
そっぽ向きながら、そう答えるキャサリン。そもそも、初めから危ないと思っていたのなら、彼女はすぐに降りていただろう。つまり、今のところは降りる気は無いということだ。
「……そう言えば、そもそもの疑問なんだけど」
「何かしら?」
「よくこの番組出てこようと思ったね」
「別に……どうせリックは見てないし、この団の子たちには顔はバレているもの」
「まぁたしかにそれもそうか」
「それだけ?」
「それだけ、ぶっちゃけ参加しない組だと思ってたし俺」
「まぁ、そう思われるのは当たり前よね。寧ろ、今の私の方がおかしいとも言えるわ……」
「シャノワールはすぐに顔だししそうだけどね」
高らかに笑いながら、番組に顔出しをするシャノワール。キャサリンもグランもその姿を容易に想像が出来てしまってついつい苦笑してしまっていた。
「あいつならやりそうね……」
「シャノワールなら絶対やるな」
「……えぇ、もう頭の中に本人が出てきたんじゃないかってくらい明確に出てきたわ」
「……まぁ、シャノワールの話はここまでにしておこう」
そう言ってグランは話を区切る。シャノワールの話にすると延々と終わらないような気がしたからだ。
「というわけで、ここまでご視聴ありがとうございました。また次回この番組でお会いしましょう、さようなら」
「私に依頼してもいいけど、高くつくわよ」
最後に怪盗としての一言を添えて、番組が終了する。この団で怪盗に依頼するということはおそらく滅多にないと思うのだが、キャサリン的に言っておきたかったのだろうと、グランは自分で納得しているのであった。
因みにここで怪盗稼業の宣伝を行うと、もれなくシャノワールが妨害しにくるということはキャサリンだけしか知らない話である。別段、ここで依頼者を募ることはあまりない訳だが。
「ところで……」
「何かしら?」
「子供たちにはなんて呼ばせてんの」
番組が終わってから、ふと気になったことを聞くグラン。キャサリンの名前を知っているのは、この団だけでもグラン、ルリア、ビィの3人である。
それ以外で名前を教えるということは、彼女がするとは思えないのでそう聞いていた。
「好きに呼ばせているわ、本名以外でね」
「全部返事できるの?」
「そうよ? 名前が幾つもあるんだもの、その辺も考えておかないといけないわ」
「ふーん……」
偽名がいくつあるのかは分からないが、グランはふと試してみたくなった。本当に覚えているのかどうか、ということを。
「……アリス」
「えぇ」
「キャシー」
「はい」
「ジュネッタ」
「はぁい」
「アジェンダ」
「ふふ」
「クリスティーヌ」
「OK」
「
「何かし……待って今の本当に何?」
つい反応しかけたが、キャサリンは聞き直していた。グランも『え、どうしたの急に』みたいな表情でキャサリンを見つめ返していた。
「え、何その反応……」
「いや……ただ単語を言っていっただけだから……」
「私の名前当てクイズとかじゃなくて?」
「いや、なんかこう……名前っぽい単語?」
「そ、そう……」
「じゃあ続き行くか」
「えっ」
まるで何事も無かったかのように、グランは再び考え始める。何故キャサリンの偽名当てクイズが、突然として始まっているのか……キャサリンはなにも理解出来ていなかった。
「ルイズ」
「え、えぇ……」
「ミラジェーン」
「……はい」
「マリア」
「えぇ……」
「
「貴方ちょっと楽しんできてるでしょ」
この後小一時間ほどこれが続いたが、何だかんだグランと不承不承ながらキャサリンは楽しめていたので、二人の間でプチ流行するのであった。
尚、さらにその後になってくると……子供達の間でキャサリンの本名当てゲームが始まってしまうのを、キャサリンはまだ知らないのであった。
正直露出度は高くない方だと思う
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ